私は「あなたのために」生まれてきたわけではありませんのよ?~転生魔法師の異世界見聞録~公爵令嬢は龍と謳う。

まゆみ。

文字の大きさ
366 / 455
はじまりはじまり。小さな冒険?

366、ゆっくりとおやすみなさい。

しおりを挟む




「私もご一緒しますわ」


 既に移動中の背後から、フィリー姉様の声が聞こえてきた。
 守護龍と一緒に、父様の元へ向かうのだろう。

 そして眼前に広がる理解不能な光景。

 先ほどまでの激しい攻防はなんだったのか?
 父様によって再度倒されたように見える、人っぽい魔物(?)の前にしゃがみ込み、心配そうに覗き込んでいる父様。
 そして、かくかくとゼンマイの止まりかけのおもちゃのような動きになっている、人っぽい魔物(?)


「少し待ってろよ……しかし、そんな姿ナリで浄化とか、身体は崩壊しないのか?」

 父様の問いに、確かに『大丈夫』と返答があった。


「うーん、子供には見せたくない容姿だよなぁ。まぁ動いてるし、良いのかな?」


 いや、動いてる方がよほどまずいと思いますよ?父様。
 そう言われるほどに、遠目に人だと認識していた者の容姿は屍人ゾンビのそれに近い。


 私はといえば、お姫様抱っこから一転、臨戦体制になったルークによって小脇に抱えられた状態になっていた。

 とりあえず、私にできることは?と考えて、魔力を込めて『ルナ!』と呼んでみるのだけど、ルナの応答は無い。


(……って、なかなか帰ってこないところを見ると、相当な量の『宝物』だったのかな?でも、ここに転がってる竜っぽい魔物も『宝物』だから、大人しく転がってるうちに回収させてあげたかったんだ)


 また襲われるような、危険な状態での回収を、しなくてすむように。


『呼びましたか?主人マスター


 ルナのことが心配になり始めたところで、地面から声がした。
 足元には小さな仔犬…ヘルハウンドね。
 ……あれ?ちびっ子たちの課題の相手は…?


『ルナ様が動けないとのことで代わりに。……課題は火の妖精たちに任せてあります』


 決してサボってきてしまったわけでは無いですからね?と言わんばかりにルークと私に向かって状況を説明する仔犬姿のヘルハウンドに、思わず笑みが浮かんでしまう。


闇の妖精どうぞくじゃないのね…?」

『私の遊びを、ずっと羨ましそうに見ていた者たちがいましたので』


 フィリー姉様の不思議そうな声に、答える仔犬のヘルハウンド。

 あ~あ。
 課題が遊びって言われちゃったよ。
 まぁ、ヘルハウンドにとっては、遊びなのかしら?
 体力ありそうだもんなぁ。


「フィリー、妖精や精霊の属性の認識は、人で言う、好みのちょっとした違いくらいなもので、そんなに深いものではないんだよ。妖精は特に好奇心旺盛だからね。多少好みが違っても、面白ければ大喜びさ」

「そうなの?」


 フィリー姉様の疑問に、守護龍アナステシアスが説明を続けてくれた。

 まぁ、ヘルハウンドにしてみれば、闇の妖精という位置取りだけど、火の魔法も得意としているから、同族というほどでは無いにしても、馴染みではあるんだと思うよ。


「ルナは無事?」

『無事です。後始末に少し時間がかかるとのことでした。さて、私の仕事は…こちらの『宝』の回収でしょうか?』


 頑張るぞ!と、その張り切りを体現するように、しっぽをはち切れんばかりに振りながら、竜っぽい魔物の前にちょこんと座る、仔犬。

 大きさの対比が酷い事になってるなぁと思いつつも、仔犬姿のヘルハウンドが可愛く見えてしまってしょうがなかった。本当に可愛らしい!


「ああ、ちょっと待ってくれ。そいつの身体の中に、異物…いや、ここの『核』とか、何かの魔道具を飲み込んでるようなら、残していって欲しいんだが、可能か?」


 不意に父様からのストップがかかった。

 人っぽい魔物(?)は、父様と会話をしていたようなので、そもそもそちらは放置としても、竜っぽい魔物に関しては、元々が妖精たちが探していた『宝』だ。

 それが目の前で高ランクな魔物へと変異してしまったのを目の当たりにしているので、迷わず回収をと進めてしまったのだけど、不味かったのかな?

