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はじまりはじまり。小さな冒険?

339、母様に怒られる。

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「お菓子をあげすぎた父様も悪いけど、セシリア、あなたもお腹いっぱいなら断らないとダメよ?」

「はぁい…」

「では、整腸の薬を用意しよう」


 喧嘩両成敗的に私も怒られて……って、当たり前か。最終的に食べたのは私だし。
 そして、背後でくつくつと笑っていたルークが、お薬を準備してくれるらしい。

 って、あれ?ルークさん?あなたの専攻は、薬草学じゃなかったよね?
 エルフとはいえ、お薬の調合って大丈夫なの……?
 ちょっとだけ嫌な予感がした。


(まぁ、魔術師団の研究部門の長らしいから?そこら辺はマスターしたのかな?
 してるよね?魔導学園でも希少な薬草を欲しがってたもんね)


 頭上から、小さく息を吐く音が聞こえ見上げると、母様が小さく首を傾げながら困惑気味に笑う。


「セシリアは、お風呂は無しね……ここのお風呂、夜に入るとキラキラと素敵なのだけど……残念だわ」

「!?」


 もしや、キラキラとは魔石光の薄暗闇で入るお風呂のことだろうかっ!?
 ……お風呂は好きなのですよ?


「入れましゅっ!」


 歳をとるとね、好きでも簡単に入れなくなっていくから……入れるうちはじゃんじゃん入りたい!
 入りたいよー!と、母様の足元でぴょこぴょこと跳ねながら、必死にアピールしてみた。
 ……背後から聞こえるルークの笑い声が、ちょっと大きくなった気がするけど、気にしないっ!
 そんなことよりお風呂の方が大事です。


「だーめ!ハンスにお薬を貰ったら、寝なさい」

「はい…」

「あー…セシー?ごめん」


 こっそりと、私の機嫌を伺うような父様の謝罪が聞こえた。


「許してあげてね?これでも今まであなたの…じゃないわね。あなたたちのために、頑張ってきてくれてたのよ?」

「はい…」


 諭されてしまった……。

 そうそう、このあと母様は、熟睡中のエルネストを抱えてほくほく顔で戻ってきたフィリー姉様と一緒にソフィア王妃を引きずるようにしてお風呂へ行ってしまった。

 2人とも、エルネストの寝姿に「可愛いわ!」と大興奮(!)ではしゃいで撫でまわしてからだったけど!
 エルネスト、これ知ったら発狂するだろうなぁ。とか、ちょっと遠い目になって見てたのは内緒。

 ちなみに、「ごめん」とか「すまん」とか謝ってた父様も、フィリー姉様そっくりのほくほく顔でお風呂へ。
 お風呂で冷たいお酒やドリンクが飲めるらしい。
 ルークのことをしきりに誘っていたが、既に「湯あみは済んでいる」と、断られていた。

 ……聞けば聞くほどに魔導学園の大浴場と似たような作りだったので、これは本当に悔しすぎる。


(父様め…!食べ物とお風呂の恨みは恐ろしいのですよ?)


 そのあとは……うーん、特に変わったことはなかったと思うんだ。

 母様たちと父様がお風呂へと向かった後に、ヴィンセント兄様とセグシュ兄様がそれぞれ、カイルザークとレオンハルト王子を抱えて帰ってきて。

 ああ、ベッドの使い方がちょっと面白かったかな?

 最初は男女の境目のところに、カーテンをつける感じだったのだけど、さすがに大人が増えすぎたから子供たちを真ん中のベッドに集めて、左右に男女と分けた。
 それぞれにカーテンが備え付けられてたけど、結局は全開状態でみんな寝てた…の、かな?

 病院のカーテンみたいで面白いなと思っていたんだけど、あれって天蓋って言うらしいね。
 シフォンやオーガンジー生地とレースを組み合わせて作られていて、ふわふわひらひらと、軽やかに揺れていた。


(大人たちは少しの間、起きてたっぽいけどね。私は先に寝かされてしまったから、そんな感じに寝る予定だよ。としか、聞いてないのよね)


 戻ったときはカーテン全開になってたし。

(意識が)戻ったときは、ね。
 ……正確には起きたら、だけど。


 ちなみに、朝でした。
 部屋にある豪華な飾り時計は朝の5時をさしていたし、擬似窓はさわやかな朝日を部屋へと差し込ませていた。

 しかも、起きた場所は、ベッドじゃなくて……。


「おはよう、セシリア嬢。よく眠れた?」


 顔のすぐそばで青い髪が揺れていた。
 私を覗き込むように間近にあった、美しく整った顔の口角が上がり、優しい微笑みに変わる。

 何故か守護龍アナステシアスの腕の中にいた。
 ベッドじゃなくて、擬似窓のそばに腰掛けている守護龍の腕の中。

 ……何故?どうして??

 全く状況が理解できなかった。


 理解できたのは、起床が1番最後だった。ということくらいかな?
 それと、守護龍の透き通るような美しい声に、私の起床を知ったのか、ぞろぞろと人が集まってくる気配。


「ああ、起きたか」


 最初に私たちのそばに到着したのは父様だった。
 私を回収すべく、守護龍へと伸ばされた手が途中で一瞬、止まった。


「……寝ぼけて、ないよな?」

「大丈夫。ふふっ。ちゃんと起きてるよね」


 軽く笑いながら頭を撫でられる。
 ふわりと抱っこの高度が上がって、父様へと渡される私。

 守護龍に抱えられて寝てた私が言うのもなんだけど、やっぱり父様の抱っこの方が落ち着く…気がした。
 でも、守護龍の抱っこも、緩やかな春風に包まれているような感覚で、気持ち良かったような気が。
 あれれ。

 しかし、なんで守護龍に抱っこされていたのかも、全く理解が追いつかない。


「さて、セシーが起きたところで、ご飯と状況の確認といこうか」

「???」


 父様の声が響くと、ぞろぞろとそれぞれが食堂へと移動を始める。
 もしかして、待たせてしまっていた?
 いや、でもまだ朝の5時だし……起床の鐘が6時だもの、マナーとしては全然問題ない範囲かと思うのだけど。


「セシリア、本当に起きてる?ほんっとううに、起きてる??」

「怪我がないなら良かったけど…大丈夫?」

「……また何か、やらかしたの?」


 ……挨拶よりも先に、口々に何か言われてるわけですが。
 私、何かやらかしましたか?全くそんな記憶はないのですけど。
 でもまぁ、みんな笑顔だし、そんなに大騒ぎになるようなことではないっぽいね。

 そうそう、ヴィンセント兄様の『解呪』で少しずつ良くなってきているのか、シュトレイユ王子も嬉しそうにスキップまじりの歩きで、食堂へと移動していく背が見えた。
 一緒に歩いている、ソフィア王妃の顔色も少しだけマシになった気がする。


(命を使っての呪い部分も、早く解いてしまいたい。そのためには『監獄』にいるはずの呪った呪術者を探し出さないといけない。……頑張ろう)


 これは大人たちの仕事だけど『監獄』に入場する手立ては、私が確立しなくちゃいけないんだ。
 その権限を持っているのが私だけだから。
 頑張るからねっ!
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