黒の魔女、勇者に誘われ街に出る

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3.人助けいや、魔女助け

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「ひょええぇーーーっっ?ユースティア様がお泊まりにぃ?」

「ああ、ここと街を往復するのは少し面倒だからな。お前、結界を張ってあるだろう?」

「は、はぁ~。で、ですがぁ~~ここのベッドはひとつしかぁ~~。」

「俺は野宿の準備があるから家の外で寝る。気にしなくていい。君に何かするつもりも無い。」

 そう言って俺は寝袋を見せた。魔王討伐の旅で使用してたマジックアイテム。暑い日も寒い日も完璧に体温を調節してくれる優れものだ。

 年頃の娘の家に急に泊まるなんて警戒されて当然。しかし森の入り口の結界は強く、往復した俺はヘトヘトだった。
 アウラは、女が男を泊めることの危険なんて考えていなさそうで、寝袋を見せた途端軽く頷いた。

「ああ。ベッドを使わないのでするねぇ~~。それならば~~どうぞ、どうぞ。外は寒いでするからぁ~この床で良ければぁ~~。」

  アウラのベッドはすでに壊れていて木枠しか無い。その木枠の中に干し草をいっぱいに詰め込んで布団代わりにしているようだった。柔らかそうではあるが、服に干し草が付きそうだ。

 物が無いなりに彼女も工夫しているのだろう。



 俺たちは二人で雨漏りを少し直した後、昼間食べたパンと肉の残りを食べて、それぞれ床に着いた。

「お、おやすみなさいませ~。」
「ああ、おやすみ。」

 狭い小屋の中、直ぐにアウラは静かな寝息を立て始めた。
 全く警戒してない。

 すきま風の入る寒い室内。彼女は干し草の中で身体を丸めて眠っていた。干し草だけでは寒いのかもしれない。

 俺は彼女の今までの生活を思う。
 孤独で長い時間を一人で生きてきた少女。
 このままこの少女を放っては置けない。
 
 アウラの孤独な環境に安らぎを、生きる希望を見つけて欲しかった。


 ☆


 俺は神託を受けて勇者となり魔王を倒したが、魔女という存在について神殿からは何も言われていない。
 ただ、俺は魔王復活を目論むと言い伝えられている黒の魔女をさがしにこの深淵の森に来た。

 結果、邪悪な魔女など存在しなかった。

 ここに住んでいたのは人間を恐れて隠れる孤独な魔女。

  彼女たちは人間に誤解されこの深淵の森に引き籠った。そして、ただ孤独な時間をずっと過ごしてきたのだ。







 俺はそれからしばらくの間、魔女の家に滞在した。

 その日々は意外と楽しくて……。
 アウラは言葉遣いを直そうと努力し、俺が街で買ってきた若い娘に人気の恋愛小説を夢中になって読んでいた。言葉の練習のために初めは児童書、伝記、実用書など色々買ってきたが、一番のお気に入りは恋愛小説。
 話す言葉は時代と共に変化したが、幸い文字は同じらしい。

 俺は窓のすきま風を塞ぎ、屋根を修理し、椅子を座れるようにした。大工仕事をして疲れると、アウラが新鮮な果実を絞ったジュースを持って来てくれる。食べ物はこれしか作れないらしい……。

「ユースティア様~~これ、面白かった……です。」

 ぎこちないけれど、アウラの言葉遣いは少しずつ直ってきた。
 恋愛小説を次々と読破して、床の上に読み終わった本が積み上がっている。

 小説にはアウラにとって新鮮な事がいっぱい書いてあるらしい。俺は中身なんて確認せず、人気のある物を買ってきて渡しているだけだが……。
 
 今も彼女は俺の隣で本を読んでいる。俺は調理台を直そうと、木の腐った部分を切り落としていた。


 突然、アウラが「ふひゃあ~~!」と叫んで本を床に放り投げた。

「どうした?」
「ひぇ~~、こ、恋人同士になるとこ、こんな♭&#Ω%……ことを?うぅ~~。」

 どんな内容の話なのだろう?
 
 年頃の少女らしく赤くなった顔を両手で覆い恥じらっている彼女をそっとしておいた。

 けれど翌日もアウラはその恋愛小説を読んでいた。昨日は恥ずかしがっていたのに、今アウラは泣きながら本を読んでいる。感情が素直で彼女らしい。
 
「人間はこんなに面白い物語を読んでいるのでするねぇ~~。今、二人が再会出来るのかどうかの瀬戸際で盛り上がっていたのに、夜になったら読めなくて悔しいでするぅ~~。」

 灯りのない家だ。辺りが暗くなり字が見えなくなると漸く本を置く。
 そうなるとお互いの昔話をして過ごした。

 のんびりとした穏やかな時間。


 アウラは俺の買って来るものを何でも喜んで食べた。
 特にロールケーキを買って来た時の瞳の輝きは忘れられない。

「ふわああ~~、こ、これ、食べ物でするかぁ~?」

「アウラ、話し方、元に戻ってる。」

「あわわ、これ、食べ物ですか?」

「ああ。ロールケーキと言うんだ。」

「ほへぇ~~。綺麗でするねぇ~~。
あわわ、綺麗ですね。」

 彼女は素の話し方を訂正して、食い入るようにケーキを見つめた。チラチラと俺を見て、食べたそうにしている。
 甘い匂いに我慢が出来ないんだろう。

「待ってくれ、今切るから。」

 俺はロールケーキを一人分に切って皿に乗せた。

「はい、フォークで食べるんだ。」

「ほわわあ!柔らかくて甘くて……。はあぁ~~。」

 一口食べるごとに「ふわわ~~」とか「へへぇ~~」とか変な声が漏れてる。

「美味しいだろ?街に出るとアイスというものが食べられるぞ?溶けるからここには持って来られない。食べるには街に出るしか無いんだが……。」

「アイス?」

「冷たくて、甘くて、口に入れると溶けるんだ。」

「冷たくて……甘くて……溶ける……。
ふぅあ~~、ユースティア様ーー、私食べてみたいでするぅ~~!」

「じゃあ、街に出れるよう頑張ろう?俺が絶対に守ってやっから!」

「ふふぁ~~。」

 アウラは暫く考えてーー、やがて俺に向かって頷いた。

「が、頑張りま……す。ユースティア様がおられるなら……怖く……ない……です。」

「そうか……ならば魔女である事は隠して街に出てみよう!」
 
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