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はじまりはじまり。小さな冒険?
84、年齢。
しおりを挟む「やっぱり……初対面が人間の少年だったろうから、誤解してると思ってたんだ……ユージアの弟妹に孫がいるくらいなんだぞ?」
「そっか……そんなに長く教会の籠にいたんだね。じゃあ……同じだけこのままで良い。実年齢なんて関係ないよ」
……思わず、ユージアを包み込むように抱く腕に、力がこもってしまった。
こんなに可愛らしい盛りに攫われてしまうとか、親からの感情でもあり得ない、あってはならないことだけど、その攫われてしまった本人の辛さは……想像にもつかないし、わからないよね。
奪われてしまった時間をやり直すことはできないけど、ユージアの場合はボーナスステージのように、時間が延長されたのだと思えば、それはとても幸運なのだと思いたい。
今から、今までできなかったこと得られなかったものを、いっぱい体験していけばいい。
「こんなに可愛い子供の時間なんて、一生の中のほんの一瞬なのだから、自然と戻るまでこのままでいい」
「……実年齢で言えば50と少しだから、私で言えば、学園を修了した辺りくらいだろうか」
──親子なのに、随分違う。
ユージアは辛い世界を歩いてきてしまったのだと思い、悲しくなる。
「うちの使用人になる」と言い張っていたけど、ユージアの本当にやりたいことってなんだろう?
うちの使用人に収まってしまって、視野を広げることはできるのだろうか?
……いずれは、ユージアの見つけた求める道のために、飛び立つその翼をしっかりと広げられるように、ちゃんと解放してあげられるのだろうか?
(……私は笑顔で、見送れるのだろうか?)
自分の子の巣立ちのように、一気に考えが至ってしまい、寂しくなってユージアの背を撫でていると、視界に艶やかな黒髪がかかり、頭に頬を寄せられた。
ふわりと白檀の香りが鼻腔をくすぐる。
「私も……縮めば、同じようにしてくれるのかい?」
「……私をおかしな性癖持ちみたいに言わないで欲しいんだけど……」
気づけば肩を引き寄せられて、ルークの胸にもたれかかるようになっていた。
うーん、ここのところ、やたらと距離が近いんだけど……。
私をシシリーだと確信してからなのかな?とは思うけど、そもそも私がシシリーであった時に、そんな関係ではなかったし、そうなりたいと私自身が願ったこともなかった。
というか、こんな風に接近したことは、なかったと思うよ?
「シシリーが……受け入れてくれるだけでいいのに」
「私にそんな切なそうに言わないでくれる?ルークにも番は居るんでしょう?」
熱をもった掠れ気味な声で、ぽつりぽつりと耳のそばで囁かれる言葉。
……こんな事を私に言うような人ではなかったと思う。
番がいるのなら、それは私が聞くべき言葉では無い。
「あぁ、ユージアの母親がそうだったんだが、天寿を全うしてしまった」
ふっとため息のような、笑むような音が聞こえ、胸にもたれかかる姿勢から逃げようとした頭を抱え込まれてしまった。
やっぱり、ユージアのお母さんは番だったんだね。
番にしては随分短命な気もするけど、天寿ということは寿命だったのだろうし……。
って、今考えるのはそこじゃ無い。
ねぇ、やたらと近いんだけど?
学園に飛ばされてから、無駄に色気だしてませんか?
(……周囲に無関心無表情、棒読み会話のルークはどこ行っちゃったんですかね)
頭頂部にルークの呼気があたる。
頬を押し当てられた?顔かな?頭のてっぺんに柔らかい熱を感じる。
だから、近いってば!
「とにかく番がいるんだから……ってそうだ、これがさっき説明された『花だから危ない』ってやつですよね!ルーク先生……っ!?」
解放してもらうために声を……とルークの顔を見た瞬間、そのままの角度で頭を抱え込まれ、間近にあった美貌に息をのむ。
学生時代であれば、その普段の無表情の彼と目が合っただけで失神してしまう女生徒がいた程に美しい、あの頃と何ら変わらない容貌に、今までに見たことのない表情が浮かんでいた。
ほのかに頬を上気させ、さらりと溢れる黒髪からのぞく琥珀色の双眸には、熱がこもり……さらに接近し、吐息の触れる距離で甘く囁かれる。
「そうだね……で、返事は?」
「……ちょっ…と、待って?!…いや、本当に、待って?」
相変わらず綺麗な顔……って見惚れてる場合じゃなくて、今回は避けようにも私の両腕はユージアを支えているし、頭は抱え込まれて動けないしで、絶体絶命ってやつ?
ぎゃああ、と内心で叫んでいると、笑むように口元が緩むとおでこに押し当てられた。
「待てない」
いや、待ってください……。
一応、今、いろんな意味で緊急時なんだから、これ以上の緊急事を増やさないでください。
この美貌にこの状況。
世の御令嬢であれば、頬を染め上げるどころか舞い上がって、ひとつ返事でOKしてしまいそうな雰囲気なのでしょうけど。
ほら、王国での地位もあって顔も良いし?とても素敵よね。
──残念ながら、私のテンションは駄々下がりをしていったわけなのだけど。
無事に帰れるかっていう生命の危機の他に、貞操の危機とか勘弁してください。
ていうか、息子の前で何やってるんですか(寝てるけど)…あ、これ受け入れちゃったら、私ってばユージアの義理母?!
それは嫌だなぁ……。
色気全開のルークとは裏腹に、徐々に遠い目になっていく私。
「……待たないと、小児性愛と認識して軽蔑する」
「ペド……とは?」
びくり、とルークの接近が止まる。
でもね、冗談ともかく、軽蔑するよ?
今の見た目はともかく、セシリアをいくつだと思ってるの。
「あぁメアリローサ国ではそういう認識はないのかな、まぁ手を出したら児童性虐待者として……あ、ユージアが落ちちゃう…」
やっぱり、根は勤勉なルーク、知らない言葉にびっくりしたのか拘束する力が緩んだので、その隙にユージアを抱き直しつつ、距離を取る。
ユージアは完全に熟睡してるから、ぽかぽかで抱いていてほっとする。
私は、接触、という意味であればこっちの方が好きだよ。
まだ幼児だからね?色恋沙汰は今しばらく勘弁してほしい。
「あ、今のセシリアの姿だと思春期の性的嗜好だっけ?……教会でユージアを虐めた人達と同類になるぞ……」
熱をもっていた琥珀色の双眸が一瞬見開かれ、切なさの色を含み、伏せられる。
「──1000年だ。1000年。ずっと探してたんだ」
ぽつりと寂しそうに呟く。
そういえば、このルークの暴走も、私の『花』としての香りの影響、ということも考えられるんだろうなと思いつつ。
ここに座り続けて、また襲われてもしょうがないので、ユージアを抱き直しつつ立ち上がり歩き始める。
ほら、目的のものは手に入ったのだし?
次の目的地は、私の部屋だもんね。
ここに居座る必要はない。
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