私は「あなたのために」生まれてきたわけではありませんのよ?~転生魔法師の異世界見聞録~公爵令嬢は龍と謳う。

まゆみ。

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はじまりはじまり。小さな冒険?

235、怖くて固まる。

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セグシュ兄様とユージアがフォローをしてくれてるけど、結局は契約の継続をしている以上、何を言ったってセシリアわたしが悪いのは分かってる。
奴隷契約の内容だって、ちゃんと双方で納得の上で締結されるけど……それでも奴隷は奴隷である。
身分は契約主と奴隷だ。
魔法での制約や強制力までついてしまうのだから、平等なんてあったもんじゃない。


「……まぁ、フィリー?ひとまず落ち着こうか。ユージア君はね、少し込み入った事情があって、公爵家うちで預かることになったというのは聞いてるかい?」

「えぇ。それでも奴隷だなんて!」

「それなんだけどね。その事情の絡みで一時的に契約を結んだのを、そのままユージア君が解約したがらなくて今に至ってる。セシリアが何かしてるわけじゃないんだよ。執事としての身分も、ユージア君かれが望んだことだから。これに関してもハンス先生から許可はもらってあるんだ。社会勉強が必要だからってね」


ヴィンセント兄様が説明をしてくれている。
……本当は私も、参加しなくちゃいけないのに。私の口から説明したいのに。
涙と震えで何もできない……子供の感情って面倒だ。

危ないことをイタズラしようとしている幼かった息子や孫を、焦って大声で叱ったときのあの顔……普段ならすぐに「うわーん」って涙ポロポロと流しながら泣いてしまうのに。

ハイハイ前の赤ん坊でも、あまりにもびっくりしてしまうと顔を真っ赤にして、唇を噛み締めて大きく目を見開いて…そんな表情をしたまま、少しの間、固まってしまうのだ。
今のセシリアわたしも多分、これ。

子供達の可愛らしい笑顔よりも、ずっと鮮明に記憶に残っている表情だ。


前世で息子の、その表情を初めて見たときは、私もびっくりして。
「ごめんごめん」とあやしていると、ふと力が抜けたような表情になったあと、いつものように泣き始める。
もしかしてこれが『ひきつけ』というやつなのか!と思って、定期検診の時に医師や保健婦さんに相談したら。


『よほどびっくりしたんだろうね。赤ちゃんってよく泣くでしょう?そうやってママに自分の欲求や保護を求めるんだけど、逆にその泣き声で自分の身を危険に晒してしまう場合があるっていうのも知っているんだよ。ママの必死の声に「外敵に見つからないように静かにしなきゃ!」って頑張ったんだね』


……確かに直前に、普段は出さないような大声をあげてしまったんだ。
息子の時は……つかまり立ちもまだの子が、何故か柔らかな畳の部屋から脱走した上に、上がり框あがりかまちギリギリの場所で……えっと、土間から上がった床張りの段差の近くで、みりんの一升瓶につかまり立ちをしていたから。

床張りの上で転んでもかなり痛いだろうけど、さらに恐ろしいのが、土間に転がり落ちたらという事。
……土間、つまり床部分が地面というか土と石畳の上に段差もしっかりあるので大怪我します。


(床部分と土間との段差が大人の膝下より少し高いくらいある構造で、まぁ昔によくある沓脱ぎ石土間のあるお家だからね)


そもそも、みりんの一升瓶だって赤ん坊の体重を支えれるほどに重くはないし、形状的に不安定で確実に、転倒する。
瓶だから割れるし。

『そんな場所に置いたのが悪い!』当たり前のことなんだけど、直前に酒屋さんに持ってきてもらったもので、しかも、私も子供がやっと寝てくれたからと、土間にある調理場キッチンでご飯の支度をしようとしていたところだった。

気をつけていたのに、子供が脱走しないように柵も取り付けてあったのに、いろいろな偶然が重なっての悲劇。

その時の私は靴ではなくて普段使いのつっかけ・・・・をはいて、調理中。
そもそも出産時に痛めた腰が1年経とうとしていたのに未だに治っておらず、移動は壁を伝いながら歩くので精一杯だった。
そして、息子のいる位置は私のいる位置とは正反対の壁側で、走っても助けるには間に合わない距離で。

段差ギリギリの位置に、ぐらぐらするみりんの一升瓶につかまり立ちをしている息子がふと目に入り……あまりのショックに自分でもびっくりするような悲鳴じみた叫び声が出た。

すると、息子はあの顔になり……すとんと後ろに尻餅をついたまま固まっていた。
……真っ赤な顔で涙を滲ませた目を大きく見開いて、小さな唇を強く強く噛み締めて。

息子の手を離れて、バランスを失ったみりんの一升分は、ぐらりと土間へ落ち、大きな音を立てて、割れた。

あれが我が子だったら……一緒に落ちていたら……。

まさに心臓が止まるかと思った一瞬だった。

必死に息子に近づくと、息子を抱きかかえた。
その直後にしくしくと息子が泣き出して、ほっとしたのか私も腰が抜けてしまった。
少ししたところで、悲鳴と何かが割れる音に驚いた、お隣のおばあちゃんが様子を見に駆けつけてくれて、手当てをしてくれた。
……私の。

割れたみりんの瓶の破片が散らばる上を、つっかけをはいてたとはいえほぼ裸足で歩いてしまったから。
しかもその上に腰が抜けて座り込んじゃったからね。

いまだに思う。みりんの一升瓶はすごく丈夫にできているのに、それが割れてしまった。
そんなところへ、息子が落ちなくてよかった。

本当に、怪我をしたのが息子ではなくて良かった。


(昔の事なのに……思い出しただけでも涙がにじむ。私も怖かったけど、そんな形相で怒鳴られた息子はもっと怖かっただろうな)


ふと、前世にほんでの出来事を思い出して、余計に涙が出てきてしまった。
何してるんだ私……。

そろそろ落ち着き始めてきていたのに、また涙が溢れて出してしまって『大丈夫、大丈夫』とセグシュ兄様に背をポンポンと叩かれる。
相変わらず優しい花の香りがする。


(……って、そういえば今日、兄様は婚約者と衣装合わせに行ってたんじゃ……婚約者は無事なの?)


この破れたこのドレスシャツも……お出かけ用だよね?
あぁ、でもフィリー姉様の護衛で大怪我をしかけたって言ってたし、帰宅後だったのかな?

そういえばフィリー姉様も……。

うん、少しずつ周囲の状況を考え始めたら、思考、という意味ではなんとか落ち着いてきた。
けど……泣き顔のまま復帰するのもなんかイヤだ。
止まりつつある涙にほっとしつつ、周囲の会話に耳をすますと、まだ奴隷紋についての問答中だった。


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