6 / 15
6.
しおりを挟む
「血の祝言?」
私はろくろ首の汐織さんに花嫁衣裳を着せられていた。自分には白無垢の花嫁衣裳なんて何だか似合わない気がする……。
けれど、汐織さんは長く伸びる首を生かしてくるくると帯を巻いてくれた。
二口女の風花さんは化粧と髪結いをしてくれる。
二つある口はそれぞれ人格が違うみたいでとっても賑やか。
「そうです。近いの盃にお互の血を混ぜて一気に飲むのです。」
丁寧に話してくれるのは表の口。
「蓮華も鬼になる。鬼の回復力は驚異的だ。あのババアに付けられた傷も全て治るさ。」
少し口調が荒いのは後ろの口だ。
「え?どうして知ってるの?」
「それは…ですね。ひっく、雲外鏡の颯田という妖怪がいて、ひっく、人の世を映してくれるので皆で藪元家を時々覗いていたんです、ひっく。頭領を封印している家でしたからね、ひっく。」
汐織さんはずっとしゃっくりをしている。
「首が長いから」と言っていたが、関係無いような気がするけど……。
※※※
祝言は新しい畳の匂いがする大広間で行われた。
それぞれの妖怪たちが一張羅を着て、緊張した面持ちで正座している。
なんだか滑稽な感じがしてちょっと笑ってしまった。
一夜さんを見ると、黒い袴を羽織っていて凛とした姿が様になっている。
「一夜さん、格好いいです。」
「蓮華も綺麗だよ。永遠に我と共に生きてくれるか?我もそなただけを愛すると誓う。」
「はい。一夜さんだけを永遠に愛します。ずっとお側にいさせてください。」
私が愛を誓うと、一夜さんは瞳を優しく細めてくれた。
白い盃に少しのお酒が注がれ前に置かれる。
ここに血を入れるらしい……。
お互いの指先に小さい傷を付けて血を一滴絞った。
鬼も血は赤いんだなぁー、なんて眺めているうちに盃は交換され一夜さんは盃のお酒を飲み干した。
次は私の番。
「蓮華、そなたは人では無くなる。覚悟はいいか?」
「はい。」
彼の視線を横に感じながら、一気にお酒を飲み干した。
身体が熱くなり頭がぽうっとする。
「えっ!何……?あつい。」
「蓮華、大丈夫。身体が作り替えられるだけだ。少し寝ているといい。祝言は続いているから。宴会みたいなものだ。」
一夜さんに横抱きにされ、私は奥の間へと運ばれた。
※※※
「……ん……?」
「蓮華さま。お目覚めになりました?」
風花さんが私の側に付いていてくれたみたい。今話をしているのは表の口。
「ええ。どれくらい寝てたのかしら?」
「ほんの半時ほどです。さあさあ、祝言に戻りましょう。皆がまだ祝いの盃を交わしております。立派に鬼になられた蓮華さまを見て、皆が喜ぶでしょう!変わられたお姿をご覧になりますか?」
「ええ。」
運ばれてきた姿見に映っていたのは、ふっくらとして健康的な私の姿。
袖を捲って腕を見ると、鞭で付けられた傷痕も綺麗に消えていた。
そして、頭には一夜さんと同じように小さな二つの角が生えている。
「本当に鬼になったのね。傷も消えてるわ。」
「あたりまえさ!頭領の妖力は強いんだぞ!」
誇らしげに風花さんの後ろの口が答えた。
風花さんに連れられて、大広間に戻ると宴会が続いていた。
みんな飲めや歌えのどんちゃん騒ぎ。
そして一番目立っていたのはろくろ首の汐織さん。首がぐるぐると伸びすぎて縺れている。
「汐織ちゃんは酔うと首が縺れちゃって、時々丸結びになってみんなで助けるんですよ。まーたあんなになって……。蓮華さま、私ちょっと汐織ちゃんに注意してきますね。」
そう言って風花さんは汐織さんの方へと駆けていった。
妖怪たちが陽気に騒ぐようすを、一夜さんは穏やかに微笑みながら見ている。
私は一夜さんの隣の座布団に座った。
「一夜さん。」
「蓮華、戻ったか。」
みんなが一斉に私を振り返り、角が見えるのを確認して喜んでいた。一夜さんの隣に座っている私に妖怪たちが列を作ってお酌しに来てくれる。
「花嫁さま、お酒をどうにょ。私は一反木綿の睦六にょ。花嫁さまのお出かけには呼んでにょ。」
「あ、ありがとう。」
妖怪たちは陽気で親しみ易くて、私はすっかり楽しくなってこの宴会の雰囲気を楽しんでいた。
