失意の中、血塗れ国王に嫁ぎました!

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12.リクさんの家

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 クミンの街を出てからはずっと山道。泊まれるような宿は無くて、また野宿になった。
 焚き火を囲んでお肉や魚を焼いて食べるのは美味しいけれど、眠るのはやはりベッドがいい。疲れの取れ方が全然違う。

 私は今日も陛下に抱きかかえられながら馬上でこっそりあくびを噛み殺していた。

「今日はリクの家に行くぞ。」
「え?リクさん?」
「ああ、リクの家は妹と弟の二人暮らしだから時々様子を見に行くんだ。今回かなり長い間リクは家に帰って無いからな。リクの家族には俺たちの正体がバレないように頼む。」
「は、はい。」

 リクさんの両親は真神教に入信し、ある日失踪してしまったそうだ。
 子供を置いていってしまうほど信者を支配してしまうなんて恐ろしいと思う。

 両親がいなくなってから、長男のリクさんが働いて、妹で長女のカレンさんが弟の面倒を見てきたそうだ。

「それは心配ですね。妹さんと弟さんも王都に引っ越しては?離れていては帰るのも大変ですし……。」

 私の提案にリクさんは深く溜め息を吐いて困ったように首を振った。

「それが、カレンがしっかりもの過ぎて、『兄ちゃんに何かあっても大丈夫なように弟の進学資金は貯めておくから引っ越しはしない。』って言い張るんですよ。ここなら近所の人に野菜とか果物を貰えるし生活費が安いって。」

「す、凄い妹さんね。」

「俺もここでひっそり生活してても良いかなって思ってます。その代わり、カレンが嫁に行くときはとびっきりの支度をしてやりたいんです。」

「素敵なお兄さんね。」

 「はははっ」と照れ笑いを浮かべて頭を掻くリクさんは、優しい兄の顔をしていた。

 ☆

「ただいまーー。」

 リクさんが玄関を空けると「兄ちゃんの声だ!」と軽やかな声が聞こえ、奥からドタドタと走る足音と共に、「おかえり兄ちゃん!」と小さな男の子が飛び付いてきた。

 弟さんは7歳。ケンちゃんって名前らしい。やんちゃ盛りの彼はリクさんが帰って来て興奮したのか、ピョンピョン跳ねて全身で喜びを表している。

 可愛い!

 ゆっくり奥から出てきたのはエプロンを着けた少女。この子がカレンちゃんかしら?17歳って言ってたけど落ち着いた雰囲気。

「兄がいつもお世話になっております。」

 カレンちゃんが礼儀正しく挨拶すると、ケンちゃんはカレンちゃんの真似をしてぴょこりと頭を下げた。

「兄がいつもお世話になってます!!」

 リクさんは二人の元気そうな様子を見て安心したみたい。

 カレンちゃんとケンちゃんには、リクさんはある商人の護衛として働いていると話してある。陛下と私は雇い主とその妻という設定だ。


私とカレンちゃんで一緒に夕食を作った。カレンちゃんは夕食作りも手慣れたものでテキパキと無駄なく作業していく。ケンちゃんは夕食が待ち遠しくて仕方ないらしくて、何度も台所に来て料理が完成するたびにリクさんに何が出来たかお知らせしに走っていった。

「ケンちゃん可愛いわね。」
「私も、ケンがいて良かったって思います。お世話は大変だけど、寂しくないから。」

 夕食はシチューと鴨肉のフルーツソース掛け。
 アルティス領は果物の名産地。フルーツソースは私の自信作だ。シチューはカレンちゃんが作ってくれた。ちょっと狭いけど、みんなで一緒にテーブルを囲んで夕食を食べた。

「このソース美味しい!!」

 ケンちゃんがフルーツソースを気に入ってくれてお肉をパクパクと食べてくれた。こんなに美味しそうに食べてくれると作った甲斐もある。
「ありがとう。喜んでもらえて嬉しいわ。」
 兄弟でワイワイ喋りながら食べる夕食は楽しくて、いつもより美味しく感じる。
「リクさん、妹さんも弟さんもお兄さん思いで素敵な兄弟ね。羨ましいわ。」
「ありがとうございます。両親が出ていった時はしんどかったですが、自分にはこいつらがいて良かったです。助け合えますから。」

「兄弟って良いわね。私も三人は子供が欲しいわ。」

「ぶっ!!」  

 隣でお茶を飲んでいた陛下が吹き出した。

 私達は仲の良い商家の夫婦ということになっている。だから、陛下に分かるよう目で合図した。
(演技です!)