 ちなみに、その竜っぽい魔物は、先程の激しい攻防がやんだ後は、その場に座り込んでじっと様子を伺うように、こちらを見つめたまま動かないでいた。


『お安い御用です。私たちが欲しいのは…『宝』だけです。ただ、私にはルナ様ほどの技量がありません。どなたか瘴気との分離をお手伝いいただけると……』

「それは心配しなくて良い。私がやるよ……」


 守護龍アナステシアスが背を向けたまま、軽く手を挙げて返事をする。
 彼は、人っぽい魔物(?)を浄化ついでに、この周囲も浄化中のようで、暑く蒸れた部屋にエアコンが効き始めた時の爽快感のように、空気が澄んでいくのがわかる。


『ああ、新しい管理者は随分可愛らしい……。姫の…娘か?』

「……子孫だ」


 男性と思われる、しわがれた声が響いた。
 私からは、人っぽい魔物(?)の前にしゃがみ込む、父様と守護龍アナステシアスの背しか見えないのだけど、その彼からは私の姿が見ているようだった。


『お前は……ハンスだな?久しいな…私は…誰だろうな……』

「覚えていないのか?」

『私はこの施設の完成を見た後、死んだ。だが、気づくとここに戻ってきていて…』


 なぜ戻ってきたのか?
 ここがすごく気になるところなのだけど。
 ……研究者だから、ここに執着があって…というのなら少し呆れてしまうのだけど、どうやらそうでもなかったらしい。

 完成を見た。と言ってる時点で、きっと満足して逝ったのだろう。
 まぁ、システム上の完成という状況であって、稼働という意味では、メンテナンスモードのままだったわけだけど。


「すごい、執念だな」

『あとは…わからない…。意識が浮上する事があれば、無の時もあって…』

「瘴気に、当てられていたんだ。それでお前は、眠りたいか?起きていたいか?」

『……眠りたい。眠った、はずだったんだ…』


 徐々に悲痛な声になっていった。
 どうやら、この状況は本人の望んだ状況ではなかったようだ。
 しかも『自分』という意識がすごく薄い状態とか…外見からしても、ほぼ屍人ゾンビとしての変異のようだった。
 稀に戻っていたという意識があること自体が、珍しいパターンだ。


「わかった。…思い、残すことも…ないか?」

『ここが完成した。それだけで、充分だ。満たされている』

「では…砕くぞ」

『ああ、ありがとう』


 横たわった状態の屍人ゾンビとなった…元研究者の胸のあたりを、ルークは片手で持っていた剣で、一突きにした。
 私は片マントで隠されるようにしていて、実際には見えなかったけど、それでもその突き刺す衝撃はわかった。

 コト。と、何か、硬いものが転がり落ちる音がして、片マントがひるがえり、私の視界が復活すると、そこには青く澄んだ大きな魔石が…二つにひび割れて、転がっていた。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

家族に捨てられたけど、もふもふ最強従魔に愛されました

朔夜
ファンタジー
この世界は「アステルシア」。 魔法と魔物、そして“従魔契約”という特殊な力が存在する世界。代々、強大な魔力と優れた従魔を持つ“英雄の血筋”。 でも、生まれたばかりの私は、そんな期待を知らず、ただ両親と兄姉の愛に包まれて育っていった。

聖女の力を妹に奪われ魔獣の森に捨てられたけど、何故か懐いてきた白狼(実は呪われた皇帝陛下)のブラッシング係に任命されました

AK
恋愛
「--リリアナ、貴様との婚約は破棄する! そして妹の功績を盗んだ罪で、この国からの追放を命じる!」 公爵令嬢リリアナは、腹違いの妹・ミナの嘘によって「偽聖女」の汚名を着せられ、婚約者の第二王子からも、実の父からも絶縁されてしまう。 身一つで放り出されたのは、凶暴な魔獣が跋扈する北の禁足地『帰らずの魔の森』。 死を覚悟したリリアナが出会ったのは、伝説の魔獣フェンリル——ではなく、呪いによって巨大な白狼の姿になった隣国の皇帝・アジュラ四世だった! 人間には効果が薄いが、動物に対しては絶大な癒やし効果を発揮するリリアナの「聖女の力」。 彼女が何気なく白狼をブラッシングすると、苦しんでいた皇帝の呪いが解け始め……? 「余の呪いを解くどころか、極上の手触りで撫でてくるとは……。貴様、責任を取って余の専属ブラッシング係になれ」 こうしてリリアナは、冷徹と恐れられる氷の皇帝(中身はツンデレもふもふ)に拾われ、帝国で溺愛されることに。 豪華な離宮で美味しい食事に、最高のもふもふタイム。虐げられていた日々が嘘のような幸せスローライフが始まる。 一方、本物の聖女を追放してしまった祖国では、妹のミナが聖女の力を発揮できず、大地が枯れ、疫病が蔓延し始めていた。 元婚約者や父が慌ててミレイユを連れ戻そうとするが、時すでに遅し。 「私の主人は、この可愛い狼様(皇帝陛下)だけですので」 これは、すべてを奪われた令嬢が、最強のパートナーを得て幸せになり、自分を捨てた者たちを見返す逆転の物語。

御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜

伽羅
ファンタジー
【幼少期】 双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。 ここはもしかして異世界か?  だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。 ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。 【学院期】 学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。 周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。  

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

処理中です...