失意の中、血塗れ国王に嫁ぎました!

文字の大きさ
6 / 16

6.陛下視点①

しおりを挟む



 ローレンスと出逢ったのはダンフリー伯爵家の夜会。彼は留学中、その屋敷に滞在していた。

 俺は第3王子だったが、その頃は王位継承争いに巻き込まれるのが嫌で目立たないようひっそりと生きていた。

 俺たちの母親はみんな別々。特に俺の母親は身分も低く、既に亡くなっていたから俺には後ろ楯も無い。王位争いに巻き込まれるのは嫌だった。

「イグネイシャス殿下、はじめまして。僕はローレンス・エニュオ。ミモレ王国のエニュオ侯爵家の息子です。突然話し掛けるご無礼をお許しください。」

 ローレンスは普段は真面目で慎重。なのに、時々大胆で切り込んだ行動をする奴で……。
 はじめは妙に近づいてくるあいつを俺は警戒していた。

 でもーー

「殿下はもしもの時、リュゼット王国のためにその身を捧げる覚悟はおありですか?」

 王族に向かって、一歩間違えれば不敬になりそうなことを平然と聞いてきた。 
 その時、俺はまだ王座に就く未来なんて想像して無かった。

「兄たちがこの国の良き方向に導くだろう。私がその気になれば国が割れる。過ぎたる野心は持たない方が国の安寧に繋がると、そう思っている。俺を担ぎ上げようとしても無駄だぞ?」

 早くこの奇妙な男が俺への興味を失うのを待っていた。俺は自分が無能であると示すように、無気力な第3王子を演じていたから……。

「では、もし国のために殿下の力が必要な時はご協力ください。」
「それは勿論だ。」

 俺に国の未来を話すことなんて無駄だ。そう思いながらもあいつとはそんな会話を交わした。


 ローレンスはそれでも俺から離れずしつこかった。そしてある日、ローレンスが俺に教えてくれた。ここ、リュゼット王国には真神教の脅威が近づいていると。

 彼は色んな国を回っているうちに真神教の支配が各国の権力者の中央近くまで及んでいるのに気がついたのだと言う。

 曰く、兄たち二人には既に真神教に心酔した人間が側近として入り込んでいるらしい。

「僕のような他国の人間の忠告は聞いていただけ無いでしょう。けれど、真神教の脅威には国同士の協力が不可欠です。僕の見た国の中ではここリュゼット王国が一番危ないと感じました。」

「宗教の支配が謀反にまでなるのか?」

「さぁ?ただ、祈祷と称した怪しい会合で麻薬が使われているのは事実。薬物中毒になれば犯罪に手を染める人間も多いと思いますね。」

 ローレンスも俺を信頼してくれたのだろう。その頃から容赦なく俺に意見するようになった。

「王族としての覚悟がありますか?ならば睡眠時間など無いと思ってください。」

「はぁ?鬼かよ?」

「今までのツケですよ。自分で身を守る術を身につけてください。側近は自ら吟味するべきです。家柄で選んではいけません。」

「分かったよ。ローの忠告は耳が痛いことばかりでイヤになるな。」 

 そんな事を言いながらも、俺は指示通りに身体を鍛え直し、自分の身近にいる人間を調べあげた。

 真神教の狙いは、跡目争いの激化。
 そして、ローレンスの言う通り、兄たちの王位争いは徐々にその形を変えていった。
 王としての能力を示すような争いでは無く、命を狙い合う血生臭い争いへと。

 臣下たちも第1王子派と第2王子派という派閥に分かれ、国を中から割るとはこういう事かと愕然とした。

 俺も何度も命を狙われた。ローの助言がなければ、とっくに暗殺されていただろう。


 最後に俺だけが生き残り、即位した。





 ローレンスには母国に婚約者がいた。
 奴は美しい顔立ちで侯爵子息。当然、女にはモテる。
 だがローレンスは夜会で秋波を送る令嬢にも興味を示さない。
 俺はそんなあいつを見てよく揶揄っていた。

「よほどの美女なんだな、お前の婚約者は。」

「美女……という表現は合いませんね。こんなこと本人に言ったら怒られますけど。」

 婚約者の話になると必ずローレンスの口元がほんの少し緩む。

「留学してる貴族なんて、他国では遊んでる奴ばかりだぜ。」

「まさか。カトリーナがいるのに、他の女性に興味はありません。まあ、情報収集のための会話ぐらいはしますが……。この国が平和になったら、新婚旅行に来たとき、殿下にカトリーナを紹介しますよ。」

「お前がそれだけ惚れてるんだ。さぞかしイイ女なのだろうな?」

「いえ……跳ねっ返りですよ。僕の言うことを全然聞きませんから……。殿下とカトリーナが会ったら喧嘩ばかりですね、きっと。」

「そんな跳ねっ返りが未来の侯爵夫人なのか?」

「カトリーナは感情的ですけどね、何故か必ず最後には正しい選択をするんですよ。僕もあれは不思議に思います。」

 ローレンスは苦笑しながらも優しい目をしていた。婚約者を心から大事にしているんだろう。

 だからローレンスの死の知らせを聞いた時、あいつの代わりに婚約者を守ってやろうと思った。
 
 ローレンスには山ほど借りがある。カトリーナを迎えるために信用出来る人間を厳選し翡翠宮に配置した。





「陛下、翡翠宮から怪しい侍女が出ていくのを発見し取り押さえました。侍女の話によると、メイソンから手紙を妃殿下に渡すよう依頼されたとの事です。」

「なに?いつだ?」

「半刻ほど前に。」

「翡翠宮へ行く!シエンもついて来いっ!!」
 


しおりを挟む
感想 36

あなたにおすすめの小説

いくら時が戻っても

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
大切な書類を忘れ家に取りに帰ったセディク。 庭では妻フェリシアが友人二人とお茶会をしていた。 思ってもいなかった妻の言葉を聞いた時、セディクは――― 短編予定。 救いなし予定。 ひたすらムカつくかもしれません。 嫌いな方は避けてください。 ※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

【完結】あなたに従う必要がないのに、命令なんて聞くわけないでしょう。当然でしょう?

チカフジ ユキ
恋愛
伯爵令嬢のアメルは、公爵令嬢である従姉のリディアに使用人のように扱われていた。 そんなアメルは、様々な理由から十五の頃に海を挟んだ大国アーバント帝国へ留学する。 約一年後、リディアから離れ友人にも恵まれ日々を暮らしていたそこに、従姉が留学してくると知る。 しかし、アメルは以前とは違いリディアに対して毅然と立ち向かう。 もう、リディアに従う必要がどこにもなかったから。 リディアは知らなかった。 自分の立場が自国でどうなっているのかを。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

砕けた愛

篠月珪霞
恋愛
新婚初夜に男に襲われた公爵令嬢エヴリーヌは、不義密通の罪を被せられた。反逆罪に問われた彼女の一族は処刑されるが、気付くと時間が巻き戻っていた。 あなたへの愛? そんなものとうに、砕け散ってしまいました。

地獄の業火に焚べるのは……

緑谷めい
恋愛
 伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。  やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。  ※ 全5話完結予定  

一緒に召喚された私のお母さんは異世界で「女」になりました。

白滝春菊
恋愛
少女が異世界に母親同伴で召喚されて聖女になった。 聖女にされた少女は異世界の騎士に片思いをしたが、彼に母親の守りを頼んで浄化の旅を終えると母親と騎士の仲は進展していて…… 母親視点でその後の話を追加しました。

処理中です...