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はじまりはじまり。小さな冒険?
130、血染め。
しおりを挟む赤黒く染め上げられた布の山、私はそれに見覚えがあった。
あれは魔導学園のローブだ。
赤黒いのは……血だ。大量の血。
セグシュ兄様の時よりもずっと多い、血。
……寝ぼけた頭に一気に冷水をかぶせられたように、ぞわりと寒気と共に情報が、シシリーの記憶が、蘇る。
魔導学園のローブ、その大きく裂けた胸元についている千切れた留め具に見覚えがあった。
シシリーのものと同じで……ただし、色が違う。
あれは、外出時に着用するローブにつけるもので、所属とその階級を示していた。
シシリーの研究所の所属を示す留め具……。
千切れたり血に濡れて黒く変色してしまっているけど……濃い藍色の魔石があしらわれた、銀の装飾のついたリボンタイにも見覚えが……ある。
「ねえさま、こわい?」
少し舌っ足らずの柔らかい声と共に、心配そうな顔が間近にあった。
その声で我にかえる。
そうだった、幼児に首にしがみつかれたまま寝転がってたんだった。
感触的には柔らかくて温かくて幸せなんだけどね、どうも離れる気はないらしい。
がっしりとしがみつかれたまま、髪や頰に……可愛らしい顔をすりすりとしてくる。
「大丈夫だよ……ちょっとごめんね」
「なぁに?」
首にがっしりとしがみついている子を、背中をぽんぽんとさすりながら前に移動させて上体をおこす。
そのまま抱き上げつつベッドから降り…ようと思ったんだけど、この子の背中の感触が……えっと、あれ?素肌…?
思わず、二度見のように抱き直した子の背中……というか私の視界からは、後頭部と背中しか見えないんだけどさ。
ふわふわとした長い銀髪とほかほかと柔らかくて小さな素肌の背中……あ、裸ですね、この子。
(ユージアだったらこの状況、大発狂だろうな……)
……抱き上げた時に、腰を支えるために手を添えた時はさらりと…素肌ではない感触だったのに、と思ったら、この子しっぽあるし。
(獣人…?でも卵から出てくることはないよなぁ。獣人は、それでも人に近いから、よほど特殊な種族ではない限りは、哺乳類のはず……)
座り抱っこの状態でベッドの毛布を大きくめくり上げて、ユージアの使っていた枕を退かすと、思ってた通り、着替えが置いてあった。
ユージアには申し訳ないんだけど、まだ袖を通していないだろうし、借りることにした。
(いや、さすがに独身女性の部屋で幼児、しかも男の子用の下着がクローゼットに完備とかだったら、いくら生前の自分とはいえ性癖疑う勢いで、ひくわ……)
この部屋のものは、あくまでも私物であって、研究資材を置いてある反対側の部屋のようなものは置いてないからね。
ユージアには幼児と10代のと、どちらも2セットくらいずつ準備してたはずだから……と思いつつも、そういえばとベッドの足元の方を振り返ると、大きくめくり上げた毛布に挟まって、破けた幼児用衣類の切れ端が見えた。
(……ですよね。着たまま成長すると破けちゃうのね。でもここの制服とかは、結構丈夫な素材の衣類だから、破けるほどの力をかけた身体も痛かったと思うんだよなぁ……つまり、それが気にならないほどに奴隷紋の反応の方が痛かったって事だよね……)
ユージア、ごめんね。
悲しい、怖いってだけで、呼び出すことがないように頑張らないといけないね。
そう思いつつ、着替えをがさがさと探す。
「あった!これ、着ようね。気づかなくてごめんね」
にこりと笑って、ユージアの着替えから下着と初等部用の制服一式をそばに置く。
……ここに幼児用の下着の予備があったって事は、風呂から戻ってきたユージアは、10代の姿なのかな、とか嬉しいような残念なような、なんとも言えない気持ちになりつつ、私にしがみつくようにしていた獣人の子(?)を座り抱っこから下ろそうとするが……離れない。
「やー!抱っこがいい!服いらない!」
首を激しくぶんぶんと振って、拒否された。
あぁーなんか懐かしい光景かもしれない。
風呂上がりの子供たちのような……。
何の開放感からか、着替えを嫌がるんだよね……オムツの子でさえも。
気づかずに脱走されると、また更に大惨事になるという。
「……着ないと風邪ひいちゃうよ?あと……おしり見えちゃうと恥ずかしいよ?」
「隠せるもん!全部隠せるんだもん!」
隠せるんですか!?
こんな小さいのに。
そういや、しっぽと耳の隠し方って、どうやって覚えるんだろうね?
そう感心しつつも、不思議に思っている間にしっぽとケモ耳が消えてしまった。
が、疑問が浮かんで声をかける。
「……こっちも隠せるの?あ、やだ柔らかい!ふにふに~!」
「隠せ……ない。やだっ!きゃあ…あははははっ!やめて~」
ですよね。
隠せるもん!って勢い込んでしっぽと耳を隠してしまったから、余計におしりがぷりぷりで、思わずつついてしまった。
ユージアにもやって怒られちゃったけど、これって子供はくすぐったいらしいんだよね。
つつく私としては、めちゃくちゃ柔らかくて気持ちいい……ある意味ご褒美なんですけど。
抱っこの状態でおしりをつつかれるので、逃げようがなく足をぱたぱたともがき始めたので、再度着替えを促してみた。
「じゃあ、着ようね。隠せるならお着替え手伝ってあげれるよ?」
「うん!お願い」
あら素直。
まぁ、うちの子くらいだったら隠すとか言わなくても、というか恥ずかしいっていう考えがこのくらいの歳では無かった気がするんだけどね。
すっぽんぽんでテレビに見入って踊ってた気がするし。
ユージアはすごく嫌がってたし、こちらの世界の子は早熟というか、精神的な発達がすごく早い気がするから、一応気にかけておかないとね。
それでも……下着をはかせる時にこっそり、というかどうしてもやはり股間に目がいってしまう。
(これ、本当にどうにかならないかなぁ~)
毎度自分の視線に呆れつつも、思う。
子供や孫の時もなんだけど、どうしても目が行っちゃうんだよね。
他意は本当に無いんです。
無いんだけど、なぜか見ちゃうの。
あ、ちなみに本当に隠せてて、何も見えなかった。
むしろ、見慣れていたモノが無い違和感で、余計に見つめてしまったわけだけれど……ごめんなさい。
「はい、よく出来ました~!」
思わず、孫たちを着替えさせていたときのノリで、着替え完了ついでに、ぎゅっと抱きしめて背中をぽんぽんすると、そのまま、またしがみつかれてしまった。
ま、可愛いから、いいや。
さて、と、そのまま抱き上げてベッドから降りてサイドチェアにある血濡れのローブを間近で見ようとすると、ぎゅっとしがみ付く力が強くなる。
「怖い?ごめんね、ちょっと見せて欲しいの」
「……こわくないよ。それ、僕のだもん」
僕の。そう言われて、ぎくりと動きが止まる。
間近で私を覗き込むようにして幼児はにこりと笑うと、再びぎゅっと首に回した腕に力を込めて、顔を髪に埋めるとぽつりと呟く。
「僕の…宝物なの」
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