マーベリック・レフティ

雪銀かいと@コミックシーモア連載中

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エピローグ

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エピローグ

 窓の外、中庭には桜の木。開花はまだまだ先らしく、つぼみのままだ。卒業ソングって桜関係の曲多いけど、実際に満開になるのは、四月入るか入らないかぐらいらしい。
 今日は僕たちの卒業式だった。終了後、戻ってきた教室、生徒は席に着いている。教壇に立つ先生が口を開く。
「卒業式ご苦労さん。今から自由時間だから、校外に出なければどこに行ってもいいけど、十二時には席に着いてるように。じゃあ一度解散」
 ほとんどの人が、卒業アルバム片手に立ち上がった。アルバムの最終ページには少しだけスペースがある。この時間はそこに、いろんな人に名前を書いてもらうため、学校を回るのが慣例らしい。
「大庭君」
 振り向いた先では、服部さんがほほ笑んでいた。
「よろしく」
「うん」
 僕たちはアルバムを交換した。

 服部さんとの関係は、三年間続いた。幸運にも、クラスはずっと同じだった。だけど、一度も一緒に遊んだりはせず、時々、勉強教えたり、歩きながら喋ったりするぐらいだった。呼び方も、なんとなく恥ずかしくて、さん付けから変えられなかった。
 それと、何度か彼女の試合を見に行った。サッカーしている姿は、本当にかっこよかった。

「紗江ー、大庭君の終わったら一緒に八組行こー」
 教室の入り口で、二人の女子といる金沢さんが、こっちを見て言った。
「わかった。もうちょっと待って」
 そっちを見て答えてから、僕の方を向いて、「また後でね」と口にした。

 一年生の夏休み直前、二人は仲直りしたみたいだった。女子の間でイジメがあり、標的が金沢さんで、その解決に、服部さんがすっごい力尽くして、二人はわかりあえたらしい。詮索しない方がいいことだと思ったから、詳しいことは知らないけど。

 書き終わり、服部さんは、金沢さんの方へ早歩きで向かう。
 二人は連れ立って教室を出て行った。
 誰かと誰かが仲良くしているところは、見ていて気持ちいい。あの子の理解者が増えて良かった。

 僕は三年一組に向かった。
 中では壁にもたれて、赤崎と二人の男子が話し込んでいる。
「赤崎」
 僕の呼びかけに、赤崎はこっちを向き、
「おう、んじゃよろしく」
とアルバム片手に近づいてきた。

 一年生大会の初日、僕は検査を受けた。その結果は、過剰なトレーニングによる慢性疲労状態、いわゆるオーバートレーニング症候群だった。それから部活では、軽いウォーキングやジョギングだけをした。一ヶ月ほど続けると治ったのか、異常な息切れなんかはなくなった。
 大会の最終試合、僕は左サイドバックで出場した。結果は1対5で負け。そのうち、四点は僕の責任だった。一か月もまともにトレーニングしなかったから当たり前だけど、それでも四失点はひどい。でも僕は、必要以上に落ち込んだりはしなかった。服部さんに言われた通り、サッカーに色々引っ付けるのはやめることにしてたから。
 二年になって後輩ができた。今度はやり過ぎないくらいに毎日トレーニングしていたから、二試合に一試合くらいは割とまともにやれるようになっていた。僕はサイドバックとしてBの試合に出ることが多く、スイーパーをしていた一年生にぼろくそに言われることが多かった。年下に口うるさくされるのはあまり愉快なものじゃないけど、忠告は素直に受け止めて、僕なりにプレーを改善したつもりだった。
 三年の四月、ある練習試合で、僕は右サイドハーフでB戦に出た。先生もそろそろやれると思ってくれたんだろう。終了間際、敵ディフェンスからのクリアボールを、ダイレクトでシュート。ボールは、ゴール右隅に吸い込まれていった。人生初得点。最高の気分だった。
 結局、一度もAには出ることはできなかったけど、僕は満足していた。この三年間、全力で打ち込んだ自信があったからだ。キャプテンは僕にしかできないことがあると言った。それができたと断言はできない。だけど、チーム一の運動音痴の僕が必至でみんなについていく姿から、みんなが何か感じ取ってくれてたら嬉しい。
 赤崎は三年間、ずっと心地よい距離感で僕のことを気にしてくれていた。一年生大会の間も、点を取られまくる僕にキレたりせず、成長するのを待ってくれた。感謝してもしきれない。

「大学行っても頑張れよ。おうつくしい彼女もいることだし」
 書きながら真顔でからかってくる赤崎。
「……うん。まあ、ありがとう」
 この性格はどうかと思うけど。

 赤崎とのアルバム交換を終えて、三年四組に向かう。
 教室内に入ろうとすると、出てきた人とぶつかりそうになった。
「おう、悪い。って大庭か。ちょうどよかった。書いてくれ」
 神田は片手で自分のアルバムを差し出した。

 あれから神田は、時々部活にきてくれた。彼の存在は部員にいい意味での緊張感を生み、その日の練習はいつも以上にいいものだったと思う。僕と組んで練習することもあり、たくさんアドバイスをくれた。服部さんのことがあるのにこうやって助言してくれる神田は、生粋のサッカー選手だと思う。

 神田は書き終えると、真面目な顔で僕を見て、
「大学でも頑張れ」
と、つぶやくように言った。
「うん」
 お互い余計なことは口に出さない。それはあの日に済ませていたから。

 四組の教師を出ると、「あ、侑ちゃんだ」「おう、侑司。書いてくれ」と、後ろから声がした。
 振り向くと、アルバムを片手に持った恭平と村瀬さんがいた。

 僕は理系、この二人は文系なので、二年からはクラスが別になった。彼らはいつでも話を聞くと言ってくれていたけど、僕はあれから、一度も相談に乗ってもらったりはしなかった。アドバイスをもらってそれに従うのもいいけど、自分のことは自分で決めるのも大切だと思ったから。
 自分を変えようと努力してきたつもりだけど、僕は、あのときの恭平みたいな完璧な方法で、好きな人を守れるようになったとは断言できない。でもこの三年間、僕なりに服部さんのために頑張ったつもりだった。言い訳みたいに聞こえるかもしれないけど、恋愛って色々な関係性があっていいんじゃないかと思う。

「十二年か。長い間、ありがとね」
 書きながら村瀬さんがつぶやいた。
 アルバムを返し合う。
 恭平は満足そうな表情で、僕の目を見て、
「これからもよろしくな」
と言った。
「うん、こちらこそ」
 君らと出会えて、幸せでした。

 十二時になり、生徒は教室に戻ってきた。
 先生の最後の言葉の後、静寂が破れる。僕は鞄を持って、服部さんの席に向かった。
「帰りながらちょっと話さない?」
 彼女は座ったまま、僕を見上げた。

「あっという間だったね」
 まだ人の残る学校の廊下、服部さんがつぶやくように言った。
「うん」
 三年間、色々なことがあった。思うようになったこと、ならなかったこと。まあでも、振り返ってみると、いい高校生活だった。
 僕はサッカーを続けるつもりだ。できれば一生、サッカーに関わっていきたい。
 これから何が待っていてもうまくやっていける、そんな自信が、高校でのいろんな人との関わりを通して生まれていた。
「これからもよろしくね」
 服部さんがこっちを見て微笑む。
「こちらこそ、よろしく」
 僕たちの道は続いていく。
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