 陛下はむせて苦しかったのか、顔を真っ赤にしている。






 夕食が終わり私はカレンちゃんと一緒に寝ることになった。男は男同士で雑魚寝するらしい。

「カレンちゃんは偉いわね。17歳で家を切り盛りしてるんですもの。」

「いえ……、凄いのは兄ちゃんです。」

 カレンちゃんは今までの苦労を話してくれた。
 真神教の祈祷に参加するお金を作るために両親は家財道具もみんな売ってしまって失踪したこと。
 両親に捨てられた子供たちを見かねて近所の人たちが食べ物をくれたりしたこと。
 両親が居なくなってからはリクさんが昼も夜もずっと一人で働いて稼いできてくれたこと。

「ねぇ、カレンちゃん。私達、リクさんにはとってもお世話になっているの。貴女たち姉弟にはお金の心配はせずにきちんと学校行って欲しいわ。施しじゃ無いのよ。リクさんがきちんと仕事をして稼いだ正当な報酬。だから、ね。」

「はい。」

 2年間のお行儀学校に行けばカレンちゃんなら良いお屋敷で働けそう。今の時代、女性にとってはそれが一番安定した就職先。

 私がお行儀学校の説明をすると、カレンちゃんは目を輝かせて話を聞いてくれた。メイドは女の子の憧れの職業。きっと興味があるのだろう。
  
 私はカレンちゃんの今後のことについてリクさんに相談しようと考えながら眠りについた。










「素敵な兄弟でしたね。」
「ああ。」

 リクさんの家を出て一時間ほど走った所に川があり、そこで私達は休憩していた。シエンさんとリクさんは馬に水浴びをさせると言って向こうに連れてったので、今は陛下と二人きりだ。

「あの……私ってやっぱりルースのお飾りの妻なんですか?」

「へっ、はっ?」

 私の質問が予想外だったのだろう。陛下は間抜けな声を上げて私を振り返った。そして、探るように注意深い視線を向けると、恐る恐るといった風に私に聞いてきた。

「お飾りの妻とはどういう意味で?」

 私の質問の意図が分からずに困っているみたい。
 でもずっと考えてたことだ。

「私は未だに妃としての務めを果たしていません。公務もですし、跡継ぎのことも……。」

 正妃にも関わらず、一度も陛下と身体を重ねてはいない。私を守るために娶ったと言っていたし、恋愛感情は無いのかもしれない。
 けれど、陛下にはお世継が必要なのは私にだって分かる。いつかは……と思っているのだろうか?ちょっと恥ずかしいけど、一度はっきりと聞いてみようと思った。

陛下は切り株に腰掛け、手元を見つめたままポツリポツリと話し始めた。

「俺は……急ぐつもりも、無いし、無理強いするつもりも、無い。」

 ふぅーっと大きく息を吐く。いつも堂々として男らしい陛下が肩を丸める姿は、私にだけ見せる弱さのような気がして……。
 
「いつか俺を受け入れてもらえると嬉しい。……が、無理ならしょうがないと思っている。ローの代わりに君を幸せにしようと決めた。」

 陛下は視線を私に移し、私の気持ちを探るようにじっと見つめた。突然向けられた感情は真摯でこの上なく優しい。
 こんな気持ちを向けられるとは思っていなかった私はまともな返事も出来なくて……。
 陛下から流れ込んでくる感情がただ切なくて口を噤んだ。

「君の意思を尊重する。世継についてはどうとでもなる。気にしなくていい。今はまだ考えなくてもいい。」

「……はい。」

 その時、そう答えるのが精一杯で……心が揺さぶられて苦しくなりながら陛下を見つめていた。
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