54 / 64
第三章 運命の決闘《デート》@練習試合
22話
しおりを挟む
22
35番からディフェンスの後方にパスが出る。あおいちゃんと佐々が追うが、オフサイド・トラップを警戒していた佐々はボールから遠い。
佐々、必死に追うも、身体を入れるあおいちゃんに妨げられる。ボールが外に出て、女子Aのゴール・キックである。
「佐々ー! 裏ばっか、狙うなってー! 動きが単調で読まれてんだよ! おめえのスピードは、密集地でも使えんだろー!」
俺は感情を抑えて大声で叫ぶが、
「うるっせえよ! 外野は黙ってろ! 天才の俺様に、指図するんじゃねえーー!」
佐々は完全に喧嘩腰だった。普段の冷静さはどこにも感じられなかった。
ゴール・キックのボールは競り合いを経て、男子45番に渡った。がすぐに相手のプレッシャーが掛かる。
俺はフォローするべく、「後ろ!」と叫んで前に出た。短いパスを止めて顔を上げる。
最前線では佐々が待っていた。なんとオフサイド・ポジションで、だ。俺に何かを伝えたいのか、眼差しは強烈である。
佐々、お前の狙いは理解したよ。やれるんだったら、やってみせろ。
俺は右足を振り被る。同時に佐々は斜めに走り、あおいちゃんと平行の位置まで引いてくる。
俺のキックの瞬間、佐々は裏へと走り出した。
佐々はあおいちゃんを振り切った。ここ一番で素晴らしいトラップ。ドリブルを進めてキーパーと一対一になる。
佐々は右にボールを出した。キーパー飛び込む。だが、佐々のスピードに従いていけない。
佐々はシュートを転がした。ゴールの左のぎりぎりに決まる。二対一。
見届けた佐々は振り返り、雄叫びとともに爆走を始めた。顔の全パーツは可動範囲いっぱいにまで動いており、表情を一言で表すと「狂喜」。喜びという言葉では生ぬるい感情が全身から発せられていた。
佐々がガッツポーズとともに高く跳び上がった。それを尻目に、「うおっし!」俺も左手をぐっと握る。
最初はオフサイド・ポジションにいて、一度、引いてきてから裏を狙う。味方が蹴った瞬間に敵の最後尾守備選手の後ろにいなければ良いので、オフサイドはなし。助走を付けられて相手ディフェンスの混乱も狙える、有効な技術である。
にしても佐々。マジで天才だ! この土壇場であおいちゃんを上回る策を編み出しやがった。
俺たちが歓喜に沸く一方、女子Aのディフェンス陣は、ゴール前に集まって話し込んでいた。眉を顰めるあおいちゃんの表情からは、すっかり余裕が消えている。
女子Aのキック・オフ。ボールは相手コートを巡って、7番が受けた。沖原がマークする未奈ちゃんを目掛けて、ロング・ボールが蹴り込まれる。
コースが甘い。俺はとっさにスライディング。ボールを奪って立ち上がり、近くにいた35番に渡す。
相手チーム、焦りでプレーが雑になってるね。流れはばっちり俺たちに来てる。
ターンした35番は、釜本さんにパス。釜本さんはダイレクトで佐々へ。佐々はあおいちゃんに詰められる前に、近くにいた35番に出す。女子Aのお株を奪う流麗なパス・ワークだ。
沖原が前線へと上がっていく。出されたボールを、すぐにクロス。合わせた佐々のダイビング・ヘッドは惜しくも枠に飛ばない。
佐々の覚醒で、俺たちは押せ押せだった。誰もが自分の百パーセントを出し、面白いようにボールが繋がっていた。
右サイドにボールが展開される。沖原の許可を得た俺は上がり始める。慌てふためく女子Aは、誰も俺に付けてこない。
「くれ!」俺は思くそ叫んだ。ゴロのパスが来る。絶好球。ダイレクトで撃てる! ゴールを見据えて、足を振り被る。三点目――。
一人の選手がボールをかっさらった。すぐにドリブルを始める。俺の目は自然とそいつを追う。
45番が慌てて詰める。軸足での股抜きで去なす。
続く沖原は飛び込まない。それに対して細かなステップ。からのアウト、インの簡単なボールタッチ。沖原、あっさりと抜かれる。
センター・バックがフォローに行く。スライディング。それもボールを浮かせて躱す。
だがすでにゴールライン際。シュートは打てるわけがない。
誰もが思った瞬間、バスッ。ゴール・ネットが揺らされた。左足の外側で擦り上げて、カーブを掛けるキック。二対二の同点。
俺は、ゴールに顔を向けたまま固まる。三人抜きからの、角度がほぼゼロのシュート。神業にもほどがある。
「焦るな焦るな。浮き足立つ必要はまったくないわよ。いつも通りやれば勝てるんだからさ」
抑揚のない、泰然自若とした口振り。だが、いつもの毒舌とは違った迫力に満ちている。
