12 / 16
12.リクさんの家
しおりを挟むクミンの街を出てからはずっと山道。泊まれるような宿は無くて、また野宿になった。
焚き火を囲んでお肉や魚を焼いて食べるのは美味しいけれど、眠るのはやはりベッドがいい。疲れの取れ方が全然違う。
私は今日も陛下に抱きかかえられながら馬上でこっそりあくびを噛み殺していた。
「今日はリクの家に行くぞ。」
「え?リクさん?」
「ああ、リクの家は妹と弟の二人暮らしだから時々様子を見に行くんだ。今回かなり長い間リクは家に帰って無いからな。リクの家族には俺たちの正体がバレないように頼む。」
「は、はい。」
リクさんの両親は真神教に入信し、ある日失踪してしまったそうだ。
子供を置いていってしまうほど信者を支配してしまうなんて恐ろしいと思う。
両親がいなくなってから、長男のリクさんが働いて、妹で長女のカレンさんが弟の面倒を見てきたそうだ。
「それは心配ですね。妹さんと弟さんも王都に引っ越しては?離れていては帰るのも大変ですし……。」
私の提案にリクさんは深く溜め息を吐いて困ったように首を振った。
「それが、カレンがしっかりもの過ぎて、『兄ちゃんに何かあっても大丈夫なように弟の進学資金は貯めておくから引っ越しはしない。』って言い張るんですよ。ここなら近所の人に野菜とか果物を貰えるし生活費が安いって。」
「す、凄い妹さんね。」
「俺もここでひっそり生活してても良いかなって思ってます。その代わり、カレンが嫁に行くときはとびっきりの支度をしてやりたいんです。」
「素敵なお兄さんね。」
「はははっ」と照れ笑いを浮かべて頭を掻くリクさんは、優しい兄の顔をしていた。
☆
「ただいまーー。」
リクさんが玄関を空けると「兄ちゃんの声だ!」と軽やかな声が聞こえ、奥からドタドタと走る足音と共に、「おかえり兄ちゃん!」と小さな男の子が飛び付いてきた。
弟さんは7歳。ケンちゃんって名前らしい。やんちゃ盛りの彼はリクさんが帰って来て興奮したのか、ピョンピョン跳ねて全身で喜びを表している。
可愛い!
ゆっくり奥から出てきたのはエプロンを着けた少女。この子がカレンちゃんかしら?17歳って言ってたけど落ち着いた雰囲気。
「兄がいつもお世話になっております。」
カレンちゃんが礼儀正しく挨拶すると、ケンちゃんはカレンちゃんの真似をしてぴょこりと頭を下げた。
「兄がいつもお世話になってます!!」
リクさんは二人の元気そうな様子を見て安心したみたい。
カレンちゃんとケンちゃんには、リクさんはある商人の護衛として働いていると話してある。陛下と私は雇い主とその妻という設定だ。
私とカレンちゃんで一緒に夕食を作った。カレンちゃんは夕食作りも手慣れたものでテキパキと無駄なく作業していく。ケンちゃんは夕食が待ち遠しくて仕方ないらしくて、何度も台所に来て料理が完成するたびにリクさんに何が出来たかお知らせしに走っていった。
「ケンちゃん可愛いわね。」
「私も、ケンがいて良かったって思います。お世話は大変だけど、寂しくないから。」
夕食はシチューと鴨肉のフルーツソース掛け。
アルティス領は果物の名産地。フルーツソースは私の自信作だ。シチューはカレンちゃんが作ってくれた。ちょっと狭いけど、みんなで一緒にテーブルを囲んで夕食を食べた。
「このソース美味しい!!」
ケンちゃんがフルーツソースを気に入ってくれてお肉をパクパクと食べてくれた。こんなに美味しそうに食べてくれると作った甲斐もある。
「ありがとう。喜んでもらえて嬉しいわ。」
兄弟でワイワイ喋りながら食べる夕食は楽しくて、いつもより美味しく感じる。
「リクさん、妹さんも弟さんもお兄さん思いで素敵な兄弟ね。羨ましいわ。」
「ありがとうございます。両親が出ていった時はしんどかったですが、自分にはこいつらがいて良かったです。助け合えますから。」
「兄弟って良いわね。私も三人は子供が欲しいわ。」
「ぶっ!!」
隣でお茶を飲んでいた陛下が吹き出した。
私達は仲の良い商家の夫婦ということになっている。だから、陛下に分かるよう目で合図した。
(演技です!)
