失意の中、血塗れ国王に嫁ぎました!

文字の大きさ
5 / 16

5.ローレンスの友人?

しおりを挟む


「陛下、お話があります。」
「なんだ。こんな時間まで起きていたのか?」

 寝支度を整え寝室に入ってきた陛下は、私が起きて待っているのに驚いたようだった。

「メイソン公爵の翡翠宮への立ち入りを許可していただきたいのです。」

 姿勢を正して真っ直ぐに目を合わせた。
 陛下とはほとんど会話したことが無い。けれど、不思議と以前のような恐ろしさは感じなくなっていた。

 この翡翠宮の居心地が良くて、陛下の人柄を感じるからかもしれない。警戒心が強いけど、懐に入った人にはとことん優しい、そんな人なんじゃないかと思っていた。

 メイソン公爵の名前を聞いて陛下は怪訝そうに眉を顰めた。

「メイソン公爵?何故だ?」

 うーん。元婚約者の話を聞きたいだなんて、現夫には言いにくい。私ってばお飾りの王妃だし構わないのかもしれないけど……。

「メイソン公爵は私のことを親身になって心配してくださっていて。」
「ん?メイソン公爵はここへ来たのか?」
「え、ええ、まあ。翡翠宮には入れないと申しましたし、エントランスで立ち話をした程度ですが……。」

 陛下は困ったように頭をぐしゃぐしゃと掻いていて……。
 メイソン公爵と話をする事すらいけなかったのだろうか?

「あまり不安にさせたくは無かったが……。」

 陛下は私の両腕を掴み説得するように目線を合わせた。

「いいか、俺には敵が多い。この宮殿に居ても油断は禁物だ。メイソン公爵も君に近づこうとしたのなら、何か裏があるかもしれん。俺の従兄弟になるが、奴の話など聞く必要は無い!」

 陛下を王座から引きずり下ろそうとする勢力が未だにいるのだろう。陛下の表情は真剣そのもの。私の身を案じてくれているのが伝わった。
 
「翡翠宮に閉じ込められて不満なのは分かる。けれど、ここで働く者以外との接触は極力避けてくれ。」

 お飾りの王妃である私をそんなに心配してくれるのが意外だった。殺されると思って嫁いできたのに……。
 未だに私と身体を重ねようとする気配も無いし、仲良くなろうともしない……。

 陛下の真意はどこにあるのだろう。分からなくて彼の顔をじっと見つめた。

 やっぱりニコリとも笑わないし、私を好きだとか、そんな気配も無い。
 だけど守ろうとしてくれているみたいだった。

「翡翠宮から出るのも部外者を入れるのも禁止だ。」

 陛下は強く念を押した後、「メイソン公爵か……。」そう呟きながら再び寝室を出ていった。

 メイソン公爵はローレンスと知り合いだから私のことも心配だと言っていた。彼に迷惑が掛かるのは避けたいけれど……。

 翌日、私はメイソン公爵に面会は出来ないとお断りの手紙を書いた。







 結局、翡翠宮から出ることは許されなかった。私も外が危険なことは理解できたし、それ以上は何も言わなかった。


 翡翠宮には意外なことに、蔵書庫と呼ばれる場所に沢山の新作の本が用意されていた。読書が好きな私はそれで時間を潰して過ごしていた。

「メイソン様から預かりました、お手紙です。どうか、陛下には内密に。」

 部屋に入ってきた侍女が白い封筒を差し出した。
 近くにアリーが居なくて……見たことの無い侍女だった。

「ありがとう。」

 少しだけ不審に思いつつも封筒を開いて手紙をよんだ。

(アルティス領の事で話したいことがあります。明日15時に翡翠宮の温室の裏で。)

 アルティス領といえば私の実家。
 五年前の飢饉で多くの人が食料不足に苦しんだが、現在は問題ないはずだ。

「何だろう?アルティス領のことなんて……。」

 ローレンスの事といい、メイソン公爵はどうしても私と話をしたいのだろうか?
 
