皇妃は寵愛を求めるのを止めて離宮に引き篭ることにしました。

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14,離宮での生活

事件も終わり離宮で過ごす日々は穏やか。

「陛下がもうすぐ到着するとの先触れが来ました。」
怪我が全快し、仕事復帰したシェリーが知らせてくれる。
「ありがとう。シェリー。」
身支度を整えて陛下の訪れを待つ。久しぶりに逢えると思うと、胸がじわりと温かくなる。

離宮に来て三ヶ月。
陛下に逢えない日々は思ったよりもずっと平坦で私の感情を細く細く削いでいく。

「ねぇ、シェリー、このワンピースの色、顔色が悪く見えないかしら?」
シェリーは少し驚いた様子を見せるが直ぐに得心したように微笑む。
「ここのお部屋の灯りは少し暗うございますから、自然光の入る場所ですと随分違いますわ。」

今まで、陛下にどう見えるか気にしたことがあっただろうか?
好きな人に会う前の心が弾むような気持ちが、擽ったい。


「ケイト、会いたかった。」
そんな風に甘い表情で言われれば、顔が火照ってしまう。
陛下は心から私を好きでいてくれるのかもしれない。
愛しくて愛しくてしょうがない、そんな表情。
王宮での態度とは違う甘い態度と近い距離感に、化粧は大丈夫かしら?とドキドキする。

「中庭でお茶にしませんか?アネモネが綺麗に咲きましたのよ。」
「いいね。今日は気持ちいいだろうな。」

中庭へ陛下を案内すると、シェリーがお茶を運んで来てくれた。

「君に害を為そうとする者を処分した。レイダとも話は付いている。もう後宮に側室はいない。ケイトだけになる。」

側室はいない?
そんな事出来たのだろうか?
思わず陛下の顔を見る。よく見れば目元の隈が疲労を滲ませていた。
「戻ってきてくれるか?」
陛下は少し緊張したような、自信無さそうな表情で私の返事を待っている。
「はい。」
陛下はらしくなく破顔してみせると、私の手を取った。

「あー、良かった。戻ってきてくれなかったらどうしようかと思ったよ。」

こんなに弱気な発言は陛下にしては珍しい。殊勝にも見える様子に胸がキュンとする。

「陛下、話をしたい事がございます。」
「うん。何でも話して。」

陛下は握っていた手を離して、佇まいを正してくれた。
私の話を真剣に聞いてくれようとするその姿勢は真面目な陛下らしい。

「わたくし、寝込んでおります間に夢を見ました。別の人生を歩んでいる夢。わたくしは全く違う価値観の世界で生きていました。」

陛下は黙って話を聞いてくれていた。取り敢えず全てを聞くつもりなのだろう。

「それを見て、分かった事があります。わたくし、随分感情を失くしてしまっていたんですね。忘れていました。大笑いする事も、嫌な顔をする事も。」

「うん。そうだね。ケイトはお妃教育が始まってから、我慢し過ぎるようになってしまっていたよ。」

「今までばかでしたわ。盲目的に人を信じて。随分と陛下に守っていてもらっていた事に気付きましたの。お人形のように何も感じないことが良いことだと、陛下のお側に居るために大切だと思い込んでおりました。」 

「そうか………。」

陛下は少し驚いたような表情で私を見ている。

「これからはきちんと人の醜い感情にも向き合って、皇后として努めますわ。清濁併わせ飲む事も必要ですもの。」
「うん。」
陛下は静かに私を見守ってくれている。
私の決心を尊重してくれるのだろう。

「今のわたくしは人を疑う心も持っています。陛下を一人の男性として見るようになりました。嫉妬もします。…………醜い感情ですわね。」

新しく側室を迎えることも容認出来ないだろう、そんな思いで陛下の顔を見る。
陛下は私の予想を裏切り、嬉しそうに表情を崩した。

「ケイトが嫉妬してくれるなら嬉しい。私の事を好きでいてくれているって思えるからね。これからはもっとケイトの感情を見せてくれ。大丈夫、ケイトはセリーヌみたいにはならないよ。」

陛下は私が何を恐れていたのか知っていたのか。
私はお妃教育が始まった頃を思い出した。

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