私は「あなたのために」生まれてきたわけではありませんのよ?~転生魔法師の異世界見聞録~公爵令嬢は龍と謳う。

まゆみ。

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はじまりはじまり。小さな冒険?

217、飴玉。

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「え…なにっ?」

「うわっ!」


急接近してきた叫び声とともに頭から大量の水を被り、陸にいながら溺れる感覚の後、即座にすーっと水が引いていく。
恐ろしいほどの倦怠感に襲われながら、弾けた水球の辺りを見回すと、そこには空を見上げて仁王立ちをしている緑色の髪の……ユージアがいた。あれ?


「……はぁ…死ぬかと思った…風の乙女シルヴェストルおぼえとけよーーっ!!!」

「ユージア……?」

「あ…はい……ユージアです。えっと、エル……朝ぶり?」


立てる?とユージアに持ち上げられるように、立たせてもらうも……どうにも身体が疲れ果てていていう事を聞かずにふらつくので、ゼンナーシュタットの元まで行くと、寄りかかるようにして座った。
被毛に沈み込む感覚が心地よい。
レオンハルトもユージアに抱えられて、隣に座らせてもらっていた。


「すごいね、2人とも。もう魔法、使えるようになったんだ?」

「使ったっていうのか?」

「あの子を……手伝っただけだよ」

「……!」


あの子。と、龍の奥方と一緒に現れた女の子は、自分が話題に上がっていることに気づくと、さっと奥方のドレスにしがみつくようにして隠れてしまった。


「はじめまして?……びっくりさせちゃったかな?」


ユージアは女の子の隠れてしまった方を向いたまま、首を傾げていたが、ふと、視線をゼンナーシュタットの背で寝ているセシリアとシュトレイユに気付くと、素っ頓狂な声を上げた。


「って、どうしたのこれ?……ゼン、何してんの?」

「寝袋からベッドになった感じ?」

「いや、訳が分からないから……授業にしては随分血生臭い訓練してるんだね?」

「それ、真面目に言ってる?」


ゼンナーシュタットはジト目になってユージアに聞き返している。
実際、春の暖かな昼下がりに満開の果樹から舞う花吹雪の下とか、昼寝やら散策にもってこいの場で、子供たちが気持ちよさそうに寝ている。
……その背景では、父様やルーク先生、そして魔術師団員が命を賭けた戦いをしているわけだけど。


「んなわけないでしょ?僕のところには暗部までいたよ!ていうか、来たよ?!教会の上層部は解体されたんじゃなかったの?」


今度こそ死ぬかと思ったからね?!と、訴えるユージアを真剣な眼差しで見つめているレオンハルト。


「……ユージアは、その姿なら戦えるのか?」

「ん~…戦わない。邪魔にしかならないもん」

「僕なら、戦う。……戦いたい」


そう言うとレオンハルトは、なんとか立ち上がろうとするが、足が全く言うことを聞かないようで、悔しさを滲ませていた。
その様子を見ると、ユージアはふわりと優しげな笑みを浮かべてポケットから手を出して、レオンハルトの眼前へと差し出した。


「もしもだけど、あの化け物2人組と同じくらい僕が強くても、僕は参戦しない」

「なん、で…?」

「え?だって、何のために戦うの?目的は?」

「それでも動けるならっ」


涙目になって必死に訴えるレオンハルトの眼前で広げられた掌には、星型の可愛らしい飴玉が乗っていた。
少しだけど楽になるから。と、口に詰め込まれた。僕まで……。


「それ、城下町で流行りの飴菓子なんだって。なめてると味と色が変わって行くそうだよ」


にこにことしながら、龍の奥方のドレスの裾に隠れている女の子にも、飴を乗せた手を差し出すと、今回は逃げずに受け取ってもらえたようでにこにこしながら戻ってくる。


「ゼンは……一粒じゃ足りないかな?」

「そうでもない……ちゃんと味わえるよ?」

「面白い身体してるのね?」


そう言いつつも、開けられたゼンの口へと数粒の飴を放り込んでいた。
そんな中でも、レオンハルトは立てるようになり次第、あの戦闘の輪の中へと飛び込んでいきたそうに、強い焦りが浮かんでいた。


「ねぇ王子、ボードゲームってやったことある?僕も今朝知ったんだけど……」

「今はゲームの話なんて……!」

「たかがゲームなんだけどね、戦略の立て方を培う良い訓練になるゲームが多いそうだよ。そしてどのゲームもさ、王様は安全な場所から動いちゃいけないんだよ。兵隊がどんなに強くたって、王様が討たれたらゲームオーバーだから」


にこりと笑う。そんな笑っているユージア越しに、戦闘中である父様とルーク先生の背が見え隠れしていた。
血を流して倒れている者も数人見える。
ただ困った事に、どちらも騎士団、魔術師団の鎧やローブを身につけており…というか、どちらも本物だし、さらには見事に乱戦となっていて、僕からはどちらが味方なのか正直見分けがつかない。


「ねぇ、僕たちが戦って負けたら?人質になっちゃったら?あそこで頑張ってる騎士団員達はどうなるんだろうね?って考えてみた?」

「あ……でも…!」

「みんなが…それも自分のために戦ってくれているのに、自分だけ何もできないのが歯がゆいのかしらね?」


龍の奥方が、父様達の戦闘を見つめたままで、呟いていた。
確かに焦る気持ちもわかるんだ。守られるだけというのも居心地が悪い。
でも……。


「僕たちがここで守られているから、あの化け物おやじたちが戦いに集中できるんだ。足手纏いにならなかったとしても、ここから僕たちが出るだけで、彼らは僕らの安全を確認しながら戦わないといけなくなるから、戦いに集中できなくなる。……気が散って、負けてしまうかもしれないよ?だから、手伝いたいと思うならここから出ないのが一番の手伝いなんだよ」


そう言いつつ、片手に抱えていた杖で地面を軽く突く。
しゃん。と鳴った杖を見ると、一瞬光が広がっただけですぐに消えてしまった。


「そうだなぁ…後方支援なら……って、うん、無理かなぁ。2人とも、そもそも動けないでしょ」

「えっ…あれ?なんで。身体が、さっきよりも重いっ!エルは大丈夫か?」

「あぁ……魔力切れだ、多分」


思わずちらりとセシリア達をみる。
魔力切れで疲れて歩けなくなって、笑ってしまったけど、頑張って属性の測定を受けていた。
まぁ今は、結局耐え切れずに寝てしまっている。

僕も身体がとても怠くて、眠くて……同じ症状だと思った。


「さっき、水の魔法で僕を助けてくれたでしょう?あれだって立派な後方支援だよ。でもまぁ、今は……無理かな。ここにいるのみんな魔力切れじゃん」

「ユージア…は?」

「ん?僕も魔力切れ☆」


えへへ。と、笑ってみせる。
……笑ってる場合ではないと思うんだ。


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