失意の中、血塗れ国王に嫁ぎました!

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10.クミンの村

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「この町で何か食べよう。ここは交易の中心地だから大きな市場もあるし行商も多い。旅人のふりをしていれば目立つことも無いぞ。」

「わあ!ほんとーすごい人……。」

 クミンの街は賑やか。人がとにかく多い。商人も家族連れの旅行者もいて、みんなが思い思いの方向に歩くから、陛下たちとはぐれてしまいそう!

「リーナ、手を。」
「ありがとうルース。」

 陛下が手を差し出してくれたので、ありがたく手を掴んだ。あまりにがっしり握った私に陛下は驚いたみたい。
 でも、この人ごみ。迷子になったら大変!

「離すなよ。しっかり掴まっておけ。」
「はい。」

 陛下から離れないよう必死で足を動かすけど……。
 みなさん、歩くの早いです。
 陛下はスイスイ歩いているのに、私は人にぶつかってばかり。ちっとも前に進まない!

「おっ?匂いがしてきたな。」
「え?匂い。」

 陛下が振り返ってそう言うから、スンスン鼻を鳴らすが、匂いなんてしない。

「なんだ、背が低いと匂いもしないのか?」

 首を傾げる私を見て、陛下は意地悪く笑いながら、私の両脇をもってヒョイと抱き上げた。

「きゃあ!」

 一気に目線が高くなり視界が広がった。向こうの方を見ると、お店の軒下にお肉が吊るしてあるのが見える。

 「あっ!本当だ!」

 漂ってきたスパイシーな香り。きっとあのお肉の匂いにちがいない。

「見えたか?」
「お肉が見えました。あと匂いも。」

 吊るしてあるお肉は真っ赤になっていて、所々焦げ付いた部分も美味しそう!こんな道端でお肉を焼いているなんて……。

「ここの名物だ。旨いぜ。」

 陛下は私を下ろさずそのまま腕に座らせるみたいに抱きかかえて歩きだした。まるで子供がお父さんに抱っこされてるみたい。

「ルース?下ろして?」
「君は歩くのが遅い。はぐれない自信は?」
「無いです。」
「じゃあ、このままだ。」

 抗議の視線を送るけど、陛下は平然としている。たしかに、誘拐されたりして迷惑かけてしまったら大変だもの。
 
 陛下に抱っこされながら歩く人ごみは新鮮。 
 人々の頭を見下ろしながらこの賑やかで雑然とした街の雰囲気を楽しんだ。



 お目当てのお肉のお店に行くと、お店の入り口でクレープを焼いていた。

「この生地に包んで食べるんだ。」

 へぇ!珍しい。
 でも、タレで手が汚れなくていいかも。

「おじさんっ!これちょうだいっ。」

「はいよ!」

 抱っこされたまま、四角く畳まれたクレープを受けとる。

「このまま食べるの?」

「ああ、かぶりつくんだ。」 

 ちょっとお行儀が悪いけれど、周りの人はみんなそうして食べているみたい。
 みんなの真似をして大きな口を開けてクレープにかぶりつくと、スパイスの香りが鼻を抜け、肉汁が口の中に広がった。

「美味しい!」

 王宮でフォークに刺して食べるお肉よりも美味しい気がする。 
かぶりついて食べるのってこんなに美味しいんだ!
 パクパクと食べる私を陛下は嬉しそうに見ていた。

「俺にも半分くれ。」

「私の食べかけですよ?」

「そんな事は気にならん。」

 男の人って細かい事は気にしないのね。 野宿にも慣れてたし……。
 
 クレープには私の齧ったあとがあってちょっと恥ずかしいなと思いながらも、陛下の口元にクレープを向けた。

「ん。食べさせてくれ。」

 陛下が大きく口を開けるから、戸惑いつつも残りをあげると、陛下はぺろりと全部食べてしまった。

「旨い……な。」

  全て奪われジトリとした眼差しを向ける私に、陛下は悪びれることなく、他の美味しい食べ物を教えてくれた。

 陛下は私を片手で抱きかかえ、もう片方の手には私の荷物を持って歩く。きっと重いのに、足取りは軽くて。
 男の人の力強さを感じてしまう。

 私は左手に果実水、右手に食べ物を持って、陛下に食べさせながら街を回った。

「ルース、私の食べかけじゃなくて、ご自分の食べたいものは無いですか?」

 陛下が私の食べかけばかり食べる。自分でも選んで欲しいのに、相変わらず私の残りばかりを食べていた。
 お蔭でたくさんの種類を食べれて得した気分。

 ふと陛下の後ろを歩くシエンさんが疲れた顔をしているのが目に入った。

 あっ?陛下と私ばかり食べてて、シエンさんとリクさんはあんまり食べていないから怒っているんだわ!

「シエンさんも食べますか?」 

 食べかけの串焼きをシエンさんに差し出すと、彼はギョッとした表情で陛下の方を見た。

「ばっ、食べかけを人にやるな!」

なんだ。やっぱり食べかけって気になるんじゃない。変なの。 

「ごめんなさい。男の人ってそういうの気にならないのかと思って……。ルースが平気そうだったから。」

「い、いいえ……。」

 シエンさんの視線がキョロキョロと忙しなく動いていて動揺しているのが伝わった。
 かえって気を遣わせちゃったみたい。

 お腹がふくれた私達は、旅に必要な物を買い出してから宿に泊まることにした。
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