微笑みの貴公子に婚約解消された私は氷の貴公子に恋人のふりを頼まれました

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アンドレア視点②

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「あっ、微笑みの貴公子様よ!」
「まあ!今日の装いも素敵……」
「いつ見ても、麗しいお顔立ちねー」

 会場に足を踏み入れた瞬間、令嬢たちの視線が俺に集まる。
 これこれ!
 この注目を浴びる感覚。
 くせになるほど気持ち良くて、自然に気分が高揚してくる。

 マイスウィートエンジェルたちの溜息混じりの声。綺麗なドレスで着飾り、俺と話す機会を伺っている。そのドキドキとした緊張感がなんとも愛らしくて、俺は彼女たちを見て優しく微笑んだ。

 今日も肌の調子は良好!
 着こなしもパーフェクトさ! 

 どんなに『氷の貴公子』の方が家柄が良くても、仕事で有能であっても、女性は冷たくされれば傷ついてしまうものだ。彼女たちの心は薄い氷のように脆い。 
 だから、傷ついたマイスウィートエンジェルズの心を癒やすのは僕の使命!


 
もちろん隣に立つビビアンにだって優しくする。彼女には『微笑みの貴公子』に選ばれた女性として誇りを持って欲しいんだ。ビビアン、君こそ俺のナンバーワンだよ!

 いつものようにビビアンとファーストダンスを踊った後、それぞれの友人たち会話を楽しむために俺達は別行動に移った。

「よう!アンドレア、相変わらずモテるな!」
「ジェイコブとダニエルか!久しぶり」

 肩を叩かれ振り向くと、古くからの友人が二人。彼らはワインを持っていて、もう随分と酔いが回っていそうな雰囲気だった。

 彼らはまだ婚約者は居ないから自由に夜会を楽しんでいるのだろう。
 
 男同士の会話も重要さ!王宮の派閥とか噂話は夜会で仕入れなければならない。
 酔っている相手は口も軽いものだ。俺は男同士での談笑を楽しんだあと、彼らと別れた。
 ジェイコブとダニエルは今からゲームをすると言って娯楽室へと向かった。


 一人になった俺に、令嬢が遠慮がちに近づいてきた。
 
「アンドレア様!私とも踊っていただけませんか?」

 この子は毎回のように俺に話し掛けてくる令嬢。目をウルウルさせて可愛いな。

 もちろん、ビビアンの方がもっと可愛いけど……。

 俺はニコッと笑ってからちょっと気取った調子でダンスを申し込んだ。

「ソフィー嬢、私に貴女と踊る名誉をくださいませんか?」

 ソフィー嬢は恥ずかしそうに、俺の手に自分の手を重ねてくる。俺はその手を優しく握り、彼女の目を見てニコリと微笑んだ。

 彼女のハートから『キュン』と音が聞こえた……気がする。

 彼女とダンスを踊る間、俺は彼女の恋人。 
 一時の夢をソフィー嬢に捧げよう。






 ソフィー嬢とのダンスを終えて視線でビビアンを探す。最近、彼女は俺が他の令嬢と仲良くしていると怒るから、ちゃんとフォローしないとね!

 人混みの中、ビビアンの姿を探した。彼女は今日は淡い黄色のドレスを着ていたはず……。

 すると、少し離れた場所で、男性に囲まれ笑顔を振りまくビビアンを見つけた。

「ビビアン様、私ともダンスを踊っていただけませんか?」
「いや、向こうで私とお話でも……」
「何を言う!彼女の次の相手は俺だ!」

 年齢もタイプも違う男性たちに声を掛けられていた。彼女は笑顔で会話に応じ、俺の方なんて見もしない。

 やはりビビアンは可愛いから人目を惹くのだろう。俺の伴侶に相応しいと誇らしい気持ちなる。
 男たちがいくら口説こうとしても、ビビアンは応じないだろう。何せ、彼女の婚約者はこの俺だからね!

……あれ?ビビアン?
 
 ビビアンは一人の男性の手取りホールへと進んだ。弾むような笑顔で男を見上げ、そっと寄り添う。

 え?距離が……近い、近い!
 ビビアン、君には婚約者の俺がいるんだ! 
 あまり、他の男性に気を持たせるような事はして欲しくないな!

