私は「あなたのために」生まれてきたわけではありませんのよ?~転生魔法師の異世界見聞録~公爵令嬢は龍と謳う。

まゆみ。

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はじまりはじまり。小さな冒険?

214、春眠。

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「あっ……!ぶっ!」


……でも、やっぱり膝はかくかくで、足元の芝生の隙間から、少しだけ顔を出していた林檎の根に足をとられてしまった。

転んだ!と思った瞬間、まぁ見事に転んだけど、もふもふのゼンナーシュタットの前脚が伸ばされて、その上に転がり込む形となった。


「セーフ!…もうちょっと、こっちにおいで」

「ゼン、ありがと……」


四つん這いの状況で何とかゼンナーシュタットの側に移動していく。
……自力で立ち上がれないんだもん。しょうがないよね。


(芝が綺麗に生い茂っているし、そんなにドレスは汚れていないと思いたい……セリカごめん。でも、このドレスのチョイスは大正解だったよ!動きやすさ万歳!)


そう思いつつゼンナーシュタットの間近まで近づくと、お腹に手を回される感触があって身体がふわりと浮き上がる。
この腕の主は……と考える間もなくゼンナーシュタットの前方、襟毛に寄りかかるように座らされる。


『うん、ここなら安心。……セシリアをお願いします』


私をゼンナーシュタットの襟毛…つまり肩口まで運んでくれたのは、先ほどまで怒りのオーラを滲み出させていたフレアで。

フレアはにこりと笑みを浮かべ私の頭を撫でると、離れていってしまう。

追いかけなくちゃ!と上体を起こしかけたところで、ゼンナーシュタットの大きな前足で抱え込まれてしまった。
……今の状況を簡単に言えば、ゼンナーシュタットは猫の香箱座り…の前足が少し崩れて前に迫り出したような姿勢になっていて、私はその崩れた腕に抱え込まれている。


「セシリア、もう…ふらふらだね。少し休もうよ」

「でもっ……!」

「ほら、あくびも出てるよ?ふふっ」


うん、まさに拷問のような状況なんですけどね。
ゼンナーシュタットという、ふんわりもふもふの柔らかくて温かい、極上のベッドに寝転がされて『絶対に寝るなよ?』と言われてる状態なのですよ。

止めには行けなくとも、せめて成り行きだけは見届けたい!と、私を抱える前足を押し返して、この極上お布団状態のもふもふから抜け出そうとすると、ゆっくりと視界が斜め上に……って、ゼンナーシュタットが香箱座りからさらに崩れて横に転がる。


「……セシリアは1人で頑張りすぎだよ。さっきも怒られてたでしょう?」

「フレアが……」

「大丈夫だよ」


完全に抱え込まれた上に、真横にゼンナーシュタットの顔がおりてきた。
こうなってしまうと、ほかほかふにふにの肉球とふわふわの温かな毛並みに抱えられて、さらに毛布のように立派な襟毛が毛布のように被せられて……うん、完敗ですね。


「たまにはみんなにも頑張らせてあげてよ。セシリアがみんなを守りたいと思っているのと同じくらいに、みんなも、キミを守りたいんだよ?」


普段であれば、もふもふしまくりで天国なんだけど……魔力切れで全身の脱力と猛烈な眠気と戦っていた私の身体は、ゼンナーシュタットへの返答すら出来ない勢いで、急激に意識が遠のいていった。

林檎の甘い香りが漂う、木漏れ日の下でお昼寝とか……幸せすぎるよね。
もう、完全に身動きも何も出来ないけれど、これが、心配事の何も無い時であったならと願わずにはいられなかった。






******






「……ゼンってさ、セシリアを寝かすの、上手だよね」

「環境だろ?…ここの木陰、昼寝に最適だと思わないか?」

「確かに。気持ちよさそうな寝息が聞こえるよ……」


……よたよたと危なっかしい足取りで、真っ白で巨大な猫へと歩いて行ったセシリア。
案の定だけど、その手前にせり出していた木の根に足を引っ掛けて転んだ。
あ!と思った瞬間、大きな猫が両手を伸ばして、受け止めた。

立つ気力も無いのか、そのまま這うようにして進み始めたところを、フレアが抱き上げて大きな猫の立派な襟毛のある首元へと、座らせていた。

……僕は、そのままセシリアの動きが見えなくなってしまったので、心配になって様子を見に来たのだった。


(まぁ、巨大な猫……ゼンナーシュタットこんなのに抱えられてる時点で、命の危険はないと思うけど……)


セシリアはゼンナーシュタットを王宮で飼われてる珍しい霊獣だ、と僕に紹介していた……。
あぁ、まぁ……霊獣といえば霊獣なんだろうな。
ただ、そこらの霊獣とは桁違いの魔力を持ってたりするから、霊獣よりはせめて神獣くらいには言ってやればいいのに。

周囲の誰もがあえて訂正しないあたり、大した問題でもないんだろうな?と思う……思っておく。


「木漏れ日を見上げるなんていつぶりかなぁ……」


僕もゼンナーシュタットの首元に転がり込んだ。
なるほどこれは……気持ち良い。
密に生え揃っている純白の長い毛足はとても柔らかくて、寝転がると深く沈み込んだ。
暖かい春の陽気に、ほどよく花弁と遊びながら香る春風。

僕でも眠くなるんだ、魔力切れで限界をすでに超えていたセシリアが抵抗できるわけがない。


「大人たちが騒いでるうちに僕も寝とくよ。寝心地良さそうだし」

「……僕を毛布か何かと勘違いしてないか?」

「寝袋…かな」

「扱い……ひどっ」


ゼンナーシュタットが深いため息を吐く。
本当は、色々と…そう、色々と話してみたいことがあったんだけど。

冗談ではなく、眠い。
どうやら、魔力等の数値的には以前ねるまえと変わらない感じだったけど、若返ったちぢんだ分、子供の特性まで…いや、本当に身体が幼児化している、ということで間違いないようだった。

つまり、魔力の消耗はそのまま体力の消耗と直結している、という事になる。
しかも……その消耗は、魔法を使った方がより多くなって……と、考えてるそばから大きなあくびが出る。


「……まぁセシリアの様子を見に来たついでだよ」

「ついでで寝るなよ?」

「ゼン温かいね…僕も久しぶりの魔法で疲れちゃったんだよ。おやすみなさい」

「まじで寝やがった……」


だって、ここなら絶対に安全だもの。
そう答える前に、すとんと意識を失った。

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