私は「あなたのために」生まれてきたわけではありませんのよ?~転生魔法師の異世界見聞録~公爵令嬢は龍と謳う。

まゆみ。

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はじまりはじまり。小さな冒険?

126、カイルザーク。

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懐中時計の作成には資材も技術も、今回は頑張った。
もちろん制作にかける時間も、いっぱい作った。


『……ついに婚約、ですか?』


いつもにこにこ笑顔のカイルザークの、珍しく寂しそうな声にびっくりして顔を上げる。
浮かべている笑顔とは裏腹に、いつもならひょこひょこといろいろな方向を向いては音を拾うケモ耳も心なしか後ろに、下がり気味になっていた。


『えっ!ルーク婚約決まったの!?……じゃあこれはダメだね。他のを考えないと。婚約のお祝いだと……あ、そういえば相手の名前知ってる?』


いくらお祝いの品であっても、婚約者がいるのなら、常に身につけるような装飾品の類は婚約者が渡すべきものであって、私じゃ無い。
婚約が決まったのなら、せっかく作っている懐中時計には申し訳ないけど、違う品を探さなければならない。

せっかくここまで作ったのになぁ。
結婚祝い込みで用意するにはどんな品が良いんだろう。
そもそも制作時間取れるかなぁ?


『……先輩と…じゃ、無いんですか?』

『どうしてそこで私が出てくるの……?相手はつがいじゃないの?もしかして、政略的な何か……?』


カイルザークが入れてくれた紅茶に手を伸ばしていると、おずおずとバツの悪そうな顔で聞いてくる。
あまりにも衝撃的な返答に、せっかくの紅茶を吹き出しそうになりながら、必死に堪えて聞き返す。

だって、ルークはエルフだからつがいがいるのでしょう?
番ってのは『生まれた時から赤い糸で~』ってな感じで、最初っから両思いな勢いで惹かれ合う相手ってのが居るらしい、くらいの知識しかなかったけど。


(そうそう、この時は、ついにルークが番に巡り会えたのかと、素直に喜んでたんだけど……)


その番は基本的には同族の中から見つかるらしいけどね、稀に異種族間になることもあるらしい……が、少なくとも人間には通用しない。
本当は人間にも番がいるらしいけど、探し出せる能力が退化してしまってるらしいから。

もし異種族の番が人間だったら……悲劇とよく聞くけどね。
人間の番は全く気づけないから『お友達から始めましょう』の勢いで、仲良くなっていかないといけない。
番なのに、気づいてもらえないばかりか、相手にしてみれば番だから、好きすぎて無意識に距離を詰めすぎて嫌われたとか、まぁ……洒落にならないよね、きっと。

まぁそもそもがお互いに『唯一』の相手だから、同族であったとしても早々簡単には見つからないんだけどね。


『いや、先輩が、ルーク先輩のつがいじゃ、ないんですか?』

『は?私なわけないじゃん。種族も違うし……そもそも君みたいな嗅覚はないから、私にはわからないし』


ケモ耳が完全に後ろを向いていたかと思えば、なんか徐々に戻りつつあるのが可愛らしくて。
ガン見しちゃうのも失礼だし、お茶も頂いたから、会話をしつつ作業に戻る。
……お行儀?これがいつものことだからね。

むしろお茶が出てくることの方が、稀なことです。
まぁ、頼めばカートでテーブルまでは勝手に運ばれてくるし、水分補給という意味では困ることは全くないのだけれど。
何より今は作業に集中しなきゃいけないのですよ。


『そう…なんですか……?じゃあ先輩の番は……?』

『わかれば素敵なのにね。人間の場合は、お互いに見つけられないから、どうしようもないよね』


カイルザークのあまりにも唖然としたような声での質問に、おもわず作業の手をとめて返事をする。
私にもし、番がいたら……それはそれで素敵なのだけれど、私にはそもそも婚期なんて存在してないと思うのよね。
出会いもないけど、そもそも私にそんな資格はないと思っているから。

ま、もし番が迎えにきてくれたら、それはそれで面白いわよねぇ……なんて、ちょっと思いつつ、作業のために手元へ視線を戻すと、軽い衝撃とともに不意にその視界が奪われる。


『んん~良い匂いなのに』

『うわっ!いきなりどうした?!手元狂うから!』


いつの間にやら背後に移動していたのか、執務机のチェア越しに抱きつかれていた。
……ピンセットを使いながらの作業だからね?
怪我はいつものことだからともかくとしても、部品がどこかに散らばったりするのだけは避けたい。

そういう考えもあって、抵抗も逃げもできずに、言葉で反応するしかなくて。
ただ、抱きつかれることに関しては、実はそんなに衝撃的な事でもなかったりするわけで。
カイルザークは小さい頃から、かなりの甘えん坊だったし。


『やっぱり、先輩好きだなって』

『はいはい、わかったから……カイはそこの課題を終わらせようか』


いつもより優しく、柔らかくて甘い声が聞こえた。
返答はあったものの、すぐには離れる気がないのか、腕のロックは解除されずに視界の横にふわりとカイルザークの長い後毛が舞うのが見えた。
花の香りが鼻腔をくすぐる……。
ふわふわと背後から風を感じる……しっぽ出てるのかな?見たい見たい見たい。


『ちゃんと聞いてくださいよ~』


他の事に気を取られてる事に気づいたのか、少し悲しげな声とともに、腕から解放された。
他というか、まさにカイルザークのしっぽに興味津々だったわけだけどね!

まぁ、カイルザークは小さい頃からこんな感じの子だったよなぁ、とかちょっと懐かしくなったりもしてたり。

歳が少し離れていたから、私やルークが研究や試験で忙しくなって会えなくなっている間に、気づけば「ねえさま」から「先輩」って呼ばれ方が変わってて、距離が急に遠くなった気がして少し寂しかった記憶が浮かんでは消えていく。


(そういえば、良い匂いって……これって、シシリーわたしが『花』だってカイは知ってたっぽいよなぁ)


今更ながら気付く。
これがルークに『鈍い』と言われた所以なのだろうか?
でも、わからないよ?本当に。

ていうかそうか、私はルークが普通のエルフではなくて、ハイ・エルフだということも最近気づいたけど……もしかしたらカイルザークから見たら、ルークに関してもこの時点で既に『自分よりも格上の種族』に見えていたのだろうか?
じゃなきゃ、私をルークの番と勘違いしないよね、きっと。


(でも、カイルザークはちょっと変わった獣人だった…って……)


ふわりと浮遊感を感じて、景色が遠のいて行く。
あぁ夢から覚めるんだな。
もうちょっと見てたかったなぁ……そう思うと、願いとは裏腹にどんどん頭が覚醒していった。

不思議な違和感とともに。


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