勝利ムードに沸く俺たちを、一人で切って捨てた選手、水池未奈は、静謐な雰囲気を纏って悠々と自陣に歩いていく。
35番からディフェンスの後方にパスが出る。あおいちゃんと佐々が追うが、オフサイド・トラップを警戒していた佐々はボールから遠い。
佐々、必死に追うも、身体を入れるあおいちゃんに妨げられる。ボールが外に出て、女子Aのゴール・キックである。
「佐々ー! 裏ばっか、狙うなってー! 動きが単調で読まれてんだよ! おめえのスピードは、密集地でも使えんだろー!」
俺は感情を抑えて大声で叫ぶが、
「うるっせえよ! 外野は黙ってろ! 天才の俺様に、指図するんじゃねえーー!」
佐々は完全に喧嘩腰だった。普段の冷静さはどこにも感じられなかった。
ゴール・キックのボールは競り合いを経て、男子45番に渡った。がすぐに相手のプレッシャーが掛かる。
俺はフォローするべく、「後ろ!」と叫んで前に出た。短いパスを止めて顔を上げる。
最前線では佐々が待っていた。なんとオフサイド・ポジションで、だ。俺に何かを伝えたいのか、眼差しは強烈である。
佐々、お前の狙いは理解したよ。やれるんだったら、やってみせろ。
俺は右足を振り被る。同時に佐々は斜めに走り、あおいちゃんと平行の位置まで引いてくる。
俺のキックの瞬間、佐々は裏へと走り出した。
佐々はあおいちゃんを振り切った。ここ一番で素晴らしいトラップ。ドリブルを進めてキーパーと一対一になる。
佐々は右にボールを出した。キーパー飛び込む。だが、佐々のスピードに従いていけない。
佐々はシュートを転がした。ゴールの左のぎりぎりに決まる。二対一。
見届けた佐々は振り返り、雄叫びとともに爆走を始めた。顔の全パーツは可動範囲いっぱいにまで動いており、表情を一言で表すと「狂喜」。喜びという言葉では生ぬるい感情が全身から発せられていた。
佐々がガッツポーズとともに高く跳び上がった。それを尻目に、「うおっし!」俺も左手をぐっと握る。
最初はオフサイド・ポジションにいて、一度、引いてきてから裏を狙う。味方が蹴った瞬間に敵の最後尾守備選手の後ろにいなければ良いので、オフサイドはなし。助走を付けられて相手ディフェンスの混乱も狙える、有効な技術である。
にしても佐々。マジで天才だ! この土壇場であおいちゃんを上回る策を編み出しやがった。
俺たちが歓喜に沸く一方、女子Aのディフェンス陣は、ゴール前に集まって話し込んでいた。眉を顰めるあおいちゃんの表情からは、すっかり余裕が消えている。
女子Aのキック・オフ。ボールは相手コートを巡って、7番が受けた。沖原がマークする未奈ちゃんを目掛けて、ロング・ボールが蹴り込まれる。
コースが甘い。俺はとっさにスライディング。ボールを奪って立ち上がり、近くにいた35番に渡す。
相手チーム、焦りでプレーが雑になってるね。流れはばっちり俺たちに来てる。
ターンした35番は、釜本さんにパス。釜本さんはダイレクトで佐々へ。佐々はあおいちゃんに詰められる前に、近くにいた35番に出す。女子Aのお株を奪う流麗なパス・ワークだ。
沖原が前線へと上がっていく。出されたボールを、すぐにクロス。合わせた佐々のダイビング・ヘッドは惜しくも枠に飛ばない。
佐々の覚醒で、俺たちは押せ押せだった。誰もが自分の百パーセントを出し、面白いようにボールが繋がっていた。
右サイドにボールが展開される。沖原の許可を得た俺は上がり始める。慌てふためく女子Aは、誰も俺に付けてこない。
「くれ!」俺は思くそ叫んだ。ゴロのパスが来る。絶好球。ダイレクトで撃てる! ゴールを見据えて、足を振り被る。三点目――。
一人の選手がボールをかっさらった。すぐにドリブルを始める。俺の目は自然とそいつを追う。
45番が慌てて詰める。軸足での股抜きで去なす。
続く沖原は飛び込まない。それに対して細かなステップ。からのアウト、インの簡単なボールタッチ。沖原、あっさりと抜かれる。
センター・バックがフォローに行く。スライディング。それもボールを浮かせて躱す。
だがすでにゴールライン際。シュートは打てるわけがない。
誰もが思った瞬間、バスッ。ゴール・ネットが揺らされた。左足の外側で擦り上げて、カーブを掛けるキック。二対二の同点。
俺は、ゴールに顔を向けたまま固まる。三人抜きからの、角度がほぼゼロのシュート。神業にもほどがある。
「焦るな焦るな。浮き足立つ必要はまったくないわよ。いつも通りやれば勝てるんだからさ」
抑揚のない、泰然自若とした口振り。だが、いつもの毒舌とは違った迫力に満ちている。