そんな私を襖からチラチラと覗いている妖怪がいる。一つ目の半分が見えていた。
「疾風、雨象、おいで!」
一夜さんに呼ばれて一つ目小僧の疾風くんとからかさお化けの雨象くんが部屋へと入ってきた。
「れ、蓮華さまは僕たちを見て嗤わない?お、怒らない?」
「嗤ったり怒ったりしないわ。仲良くしてね?」
疾風くんと雨象くんはほっとしたような表情をした。
「この子たちは昔人間に捕まって見世物小屋に売られたことがあるのです。その見世物小屋が流行って人間たちは妖怪狩りを始めましてね……。だから頭領は怒って人間を襲い神々との戦を始めたのです。」
宗玄さんはそう教えてくれた。
こんな小さい子たちを見世物小屋になんて……。
「疾風くん、雨象くん、人間たちがごめんね。元人間として謝るわ。そして、私はこれからあなたたちの味方よ!」
疾風くんと雨象くんはすっかり安心したのか、私のそばに近寄って色々とお喋りしてくれた。
「宗玄さんはお酒を飲むと泣き上戸だよ!」
とか
「風花さん実は怒ると怖いのは表の口なんだよ!」
とか。
屋敷に住む妖怪たちの裏情報を教えてくれた。
そんな賑やかな祝言は夜半を過ぎるまで行われ、皆が酔いつぶれて畳に寝転がった頃、私は風花さんに用意された寝巻きに着替えさせられた。
「蓮華さま、頭領は夜がお強いのでお気をつけくださいね。」
「え?」
「精力が有り余ってんだよ。付き合うの大変だろうけど、頑張れよ!」
風花さんの表の口と後ろの口に励まされた。
寝室へと向かう廊下の途中凄まじい数の視線を感じて振り向くと、そこにはさっき広間で酔い潰れていた妖怪たちが私の後をつけて来ていた。
「……っ!?」
「あんたたちっ!!覗いたら頭領に怒られるよっ!!」
風花さんの後ろの口の一喝で、妖怪たちは散り散りに逃げて行った。
「妖怪は好奇心旺盛ですから……。申し訳有りません。」
風花さんはそう言うけれど……。
落ち着かない。
覗かれちゃいそう……?
そんな不安を抱えつつ、私は寝室の襖をそーっと開けた。
私はろくろ首の汐織さんに花嫁衣裳を着せられていた。自分には白無垢の花嫁衣裳なんて何だか似合わない気がする……。
けれど、汐織さんは長く伸びる首を生かしてくるくると帯を巻いてくれた。
二口女の風花さんは化粧と髪結いをしてくれる。
二つある口はそれぞれ人格が違うみたいでとっても賑やか。
「そうです。近いの盃にお互の血を混ぜて一気に飲むのです。」
丁寧に話してくれるのは表の口。
「蓮華も鬼になる。鬼の回復力は驚異的だ。あのババアに付けられた傷も全て治るさ。」
少し口調が荒いのは後ろの口だ。
「え?どうして知ってるの?」
「それは…ですね。ひっく、雲外鏡の颯田という妖怪がいて、ひっく、人の世を映してくれるので皆で藪元家を時々覗いていたんです、ひっく。頭領を封印している家でしたからね、ひっく。」
汐織さんはずっとしゃっくりをしている。
「首が長いから」と言っていたが、関係無いような気がするけど……。
※※※
祝言は新しい畳の匂いがする大広間で行われた。
それぞれの妖怪たちが一張羅を着て、緊張した面持ちで正座している。
なんだか滑稽な感じがしてちょっと笑ってしまった。
一夜さんを見ると、黒い袴を羽織っていて凛とした姿が様になっている。
「一夜さん、格好いいです。」
「蓮華も綺麗だよ。永遠に我と共に生きてくれるか?我もそなただけを愛すると誓う。」
「はい。一夜さんだけを永遠に愛します。ずっとお側にいさせてください。」
私が愛を誓うと、一夜さんは瞳を優しく細めてくれた。
白い盃に少しのお酒が注がれ前に置かれる。
ここに血を入れるらしい……。
お互いの指先に小さい傷を付けて血を一滴絞った。
鬼も血は赤いんだなぁー、なんて眺めているうちに盃は交換され一夜さんは盃のお酒を飲み干した。
次は私の番。
「蓮華、そなたは人では無くなる。覚悟はいいか?」
「はい。」
彼の視線を横に感じながら、一気にお酒を飲み干した。
身体が熱くなり頭がぽうっとする。
「えっ!何……?あつい。」
「蓮華、大丈夫。身体が作り替えられるだけだ。少し寝ているといい。祝言は続いているから。宴会みたいなものだ。」
