私は「あなたのために」生まれてきたわけではありませんのよ?~転生魔法師の異世界見聞録~公爵令嬢は龍と謳う。

まゆみ。

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はじまりはじまり。小さな冒険?

105、機微。

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『……シシリーは、進路が分かれてしまっても、ルークがお気に入りなんだね。そんなに好きなのかい?』

『好きですよ~可愛いし。お気に入りです。でも、もうあんまり傍にいられそうにないんですよね……ルークは貴族位を賜ってますから、私とは立場も目指す場所も違ってしまいましたし。もちろん、これからも全力で応援しますけど……そもそも寿命だって違いますから、この子が……私の代わりに少しでも永く一緒にいてくれたらと思ったんですよ』


相変わらず、かちゃかちゃと作業を続ける音がBGMとなって、棒読みの会話が続く。
今さらだけど……学園長の声のトーンが少しずつ下がっているように聞こえた。


『少し……妬けてしまうね』

『なにを言ってるんですか学園長!優秀な生徒や導師なら他にもたくさんいるじゃないですか。寂しくなんか、ならないでしょう?それにルークは、あれだけ華々しく一気に目立ってしまう分、妬みや嫉妬からの敵も多いんですよ?……頑張って欲しいけど、本当は無理して欲しくないんです。我慢、いっぱいしてるし、これからもし続けないといけなくなると思うんです。でも辛いのは本当に嫌だから。少しでも心の支えに出来そうなものを渡したかったので……』


懐かしくて優しい声だけど、やっぱりなんか残念そうな、テンションの下がったような声。
ま、私は相変わらずの棒読み口調で、トーンもなにも一定なのだけど。


『……そう。なら少しでも参考になれば嬉しいよ』

『今回は助かりました!まさか間近で守護龍の飛翔を見せてもらえるなんて!デザインは漠然と有ったのですけど、いざ描こうとなるとバランスがおかしくなってしまって……困っていたんです。守護龍はすごく素敵で……見惚れてデッサンするのを忘れるところでしたけどね!頑張って彫金しますよ~……っと。設定完了しましたよ~』


そうそう、どうしてもデザインが上手くいかなくて困っていたら、なんとモデルにと、学園長のつてで本物の守護龍の飛翔を見せてもらえることになった。
滅多に見れるものでもないし、そして何よりも貴重な体験だしで、大興奮だったのだけど、残念ながら誘ってくれた学園長は、守護龍の飛翔が始まる直前に、途中で呼び出しがあり退席してしまったので、一緒に鑑賞することは出来なかったけど。


『あ、お礼にと言っては何ですけど……私で何かお手伝い出来そうなものは、ありますか?』

『そうだね……』


ここで、学園長とシシリーわたしの会話は切れた。

……また、お話ししたいですね。
あの穏やかな雰囲気がすごく心地好かった。
今までの転生の記憶の中でも、魔導学園での生活が1番充実していました。
友にも環境にも恵まれて。


『こんな経緯で、今、君の手にあるであろう懐中時計が作られたわけだが……シシリーは話さないだろうからね……手紙ここに残しておくよ』


残す、遺す。はたしてどちらになってしまったのだろうか?

私はまた、セシリアとしていずれは学園での生活が待っているのだけど、同じように友や環境に恵まれることができるんだろうか?

色々と考えが廻ってしまって、しょんぼりしかけたところで、ふっと空気の音?息を吐くような軽い音が聞こえた。


『……同封の写真シシリーは、王城の舞踏会の時のものだ。君は会えなかったようだから。本人シシリーとしては、大変不本意だったようだが……珍しいだろう?』


ふふっと笑い声混じりの学園長の声が響いた。


(えぇ!不本意でしたともっ!)


目の前に学園長がいたなら、文句の一つも言いたい勢いで……不本意でした。
それでも、今となっては声が聞けるだけでも、懐かしくて嬉しくて。

手紙から、まだ声が続くのを期待して、少し待っていたのだけれど、それ以後の続きは聞くことができなかった。

広げられた便箋が、自然とぴたりと閉じられる。
それが、再生終了の合図だった。


「……懐かしくて嬉しいのに……久しぶりに学園長の声が聞けたと思ったら、この酷い仕打ち。あんまりだわ」

「……あぁ、キミは本当に……心の機微が読めないんだな。再確認してしまったよ」


くすくすと笑いつつも、哀れむような微妙な色がその美貌に浮かびはじめると……眉間を軽く抑えてしまった。
そんなこと言われてもなぁ……。

会話の中に隠された意味を探すとか、察するとか無理だから。
できてたら、もうちょっと昇進早かったとは思うけどね。
わからないものはしょうがないと思うんだ。


「機微が読めないから、浮いてたんだけどね」

「まぁ、理解はした……では…もし、私がシシリーに好きだと伝えていたら、良い返事はもらえたのだろうか?」

「えぇ……それは…さ、生きてるうちに言おうよ……」


ルークに好きだ…とか、言われるような雰囲気でも関係でも無かったはずなんだけど、シシリーわたしの学園生活は。
あ、でも、あの環境で言われてたら、どんな返事をしても違う人生が……そして、もれなく学園内のかなりの数の生徒(男女問わず)を敵に回しそうな勢いなのだけはわかる。


「何度も言ってたのだが……」


私の様子をじっと見つめた後、おもむろに深く、あからさまかと思うほどに深く、ため息をついた。

何度も言ってたって?いつううう?
衝撃的な言葉に、軽くパニックになりかける。

そもそも、そんな甘い空気の流れる学園生活では無かったと思ってるんだけど!


「……いつから?申し訳ない、全く記憶に無い」

「在学中から……だね」

「そんなそぶりは無かった、と…思ってたんだけど」

「私も、流石にそこまで伝わっていないというのも、想定外すぎて」


眉間を抑える仕草から、軽く俯くと片手で顔を覆ってしまう。
ものすごく疲れた顔が見えました。ごめん。本当にごめん。

私はもう、頭を抱えたまま、居た堪れなくなっているわけなのですが。

ルークのその表情を隠してしまうように、さらさらと溢れる艶髪。
……本当に、その一挙動だけでも絵になるほど綺麗なのに、なんでシシリーわたし
ルークの周囲には、いくらでも素敵な女性はいた筈なのに。


「ちゃんと伝わっていたら……喜んだと思うよ。ずっと、シシリーわたし一番近くそばにいてくれたでしょう?」

「そうか……」


一瞬、はっとして顔をあげ……また俯かれてしまった。
泣かないでね?

シシリーは生まれも、育ちも壮絶!ってわけでも無いけど、やっぱり孤児で後ろ盾もなくて、見た目が少し変わっていたから、どうしても避けられていて。
でも、その見た目のおかげで、学園に入ることができて、生きていけるだけでも普通よりは良い環境なのだということは理解していた。

1人は寂しかったけど。

……ルークは、そんな中でできた、初めての友達だった。大切な存在。
ルークをきっかけに広がった世界がある。友人も増えた。

本当に感謝しかない。



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