私は「あなたのために」生まれてきたわけではありませんのよ?~転生魔法師の異世界見聞録~公爵令嬢は龍と謳う。

まゆみ。

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はじまりはじまり。小さな冒険?

108、シチュー。

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さて、風呂から出て執務室へ帰ると、すでにユージアがあつあつのシチューと戦っているところだった。
お腹すいたよね。長風呂でごめん。

3歳くらいって、まだ身体全体がむくんでるかのようにぷくぷくだから、普通にできるはずの『シチューをスプーンですくって口に運ぶ』これだけが意外に難しい。
いつもの中学生くらいの体格なら、ユージアも綺麗に食べれるんだろうけど、今は上手くできないみたいで、ほっぺに……って、おでこにまでシチューがついてるよ?


(もう一回お風呂かな……ふふふ)


ちなみにルークは、紅茶片手に読書中。
……その本、どこから持ってきたーっ?!

怪しい本じゃないことを祈りつつ、平静を装って……むしろ見なかった事にして、ご飯にしちゃおう。


「ただいま~私もシチュー食べたい!ルークは何か食べた?」

「おかえり。まだだが……では、私もシチューにするかな。それと……これ、この部屋の本棚にあったものだが」


えっ……やっぱ怪しい本でもあった?!
そう思ってぞわぞわしながら本を手に取る。

ユージアはちらりとこちらを見たが、読めない文字であったために、そのままシチューとの格闘に戻ってしまった。
古代文字だもんね。読めないか。


「……疎い。ということは理解したから、最低限これくらいは知識としてあったほうがいい」

「こんな本、あった?見覚えないんだけど」

「だろうね。ま、軽く目を通しておくことをお勧めするよ」


にこりと営業スマイルのような笑みを浮かべて、お勧めされてしまった。
これは『文句言わずに取り敢えず読め』って事ですよね……。

表紙には『多種族交流のための一般常識』とあった。

人間から見た、他の種族との習慣や考えの相違点等々。
栞紐が挟まれている場所は『種族独特の求愛表現』

……3歳児に見せる必要はないでしょう!?と反射的に怒ろうとして、ページが目に入る。


『獣人……求愛行動以外で成人男性の耳やしっぽを触れるのは恋人、既婚であれば家族のみである』


「……ん?あれ、獣人って……しっぽはともかく、耳も触っちゃダメなんだ?後輩カイは触らせてくれたけどなぁ。エルネストには怒られたけど」


カイ……懐中時計の動画にも写ってた、獣人の後輩です。
ちょっと珍しい狼の獣人らしいってのは聞いた事がある。
まぁ性格的にはとても人懐こくて、狼というよりは、犬みたいな子だったけど。


「エルネスト君はまだ子供だ。キミの後輩は……」

「成人、してました……」


しっかり成人してました……後輩も、学園を卒業してから、シシリーわたしと同じ進路を選んだ子なので、立場的にも社会人。
つまり立派な成人ですね。


「という事は、つまり?」

「シシリーだった時のセシリアはモテたんだね!」


ルークの問いに、はーい!と元気に手を上げて、にこにことユージアが答えた。
か、可愛い……でも、えーと、えー……。

求愛行動ってつまり、意中の女性を振り向かせるためにのみ行うものだから……
シシリーわたしは後輩に……恋愛感情での好意を持たれていたという事で。

ほぼ、女を捨ててたシシリーわたしのどこにそんなモテ要素があったのか、謎すぎるんですけど。


「……ユージアの方が、優秀なようだが?」

「エルが恥ずかしがりなだけだと思ってた……うわぁ……どうしよ」


頭を抱える私に、ルークは満面の笑みを。何か凄みのある笑みを浮かべている。
美人ってだけで迫力あるんだから、怖いですよ。


「セシリアは、やっぱりセシリアだね~。普通なら知ってるようなことを知らなくて、みんなが知らないようなことを知ってる。面白いね」

「……シシリーの時も今も、世界が狭すぎたのかな。ていうか、こういう事は亡くなる前に知りたかったわ。もう……」

「研究に関する勉強しかしてなかったから、疎い以前に無知だったと」

「……ですね」


自分の生まれや、外見なんかを考えても、結婚なんて絶対無理だと思ってたし。
そもそも学園でも浮いちゃってたから、そんな相手がいるともできるとも思ってなかったし。
ああああー知ってたら、また違う学園生活だったのかなぁ……。


「って事はですよ、もしかして……毛並み整えたりとかも、まずかった……かな?」

「まずい、ね。そこまでしてたか……」


ルークに凄みのある笑みから一転、遠い目をされてしまった。
やっぱりまずいのか……。
悪気も他意も全く無くて、単なる親切心だったんだけどね。


「いや、毛の生え替わり時期で痒そうにしてたから……」

「余計に駄目だ」

「やっぱり、セシリアと一緒にいると、退屈しないね!」


ユージアが面白そうに笑いながら、ポテトをかじる。
お子様ランチのように可愛く盛り付けられていたのは、シチューにフライドポテトとサラダ。
デザートに小さなケーキ。

なんだか遊園地とかで食べるような軽食セットのようで、お腹が鳴る。

もう、現実逃避をしたい勢いで、ポテトに手を伸ばそうとしたら、ユージアが得意げに口を開いた。


「エルフにもあるんだよねっ。えっと、あ、きゅ…むーむーっ!!」

「ルーク……ユージアを虐めない!」


ユージアの口を、また魔法で拘束、というか塞いだっぽくて、ユージアが唸ってた。

そういや、エルフも独自の里で暮らしてたりするわけだから、習慣や考えの違いってあるよね。
これも言われてから気づいたわ。

改めてさっきの本を開き直して、エルフの項に向かってページを進めてると、突如、本が私の手から逃げていってしまった。


「あっ!……読まなくて良いの?」

「いい」


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