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5.ローレンスの友人?
しおりを挟む「陛下、お話があります。」
「なんだ。こんな時間まで起きていたのか?」
寝支度を整え寝室に入ってきた陛下は、私が起きて待っているのに驚いたようだった。
「メイソン公爵の翡翠宮への立ち入りを許可していただきたいのです。」
姿勢を正して真っ直ぐに目を合わせた。
陛下とはほとんど会話したことが無い。けれど、不思議と以前のような恐ろしさは感じなくなっていた。
この翡翠宮の居心地が良くて、陛下の人柄を感じるからかもしれない。警戒心が強いけど、懐に入った人にはとことん優しい、そんな人なんじゃないかと思っていた。
メイソン公爵の名前を聞いて陛下は怪訝そうに眉を顰めた。
「メイソン公爵?何故だ?」
うーん。元婚約者の話を聞きたいだなんて、現夫には言いにくい。私ってばお飾りの王妃だし構わないのかもしれないけど……。
「メイソン公爵は私のことを親身になって心配してくださっていて。」
「ん?メイソン公爵はここへ来たのか?」
「え、ええ、まあ。翡翠宮には入れないと申しましたし、エントランスで立ち話をした程度ですが……。」
陛下は困ったように頭をぐしゃぐしゃと掻いていて……。
メイソン公爵と話をする事すらいけなかったのだろうか?
「あまり不安にさせたくは無かったが……。」
陛下は私の両腕を掴み説得するように目線を合わせた。
「いいか、俺には敵が多い。この宮殿に居ても油断は禁物だ。メイソン公爵も君に近づこうとしたのなら、何か裏があるかもしれん。俺の従兄弟になるが、奴の話など聞く必要は無い!」
陛下を王座から引きずり下ろそうとする勢力が未だにいるのだろう。陛下の表情は真剣そのもの。私の身を案じてくれているのが伝わった。
「翡翠宮に閉じ込められて不満なのは分かる。けれど、ここで働く者以外との接触は極力避けてくれ。」
お飾りの王妃である私をそんなに心配してくれるのが意外だった。殺されると思って嫁いできたのに……。
未だに私と身体を重ねようとする気配も無いし、仲良くなろうともしない……。
陛下の真意はどこにあるのだろう。分からなくて彼の顔をじっと見つめた。
やっぱりニコリとも笑わないし、私を好きだとか、そんな気配も無い。
だけど守ろうとしてくれているみたいだった。
「翡翠宮から出るのも部外者を入れるのも禁止だ。」
陛下は強く念を押した後、「メイソン公爵か……。」そう呟きながら再び寝室を出ていった。
メイソン公爵はローレンスと知り合いだから私のことも心配だと言っていた。彼に迷惑が掛かるのは避けたいけれど……。
翌日、私はメイソン公爵に面会は出来ないとお断りの手紙を書いた。
☆
結局、翡翠宮から出ることは許されなかった。私も外が危険なことは理解できたし、それ以上は何も言わなかった。
翡翠宮には意外なことに、蔵書庫と呼ばれる場所に沢山の新作の本が用意されていた。読書が好きな私はそれで時間を潰して過ごしていた。
「メイソン様から預かりました、お手紙で す。どうか、陛下には内密に。」
部屋に入ってきた侍女が白い封筒を差し出した。
近くにアリーが居なくて……見たことの無い侍女だった。
「ありがとう。」
少しだけ不審に思いつつも封筒を開いて手紙をよんだ。
(アルティス領の事で話したいことがあります。明日15時に翡翠宮の温室の裏で。)
アルティス領といえば私の実家。
五年前の飢饉で多くの人が食料不足に苦しんだが、現在は問題ないはずだ。
「何だろう?アルティス領のことなんて……。」
ローレンスの事といい、メイソン公爵はどうしても私と話をしたいのだろうか?
手紙に危険な匂いを感じながらも、ローレンスがここリュゼット王国でどう過ごしていたかも気になっていた。留学中、定期的に来ていた彼からの手紙はここ一年では減ってしまって、何故か内容が事務的になっていたから……。
やっぱり一度メイソンさんと話をしてみたい。
☆
翌日、私は蔵書庫に行くふりをして、温室に続く中庭に面した廊下でアリーに用事を言いつけた。
「アリー、申し訳ないけど、テーブルに置いてあったメモを取ってきて欲しいの。」
「はい。急いで行ってくるので、カトリーナ様はここを動かないでくださいね。」
「分かったわ。大丈夫よ、動かないから。」
アリーは私の事を気にしながらも、私室へと引き返していった。その隙に私は中庭を通って温室の裏側へと回った。
(ごめんなさい。アリー、私が陛下に怒られるからね。)
ここは翡翠宮の回廊からも見えない死角。ちょっと見つかりにくいだろう。指定された場所に着くと、ちょうど後ろから声を掛けられた。
「カトリーナ様。」
メイソン公爵は周囲を警戒しながら此方へとやって来た。
「メイソン公爵、お話って何ですか?」
「カトリーナ様、やはり陛下から話を聞いていないんですね。ご実家のアルティス領で農民の蜂起がありました。」
「え?両親は?」
「分かりません。」
「まさか……そんな事。」
陛下はそんな素振りを見せなかったし、そんな噂も聞いたことは無かった。
「事は一刻を争います。ご両親が危険です。直ぐに帰りましょう。」
「ええ。教えてくれてありがとう。」
「いいえ。当然の事です。ご両親の危険な状況をカトリーナ様に知らせないなんて、陛下は何を考えているのか……。」
「そんなに危険なの。」
「はい。急ぎましょう。馬車を裏口へ回してあります。ついてきてください。」
「……。」
あれ?ーー
不意に彼の話の内容に違和感を感じた。
私が急いだところで何になるの?
暴動が起きているそんな危険な場所へ、王妃である私を連れていくの?
「ごめんなさい。あなたにはついて行かないわ。」
咄嗟にメイソン公爵から距離を取るとチッと舌打ちする音が聞こえた。
「早く此方へ。」
「嫌よ!!」
私は掴まれた腕を振り払い、回廊から見える場所まで走った。
「待てっ!!」
「きゃあーーーーーっっ!!」
手首を捕らえられ私は大声で叫んだ。
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