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突然の来訪
しおりを挟むリズリーネ視点
オルフェ伯爵邸に戻って来て、暇になるかもなんて思ってたけど、そうでも無かった。
ずっと社交の場に出なかった私のために、母が一生懸命お茶会や夜会を開いてくれるから、招待状の書き方や準備など、手伝うことがすごく多い。
そして、母からは、ごく基本的な伯爵令嬢としての作法を教わっていた。
お妃教育は受けていたけど、聖女という立場だったから、公務以外の社交はしなくて良かった。それに、お礼状を書いたり、贈り物を選んだり、そういった細かい事も、今までは神殿の世話係がしてくれていた。
けれど、これからはそんな訳にはいかない。
お母さまから色々教えてもらっていると、私のお妃教育は、内容を厳選し私の負担に配慮されたものだったのだと感じた。
そして、友人になったリーナたちからたくさんの遊びに誘われた。
お茶会や買い物、観劇、旅行やサーカス。
今日訪れていたのは、若い女性に人気のソル高原。
ソル高原ではフルーツ狩りや、湖でのボート遊びが出来る。湖の近くのログハウスに泊まって、ガーデンパーティーに参加する予定だ。
旅行の日は天気も良くて、少し日差しが眩しいくらい。そよそよとほどよい風が吹いていて、それが肌に心地よかった。
これからは果物の美味しい季節。果樹園でぶどう狩りをして、摘みたてのぶどうを食べることになった。
汚れるからと大きなエプロンを着せられて。大袈裟なんて思っていたけど、採りたて果実の果汁の量をあまくみていた。
「きゃー、こぼれるわっ」
「靴も汚れないよう気をつけて」
皮を剥くだけで、ボトボト果汁が溢れ、少し行儀悪いけどみんなで果汁を啜った。
「わあ!甘ーい」
「美味しいわねー、さすが採りたてだわ」
「だけど、手がベトベトよっ」
「ええ、早く口に入れちゃわないと」
神殿で食べたフルーツとは全然違ってジューシー。やっぱり輸送する間に乾燥しちゃうからかしら?
果樹園では、ぶどうをそのまま食べる他にも搾りたてのジュースを飲んだり、ぶどうのデザートを食べた。
皆で泊まったのは、ログハウス風の建物。中に入ると、天井は吹き抜けで、大きな丸太がそのまま梁として使われていた。
こういう素朴で自然を感じるタイプの旅行を友達同士で楽しむのが流行りなんだって。
私達だけで1棟まるごと借りるかたちで、夕食は庭先でのガーデンパーティー。その場でお肉や野菜をシェフが網で焼いてくれたのを立ったまま食べた。お肉や野菜は食べやすいように小さくカットされて串に刺さっている。
「熱いっ!」
「ほんと、火傷に気をつけてね」
「はふはふ、美味しー」
昼間にたくさんぶどうを食べたから、お腹にはもう入らないかと思ったけれど、皆でお喋りしながら食べるのは楽しい。
私達の中ではレイが一番よく食べる。テンポよく次々にお肉を食べる様子は見ていて気持ちが良かった。
私も、急いでお肉にかぶり付いて、舌をちょっと火傷して。
外で食べた焼き立てのお肉は、ほんのり焦げた部分も美味しく感じた。
☆
旅行から帰ると、殿下が私に会いに来ているのだとお父様に告げられた。
久しぶりに会う殿下は少し窶れたみたい。
「リズリーネ、君に謝りたくて……」
「いいえ。救世主様のご意向ですもの。結界を守るためと諦めておりますわ」
「俺は婚約者である君を守れなかった。すまない」
「殿下のお立場では仕方の無いことです」
「実は救世主が君の存在を疎ましく思って、前聖女を追放しろと詰め寄られてね。それは拒否したが、救世主は、まだ何かを企んでいる。彼女は本当に異常だ」
「何故、私を……」
「彼女は神殿で横暴な振る舞いを続けている。そんな時、神官たちの陰口を聞いてしまったんだ。リズリーネ様の方が良かったって、ね」
「え?そんな理由で。そしてそのような方が救世主を?」
「ああ、我が国にとって彼女の力は価値があるからな。今までは彼女に逆らわないように対処してきたが、最近では祈りの儀式も疎かにするようになっていて、神殿と重臣たちは救世主には知らせず、内密でリズリーネに神殿に戻ってきて貰えないかと、検討を始めた」
「私がまた神殿に?」
「ああ、でも俺は反対だ。君を再び神殿に巻き込みたくない。それに、そんなのんびりしている時間は無いと思う。ここ2、3日、救世主は我儘も言わず素直に職務を遂行している。だが、俺はイヤな予感がする。頼む、リズリーネ。逃げてくれないか?しばらくでいい。王家が保養のために使用している別荘に避難していて欲しい。護衛も付ける。救世主は、本当に何をするか分からないんだ」
殿下は私に頭を下げた。
ここ数日、友人たちと楽しく旅行していた間に神殿ではそんな事が起こっていたなんて……。
神様が選んだ救世主様が、そこまで自分勝手な人だなんて直ぐには信じられない。けど……。
「顔を上げてください殿下。私は明日王都を発ちます」
「ああ、ありがとう、リズリーネ。最後に、少しだけ触れても良いか?」
「ええ」
アルフレード殿下が私の手を取り、そっと口づけた。
無愛想で無口な人で。
長い婚約期間の間にも、愛を囁かれたことは無いけれど、その手の先の微かな震えで、彼の緊張感が十分に伝わった。
「本当は……君を婚約者にするべきじゃなかった。君には聖女としての責務がある。忙しい君の負担になるのが分かっていて、俺は我儘を言って君を婚約者にしたんだ。なのに……ごめん。本当に好きだったよ」
消え入りそうな小さな声。
こんなことになって初めてアルフレード殿下の気持ちを知った。
私も最後に気持ちを伝えようと口を開きかけた。
その時ーー
背後からガサッと足音が聞こえたーー
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