 ダンス中も他の男性と顔を寄せ囁き合う。クスクスと楽しそうな彼女の様子から、会話が弾んでいるのが伝わってくる。

 あれ?ビビアン、俺と踊る時よりも楽しそう……?

 俺はダンスを踊り終え少し息を切らせている彼女の元に向かった。

「ビビアン、君は俺と婚約したんだから、他の男とあまり仲良くしてはいけないよ。さっきのダンスの時の距離感は、近すぎる」

「さっきの男性は私の笑顔が大好きなんですって!だからあまり素っ気ない態度だと可哀想だと思って……。私が笑うと『花のような笑顔を近くで見ることが出来て夢のようだ』って喜んでくださったわ」
 
「それは当然だよ。女性の笑顔はみんな愛らしいものなんだから。でも、あまり気を持たせるような態度は控えて欲しいよ。男はすぐに勘違いするからね」

「優しく接しているだけよ?大丈夫。愛しているのはアンドレアだけだわ」

「適切な距離を保って欲しいんだ。あれでは他の人も勘違いしてしまうよ?」

「うーん……アンドレアも他の女性と踊る時、あんな感じよ?あっ、私、別の男性を待たせているの。行ってくるわね」

 ビビアンはそう言ってまた別の男の方に行ってしまった。周囲をよく見ると、彼女目当ての男たちが大勢居て、話し掛けるチャンスを伺っている。

 え?
 ビビアンは俺の婚約者なんだけど……? 
 彼らは彼女の婚約者が『微笑みの貴公子』だって分かっているのかな?

 ビビアンも、そんな潤んだ目で男を見るなって!

 ちょん、ちょんーー

 ビビアンの方を見ていた俺の袖を誰かが遠慮がちに引っ張った。

 マイスウィートエンジェルだ。

「アンドレアさま、あちらで一緒にお話しませんか?皆、アンドレアさまに憧れていて、話をしたい女性が大勢いますの」

「あ、ああ……。も、もちろんだよ」
   
 俺としたことが不覚。
 顔が強ばっていて、爽やかな笑顔を咄嗟に作れなかった。

 マイスウィートエンジェルたちは俺の笑顔が楽しみなんだ。
 笑え、俺!

 ビビアンの方を見ると、いつの間にか他の男性からワインを受け取り、立ち話をしていた。
 いや!あの親しさは駄目だよ!
 耳に触れてしまいそうな近い距離でお互いにコソコソと話をしてる。見つめ合い……頬を染め、二人だけの世界に入り込む。

 もう、限界だ……。
 
 俺はマイスウィートエンジェルの誘いを断ってビビアンの方へと向かった。

 

「ビビアンっ!君には俺という婚約者が居るんだ!適切な距離ってものがあるだろう!」

 俺の声は、思ったよりも大きく響いて会場の注目を浴びた。

「あら?アンドレアだって他の令嬢たちと親しくなさっているでしょ?」

「俺は違う!俺は『微笑みの貴公子』だよ?笑顔で女性を幸せな気持ちにするのは、当然じゃないか!俺のは断固として浮気じゃない!けれど、君の他の男へと態度は浮気を望んでいる尻軽女にしか見えないよ!もっと慎ましく振る舞ってよ!」 

「私の笑顔で幸せになるって男性も居るのよ?笑顔は大切なんでしょ?私も笑顔を振り撒いて何が行けないの?」

「駄目だよ!駄目だよ!君は僕の婚約者なんだ!」

「どうして私だけが駄目なのか納得いかないわ!」

 俺とビビアンはヒートアップ。
 夜会で、大勢の貴族の前で、感情的な痴話喧嘩をしてしまった。

 周りからは人が居なくなり、俺とビビアンの喧嘩を貴族たちは遠巻きに眺める。
 俺達は感情のまま、思っていること全てをぶちまけ、怒鳴り合いを続けた。 









 そして、俺とビビアンの醜聞は長い間社交界で面白おかしく語られ、二人は全くモテなくなった。

 マイスウィートエンジェルズ??
 
 解散したのかもしれない。俺を好きだった事は彼女たちの黒歴史となったそうだ。
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