陛下はむせて苦しかったのか、顔を真っ赤にしている。
☆
夕食が終わり私はカレンちゃんと一緒に寝ることになった。男は男同士で雑魚寝するらしい。
「カレンちゃんは偉いわね。17歳で家を切り盛りしてるんですもの。」
「いえ……、凄いのは兄ちゃんです。」
カレンちゃんは今までの苦労を話してくれた。
真神教の祈祷に参加するお金を作るために両親は家財道具もみんな売ってしまって失踪したこと。
両親に捨てられた子供たちを見かねて近所の人たちが食べ物をくれたりしたこと。
両親が居なくなってからはリクさんが昼も夜もずっと一人で働いて稼いできてくれたこと。
「ねぇ、カレンちゃん。私達、リクさんにはとってもお世話になっているの。貴女たち姉弟にはお金の心配はせずにきちんと学校行って欲しいわ。施しじゃ無いのよ。リクさんがきちんと仕事をして稼いだ正当な報酬。だから、ね。」
「はい。」
2年間のお行儀学校に行けばカレンちゃんなら良いお屋敷で働けそう。今の時代、女性にとってはそれが一番安定した就職先。
私がお行儀学校の説明をすると、カレンちゃんは目を輝かせて話を聞いてくれた。メイドは女の子の憧れの職業。きっと興味があるのだろう。
私はカレンちゃんの今後のことについてリクさんに相談しようと考えながら眠りについた。
☆
「素敵な兄弟でしたね。」
「ああ。」
リクさんの家を出て一時間ほど走った所に川があり、そこで私達は休憩していた。シエンさんとリクさんは馬に水浴びをさせると言って向こうに連れてったので、今は陛下と二人きりだ。
「あの……私ってやっぱりルースのお飾りの妻なんですか?」
「へっ、はっ?」
私の質問が予想外だったのだろう。陛下は間抜けな声を上げて私を振り返った。そして、探るように注意深い視線を向けると、恐る恐るといった風に私に聞いてきた。
「お飾りの妻とはどういう意味で?」
私の質問の意図が分からずに困っているみたい。
でもずっと考えてたことだ。
「私は未だに妃としての務めを果たしていません。公務もですし、跡継ぎのことも……。」
正妃にも関わらず、一度も陛下と身体を重ねてはいない。私を守るために娶ったと言っていたし、恋愛感情は無いのかもしれない。
けれど、陛下にはお世継が必要なのは私にだって分かる。いつかは……と思っているのだろうか?ちょっと恥ずかしいけど、一度はっきりと聞いてみようと思った。
陛下は切り株に腰掛け、手元を見つめたままポツリポツリと話し始めた。
「俺は……急ぐつもりも、無いし、無理強いするつもりも、無い。」
ふぅーっと大きく息を吐く。いつも堂々として男らしい陛下が肩を丸める姿は、私にだけ見せる弱さのような気がして……。
「いつか俺を受け入れてもらえると嬉しい。……が、無理ならしょうがないと思っている。ローの代わりに君を幸せにしようと決めた。」
陛下は視線を私に移し、私の気持ちを探るようにじっと見つめた。突然向けられた感情は真摯でこの上なく優しい。
こんな気持ちを向けられるとは思っていなかった私はまともな返事も出来なくて……。
陛下から流れ込んでくる感情がただ切なくて口を噤んだ。
「君の意思を尊重する。世継についてはどうとでもなる。気にしなくていい。今はまだ考えなくてもいい。」
「……はい。」
その時、そう答えるのが精一杯で……心が揺さぶられて苦しくなりながら陛下を見つめていた。
18
あなたにおすすめの小説
いくら時が戻っても
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
大切な書類を忘れ家に取りに帰ったセディク。
庭では妻フェリシアが友人二人とお茶会をしていた。
思ってもいなかった妻の言葉を聞いた時、セディクは―――
短編予定。
救いなし予定。
ひたすらムカつくかもしれません。
嫌いな方は避けてください。
※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。
ある辺境伯の後悔
だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。
父親似だが目元が妻によく似た長女と
目元は自分譲りだが母親似の長男。
愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。
愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
【完結】あなたに従う必要がないのに、命令なんて聞くわけないでしょう。当然でしょう?
チカフジ ユキ
恋愛
伯爵令嬢のアメルは、公爵令嬢である従姉のリディアに使用人のように扱われていた。
そんなアメルは、様々な理由から十五の頃に海を挟んだ大国アーバント帝国へ留学する。
約一年後、リディアから離れ友人にも恵まれ日々を暮らしていたそこに、従姉が留学してくると知る。
しかし、アメルは以前とは違いリディアに対して毅然と立ち向かう。
もう、リディアに従う必要がどこにもなかったから。
リディアは知らなかった。
自分の立場が自国でどうなっているのかを。
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
砕けた愛
篠月珪霞
恋愛
新婚初夜に男に襲われた公爵令嬢エヴリーヌは、不義密通の罪を被せられた。反逆罪に問われた彼女の一族は処刑されるが、気付くと時間が巻き戻っていた。
あなたへの愛? そんなものとうに、砕け散ってしまいました。
地獄の業火に焚べるのは……
緑谷めい
恋愛
伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。
やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。
※ 全5話完結予定
一緒に召喚された私のお母さんは異世界で「女」になりました。
白滝春菊
恋愛
少女が異世界に母親同伴で召喚されて聖女になった。
聖女にされた少女は異世界の騎士に片思いをしたが、彼に母親の守りを頼んで浄化の旅を終えると母親と騎士の仲は進展していて……
母親視点でその後の話を追加しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる