私は「あなたのために」生まれてきたわけではありませんのよ?~転生魔法師の異世界見聞録~公爵令嬢は龍と謳う。

まゆみ。

文字の大きさ
309 / 455
はじまりはじまり。小さな冒険?

309、side カイルザーク。1日の終わりに。 side セシリア。梅の香が気になって。

しおりを挟む



あれから……寮へと戻る準備をした時から、実際帰宅できたのは1時間も後で。
睡眠時間の確保どころか、通常であればそのまま朝食を取って授業へと向かう時刻となっていた。
……書類の整理を手伝うつもりで、お休みをとっておいてよかった。


違う理由からの精神的にも体力的にも疲労困憊で、シャワーもそこそこにベッドに倒れ込んだ。


(今日はしっかり寝よう。思いっきり寝過ごそう!)


そう思いつつも、今日あった出来事をゆっくりと反芻する。

シシリー先輩と久しぶりに、蟠りなく話す事ができたという喜び。
そして、先輩の昔からの嗅ぎ慣れたあの良い香り、やっぱり歳を追うごとに烟るように強くなる『花』の香りだったという事。
……自分のつがいを「私はここだ」と、強く呼ぶ香り。
格の高い相手の番であればあるほど強く、魅力的な香りとなる。


(私は、シシリー先輩ほど強い『花』の香を発する女性に会った事が無い)


どんな相手なのだろうか?
シシリー先輩は知っているのだろうか?
会った事があるから『花』の香が出ているのだけれど……。

あの香りがあるからこそ、逆に格下だと分かっている者たちは、絶対に近づかない。
『花』を迎えに来たつがいに、逆上されてやきもちで殺されかねないからだ。


(そういう意味では、ルーク先輩が、一番怪しいんだけど……確かに私よりは格上だし)


ねぇ、シシリー先輩。
貴女が、いずれ誰かを選ぶまで、それまでは、傍にいても良いですか?
……できればずっと、そばにいたいと思うけど。
それでも、つがいを見つけられた貴女の僥倖。
邪魔者にはなりたく無いのです。

会ったばかりの私を、新しい家族おとうとだと呼んで、受け入れてくれた。
嫌な事ばかりだった世界から、私の手をしっかりと握って、目が眩むほどの世界へと引き上げてくれた。
大切なものをたくさんくれた、貴女の傍に…いたい。

家族としてなら、傍にいても……良いですか?






******






side セシリア。


ルナとフレアが鼻歌まじりに、お菓子と紅茶をお代わりだったり、新しく入れたポットだったり、かわるがわる持ち込んでは、給仕をしていく様子をぼんやり眺めていた。

部屋の空調が、ふわりと完熟の梅の甘い香りをキッチンから運んでくる。
ここまで強く甘く香るってことは、完熟なんだろうなぁ。
取れたての青い実だと、そこまで強く香らないもの。

懐かしいなぁ。前世にほんでは6月下旬頃に、私の住んでいた場所では梅が収穫時期を迎えていた。
時期的にカメムシが大発生し始めるので、吸汁されて傷つけられてしまう前に、実が大きくなって、赤みがさし始める前後に収穫してしまうのだけど。


(でもね、ブルーベリーと違って、梅は収穫後に追熟ができるから)


大きめの平らなザルに、梅を大量に並べて、三日ほど陰干ししておくんだ。
そうするとね、急激に強くて甘い香りを放ち始めながら、黄色くなっていくの。

その香りの強さと言ったら!もう、キッチンの端のほうに置いてあっただけなのに、ふわりふわりと家中に甘い香りが充満する位に強いんだ。
それも、とても良い香りで。


(市販の芳香剤なんかよりも、ずっと強い匂いじゃないのかな?と思うのだけど、本当に自然で上品な香りで、思わず傍に寄っていつまでも嗅いでいたくなる)


初夏の数日限定の、幸せな香りです。

まぁ、一般的に梅仕事と言われている中の、1番最初のお仕事、だよ。
きっと、朝のデザートに使われた、梅のシロップ漬けと一緒に入手した梅なのだろう。

その梅が、どんな料理になるのかとても気になって、見に行きたいのに、行けない。

……何故なら、現在進行形で、いまだに、ルークの膝の上だからだ。

エルネストは、サロンに着いたら即降ろしてもらえたのに、私はそのままソファーまでお持ち帰りされていた。
なんかもう、周囲が呆れるほどに、ガッツリと捕まってしまっている。
暴れても、怒っても、降ろしてもらえないので、半ば諦めかけの状態になっていた。


(抱き癖がつくから、あんまり抱いちゃいけないよとか……昔の育児書にあったけどさ…大人の抱き癖は、どうやったら予防できるんですかね……?)


まぁ膝の上も、そんなに悪くは無いんだけどさ。
見上げると、間近に端正な顔が、その美貌をもって優しく微笑み返してくれる(!)
世のお嬢様方なら、卒倒レベルの破壊力のある眼福です。
うん、確かに見てて幸せだけどさ……。


(その……周囲からの、視線が痛いんですよ)


特に大人達からの。

フィリー姉様とか、最初は滅多に見る事の出来ない、ルークの笑みを見て呆然としてたわけだけど、もう、完全に呆れ返ったような表情になってしまっているし。
とりあえず、不可抗力だからね?!
誤解やら色々生んでいないの良いのだけど……。


ちなみに大人達の話の内容は、今後の予定というか、本当はそろそろ王宮へ向かって出発するはずだったんだけど、ストップがかかってしまった!というお話で。

部屋の端っこで、子犬を模したヘルハウンドと楽しそうに遊んでいるシュトレイユ王子を、王宮へ移動させられないのだそうだ。

今は元気そうに見えているんだけどね、それも体力ギリギリのところでの元気なのだそうで。


(見た目だけだったら、薬草の保存庫に放り込まれて、刺激臭でノックダウンされてベッドに転がってる、カイルザークとユージアの方がよほど重症に見えるんだけどね)


ちなみにあの二人は体力もだけど、魔力切れが主な原因。
呪いでもなんでも無いから、寝てれば復活する。

ルークにそのまま放置された後、カイルザークの浄化クリーン癒しの手ヒールで必死に復帰しようとしたみたいなんだけど、魔力切れ。
魔力はあるけど魔法が使えないユージアに、なんとかレクチャーして、それっぽく効果が出る程度に浄化クリーンを教え込んだらしい。
と、いう事で、慣れない魔法を連発したユージアも、魔力切れでダウン。

廊下で2人熟睡しているところを、ルナに回収されて、ベッドに転がされてた。

教えたカイルザークもだけど、教わって、すぐになんとか形になる程度まで使えるようになってしまうユージアもすごいと思う。


(魔法使えないって言ってるけど、さすがエルフと言うべきか……魔法に関してのセンスは良さそうなんだよなぁ。元々魔力は豊富にあるみたいだし)

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!

饕餮
ファンタジー
  書籍化決定!   2024/08/中旬ごろの出荷となります!   Web版と書籍版では一部の設定を追加しました! 今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。 救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。 一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。 そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。 だが。 「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」 森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。 ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。 ★主人公は口が悪いです。 ★不定期更新です。 ★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。

孤児院の愛娘に会いに来る国王陛下

akechi
ファンタジー
ルル8歳 赤子の時にはもう孤児院にいた。 孤児院の院長はじめ皆がいい人ばかりなので寂しくなかった。それにいつも孤児院にやってくる男性がいる。何故か私を溺愛していて少々うざい。 それに貴方…国王陛下ですよね? *コメディ寄りです。 不定期更新です!

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

処理中です...