私は「あなたのために」生まれてきたわけではありませんのよ?~転生魔法師の異世界見聞録~公爵令嬢は龍と謳う。

まゆみ。

文字の大きさ
81 / 455
はじまりはじまり。小さな冒険?

81、懐古。

しおりを挟む



「……セシリアといると本当に退屈しないよね」

「退屈な毎日の方が幸せだと思うよ」


ぎゅうっと庇うために抱き込まれた腕に力がこもると、ユージアの半ば呆れたため息混ざりの呟きが耳にかかった。
今の身長差だと、抱き込まれていても私の方が少しだけ背が高い状態なので、肩口から周囲の景色がしっかり見えているわけなのだけど……。


(転移の魔法陣だなぁ……これ。また教会の妨害とか?転移先で待ち構えられてたら逃げようがないよなぁ)


足元で絶賛発動中の紅い魔法陣。
教会の地下にあった監獄から抜け出す際に使った、転移の魔法陣と術式が同じもののように見えた。
一つ違うといえば……。

紅い魔法陣と周囲の景色の歪みが、大きく揺らぎ、また戻り、何度か見知らぬ景色を映し出し、また大きく揺らぎ…と繰り返している。


「ねぇ。これ、この前の転移の魔法陣と同じやつだよね?なんか様子がおかしくない?」


転送直後の襲撃を警戒しつつ、周囲を忙しなく見渡しているが転送が一向に完了しない事に少し焦りが出ているようだった。


「異常はない。移動距離が……長いだけだ」

「げっ……」


ぎくり、とユージアが強張るのが伝わる。
私も「げ」だったんだけど……。

声の方を向くと艶やかな長く伸ばした黒髪を、緩く後ろで纏めた、玲瓏たる美貌のエルフの青年。


「げ、とは何だ……おまえが考え無しにセシリア嬢を引き寄せたから、魔法陣ごと寄ってきて、危うく王子達までこの移転に巻き込まれるところだったんだぞ?……代わりに私が巻き込まれたが……王族誘拐の大事にならなかっただけ、感謝されても良いと思うのだがね」


声や雰囲気から醸し出される、憮然とした表情のルーク。
しかし次の瞬間には好奇心で目を輝かせて、私の腕を取りブレスレットへと変形してしまった石板ぼ観察を始める。


「しかし面白いな……この石板、常々優秀な古代のマジックアイテムアーティファクトだと思っていたが、そもそもが学園の備品だったのか」

「こんなのごろごろしてるとか僕、学園通うの怖くなってきた」

「魔法学園では無い。我が母校でもある、今は亡き魔導学園の、だ」


ですよねぇ。というか、意外にこの親子、仲良さそうで少し安心した。
ユージアの警戒が反抗期から来るものなのか、襲われたとか言ってたし、そちらからのものかはわからないけど、せっかくの親子なんだから仲良くしてほしい。


(ていうか、自分の友人が当時の姿そのままで子育てしてるとか、何かすごく微笑ましいんです)


そうこう思っているうちに、移転が完了したのか、景色の歪みが落ち着いていく。






******






まず視界に飛び込んできたのはボルドーの絨毯張りの広い個室。
黒檀のような木製の家具と調度品で纏められた上品な執務室兼、応接……。

応接セットには、今まさに来客をもてなすためにだされた、湯気を立てるティーセットが4人分あり、来客側の席に『只今席を外しております。少々お待ちくださいませ』のカードが見えた。


「ここは……」


飛ばされた先は、学園長の部屋だ……。
そのティーセットは見覚えがある。


『所有者情報の書き換え。学園長権限により…生存者、導師シシリーを認識。緊急時につき全権を同導師に移譲とする』


転移魔法が発動した時と同じ、機械的な女声の声で施設管理のメッセージが館内に響き渡り、私の視界が歪んでいく。

──あのティーセットは、シシリーわたしが学園長へと、贈ったマジックアイテムだった。


『ありがとう。大切に使わせてもらうよ』と、贈った時に、いつもの厳しい表情を崩して、晶瑩玲瓏な完成された美貌にふわりと頰を上気させて微笑んでくれた、あの光景が浮かび上がる。


……深い知識や魔法・魔術の性能・技術だけがモノをいう世界だった。
それでも、上へ上へと上がっていけばいくほどに、実験や研究の成果を出すためには膨大な費用や時間がかかる。
少しでもロスを減らすためには失敗は許されない世界で、裕福な出身のものは実家の支援を持ち出しての余裕ある行動ができた。

私は孤児で…最低限の生活は学園で保証されてるとはいえ、責任のある職務につくには成果が必要だったが、そうなるとまずは研究に関しての支援や協力者、スポンサーを探すところからの作業となる。
その時点での大幅なロス、そして協力者からの裏切り、ライバルからの妨害、そういうものを個々にしっかりと見抜き、正当な評価をしてくれる凄い方だった。

知識も技術も群を抜いて素晴らしい、当時のトップクラスの魔導師でもあった学園長。


(メッセージカードの通り、待っていたら逢えます…か?…ラディ…導師せんせい……っ!)


我慢しようにもぽろぽろとあふれだす涙に、私を抱きしめたまま背をさすり、おろおろするユージア。……ごめん。

……私が「生存者」としてここに緊急移転させられたのなら、他に生存者はいないということになるのでしょうけど……でも、逢いたいです。導師せんせい


「セシリア、大丈夫。今回は怖いとこじゃなさそうだから、大丈夫だよ」

「これはまた懐かしい……転送とばされたのは3人か。また遠くまで飛ばされたな」


ルークのみ弾むような声で颯爽と室内の検証を始めている。


(生存者、と言っていた)


それはつまり……この学園は、あの時から時が止まっていたという事で。
あの魔物の氾濫スタンピードで止まっている。
……本当に生存者は、いなかったのだろうか。


学園生みんなはどうなったのだろう?)


緊急時、指揮権の有るものがいない場合は、下位へと順に指揮権が移譲される…。


「ユージア、ありがとう…大丈夫」


ユージアから離れて、涙を袖で拭い、学園長の机に座ると、机一面に文字が浮かび上がる。
学園内の異常や損傷は無い。機能も正常だった。
ただ、館内には3人以外の生物的な反応は無かった。

指揮権の移譲履歴には、当時の学園長から直接に今、私へと委譲された事になっている。


(学園長が最期まで護りきってくれたのか、もしくは……)


私は今までの転生の初代にあたる、シシリーの死因を覚えていない。
記憶は…魔物の氾濫スタンピードに遭遇したのは覚えている。
あの時、この魔導学園はどうなったのだろうか?


(私はあの時、街にいた…と思う。その後の記憶がひどく曖昧だ)


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!

饕餮
ファンタジー
  書籍化決定!   2024/08/中旬ごろの出荷となります!   Web版と書籍版では一部の設定を追加しました! 今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。 救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。 一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。 そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。 だが。 「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」 森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。 ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。 ★主人公は口が悪いです。 ★不定期更新です。 ★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。

孤児院の愛娘に会いに来る国王陛下

akechi
ファンタジー
ルル8歳 赤子の時にはもう孤児院にいた。 孤児院の院長はじめ皆がいい人ばかりなので寂しくなかった。それにいつも孤児院にやってくる男性がいる。何故か私を溺愛していて少々うざい。 それに貴方…国王陛下ですよね? *コメディ寄りです。 不定期更新です!

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

処理中です...