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こっちの世界でも同じじゃん
しおりを挟むるな視点
アルが会えないって言った間、私はちゃんと我慢しようと思ったけれど、やっぱり寂しくて辛くなった。
「ねぇ、やっぱりアルを呼んで」
「え?で、殿下はしばらくは忙しいと……」
「もう、3日も我慢したんだよ?このままずっと我慢しろって言うの?」
「は、はい。畏まりました。王宮に連絡をとります」
婚約者である私が殿下を呼んでいるって、連絡したのに……。結局、誰も来てくれなかった。
「申し訳ありません。今殿下は不在との返事ばかりで……」
私の事なんてどうでも良いってこと?
救世主としての力が欲しいってだけで、誰も私個人には興味がないみたい。
もう、この国の人たちもみんな嫌い。
昔からこういう事があるたび、怒ったり暴れたりしてきた。だけどそうすると皆が私を我儘な癇癪持ちって言うから……。
私は部屋のテーブルの上にあった果物ナイフを手に取った。
「せっかく転移する時に、昔つけた傷痕を神様が綺麗に治してくれたのに、また傷をつけちゃう」
私は果物ナイフを自分の手首に当てそうっと滑らせた。
「救世主様っ!!!」
痛いっ!
手首からつーっと赤い血が流れていく。
だけど、世話係の焦った顔を見て胸がスッとした。
神殿は大騒ぎになり、私は医務室に運ばれて手当された。私のお見舞いにはアルだけでなく、国王陛下夫妻や大臣や神官長が駆け付けてくれた。
皆が私の前でアルを責める。
「殿下が救世主様に誠心誠意尽くさないからだ」と。
大臣たちが「政務は私達にお任せください」って口を揃えて言うから、アルは毎日私のお見舞いに来れることになった。
ほらね。
やっぱり悪いのはアルじゃない。
王子様なんだから仕事なんて部下にさせればいいはずじゃない?
「すまなかった、ルナ。これからは君を優先すると約束する」
「本当に?信じて良いの?」
私がベッドに横になったまま弱々しく手を挙げるとアルはそっと私の手を取ってくれた。
「ああ」
その控えめな手の握り方は、アルの心の中を表しているようで私を不安にさせた。
彼の心の中を、本当の気持ちを知りたい。
それからは毎日アルは私の元へ花束を持ってやって来た。そして周囲の勧めに応じて、私をデートへと連れ出してくれた。
優しくて格好いいアルの事が私は大好きになった。
けいいちなんかよりもよっぽど素敵。
だけど、いつも取り繕ったような態度を崩さない彼の心の中を知りたくて、試したくなって、私は時々自分を傷つけた。
以前住んでいた世界の時と同じように、私の腕は傷だらけになった。
アルは毎回心配そうな顔をして、駆け付けてくれる。
私はその顔を見て、ほんの少し安心する。
腕に増えていく私の傷痕を見ると、アルは辛そうな表情をしていた。
私が本当に死んでしまわないか心配してずっと優しくしてくれる。アルはもう私から離れられない。
あれからアルとはずっと毎日一緒にいる。だけど、彼と私の距離は縮まらない。
アルは本当は私の事を好きじゃないのかな?
無理やり婚約者にされたって思ってるんじゃ無いのかな?
それを口に出して聞くことが出来なかった。
☆
「今日のお祈りの時間は短くていい?最近暑いでしょ?疲れ易いの」
「はい、救世主様。毎日のお務めありがとうございます」
私の世話係も最近は不満な様子を見せることも無い。体調が悪いと言えばすぐに休ませてくれる。
だけど、皆が私を腫れ物を触るようにして扱うからまた孤独な気がして寂しくなってきた。
「ねぇ、あなたっていくつ?」
「23歳になります」
「じゃあ、私と近いわね。ねぇ、貴女の家族はどんな人?貴族なの?」
「わ、私の父親は神殿の内装修理をしている職人です」
「そう、貴族じゃないのね!嬉しいわ。貴族ってお高くとまってる感じで嫌じゃない?私、気取ってるタイプの人嫌いなのよね。私は貴族じゃ無いから、安心して気楽に話してね」
「は、はい。畏まりました」
「もう!それが、堅苦しいのっ。私とはもっと気楽に話していいんだってば!前聖女って貴族だったんでしょ?お世話は大変だったんじゃないの?貴族って威張っていて偉そうだもんね。私より大変だったでしょ?」
「い、いえ。リ、リズリーネ様は特に……。常に聖女らしくと心掛けていらっしゃる方で私的なお話をなさる方ではありませんでしたから……」
「……。それって、私の事ディスってる?」
「え、え、ディ、ディス……?」
「私は無駄なお喋りばっかりって言いたいのよね?私の事を馬鹿にしてるんでしょっ!もういいわ!貴女はクビよ!私の担当を変えてちょうだいっ!!」
感情のまま怒鳴るけれど、世話係の女性は驚くことも無くて……。黙って私に向かって頭を下げた。
「……はい、分かりました。今お茶を厨房まで取りに行きますので、その後別の者と交代いたします」
なに、この女。
普通は、泣いて縋って土下座して謝るものでしょ?
平然と澄ました顔をしている世話係を見て、尚更腹が立った。
「もういいわっ!貴方の運んだお茶なんて飲みたく無いっ!自分で取ってくるわっ!!」
私は扉をバンッと勢いよく閉めて部屋を出ていった。
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