色呆リベロと毒舌レフティ

雪銀かいと@コミックシーモア連載中

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第三章 運命の決闘《デート》@練習試合

22話

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       22

 35番からディフェンスの後方にパスが出る。あおいちゃんと佐々が追うが、オフサイド・トラップを警戒していた佐々はボールから遠い。
 佐々、必死に追うも、身体を入れるあおいちゃんに妨げられる。ボールが外に出て、女子Aのゴール・キックである。
「佐々ー! 裏ばっか、狙うなってー! 動きが単調で読まれてんだよ! おめえのスピードは、密集地でも使えんだろー!」
 俺は感情を抑えて大声で叫ぶが、
「うるっせえよ! 外野は黙ってろ! 天才の俺様に、指図するんじゃねえーー!」
 佐々は完全に喧嘩腰だった。普段の冷静さはどこにも感じられなかった。
 ゴール・キックのボールは競り合いを経て、男子45番に渡った。がすぐに相手のプレッシャーが掛かる。
 俺はフォローするべく、「後ろ!」と叫んで前に出た。短いパスを止めて顔を上げる。
 最前線では佐々が待っていた。なんとオフサイド・ポジションで、だ。俺に何かを伝えたいのか、眼差しは強烈である。
 佐々、お前の狙いは理解したよ。やれるんだったら、やってみせろ。
 俺は右足を振り被る。同時に佐々は斜めに走り、あおいちゃんと平行の位置まで引いてくる。
 俺のキックの瞬間、佐々は裏へと走り出した。
 佐々はあおいちゃんを振り切った。ここ一番で素晴らしいトラップ。ドリブルを進めてキーパーと一対一になる。
 佐々は右にボールを出した。キーパー飛び込む。だが、佐々のスピードに従いていけない。
 佐々はシュートを転がした。ゴールの左のぎりぎりに決まる。二対一。
 見届けた佐々は振り返り、雄叫びとともに爆走を始めた。顔の全パーツは可動範囲いっぱいにまで動いており、表情を一言で表すと「狂喜」。喜びという言葉では生ぬるい感情が全身から発せられていた。
 佐々がガッツポーズとともに高く跳び上がった。それを尻目に、「うおっし!」俺も左手をぐっと握る。
 最初はオフサイド・ポジションにいて、一度、引いてきてから裏を狙う。味方が蹴った瞬間に敵の最後尾守備選手の後ろにいなければ良いので、オフサイドはなし。助走を付けられて相手ディフェンスの混乱も狙える、有効な技術である。
 にしても佐々。マジで天才だ! この土壇場であおいちゃんを上回る策を編み出しやがった。
 俺たちが歓喜に沸く一方、女子Aのディフェンス陣は、ゴール前に集まって話し込んでいた。眉を顰めるあおいちゃんの表情からは、すっかり余裕が消えている。
 女子Aのキック・オフ。ボールは相手コートを巡って、7番が受けた。沖原がマークする未奈ちゃんを目掛けて、ロング・ボールが蹴り込まれる。
 コースが甘い。俺はとっさにスライディング。ボールを奪って立ち上がり、近くにいた35番に渡す。
 相手チーム、焦りでプレーが雑になってるね。流れはばっちり俺たちに来てる。
 ターンした35番は、釜本さんにパス。釜本さんはダイレクトで佐々へ。佐々はあおいちゃんに詰められる前に、近くにいた35番に出す。女子Aのお株を奪う流麗なパス・ワークだ。
 沖原が前線へと上がっていく。出されたボールを、すぐにクロス。合わせた佐々のダイビング・ヘッドは惜しくも枠に飛ばない。
 佐々の覚醒で、俺たちは押せ押せだった。誰もが自分の百パーセントを出し、面白いようにボールが繋がっていた。
 右サイドにボールが展開される。沖原の許可を得た俺は上がり始める。慌てふためく女子Aは、誰も俺に付けてこない。
「くれ!」俺は思くそ叫んだ。ゴロのパスが来る。絶好球。ダイレクトで撃てる! ゴールを見据えて、足を振り被る。三点目――。
 一人の選手がボールをかっさらった。すぐにドリブルを始める。俺の目は自然とそいつを追う。
 45番が慌てて詰める。軸足での股抜きで去なす。
 続く沖原は飛び込まない。それに対して細かなステップ。からのアウト、インの簡単なボールタッチ。沖原、あっさりと抜かれる。
 センター・バックがフォローに行く。スライディング。それもボールを浮かせて躱す。
 だがすでにゴールライン際。シュートは打てるわけがない。
 誰もが思った瞬間、バスッ。ゴール・ネットが揺らされた。左足の外側で擦り上げて、カーブを掛けるキック。二対二の同点。 
 俺は、ゴールに顔を向けたまま固まる。三人抜きからの、角度がほぼゼロのシュート。神業にもほどがある。
「焦るな焦るな。浮き足立つ必要はまったくないわよ。いつも通りやれば勝てるんだからさ」
 抑揚のない、泰然自若とした口振り。だが、いつもの毒舌とは違った迫力に満ちている。
 勝利ムードに沸く俺たちを、一人で切って捨てた選手、水池未奈は、静謐な雰囲気を纏って悠々と自陣に歩いていく。
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