勝利ムードに沸く俺たちを、一人で切って捨てた選手、水池未奈は、静謐な雰囲気を纏って悠々と自陣に歩いていく。
0
あなたにおすすめの小説
Hand in Hand - 二人で進むフィギュアスケート青春小説
宮 都
青春
幼なじみへの気持ちの変化を自覚できずにいた中2の夏。ライバルとの出会いが、少年を未知のスポーツへと向わせた。
美少女と手に手をとって進むその競技の名は、アイスダンス!!
【2022/6/11完結】
その日僕たちの教室は、朝から転校生が来るという噂に落ち着きをなくしていた。帰国子女らしいという情報も入り、誰もがますます転校生への期待を募らせていた。
そんな中でただ一人、果歩(かほ)だけは違っていた。
「制覇、今日は五時からだから。来てね」
隣の席に座る彼女は大きな瞳を輝かせて、にっこりこちらを覗きこんだ。
担任が一人の生徒とともに教室に入ってきた。みんなの目が一斉にそちらに向かった。それでも果歩だけはずっと僕の方を見ていた。
◇
こんな二人の居場所に現れたアメリカ帰りの転校生。少年はアイスダンスをするという彼に強い焦りを感じ、彼と同じ道に飛び込んでいく……
――小説家になろう、カクヨム(別タイトル)にも掲載――
初恋♡リベンジャーズ
遊馬友仁
青春
【第五部開始】
高校一年生の春休み直前、クラスメートの紅野アザミに告白し、華々しい玉砕を遂げた黒田竜司は、憂鬱な気持ちのまま、新学期を迎えていた。そんな竜司のクラスに、SNSなどでカリスマ的人気を誇る白草四葉が転入してきた。
眉目秀麗、容姿端麗、美の化身を具現化したような四葉は、性格も明るく、休み時間のたびに、竜司と親友の壮馬に気さくに話しかけてくるのだが――――――。
転入早々、竜司に絡みだす、彼女の真の目的とは!?
◯ンスタグラム、ユ◯チューブ、◯イッターなどを駆使して繰り広げられる、SNS世代の新感覚復讐系ラブコメディ、ここに開幕!
第二部からは、さらに登場人物たちも増え、コメディ要素が多めとなります(予定)
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
『俺アレルギー』の抗体は、俺のことが好きな人にしか現れない?学園のアイドルから、幼馴染までノーマスク。その意味を俺は知らない
七星点灯
青春
雨宮優(あまみや ゆう)は、世界でたった一つしかない奇病、『俺アレルギー』の根源となってしまった。
彼の周りにいる人間は、花粉症の様な症状に見舞われ、マスク無しではまともに会話できない。
しかし、マスクをつけずに彼とラクラク会話ができる女の子達がいる。幼馴染、クラスメイトのギャル、先輩などなど……。
彼女達はそう、彼のことが好きすぎて、身体が勝手に『俺アレルギー』の抗体を作ってしまったのだ!
罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語
ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。
だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。
それで終わるはずだった――なのに。
ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。
さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。
そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。
由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。
一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。
そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。
罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。
ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。
そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。
これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる