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6.陛下視点①
しおりを挟むローレンスと出逢ったのはダンフリー伯爵家の夜会。彼は留学中、その屋敷に滞在していた。
俺は第3王子だったが、その頃は王位継承争いに巻き込まれるのが嫌で目立たないようひっそりと生きていた。
俺たちの母親はみんな別々。特に俺の母親は身分も低く、既に亡くなっていたから俺には後ろ楯も無い。王位争いに巻き込まれるのは嫌だった。
「イグネイシャス殿下、はじめまして。僕はローレンス・エニュオ。ミモレ王国のエニュオ侯爵家の息子です。突然話し掛けるご無礼をお許しください。」
ローレンスは普段は真面目で慎重。なのに、時々大胆で切り込んだ行動をする奴で……。
はじめは妙に近づいてくるあいつを俺は警戒していた。
でもーー
「殿下はもしもの時、リュゼット王国のためにその身を捧げる覚悟はおありですか?」
王族に向かって、一歩間違えれば不敬になりそうなことを平然と聞いてきた。
その時、俺はまだ王座に就く未来なんて想像して無かった。
「兄たちがこの国の良き方向に導くだろう。私がその気になれば国が割れる。過ぎたる野心は持たない方が国の安寧に繋がると、そう思っている。俺を担ぎ上げようとしても無駄だぞ?」
早くこの奇妙な男が俺への興味を失うのを待っていた。俺は自分が無能であると示すように、無気力な第3王子を演じていたから……。
「では、もし国のために殿下の力が必要な時はご協力ください。」
「それは勿論だ。」
俺に国の未来を話すことなんて無駄だ。そう思いながらもあいつとはそんな会話を交わした。
ローレンスはそれでも俺から離れずしつこかった。そしてある日、ローレンスが俺に教えてくれた。ここ、リュゼット王国には真神教の脅威が近づいていると。
彼は色んな国を回っているうちに真神教の支配が各国の権力者の中央近くまで及んでいるのに気がついたのだと言う。
曰く、兄たち二人には既に真神教に心酔した人間が側近として入り込んでいるらしい。
「僕のような他国の人間の忠告は聞いていただけ無いでしょう。けれど、真神教の脅威には国同士の協力が不可欠です。僕の見た国の中ではここリュゼット王国が一番危ないと感じました。」
「宗教の支配が謀反にまでなるのか?」
「さぁ?ただ、祈祷と称した怪しい会合で麻薬が使われているのは事実。薬物中毒になれば犯罪に手を染める人間も多いと思いますね。」
ローレンスも俺を信頼してくれたのだろう。その頃から容赦なく俺に意見するようになった。
「王族としての覚悟がありますか?ならば睡眠時間など無いと思ってください。」
「はぁ?鬼かよ?」
「今までのツケですよ。自分で身を守る術を身につけてください。側近は自ら吟味するべきです。家柄で選んではいけません。」
「分かったよ。ローの忠告は耳が痛いことばかりでイヤになるな。」
そんな事を言いながらも、俺は指示通りに身体を鍛え直し、自分の身近にいる人間を調べあげた。
真神教の狙いは、跡目争いの激化。
そして、ローレンスの言う通り、兄たちの王位争いは徐々にその形を変えていった。
王としての能力を示すような争いでは無く、命を狙い合う血生臭い争いへと。
臣下たちも第1王子派と第2王子派という派閥に分かれ、国を中から割るとはこういう事かと愕然とした。
俺も何度も命を狙われた。ローの助言がなければ、とっくに暗殺されていただろう。
最後に俺だけが生き残り、即位した。
☆
ローレンスには母国に婚約者がいた。
奴は美しい顔立ちで侯爵子息。当然、女にはモテる。
だがローレンスは夜会で秋波を送る令嬢にも興味を示さない。
俺はそんなあいつを見てよく揶揄っていた。
「よほどの美女なんだな、お前の婚約者は。」
「美女……という表現は合いませんね。こんなこと本人に言ったら怒られますけど。」
婚約者の話になると必ずローレンスの口元がほんの少し緩む。
「留学してる貴族なんて、他国では遊んでる奴ばかりだぜ。」
「まさか。カトリーナがいるのに、他の女性に興味はありません。まあ、情報収集のための会話ぐらいはしますが……。この国が平和になったら、新婚旅行に来たとき、殿下にカトリーナを紹介しますよ。」
「お前がそれだけ惚れてるんだ。さぞかしイイ女なのだろうな?」
「いえ……跳ねっ返りですよ。僕の言うことを全然聞きませんから……。殿下とカトリーナが会ったら喧嘩ばかりですね、きっと。」
「そんな跳ねっ返りが未来の侯爵夫人なのか?」
「カトリーナは感情的ですけどね、何故か必ず最後には正しい選択をするんですよ。僕もあれは不思議に思います。」
ローレンスは苦笑しながらも優しい目をしていた。婚約者を心から大事にしているんだろう。
だからローレンスの死の知らせを聞いた時、あいつの代わりに婚約者を守ってやろうと思った。
ローレンスには山ほど借りがある。カトリーナを迎えるために信用出来る人間を厳選し翡翠宮に配置した。
☆
「陛下、翡翠宮から怪しい侍女が出ていくのを発見し取り押さえました。侍女の話によると、メイソンから手紙を妃殿下に渡すよう依頼されたとの事です。」
「なに?いつだ?」
「半刻ほど前に。」
「翡翠宮へ行く!シエンもついて来いっ!!」
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