失意の中、血塗れ国王に嫁ぎました!

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7.ローレンスの思い

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「きゃあーーーーっ!!」

 手首を掴まれ大声で叫ぶと、誰かに身体をぐいっと引き寄せられた。

「カトリーナっ!」

 目を開けると、私は陛下に抱き込まれていた。陛下は私を庇うようくるりと身体を回転させ回廊に向かって私の背中をトンっと押した。

「陛下っ!?」

 陛下の背後からメイソン公爵がナイフを持って襲いかかるのが見えて思わず叫んだ。

そしてーー

ーーシュパッ

 陛下は身を屈め、剣を抜くと同時に振り向きざまにメイソン公爵の足を切りつけた。

「ぐあーーーっ!!」

「ここは翡翠宮だ。言い訳はきかんっ!王妃を害そうとした罪は重いぞ!」

 何処からか黒装束の男性がヒラリと舞い降りてきて、メイソン公爵を拘束した。

「ぢぐしょーーーっ!!はなせっ!はなせっ!!ぢぐしょーーーっ!!」

 拘束されて尚、メイソン公爵は暴れた。ロープが腕に食い込み血が流れているのに、そんな事お構い無しに血走った目で私を睨む。

「お前の目的はなんだ?」

「名簿はどこだっ!!名簿をどこに隠した。ちくしょー、コソコソしやがって……。お前の男が盗んだんだろうがっ!!返せっ!」

 メイソン公爵の様子は尋常では無い。正気を失ったようにただ怒りに任せて叫び続けた。

 この人に捕まっていたらどうなっていたのだろう。恐怖に身が竦んで震えていると、陛下は私を抱きかかえ、部屋まで連れていってくれた。

「怖かっただろう。大丈夫か?」

「は、はい。も、申し訳ありません。陛下の言うことを聞かないで……。」

「いや、寸前のところで逃げてくれて良かった。ローの言う通りだったな、君は。」

「ロー?陛下は……ローレンスをご存知なんですか?」

 「ああ。ローは君を不安にさせるのを嫌がって何も話して無かったみたいだから、俺も言わなかったが、それが危険だったようだ。今から全て話そう。」

ー・ー・ー・ー


 陛下は私に自分とローレンスの出逢いからの事を全てを話してくれた。真神教のことも。

「ローレンスはそんな危険な教団の事を調べていたんですね。……どうして……そんな。」

「きっかけはアルティス領の飢饉と聞いている。飢饉で困っている農民を支援すると言って、信者を増やしていたそうだ。それで真神教を疑うようになったと言っていたな。」

「アルティス領で?」

「ああ、ローが帰国を急いだのは、教団が農民の蜂起を誘導していると情報があったからだ。農民を操っているリーダーの正体がなかなか掴めなかったみたいだが……。」

「そのことは……お父様は……。」

「知っているはずだ。だから君と俺との婚姻に同意した。君はローの婚約者として狙われる恐れがあったから、伯爵家では充分に守れないと思ったのだろう。伯爵領はそれだけ真神教の信者が増えていた。」

「それで農民の蜂起は……。」

「事前に防いだはずだ。ローが命懸けで調べてくれたんだ。俺も、エニュオ侯爵もアルティス伯爵も……もう無能ではいられない。」

「……そう……知らなかっ……た。」

 彼はずっと私を守ってくれていた。
 私の知らない間も、たくさん、たくさん、愛をくれていた。

「ローレンス、……ローレンス。」

 大好きな人の名を何度も呟く……。

「わあぁぁーーーー!!」

 力の限り声を上げて叫んだ。
 彼がずっと守ってくれたのに……。
 気づかなくて……ただ守られていた自分が悔しくて……。

 そんな私を陛下はただ痛ましそうに見つめていた。







 その夜、陛下は早めに執務を切り上げ、寝室へと入ってきた。

「三日後、ミモレ王国のエニュオ侯爵に会いに行く。俺の影武者を置いていくが、身辺は十分に気をつけてくれ。」

「どうしてエニュオ侯爵に?」

「ローレンスが真神教に協力する貴族の名簿をどこかに隠したはずだ。信頼する実家に託したと考えるのが自然だろう。」

「それなら私も行きます。侯爵だって私が一緒に居た方が陛下を信用するはずです。」

「しかし。危ない旅なんだ。まともな場所で眠れるとも限らない。」

「大丈夫です。足手纏いになるような事はしませんから。」

「駄目だ。」

「お願いします。しがみついででも一緒に行きます。」

 もう何も知らないで守られるだけなんて嫌だ。

「はぁーまったく、君はローレンスの言う通りだな。」

「え?か、彼は私の事をなんて?」

「『跳ねっ返りで全然僕の言うことを聞かない。』俺とは『喧嘩になりそうだ』とも言ってたな。」

「そう。跳ねっ返りって言ってたんだ。」

 褒め言葉では決してない。けれど彼が留学中も陛下にそんな事を話していたのが嬉しかった。

「跳ねっ返り……かあ。」

 彼がどんな顔でそんな風に言ったのかを想像したらおかしくて……。
 彼の存在を確かめるようにその言葉を繰り返した。



「駄目だと言っても無駄なんだな。仕方ない。君の影武者も用意しよう。幸い翡翠宮から出ないから顔も知られていないしな。」

「あ、ありがとうございます。」

「出立は三日後、期限は二週間だ。このためにずっと影武者に任せられるよう執務を調整してきた。二週間で行って帰ってくるぞ。」

「はいっ。」
 
「実はエニュオ侯爵とは書面で何回かやり取りしただけだ。俺が本物だと信じて貰えるあても無かったんだ。君が一緒の方が本当は都合が良いんだ。」

「じゃあ、はじめから良いって言ってくれれば良かったのにっ!」

「阿呆。ローレンスが命懸けで守った君を危険に晒すわけにはいかないだろう?国境付近は盗賊も多いんだ!」

「……陛下とは喧嘩ばかりしそうです。」

「はぁー、すまん。」

 こうして私たちはミモザ王国へ向かう事になった。



 
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