一夜さんに横抱きにされ、私は奥の間へと運ばれた。
※※※
「……ん……?」
「蓮華さま。お目覚めになりました?」
風花さんが私の側に付いていてくれたみたい。今話をしているのは表の口。
「ええ。どれくらい寝てたのかしら?」
「ほんの半時ほどです。さあさあ、祝言に戻りましょう。皆がまだ祝いの盃を交わしております。立派に鬼になられた蓮華さまを見て、皆が喜ぶでしょう!変わられたお姿をご覧になりますか?」
「ええ。」
運ばれてきた姿見に映っていたのは、ふっくらとして健康的な私の姿。
袖を捲って腕を見ると、鞭で付けられた傷痕も綺麗に消えていた。
そして、頭には一夜さんと同じように小さな二つの角が生えている。
「本当に鬼になったのね。傷も消えてるわ。」
「あたりまえさ!頭領の妖力は強いんだぞ!」
誇らしげに風花さんの後ろの口が答えた。
風花さんに連れられて、大広間に戻ると宴会が続いていた。
みんな飲めや歌えのどんちゃん騒ぎ。
そして一番目立っていたのはろくろ首の汐織さん。首がぐるぐると伸びすぎて縺れている。
「汐織ちゃんは酔うと首が縺れちゃって、時々丸結びになってみんなで助けるんですよ。まーたあんなになって……。蓮華さま、私ちょっと汐織ちゃんに注意してきますね。」
そう言って風花さんは汐織さんの方へと駆けていった。
妖怪たちが陽気に騒ぐようすを、一夜さんは穏やかに微笑みながら見ている。
私は一夜さんの隣の座布団に座った。
「一夜さん。」
「蓮華、戻ったか。」
みんなが一斉に私を振り返り、角が見えるのを確認して喜んでいた。一夜さんの隣に座っている私に妖怪たちが列を作ってお酌しに来てくれる。
「花嫁さま、お酒をどうにょ。私は一反木綿の睦六にょ。花嫁さまのお出かけには呼んでにょ。」
「あ、ありがとう。」
妖怪たちは陽気で親しみ易くて、私はすっかり楽しくなってこの宴会の雰囲気を楽しんでいた。
そんな私を襖からチラチラと覗いている妖怪がいる。一つ目の半分が見えていた。
「疾風、雨象、おいで!」
一夜さんに呼ばれて一つ目小僧の疾風くんとからかさお化けの雨象くんが部屋へと入ってきた。
「れ、蓮華さまは僕たちを見て嗤わない?お、怒らない?」
「嗤ったり怒ったりしないわ。仲良くしてね?」
疾風くんと雨象くんはほっとしたような表情をした。
「この子たちは昔人間に捕まって見世物小屋に売られたことがあるのです。その見世物小屋が流行って人間たちは妖怪狩りを始めましてね……。だから頭領は怒って人間を襲い神々との戦を始めたのです。」
宗玄さんはそう教えてくれた。
こんな小さい子たちを見世物小屋になんて……。
「疾風くん、雨象くん、人間たちがごめんね。元人間として謝るわ。そして、私はこれからあなたたちの味方よ!」
疾風くんと雨象くんはすっかり安心したのか、私のそばに近寄って色々とお喋りしてくれた。
「宗玄さんはお酒を飲むと泣き上戸だよ!」
とか
「風花さん実は怒ると怖いのは表の口なんだよ!」
とか。
屋敷に住む妖怪たちの裏情報を教えてくれた。
そんな賑やかな祝言は夜半を過ぎるまで行われ、皆が酔いつぶれて畳に寝転がった頃、私は風花さんに用意された寝巻きに着替えさせられた。
「蓮華さま、頭領は夜がお強いのでお気をつけくださいね。」
「え?」
「精力が有り余ってんだよ。付き合うの大変だろうけど、頑張れよ!」
風花さんの表の口と後ろの口に励まされた。
寝室へと向かう廊下の途中凄まじい数の視線を感じて振り向くと、そこにはさっき広間で酔い潰れていた妖怪たちが私の後をつけて来ていた。
「……っ!?」
「あんたたちっ!!覗いたら頭領に怒られるよっ!!」
風花さんの後ろの口の一喝で、妖怪たちは散り散りに逃げて行った。
「妖怪は好奇心旺盛ですから……。申し訳有りません。」
風花さんはそう言うけれど……。
落ち着かない。
覗かれちゃいそう……?
そんな不安を抱えつつ、私は寝室の襖をそーっと開けた。
31
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる