10 / 16
10.クミンの村
しおりを挟む「この町で何か食べよう。ここは交易の中心地だから大きな市場もあるし行商も多い。旅人のふりをしていれば目立つことも無いぞ。」
「わあ!ほんとーすごい人……。」
クミンの街は賑やか。人がとにかく多い。商人も家族連れの旅行者もいて、みんなが思い思いの方向に歩くから、陛下たちとはぐれてしまいそう!
「リーナ、手を。」
「ありがとうルース。」
陛下が手を差し出してくれたので、ありがたく手を掴んだ。あまりにがっしり握った私に陛下は驚いたみたい。
でも、この人ごみ。迷子になったら大変!
「離すなよ。しっかり掴まっておけ。」
「はい。」
陛下から離れないよう必死で足を動かすけど……。
みなさん、歩くの早いです。
陛下はスイスイ歩いているのに、私は人にぶつかってばかり。ちっとも前に進まない!
「おっ?匂いがしてきたな。」
「え?匂い。」
陛下が振り返ってそう言うから、スンスン鼻を鳴らすが、匂いなんてしない。
「なんだ、背が低いと匂いもしないのか?」
首を傾げる私を見て、陛下は意地悪く笑いながら、私の両脇をもってヒョイと抱き上げた。
「きゃあ!」
一気に目線が高くなり視界が広がった。向こうの方を見ると、お店の軒下にお肉が吊るしてあるのが見える。
「あっ!本当だ!」
漂ってきたスパイシーな香り。きっとあのお肉の匂いにちがいない。
「見えたか?」
「お肉が見えました。あと匂いも。」
吊るしてあるお肉は真っ赤になっていて、所々焦げ付いた部分も美味しそう!こんな道端でお肉を焼いているなんて……。
「ここの名物だ。旨いぜ。」
陛下は私を下ろさずそのまま腕に座らせるみたいに抱きかかえて歩きだした。まるで子供がお父さんに抱っこされてるみたい。
「ルース?下ろして?」
「君は歩くのが遅い。はぐれない自信は?」
「無いです。」
「じゃあ、このままだ。」
抗議の視線を送るけど、陛下は平然としている。たしかに、誘拐されたりして迷惑かけてしまったら大変だもの。
陛下に抱っこされながら歩く人ごみは新鮮。
人々の頭を見下ろしながらこの賑やかで雑然とした街の雰囲気を楽しんだ。
☆
お目当てのお肉のお店に行くと、お店の入り口でクレープを焼いていた。
「この生地に包んで食べるんだ。」
へぇ!珍しい。
でも、タレで手が汚れなくていいかも。
「おじさんっ!これちょうだいっ。」
「はいよ!」
抱っこされたまま、四角く畳まれたクレープを受けとる。
「このまま食べるの?」
「ああ、かぶりつくんだ。」
ちょっとお行儀が悪いけれど、周りの人はみんなそうして食べているみたい。
みんなの真似をして大きな口を開けてクレープにかぶりつくと、スパイスの香りが鼻を抜け、肉汁が口の中に広がった。
「美味しい!」
王宮でフォークに刺して食べるお肉よりも美味しい気がする。
かぶりついて食べるのってこんなに美味しいんだ!
パクパクと食べる私を陛下は嬉しそうに見ていた。
「俺にも半分くれ。」
「私の食べかけですよ?」
「そんな事は気にならん。」
男の人って細かい事は気にしないのね。 野宿にも慣れてたし……。
クレープには私の齧ったあとがあってちょっと恥ずかしいなと思いながらも、陛下の口元にクレープを向けた。
「ん。食べさせてくれ。」
陛下が大きく口を開けるから、戸惑いつつも残りをあげると、陛下はぺろりと全部食べてしまった。
「旨い……な。」
全て奪われジトリとした眼差しを向ける私に、陛下は悪びれることなく、他の美味しい食べ物を教えてくれた。
陛下は私を片手で抱きかかえ、もう片方の手には私の荷物を持って歩く。きっと重いのに、足取りは軽くて。
男の人の力強さを感じてしまう。
私は左手に果実水、右手に食べ物を持って、陛下に食べさせながら街を回った。
「ルース、私の食べかけじゃなくて、ご自分の食べたいものは無いですか?」
陛下が私の食べかけばかり食べる。自分でも選んで欲しいのに、相変わらず私の残りばかりを食べていた。
お蔭でたくさんの種類を食べれて得した気分。
ふと陛下の後ろを歩くシエンさんが疲れた顔をしているのが目に入った。
あっ?陛下と私ばかり食べてて、シエンさんとリクさんはあんまり食べていないから怒っているんだわ!
「シエンさんも食べますか?」
食べかけの串焼きをシエンさんに差し出すと、彼はギョッとした表情で陛下の方を見た。
「ばっ、食べかけを人にやるな!」
なんだ。やっぱり食べかけって気になるんじゃない。変なの。
「ごめんなさい。男の人ってそういうの気にならないのかと思って……。ルースが平気そうだったから。」
「い、いいえ……。」
シエンさんの視線がキョロキョロと忙しなく動いていて動揺しているのが伝わった。
かえって気を遣わせちゃったみたい。
お腹がふくれた私達は、旅に必要な物を買い出してから宿に泊まることにした。
19
あなたにおすすめの小説
いくら時が戻っても
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
大切な書類を忘れ家に取りに帰ったセディク。
庭では妻フェリシアが友人二人とお茶会をしていた。
思ってもいなかった妻の言葉を聞いた時、セディクは―――
短編予定。
救いなし予定。
ひたすらムカつくかもしれません。
嫌いな方は避けてください。
※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。
ある辺境伯の後悔
だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。
父親似だが目元が妻によく似た長女と
目元は自分譲りだが母親似の長男。
愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。
愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
【完結】あなたに従う必要がないのに、命令なんて聞くわけないでしょう。当然でしょう?
チカフジ ユキ
恋愛
伯爵令嬢のアメルは、公爵令嬢である従姉のリディアに使用人のように扱われていた。
そんなアメルは、様々な理由から十五の頃に海を挟んだ大国アーバント帝国へ留学する。
約一年後、リディアから離れ友人にも恵まれ日々を暮らしていたそこに、従姉が留学してくると知る。
しかし、アメルは以前とは違いリディアに対して毅然と立ち向かう。
もう、リディアに従う必要がどこにもなかったから。
リディアは知らなかった。
自分の立場が自国でどうなっているのかを。
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
砕けた愛
篠月珪霞
恋愛
新婚初夜に男に襲われた公爵令嬢エヴリーヌは、不義密通の罪を被せられた。反逆罪に問われた彼女の一族は処刑されるが、気付くと時間が巻き戻っていた。
あなたへの愛? そんなものとうに、砕け散ってしまいました。
地獄の業火に焚べるのは……
緑谷めい
恋愛
伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。
やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。
※ 全5話完結予定
一緒に召喚された私のお母さんは異世界で「女」になりました。
白滝春菊
恋愛
少女が異世界に母親同伴で召喚されて聖女になった。
聖女にされた少女は異世界の騎士に片思いをしたが、彼に母親の守りを頼んで浄化の旅を終えると母親と騎士の仲は進展していて……
母親視点でその後の話を追加しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる