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はじまりはじまり。小さな冒険?

240、ルナとフレアとユージアと。

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これはユージアの素なのか、3歳児ようじならではの反応なのか判別がつかなくて、困ってしまう。
見た目が10代のお兄ちゃんだからなぁ、見た目通りの年相応の言動や行動として見てしまいそうになってしまうのだけど、ユージアは3歳児、3歳児……と頭の中で言い聞かすように繰り返す。

……見た目通りのお兄ちゃんっぽい反応や会話も、面白いかもしれないけどね。
今は、年相応の反応を心がけていきたい。
だって、一緒にちゃんと成長していきたいから、背伸びさせる必要はないよね。

3歳児の時とは違う、強目のさらさらの髪を思う存分撫でていると、いきなり腹部に衝撃を受けた。


「やっぱり好き~」

「うぐっ……ちょっ…ユージアっ!く、くるしい!!」


相手は3歳児だ……にしても体格差が大きすぎるよね。
力一杯、ぎゅううっと抱きしめ…いや、締められてるっ!
息ができないよ。物理的に。

ぐおおおおっとつぶされないように必死に抵抗する。
潰されたら……おにぎりとかおにぎりとか…出ちゃうからねっ!?


「ずっと、一緒がいい……」

「くるしいからっ!!…ちょっと、やさしくしてっ!!!」

「あ…うん……ごめんなさい…って、セシリア…?」

「はぁ…くるしかった……」


ふぅ…。と大きくため息をつく。食事直後で苦しいんだからね?!
苦しさも落ち着いたので、私を抱き締めたままで不思議な顔をして固まっているユージアへと顔を上げる。


「で、なぁに?」

「お腹が……なんかここら辺が」

「うん?」


ここら辺。と言いながら、私のお腹をうにうにと押す。
ちょっと!苦しいからっ!


『ぽっこりしてるよね…いつもより』

「なんか、柔らかいはずなのに……ぽんぽん?ぱんぱん?」


ちょっと硬いんだよね…とか言いながら、不思議そうな顔をしているユージアと意地の悪そうな笑いを浮かべつつのルナとが、お腹を押してくる。


『食べ過ぎでしょ……セシリア…その姿なりで、どれだけ食べてたか覚えてる?大人と同じだけ食べてたでしょ……』


呆れた様子のフレアの言葉に、思わず自分の足と先ほど食べていたおにぎりとケーキとを……比べる。
うん、食べ過ぎだった。
……でも、美味しかったから後悔はしないっ!

あ、足の大きさってね、胃袋と大体同じ大きさなんだって!だから、ミルク卒業後の子供のご飯の適量がわからなかったら、足の大きさを参考にするんだって教えられてきた。
まぁ育児なんて、数年すれば全く違う教え方になってしまうから、今時のお母さん達には通じない話題かもしれないけれど。

という事で、セシリアわたしの胃の中には適量と言われている自分の足の大きさの……3倍くらいのおにぎりが……!そりゃ苦しいわ。

ちなみに、お腹がぽんぽんになる程食べるってのは、どうみても……食べ過ぎです。
文字通り吐くまで食べる、みたいな状況なので…押されると吐くよ?


「可愛すぎ…!」


いい加減、お腹押すのやめてよね?!と、手を払っても、にやにや笑いのルナがしつこくお腹をつついてくるので、必死の攻防を繰り広げていたら、またユージアに抱きしめられてしまった。
ぎゅっと抱き寄せられて、頭に頬擦りをされている……。

それは良いんだけどね、うん、イヤじゃ無いし、落ち着くし、良いんだけどね。


「ユージア、はく。はいちゃう…おなか、おさないで……」

「うわっ!ごめんっ!!!」





******





そんなこんなで、一息ついたあと、ユージアに抱っこされたまま、みんなのいる部屋に戻った。


「落ち着いたか……?」

「たぶん…?」


ルークの声にほっとして……返事を返したのだけど、そこはかとなく視線が少し下に感じて……にやりと笑むのがわかった。
これは、キッチンでの会話、聞こえてたな?

まぁ良いや……ひとまず、今は部屋割りの話をしてたようだった。

この部屋はさすがと言うかなんと言うか、古代の魔道具アーティファクトなだけあって、可変式の部屋だそうで……よくよく見ると先ほどは大きなフロアだったのに、今は部屋の真ん中に大きな仕切りの壁が出来上がっていて、ベッドが増えていた。
先ほど部屋の中央に1台だけあった大きなベッドが仕切り壁を挟んで、左側に2台、右側に8台並べられ、それぞれの枕元付近には小さなチェストとサイドテーブルのセットも置かれている。


「それぞれ個室にしても良かったのだが……子供の数が多いから、警戒も兼ねて仕切る程度に抑えた」

「それで良いわ」


ルークの説明に『それにしてもどうなってるのかしらねこの部屋?』と言いながら、チェストを触ったり、壁の感触を確かめて『本物だわ』と面白がっているフィリー姉様。
どうやら、見る間見る間に壁が出来上がるわ、ベッドが姿を現すわと、おとぎ話に出てくる魔法のように、何も無い場所から家具や壁、内装から飾り棚までが、元からそこにあったかのようにすーっとセットされていったらしい。


「……そういえば、ハンス先生はここの出入りもですが、部屋の管理も王族では無いのに可能なんですね?」

「ああ、ここの使用権限は『王族の血筋』と『私』だからだ」

「それはどういう…?」

「正確には『中央公国の王家の血筋』と『私』だな」

「すみません、余計に訳が分からなくなりました……」


降参です。と肩を竦めて笑うヴィンセント兄様。
中央公国……シシリーが生きていた頃にあった王国で、それこそ魔導学院のあった場所の真上に王都がある。あった。
魔導学院が地下施設だったので、その真上、地上部分に建てられたのが中央公国だった。


(そうだよね、ルークは中央公国で騎士団に所属していたし、爵位を賜っていたのだもの。私の研究室の『王専』だって、中央公国の王族専門という意味だったのだし)


というか、シシリーわたしが知っている限りでは、ルークがメアリローサの爵位を賜っていたという記憶はなくて、どこがどうなったら今、メアリローサこの国の辺境伯なんて事になってるのか?とても不思議だったのよね。
これはきっとシシリーわたしが死んだあとのお話だと思って、しっかり聞こうとルークの言葉を待った。


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