失意の中、血塗れ国王に嫁ぎました!

文字の大きさ
9 / 16

9.シエン視点

しおりを挟む

 俺は平民生まれ。
 幼い頃は平凡だが、仲の良い両親と幸せに暮らしていた。
 俺のその平凡な幸せを壊したのは真神教。
 数十年に一度の大干ばつで農作物が不作だった年、援助すると言って俺たちの村に入り込んだ。

 その結果、両親は薬物中毒で廃人となり農地は奪われた。
 俺は暗殺組織に買われ、訓練を受けた。それは思い出したくもない、過酷な日々。
 生きるためにあらゆる事をしてきた。

 ああいう組織で働くと、心が死んでいくものだ。捨て駒のように扱われ、誰にも大切にされることのない自分の命。

 自暴自棄になり、もう死んでもいいと思っていた。

 そんな俺を拾ってくれたのは陛下。陛下は「裏切らない人間が欲しい。お前の身分や過去は一切問わない。」と言って俺を雇った。

 俺は初めから陛下を信用していた訳ではない。
 荒んでいた俺は野良犬のようだったと思う。

 「忘れるなよ。俺は平民だ、言葉遣いなんて期待しないでくれ。」

「そんな事つまらないことを気にするならお前を雇ったりするもんか。とにかく腕の立つやつで裏切らない奴が欲しい。俺も王位なんて継ぐつもりは無かったから、勉強もサボってたさ。マナーなんて気にするな。」

 陛下は王族らしからぬ言葉遣いで大きな口を開けて笑った。それは器の大きさを感じさせる大らかな笑顔。

「真神教には恨みがある。陛下が奴等を潰すなら協力はするさ。」

 そして、俺は陛下個人の影として働くようになった。陛下は王宮の騎士すら100%信用は出来ないと言う。
 騎士より俺を信頼するのだと、大真面目に言うのだ。一国の元首が……。

 陛下は一部の仲間と真神教について隠密で調査していた。危険な場所には自ら乗り込む。王宮で働く他の貴族たちとは明らかに違っていた。

 俺の今まで出会ったどんな身分の人間よりも一番だ。

 そして、今も自らミモレ王国を目指している。

 陛下はなかなか人を信用しない。王宮ではその鋭い眼光で常に気を張っていて近寄り難い印象の人物。

 それがこの旅ではどうだ!

 自分の馬に妻を乗せ、時折嬉しそうな笑顔を浮かべる。
 陛下の顔を見てると何だかムズムズしてこっちが恥ずかしくなる。

 カトリーナ様はエニュオ卿の婚約者だった女性。何故か陛下は正妃として彼女を娶った。

 初めて彼女を見た時、イメージしていたエニュオ卿の婚約者と違っていて少し驚いた。もっとスラリとしたスタイルの良い冷静な女性を思い浮かべていたが、彼女は何と言うか……小動物のようで落ち着きが無い。

「どうして正妃に?側室としてなら後で臣下に下賜することも出来るでしょうに。」

「い、いや。まぁ。」

 いつもは切れ者の陛下が、この時は言葉を濁した。



 今、陛下は俺たちの目の前でカトリーナ様を抱きかかえ、彼女が寝やすいように体勢を整えている。然り気無く彼女の寝顔が俺たちに見えないようにする心配りも忘れない。

「カトリーナ様は寝たんですか?」
「ああ、そうらしいな。」
「こんな場所で眠れるなんて案外肝が座ってますね。」
「はははっ。そうだな。」

 陛下は愛しくて仕方ないといった様子でカトリーナ様を見つめていた。
 暗闇で自分の顔が俺たちに見えていないとでも思ってるんだろう。
 けれど焚き火で照らされてかえってよく見える。

「もっと薪をくべてくれ。カトリーナが寒さで目を覚ましてしまう。」
「……はい。」

 陛下が毛布にくるんでぎゅっと抱きかかえているのに……。寒くなんて無いと思うが?

 俺、今晩ずっと陛下のこんな蕩けきった顔を見てなきゃなんないのか……。
 「陛下の威厳が台無しだ!」なんて心の中で毒づく。
 俺の尊敬する陛下。

 少しうんざりしながらも、明日の予定を確認した。

「次はピロットの街ですね。」
「ああ、そこでは宿に泊まろう。連日野宿じゃ、リーナが辛いだろうからな。」

 陛下はカトリーナ様の髪を優しく梳くように撫でていた。会話している俺たちの顔も、焚き火の火の加減も全然見ようとはしない。

 なでなでなでーーーー

 無意識なんだろうか?
 陛下はずっとカトリーナ様の髪を撫でている。もう寝付いたし、赤ん坊でもないからずっと撫でている必要は無いと思うんだが……。

 俺はリクを見てこっそり溜め息を吐いた。恋人のいない俺たちには酷な旅になりそうだ。

 俺たちの大切な主君。しばし腑抜けてしまった陛下を守るのも、俺たちの務めだ。
しおりを挟む
感想 36

あなたにおすすめの小説

いくら時が戻っても

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
大切な書類を忘れ家に取りに帰ったセディク。 庭では妻フェリシアが友人二人とお茶会をしていた。 思ってもいなかった妻の言葉を聞いた時、セディクは――― 短編予定。 救いなし予定。 ひたすらムカつくかもしれません。 嫌いな方は避けてください。 ※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

【完結】あなたに従う必要がないのに、命令なんて聞くわけないでしょう。当然でしょう?

チカフジ ユキ
恋愛
伯爵令嬢のアメルは、公爵令嬢である従姉のリディアに使用人のように扱われていた。 そんなアメルは、様々な理由から十五の頃に海を挟んだ大国アーバント帝国へ留学する。 約一年後、リディアから離れ友人にも恵まれ日々を暮らしていたそこに、従姉が留学してくると知る。 しかし、アメルは以前とは違いリディアに対して毅然と立ち向かう。 もう、リディアに従う必要がどこにもなかったから。 リディアは知らなかった。 自分の立場が自国でどうなっているのかを。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

砕けた愛

篠月珪霞
恋愛
新婚初夜に男に襲われた公爵令嬢エヴリーヌは、不義密通の罪を被せられた。反逆罪に問われた彼女の一族は処刑されるが、気付くと時間が巻き戻っていた。 あなたへの愛? そんなものとうに、砕け散ってしまいました。

地獄の業火に焚べるのは……

緑谷めい
恋愛
 伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。  やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。  ※ 全5話完結予定  

一緒に召喚された私のお母さんは異世界で「女」になりました。

白滝春菊
恋愛
少女が異世界に母親同伴で召喚されて聖女になった。 聖女にされた少女は異世界の騎士に片思いをしたが、彼に母親の守りを頼んで浄化の旅を終えると母親と騎士の仲は進展していて…… 母親視点でその後の話を追加しました。

処理中です...