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はじまりはじまり。小さな冒険?
312、寝起きと梅仕事。
しおりを挟むふわりと意識が浮上する。
しまった!と、焦りながら、きょろきょろと辺りを見渡す。
……結構、寝てたような気がするわけだけど、相変わらず私はルークの腕の中だった。
他の子たちは寝たら、ベッドに運ばれてたよね?!
じゃなくて……と、まだ、大丈夫。
「あ、セシーが起きた」
セグシュ兄様の声が聞こえたけど、それより何より、視界のずっと奥の方、子供達が寝かされているベッドに、ユージアが寝ている姿を確認してほっとする。
1人、2人……と数えていくと、全部で4人…あれ、一人増えてる。誰だ?
エルネストはルークの隣にいるのが見えるから、ベッドで寝てるのは魔力切れでダウンのユージアとカイルザークとシュトレイユ王子と……レオンハルト王子っぽかった。
(レオン王子は…心労かしら。心配する事、多いもんね)
ユージアは、起きたら使用人養成所へと戻る事になっていると聞いていたから、絶対に見送るんだと…思ってるうちに寝ちゃったんだよね。
まぁ、幼児のお昼寝時間だったのだから、しょうがない。
それと多分、私も魔力切れから完全回復はしていないんだろうね。
どうにもここのところ、やたらと眠い。
ひとまず落ち着きながら、ぼんやりと窓の擬似光を見ると、時刻としては、昼か昼過ぎだろうか?
かなり明るく強くなっていた。
ああ、一応、時計はこの世界にもあるのだけどね、どうにも日の高さを見て時間を考える癖がついていて…まぁ、平民ならではの癖かなぁ。
時計が、どこの家にもあるようなものじゃないからね。
電波時計みたいに全ての時計が、常に正確ってわけにも訳にもいかないし。
そういう意味でも、日の高さほど正確なものはないという感じでね。
不意に、ぐいっと顔を蒸しタオルで拭われた。
……ん?もしかして、ヨダレでもたれてたのかしら!
ハッとなって顔を上げると、間近で私の顔を覗き込むようにしていたルークと目が合うと、その誰もが見惚れてしまうだろう端正な顔に、優しげなとても柔らかな笑みを浮かべる。
「おはよう?」
「おは…よう、ございます」
あ、噛まなかった!
挨拶と共に、水を勧められた。
……そして、さりげなくだけども、やたら口周りを拭かれてるって事はやっぱり、たれてたか!
『……セシリア、大丈夫。ヨダレはたれてなかったよ……大口開けて寝てただけだから』
「ぶっ…フレア……っ!!」
「……」
フレアが、蒸しタオルを下げに来たついでに、去り際にポツリと呟いていったその言葉に、エルネストが思いっきり吹き出していた。
思考を読むのはしょうがない、でもさ、返答を周囲に聞こえるようにするのはやめて欲しい…。
ほら!ヴィンセント兄様が眉を下げて、困ったような変な笑いになっちゃってるよ!
何か会話中だったのを、中断させてしまったみたいだし!
恥ずかしいやら、申し訳ないやら……。
(穴があったら入りたい、どころか隠れていたいんだけど、ルークにガッチリと抱えられて逃げられないし、ああああああ、もうっ!!)
本当、そろそろ解放して欲しいです。
********
『エルとセシリア……ちょっと、来れる?』
「いくっ!!」
食堂へのドアから顔だけ出して、遠慮がちに声をかけてきたルナ。
脱出のチャンスだ!と思って即答して、膝の上でジタバタしたら、やっと解放してもらえた。
……凄く名残惜しそうな顔してたけど、ダメです。
ダッシュで食堂へと向かうと、作業台の上にころころと大粒の梅の実が広げられていた。
『梅干しを作ろうと思ったんだけど、ヘタが取りきれなくて…手伝ってくれる?』
二つ返事で、楊枝を受け取ってヘタ取りを始めた。
びっくりするほどに強い香りを放っている完熟の梅だから、ヘタはぽろぽろと簡単に外すことができた。
前世でもよくやってたんだけど…セシリアの手だと意外に難しかった。
手に対して、大粒の梅が大きすぎるから、前世のように慣れた手つきで手際良く!というわけにはいかなかった。
集中していないと、梅を傷つけてしまいかねない。
でも、懐かしいし楽しい。
「僕の……里で、季節になると漬けられてたと…思う。紫蘇は入れるのか?」
『ん~今回は、入れるやつと入れないのと両方作ろうと思うんだ』
そういうと、ちらりと背後に置いてあるガラスのボウルに視線をやる。
濃い赤紫の……って、すでに塩揉みがされている、赤紫蘇が準備されていた。
紫蘇は、今すぐには使わないんだけどね、塩揉みしておけば保存がきくから、梅と一緒に準備しておくんだ。
……前世での知識だけど、梅も、紫蘇も市販で入手しようとすると、本当に一瞬しか店頭に並ばないからね。
気候を考えると、こっちも似たようなものなのかもしれない。
『梅干しって結構刺激が強い食材だけど、エルは食べれるの?』
「ああ、食事によく並んでたよ」
エルネストが住んでいた地域は、食生活が日本のものと本当に近かった。
同じメアリローサの国なのに、随分違うんだなぁと二人の会話に聞き入っていた。
出来る事なら、いつか行ってみたいと思う。
ヘタを取り終えると、食堂から追い出されてしまった。
もうちょっと手伝いたかったのに。
エルネストも懐かしそうに見つめていたけど、素直にキッチンから退室していた。
(……子供が追い出されると言う事は、アルコール消毒中なのかしら)
梅干が漬けてる間に腐ったりしないように、まずは強めのお酒に晒すんだ。
あ、漬け方は家や地方によって手順なんかも違ってたらしいし、これが全てではないけどね。
で、それが終わったら、塩をまぶす。
そしたら重石を乗せて時折、上下をひっくり返したり、カビなどのトラブルが起きてないかを確認しながら、梅酢が上がってくるのを待つんだ。
今できるのは、ここまでかしら?
梅干しになるまでは、まだもう少しかかるけど、楽しみでしょうがない。
「セシリア、今手伝った梅干しっていうのは凄く酸っぱくて、甘いんだ……食べれるか?」
「うん!楽しみ」
「楽しみだな……」
ちょっと心配そうな顔で聞かれてしまったけど…ってそうか、王都周辺では、見かけない食材だもんね。
しかも刺激強いし。
セシリアが食べたことがないと思っての、心配なんだね。優しいな。
確かに食べたこと、ないもんね。
でも大丈夫、前世では梅干し大好きだったから。
多分今も、食べれると思うよ。
赤紫蘇も使うなら、ユカリも作れるなぁ。と、ふと思ってさらに楽しみになった。
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