 手紙に危険な匂いを感じながらも、ローレンスがここリュゼット王国でどう過ごしていたかも気になっていた。留学中、定期的に来ていた彼からの手紙はここ一年では減ってしまって、何故か内容が事務的になっていたから……。

 やっぱり一度メイソンさんと話をしてみたい。







 翌日、私は蔵書庫に行くふりをして、温室に続く中庭に面した廊下でアリーに用事を言いつけた。

「アリー、申し訳ないけど、テーブルに置いてあったメモを取ってきて欲しいの。」
 
「はい。急いで行ってくるので、カトリーナ様はここを動かないでくださいね。」

「分かったわ。大丈夫よ、動かないから。」

 アリーは私の事を気にしながらも、私室へと引き返していった。その隙に私は中庭を通って温室の裏側へと回った。

(ごめんなさい。アリー、私が陛下に怒られるからね。)
 
 ここは翡翠宮の回廊からも見えない死角。ちょっと見つかりにくいだろう。指定された場所に着くと、ちょうど後ろから声を掛けられた。

 「カトリーナ様。」

 メイソン公爵は周囲を警戒しながら此方へとやって来た。

「メイソン公爵、お話って何ですか?」

「カトリーナ様、やはり陛下から話を聞いていないんですね。ご実家のアルティス領で農民の蜂起がありました。」
「え?両親は?」
「分かりません。」
「まさか……そんな事。」

  陛下はそんな素振りを見せなかったし、そんな噂も聞いたことは無かった。

「事は一刻を争います。ご両親が危険です。直ぐに帰りましょう。」
「ええ。教えてくれてありがとう。」
「いいえ。当然の事です。ご両親の危険な状況をカトリーナ様に知らせないなんて、陛下は何を考えているのか……。」
「そんなに危険なの。」
「はい。急ぎましょう。馬車を裏口へ回してあります。ついてきてください。」 
 「……。」
 あれ?ーー
 不意に彼の話の内容に違和感を感じた。

 私が急いだところで何になるの?
 暴動が起きているそんな危険な場所へ、王妃である私を連れていくの?

「ごめんなさい。あなたにはついて行かないわ。」

 咄嗟にメイソン公爵から距離を取るとチッと舌打ちする音が聞こえた。

「早く此方へ。」
「嫌よ!!」

 私は掴まれた腕を振り払い、回廊から見える場所まで走った。

「待てっ!!」
「きゃあーーーーーっっ!!」

 手首を捕らえられ私は大声で叫んだ。
しおりを挟む
感想 36

あなたにおすすめの小説

いくら時が戻っても

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
大切な書類を忘れ家に取りに帰ったセディク。 庭では妻フェリシアが友人二人とお茶会をしていた。 思ってもいなかった妻の言葉を聞いた時、セディクは――― 短編予定。 救いなし予定。 ひたすらムカつくかもしれません。 嫌いな方は避けてください。 ※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

【完結】あなたに従う必要がないのに、命令なんて聞くわけないでしょう。当然でしょう?

チカフジ ユキ
恋愛
伯爵令嬢のアメルは、公爵令嬢である従姉のリディアに使用人のように扱われていた。 そんなアメルは、様々な理由から十五の頃に海を挟んだ大国アーバント帝国へ留学する。 約一年後、リディアから離れ友人にも恵まれ日々を暮らしていたそこに、従姉が留学してくると知る。 しかし、アメルは以前とは違いリディアに対して毅然と立ち向かう。 もう、リディアに従う必要がどこにもなかったから。 リディアは知らなかった。 自分の立場が自国でどうなっているのかを。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

砕けた愛

篠月珪霞
恋愛
新婚初夜に男に襲われた公爵令嬢エヴリーヌは、不義密通の罪を被せられた。反逆罪に問われた彼女の一族は処刑されるが、気付くと時間が巻き戻っていた。 あなたへの愛? そんなものとうに、砕け散ってしまいました。

地獄の業火に焚べるのは……

緑谷めい
恋愛
 伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。  やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。  ※ 全5話完結予定  

一緒に召喚された私のお母さんは異世界で「女」になりました。

白滝春菊
恋愛
少女が異世界に母親同伴で召喚されて聖女になった。 聖女にされた少女は異世界の騎士に片思いをしたが、彼に母親の守りを頼んで浄化の旅を終えると母親と騎士の仲は進展していて…… 母親視点でその後の話を追加しました。

処理中です...