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はじまりはじまり。小さな冒険?
213、片手杖。
しおりを挟むルークは怪訝な表情になると、私に視線を……ってそうか、フレアの契約者は私だった。
でもごめん、眠くてフラフラで立っているので精一杯。
そもそも普段から暴走中の精霊の考えなんて、全く読めないですよ!という事で、首を横に振って返す。
ま、そうだよね。と、言わんばかりにルークは小さく溜息を吐くと、フレアに向き直って話をつづける。
「どういう事だ?」
『許しなく、私の杖に触れた者がいる…んです。』
触れた……?あれ、杖は…カイルザークの武器と一緒に。
そう思って武器を置いた場所へ向くと、カイルザークが辺りをキョロキョロとし、私を見ると首を横に振った。
ありゃ……武器を物色してたのは、さっきの団員さんだけじゃなかったのね。
国の中枢である王宮に出入りできる『信用できる』はずの人たちしかいない中での、これは……とんでもない不祥事だよなぁ……なんて、ほとんど眠気で回らなくなった頭に浮かぶわけだけれど。
「……ハンス、どういう意味だ?」
「そのままだ。セシリア嬢の杖を懐に入れてしまった者がいるそうだ」
カイルザークは自分の武器を一つ一つ手に取っては『鈴』でしまうと、こちらへ戻ってくる。
(……私も『鈴』で呼び寄せれば、誰かが盗ってしまったとしてもそのまま戻ってくるわけなんだけど)
戻ってきたカイルザークに、さっきまでみたいに手を繋がれると「少し様子を見よう」と耳元で囁かれる。
「おいっ!セシリアの杖を知らないか?」
父様がそう確認を取るも、誰からも反応はなかった。
片手杖だからなぁ……カイルザークのレイピアみたいな武器ならともかく、片手杖は30センチから50センチ程度しかない。
実用性重視で作ってもらったから、飾りのようなものがほとんどない、楽団の指揮棒のような見た目をしていた。
疑ってしまうのは良くないことだけども、魔術師団員達はローブを羽織っているし、隠し持つことは簡単なサイズだ。
「……では、許可しよう。もっとも私の部下に盗人が居たら、大問題だが」
『セシリアのためだけに作ったのに……』
「セシリアも、どういう事だ?あの杖はどうやって手に入れた?」
「えっと……フレアから、もらいました」
「まさか…『精霊の杖』かっ……!おいっ!娘の杖を盗ったのは誰だ!?命に関わるから、いますぐ返すんだっ!」
……置き忘れても『鈴』をつけてあるし、呼べば戻ってくるからと思って油断してた。
ほら『鈴』の開発理由がそもそも『戦闘中に何らかの理由で手から離れてしまった武器を、すぐ手元に引き寄せたい』これが目的のものだから。
(いや、測定のために置いただけで、放置はしてないぞ?……でも、カイルザークは自分の武器が物色されていた時点で気付いて怒ってたのに、私は盗まれても気づけないなんて、持ち主失格かな……)
うーん、そもそも、王宮内で盗難に遭うって事自体があってはならない事だから。
武器を置けと言われて置いたら、預かってくれているはずの団員から物色されていたのでカイルザークも怒ってたわけだし。
魔術師団って騎士団員だからね……治安維持をするはずの職が治安を乱してどうするんだって話なんだけど。
しかし、どうしようかな?
フレアは犯人を捕まえたいみたいだけど、杖自体は『鈴』で呼び出せば難無く取り返せるとは思う。
……でも今、取り返しちゃったら証拠にならないのか。
(個人的には犯人を探し出す事より、さっさと杖を取り戻したいんだよなぁ。一瞬でも他人の手に渡っている事こそが、物凄く不快だから)
盗難防止策という意味では、大杖……あれだ、ユージアに貸してしまったけど、私とカイルザークを潰した杖!あの2メートル近い杖と同じように、盗難防止の細工はしてあるけど……。
(あれはそもそも、杖を使おうとしなければ発動しないからなぁ)
使われる前に返して欲しいから、これはそもそも発動するような状況になって欲しくない。
あとは……持ち主の魔力に馴染んだ杖なら、多少離れていても遠隔操作ができる。
……出来る。けど、私の魔力が0だったわ。
魔力切れだから、ふらふらで眠くて、まともに歩けなくなってたのでした。
(そもそも馴染んでいるのはシシリーの魔力であって、セシリアのではないから、『鈴』はシシリーとセシリアは同一と認めてくれていても、杖はどうなんだろう?そういう意味では確実な手にはならないなぁ)
どうすべきか、半分夢の中の私に名案が浮かぶはずもなく。
ちらりとルークに視線をやるとこっちもカイルザークと同じように、無表情のまま「何もするな」と、小さく首を横に振られてしまった。
取り返すだけなら簡単なのに…!
こういう交渉は、場面は…というか人がどうにも苦手で、どう動いていいかわからない。
怖いから『鈴』でさっさと回収して終わらせてしまいたい。
必死な顔で自分の部下たちである魔術師団員に、セシリアへと杖を返すようにと声をかけながらも辺りを見回し杖を探している父様と、それを視界に入れつつもじりじりと怒りのオーラがにじみ出てきているフレアと。
(……私はどうしたらいいんだろう?今できる最善の行動は?)
エルネストとレオンハルト王子は、父様の尋常ではなく焦る様子に固唾を飲んで見守る、と言った感じで微動だにしていない。
カイルザークは自分の武器と私の杖が置いてあった場所と数名ずつのグループに分かれて集まっていた魔術師団とを交互に、じーっと見つめている。
何をしようにも、魔力切れの状況では魔法を使っての対応は難しく、自分で動いて……と思っても、そもそも身体も魔力切れの影響で限界……ってよちよち歩きになってるからどうしようもない。
「セシリア、こっちにおいで」
頭から煙が出そうになっていると、今まで気持ちよさそうに昼寝中だと思ってたゼンナーシュタットの声が聞こえた。
……まだ眠いみたいで、すごく気怠そうな声だったけど。
「なぁに?」
「いいから、おいで」
そっちまで歩くの、大変なんだよ?
杖も、フレアも心配なのに……そう思いつつ、よたよたとゼンナーシュタットのそばへと移動を始める。
うん、少し回復してきてるのかな?微妙に赤ちゃん歩きからペンギン歩きに進化した気がする!
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