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はじまりはじまり。小さな冒険?
216、水球。
しおりを挟む「想定していたよりも、多そうだ」
「そうなのよねぇ…私も争いは好まないのだけど。彼らの狙いが王族とその守護龍、ここまでなら私は傍観でもよかったのに。……ほら、そこは守護龍のお仕事だもの」
話している内容とは不釣り合いなほどに晴れやかな笑みを浮かべて、ゼンナーシュタットに近づくと、その背で熟睡中のセシリアとカイルザーク、そしてシュトレイユを順に愛おしそうに撫でていく。
「でもね、そのリストに我が子の番の名まであったのよねぇ。とても心配だから、見に来てしまったの……このまま安全な場所へとも思ったのだけど、反乱分子の一掃が目的なのよね?」
「そうなります、ですので……」
父様とルーク先生、そして女性の会話が続いていくが、いまいち理解できない。
ひとつだけわかったのは『我が子の番が心配で様子を見に来た』のだからきっと……。
「エル、あれは守護龍の奥方だよ」
レオンハルトの小さな声を耳が拾った。
「教会からエルやセシリア…それにユージアを助けた時に、悪い人たちがいっぱいいたから。それを捕まえまくってるんだけど、いっぱいすぎて全部捕まえる前に、お城が襲われるかもって話を……してたんだ」
振り向くと、今にも泣きそうに顔を青ざめたまま俯いているレオンハルト。
「父様と母様が……無事で、よかった」
「ごめん…僕が…」
助けられてしまったから。
きっと、僕たちを助けるために、教会が隠していた、外部に知られてはいけない部分まで…暴いてしまった結果なのだろうと思った。
それくらいに教会の影響力は大きい。
僕の暮らしていた里の近くにあった人族の村にも教会があって、村に何か問題が起きると、村長と教会とで話し合って方針を決めていた。
……統治しているはずの領主ではなくまず一番に教会と。
教会は村長以上に地域に根付いていることが多い。
それぞれの住民の家庭の事情まで把握しているからこその、生活に基づいた誰もが納得できる公平な意見ができる。
そこから得られる信頼や安心感、その存在の大きさは計り知れない。
そんな……大きな存在を敵に回さなくてはいけない状況を作ってしまったとしたら。
少数を助けたために、これから多勢の血が流されるとしたら……その考えを肯定するかのように遠くから聞こえてくる金属の擦れる音を耳が拾い、背筋を冷気が駆け抜けていった。
「あっ…!エル達が悪いわけじゃないんだ!……エルが助かってくれたからこその今なんだ。たくさんの悪い人達を見つけられたから、同じだけ、助かった人たちもいっぱいいるんだ。見つけたらもう、悪さはさせない!だからっ!これ以上悲しむ人が増えないためにも…必要な事、だから」
「あーエル?エルが悪いなら、僕もセシリアも相当悪い子なんだけど……」
レオンハルトが焦りながらも必死にフォローをしようとしてくれている傍で、ゼンナーシュタットが少し遠い目になりながら、ボヤくと、父様までもため息を吐いて軽く首を振っている。
「……ゼンとセシリアは…事の発端だから、2人にはまぁ…少しは反省してもらいたい点もあるが。元々、教会は悪い事をしていても証拠がつかめなくて罪に問えなかった者達が多かったから、こうやってはっきりと『悪者です』って動いてくれた方が一掃できて、ありがたくはあるんだ。……だから、エルが気に病む事じゃない」
「優しい、良い子ね」
守護龍の奥方が、ふわりと笑うと頭を撫でる。
優しくなんてない。今までは自分が生き延びるだけで精一杯だったのだから。
精一杯だったからこそ、しっぺ返しや巻き添えにならないように相手に遺恨を残さないようにと考えてしまうだけだ。
全然、良い子なんかじゃない。
「今は、助かったことを素直に喜びなさい。大人になった時に、同じ思いをする子がいない国に出来るように、今の全てを糧として、しっかり学びなさい」
優しい声に重なるように耳に入る、足音と怒号混じりの金属の擦れる音が先程よりも着実に近くなってきている事に恐怖を感じ、顔を上げると「大丈夫よ」とまた、頭を撫でられた。
「……さぁ、もうすぐその悪い人達がここにも到着するわよ」
守護龍の奥方の声に反応するかのように、周囲に残っていた魔術師団員が杖を構え始める。
父様も杖を、ルーク先生は長剣を構えていた。
これが、単なる模擬戦、訓練の一環であってほしいと思わず願ってしまう。
果樹や背の高い木々に囲まれた中庭へと、転がり込むように現れた一陣は…その鎧を鮮血に染め上げていて、これが実戦であると、そして狙われているのが自分たちであるという事を再確認させられてしまった。
「ぼ、僕も、手伝います」
そう言うとレオンハルトが、剣の束に手をかける。
その声も手も震えていた。
「そうね、では王子もエルネストもこちらへいらっしゃい」
守護龍の奥方に呼ばれて近づくと、ドレスの裾に隠れるようにしがみ付いていた、小さな子……セシリアと同じくらいの女の子が無言のまま両手を伸ばす。
「この子と手を繋いで、3人で水の大きな塊を作ってほしいの、なるべく早く、ね。……王子、剣では力負けしてしまうけど、あなたの魔力は十分な戦力になるわ。だからこちらを手伝って?」
「は…はいっ!」
女の子の手をとると、急激に身体の力が抜けていくのを感じると、みるみるうちに眼前に大きな水球が出来上がっていく。
どんどん大きくなる水球は、すでに大人の背を追い越し、背の高い庭木に届く勢いで……その成長とともに、立っていられないほどの倦怠感に襲われ始めていた。
……魔力切れが近いって事なのだろうか?
さっきは笑ってしまったけど、セシリアもこんな感じだったのかなと考えていると。
「下がって」
その言葉とともに、すごい力で引き寄せられて、ゼンナーシュタットの足元へと転がり込んでしまった。
「……ぁぁあああああああああっ!」
引き寄せられた、のではなくて2人とも同時に後方へと放り投げられたような状態だった。
何事かと思い立ち上がろうとするけど立ち上がれずに、どうにか状態を確認しようと視線だけでも水球へと向けた瞬間、どんっ!という衝撃音とともに今度は大量の水に襲われることとなった。
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