私は「あなたのために」生まれてきたわけではありませんのよ?~転生魔法師の異世界見聞録~公爵令嬢は龍と謳う。

まゆみ。

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はじまりはじまり。小さな冒険?

366、ゆっくりとおやすみなさい。

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「私もご一緒しますわ」


 既に移動中の背後から、フィリー姉様の声が聞こえてきた。
 守護龍と一緒に、父様の元へ向かうのだろう。

 そして眼前に広がる理解不能な光景。

 先ほどまでの激しい攻防はなんだったのか?
 父様によって再度倒されたように見える、人っぽい魔物(?)の前にしゃがみ込み、心配そうに覗き込んでいる父様。
 そして、かくかくとゼンマイの止まりかけのおもちゃのような動きになっている、人っぽい魔物(?)


「少し待ってろよ……しかし、そんな姿ナリで浄化とか、身体は崩壊しないのか?」

 父様の問いに、確かに『大丈夫』と返答があった。


「うーん、子供には見せたくない容姿だよなぁ。まぁ動いてるし、良いのかな?」


 いや、動いてる方がよほどまずいと思いますよ?父様。
 そう言われるほどに、遠目に人だと認識していた者の容姿は屍人ゾンビのそれに近い。


 私はといえば、お姫様抱っこから一転、臨戦体制になったルークによって小脇に抱えられた状態になっていた。

 とりあえず、私にできることは?と考えて、魔力を込めて『ルナ!』と呼んでみるのだけど、ルナの応答は無い。


(……って、なかなか帰ってこないところを見ると、相当な量の『宝物』だったのかな?でも、ここに転がってる竜っぽい魔物も『宝物』だから、大人しく転がってるうちに回収させてあげたかったんだ)


 また襲われるような、危険な状態での回収を、しなくてすむように。


『呼びましたか?主人マスター


 ルナのことが心配になり始めたところで、地面から声がした。
 足元には小さな仔犬…ヘルハウンドね。
 ……あれ?ちびっ子たちの課題の相手は…?


『ルナ様が動けないとのことで代わりに。……課題は火の妖精たちに任せてあります』


 決してサボってきてしまったわけでは無いですからね?と言わんばかりにルークと私に向かって状況を説明する仔犬姿のヘルハウンドに、思わず笑みが浮かんでしまう。


闇の妖精どうぞくじゃないのね…?」

『私の遊びを、ずっと羨ましそうに見ていた者たちがいましたので』


 フィリー姉様の不思議そうな声に、答える仔犬のヘルハウンド。

 あ~あ。
 課題が遊びって言われちゃったよ。
 まぁ、ヘルハウンドにとっては、遊びなのかしら?
 体力ありそうだもんなぁ。


「フィリー、妖精や精霊の属性の認識は、人で言う、好みのちょっとした違いくらいなもので、そんなに深いものではないんだよ。妖精は特に好奇心旺盛だからね。多少好みが違っても、面白ければ大喜びさ」

「そうなの?」


 フィリー姉様の疑問に、守護龍アナステシアスが説明を続けてくれた。

 まぁ、ヘルハウンドにしてみれば、闇の妖精という位置取りだけど、火の魔法も得意としているから、同族というほどでは無いにしても、馴染みではあるんだと思うよ。


「ルナは無事?」

『無事です。後始末に少し時間がかかるとのことでした。さて、私の仕事は…こちらの『宝』の回収でしょうか?』


 頑張るぞ!と、その張り切りを体現するように、しっぽをはち切れんばかりに振りながら、竜っぽい魔物の前にちょこんと座る、仔犬。

 大きさの対比が酷い事になってるなぁと思いつつも、仔犬姿のヘルハウンドが可愛く見えてしまってしょうがなかった。本当に可愛らしい!


「ああ、ちょっと待ってくれ。そいつの身体の中に、異物…いや、ここの『核』とか、何かの魔道具を飲み込んでるようなら、残していって欲しいんだが、可能か?」


 不意に父様からのストップがかかった。

 人っぽい魔物(?)は、父様と会話をしていたようなので、そもそもそちらは放置としても、竜っぽい魔物に関しては、元々が妖精たちが探していた『宝』だ。

 それが目の前で高ランクな魔物へと変異してしまったのを目の当たりにしているので、迷わず回収をと進めてしまったのだけど、不味かったのかな?

 ちなみに、その竜っぽい魔物は、先程の激しい攻防がやんだ後は、その場に座り込んでじっと様子を伺うように、こちらを見つめたまま動かないでいた。


『お安い御用です。私たちが欲しいのは…『宝』だけです。ただ、私にはルナ様ほどの技量がありません。どなたか瘴気との分離をお手伝いいただけると……』

「それは心配しなくて良い。私がやるよ……」


 守護龍アナステシアスが背を向けたまま、軽く手を挙げて返事をする。
 彼は、人っぽい魔物(?)を浄化ついでに、この周囲も浄化中のようで、暑く蒸れた部屋にエアコンが効き始めた時の爽快感のように、空気が澄んでいくのがわかる。


『ああ、新しい管理者は随分可愛らしい……。姫の…娘か?』

「……子孫だ」


 男性と思われる、しわがれた声が響いた。
 私からは、人っぽい魔物(?)の前にしゃがみ込む、父様と守護龍アナステシアスの背しか見えないのだけど、その彼からは私の姿が見ているようだった。


『お前は……ハンスだな?久しいな…私は…誰だろうな……』

「覚えていないのか?」

『私はこの施設の完成を見た後、死んだ。だが、気づくとここに戻ってきていて…』


 なぜ戻ってきたのか?
 ここがすごく気になるところなのだけど。
 ……研究者だから、ここに執着があって…というのなら少し呆れてしまうのだけど、どうやらそうでもなかったらしい。

 完成を見た。と言ってる時点で、きっと満足して逝ったのだろう。
 まぁ、システム上の完成という状況であって、稼働という意味では、メンテナンスモードのままだったわけだけど。


「すごい、執念だな」

『あとは…わからない…。意識が浮上する事があれば、無の時もあって…』

「瘴気に、当てられていたんだ。それでお前は、眠りたいか?起きていたいか?」

『……眠りたい。眠った、はずだったんだ…』


 徐々に悲痛な声になっていった。
 どうやら、この状況は本人の望んだ状況ではなかったようだ。
 しかも『自分』という意識がすごく薄い状態とか…外見からしても、ほぼ屍人ゾンビとしての変異のようだった。
 稀に戻っていたという意識があること自体が、珍しいパターンだ。


「わかった。…思い、残すことも…ないか?」

『ここが完成した。それだけで、充分だ。満たされている』

「では…砕くぞ」

『ああ、ありがとう』


 横たわった状態の屍人ゾンビとなった…元研究者の胸のあたりを、ルークは片手で持っていた剣で、一突きにした。
 私は片マントで隠されるようにしていて、実際には見えなかったけど、それでもその突き刺す衝撃はわかった。

 コト。と、何か、硬いものが転がり落ちる音がして、片マントがひるがえり、私の視界が復活すると、そこには青く澄んだ大きな魔石が…二つにひび割れて、転がっていた。

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