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はじまりはじまり。小さな冒険?
309、side カイルザーク。1日の終わりに。 side セシリア。梅の香が気になって。
しおりを挟むあれから……寮へと戻る準備をした時から、実際帰宅できたのは1時間も後で。
睡眠時間の確保どころか、通常であればそのまま朝食を取って授業へと向かう時刻となっていた。
……書類の整理を手伝うつもりで、お休みをとっておいてよかった。
違う理由からの精神的にも体力的にも疲労困憊で、シャワーもそこそこにベッドに倒れ込んだ。
(今日はしっかり寝よう。思いっきり寝過ごそう!)
そう思いつつも、今日あった出来事をゆっくりと反芻する。
シシリー先輩と久しぶりに、蟠りなく話す事ができたという喜び。
そして、先輩の昔からの嗅ぎ慣れたあの良い香り、やっぱり歳を追うごとに烟るように強くなる『花』の香りだったという事。
……自分の番を「私はここだ」と、強く呼ぶ香り。
格の高い相手の番であればあるほど強く、魅力的な香りとなる。
(私は、シシリー先輩ほど強い『花』の香を発する女性に会った事が無い)
どんな相手なのだろうか?
シシリー先輩は知っているのだろうか?
会った事があるから『花』の香が出ているのだけれど……。
あの香りがあるからこそ、逆に格下だと分かっている者たちは、絶対に近づかない。
『花』を迎えに来た番に、逆上されて殺されかねないからだ。
(そういう意味では、ルーク先輩が、一番怪しいんだけど……確かに私よりは格上だし)
ねぇ、シシリー先輩。
貴女が、いずれ誰かを選ぶまで、それまでは、傍にいても良いですか?
……できればずっと、そばにいたいと思うけど。
それでも、番を見つけられた貴女の僥倖。
邪魔者にはなりたく無いのです。
会ったばかりの私を、新しい家族だと呼んで、受け入れてくれた。
嫌な事ばかりだった世界から、私の手をしっかりと握って、目が眩むほどの世界へと引き上げてくれた。
大切なものをたくさんくれた、貴女の傍に…いたい。
家族としてなら、傍にいても……良いですか?
******
side セシリア。
ルナとフレアが鼻歌まじりに、お菓子と紅茶をお代わりだったり、新しく入れたポットだったり、かわるがわる持ち込んでは、給仕をしていく様子をぼんやり眺めていた。
部屋の空調が、ふわりと完熟の梅の甘い香りをキッチンから運んでくる。
ここまで強く甘く香るってことは、完熟なんだろうなぁ。
取れたての青い実だと、そこまで強く香らないもの。
懐かしいなぁ。前世では6月下旬頃に、私の住んでいた場所では梅が収穫時期を迎えていた。
時期的にカメムシが大発生し始めるので、吸汁されて傷つけられてしまう前に、実が大きくなって、赤みがさし始める前後に収穫してしまうのだけど。
(でもね、ブルーベリーと違って、梅は収穫後に追熟ができるから)
大きめの平らなザルに、梅を大量に並べて、三日ほど陰干ししておくんだ。
そうするとね、急激に強くて甘い香りを放ち始めながら、黄色くなっていくの。
その香りの強さと言ったら!もう、キッチンの端のほうに置いてあっただけなのに、ふわりふわりと家中に甘い香りが充満する位に強いんだ。
それも、とても良い香りで。
(市販の芳香剤なんかよりも、ずっと強い匂いじゃないのかな?と思うのだけど、本当に自然で上品な香りで、思わず傍に寄っていつまでも嗅いでいたくなる)
初夏の数日限定の、幸せな香りです。
まぁ、一般的に梅仕事と言われている中の、1番最初のお仕事、だよ。
きっと、朝のデザートに使われた、梅のシロップ漬けと一緒に入手した梅なのだろう。
その梅が、どんな料理になるのかとても気になって、見に行きたいのに、行けない。
……何故なら、現在進行形で、いまだに、ルークの膝の上だからだ。
エルネストは、サロンに着いたら即降ろしてもらえたのに、私はそのままソファーまでお持ち帰りされていた。
なんかもう、周囲が呆れるほどに、ガッツリと捕まってしまっている。
暴れても、怒っても、降ろしてもらえないので、半ば諦めかけの状態になっていた。
(抱き癖がつくから、あんまり抱いちゃいけないよとか……昔の育児書にあったけどさ…大人の抱き癖は、どうやったら予防できるんですかね……?)
まぁ膝の上も、そんなに悪くは無いんだけどさ。
見上げると、間近に端正な顔が、その美貌をもって優しく微笑み返してくれる(!)
世のお嬢様方なら、卒倒レベルの破壊力のある眼福です。
うん、確かに見てて幸せだけどさ……。
(その……周囲からの、視線が痛いんですよ)
特に大人達からの。
フィリー姉様とか、最初は滅多に見る事の出来ない、ルークの笑みを見て呆然としてたわけだけど、もう、完全に呆れ返ったような表情になってしまっているし。
とりあえず、不可抗力だからね?!
誤解やら色々生んでいないの良いのだけど……。
ちなみに大人達の話の内容は、今後の予定というか、本当はそろそろ王宮へ向かって出発するはずだったんだけど、ストップがかかってしまった!というお話で。
部屋の端っこで、子犬を模したヘルハウンドと楽しそうに遊んでいるシュトレイユ王子を、王宮へ移動させられないのだそうだ。
今は元気そうに見えているんだけどね、それも体力ギリギリのところでの元気なのだそうで。
(見た目だけだったら、薬草の保存庫に放り込まれて、刺激臭でノックダウンされてベッドに転がってる、カイルザークとユージアの方がよほど重症に見えるんだけどね)
ちなみにあの二人は体力もだけど、魔力切れが主な原因。
呪いでもなんでも無いから、寝てれば復活する。
ルークにそのまま放置された後、カイルザークの浄化と癒しの手で必死に復帰しようとしたみたいなんだけど、魔力切れ。
魔力はあるけど魔法が使えないユージアに、なんとかレクチャーして、それっぽく効果が出る程度に浄化を教え込んだらしい。
と、いう事で、慣れない魔法を連発したユージアも、魔力切れでダウン。
廊下で2人熟睡しているところを、ルナに回収されて、ベッドに転がされてた。
教えたカイルザークもだけど、教わって、すぐになんとか形になる程度まで使えるようになってしまうユージアもすごいと思う。
(魔法使えないって言ってるけど、さすがエルフと言うべきか……魔法に関してのセンスは良さそうなんだよなぁ。元々魔力は豊富にあるみたいだし)
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