390 / 455
はじまりはじまり。小さな冒険?
390、月夜の晩に。
しおりを挟む「こんばんは、セシリア」
名前を、そして、こんばんは。と、挨拶の声が聞こえた気がして、ベッドから身体を起こすと、月明かりに浮かび上がる窓枠に、月の光をふんわりと纏い、ほのかに光る白い塊が見えた。
ゼンナーシュタットだ。
「ゼン!……どうしたの?お城ぬけだしたら…怒られちゃうよ?」
「うん、だから、静かにね。おいで」
少しだけ開いていた窓の隙間から、前足を器用に差し込むと、するりと部屋に入り込む。
(いやいやいや……ゼン…キミは謹慎中、だよね?)
とん!と、床に降り立つと同時に、小さく見えていた身体が一気に膨らみ上がる。
月の光に照らし出されて、より一層淡い光に包まれる、流れるような真っ白な毛並みが、きらきらと本当に綺麗で。
ぼんやりと眺めていると、淡い水色のレース編みストールが被せられる。
「えっ……?」
「うん、可愛い!さぁ、舞踏会へ行こう!」
「舞踏会?!えぇぇぇ?!」
早く乗れと言わんばかりに、背を向けて『伏せ』のような姿勢になる。
この前乗せてくれたもんね。
前回と同じ要領で、背に乗せてもらうと、がくりと視界が高くなる。
「なにこれ……しんでれらみたい」
「シンデレラ…そうだね。じゃあ、12時の鐘の前には帰らないといけないから、急ごう」
ゼンナーシュタットが立ち上がったから、視界が高くなったのはもちろんだけど、そのまま軽く飛び上がって、窓を押し開け、すり抜ける。
すり抜けた先は……ここ、2階なんだけどね。
そのまま風を切って羽を広げ、飛び上がった。
「目を開けて。怖くないから、景色を覚えておいて?」
「きれい。ぜん、きらきらだね!」
強い風に煽られて、必死にしがみついていると、フッと風の抵抗を感じなくなった。
魔法で、風の抵抗を下げてくれたようだった。
風の魔法って……便利よね。
月明かりの下で、全身をきらきらと柔らかに浮かび上がるゼンナーシュタットの毛並みが本当に素敵で、思わず褒めると小さくため息が聞こえた。
「もう…そっちじゃないよ……街の景色、良く覚えておいて?」
「はぁい。あ、あしょこ。きょうかい?」
「うん、あの塔にセシリアは行ったことがあるよね?」
「あ……」
あの塔。あの塔は…ね。
教会に誘拐されて、最初にいた部屋がある塔だった。
何故わかったのか?
それは簡単。最上階に近い階層の小部屋が、爆破でもされたかのように、壁が無くなり、室内が丸見えの状態で露出していたからだ。
その個室の様子も、思いっきり見覚えがある。
「……公爵家は、あの青い屋根のお屋敷だよ。今度は、ちゃんと……帰ってこれるように、覚えておいてね」
「うん!」
今度はって、そんな早々何度も誘拐されたら困るんですけど!
そう思いつつも、実際、誘拐された後も、大人から見れば、私はいきなりの失踪を繰り返してるわけで……ほら、魔導学院へ飛ばされたりとかね?
何かあった時に、ちゃんと自力で帰れるような情報は必要だということは確かに理解した。
(もともと外出なんてした事がなかったから、あの塔に囚われてしまった時も、自宅がどこか、全くわからなかったんだし、結構大事かも)
でもさ、今、落ち着いてよくよく見ると、位置的には自宅である公爵家のお屋敷……見えてるんだよね。
多分あの塔から、必死に覗き込んだ風景に、あの特徴的な青い屋根は見えていたはずだ。
まぁ、こうやって空からの位置関係なんて……そうそう見られるものじゃないかもしれないけど。
******
「秘密基地へようこそ!」
楽しげなゼンナーシュタットの声に、そっと自分たちの降り立った場所から、下界を覗き込む。
「見える?」
「セグシュ兄様と……マリー様、いた!うわぁ…きれい…」
夜空の散歩を一通り満喫したあと、ゼンナーシュタットは王城に向かった。
そして、とても高くなっている天井部分、屋根の明かりとりのような小さな窓から、そっと中に入り込んだ。
小さなバルコニーのようになっている部分から、そっと下を覗き込むと、そこは王城の大サロン……1番広いお部屋で、魔力測定の会場にも使われていた、とても豪華なお部屋で。
その大サロンでは今まさに、舞踏会が開かれていた。
……マリー様のデビュタントだ。
シシリーの記憶によると、デビュタント…つまりね、社交界デビューですよ。
(そのデビューにあたる子たちは、その期間……今年の春から夏近くまでの社交界では真っ白なドレスを身に纏う……はずだったんだけど、うん、時代が変わったのねぇ)
マリー様は、胸に真っ白な造花を飾っていた。
多分あのコサージュが、デビュタントの印なんだと思う。
他にも同じような白い大きな花飾りをつけている子がいる。
社交界の初心者マークなのだと思うと、ちょっと微笑ましいね。
「気にしてたもんね」
ふわりと隣で同じようにして階下を覗き込んでいる、ゼンナーシュタットのサラサラの毛並みが触れる。
春もそろそろ終わりとはいえ、やっぱり夜はしっかりと冷え込むので、ゼンナーシュタットの体温を隣に感じて、実はとっても心地が良い。もふもふだし。
マリー様は、ちょっと緊張気味でかたい笑顔だったけど、セグシュ兄様のリードでどうにか1曲踊り終えたところだった。
2人ともお似合いで……そして、なんだかとても初々しい。
「よかった……たのしそう」
本当によかった。
セグシュ兄様がマリー様のデビュタントに行くことができて。
ほっと胸を撫で下ろす。
……ガレット公爵家が襲撃されて、セシリアが誘拐された時に重傷を負ってしまって…命を失う危険だってあったんだ。
母様の必死の魔法のおかげで、一命は取り留めたけれど、後遺症が残っていた。
そんな状態では、デビュタントの出席はおろか、配属が決まっていた魔術師団すら、諦めなければならないところだった。
私のせいで。
セグシュ兄様は優しいから、きっと『セシリアのせいなんかじゃないよ』とか言いそうだけど、私のせいだ。
……私の魔力測定がきっかけなのだもの。
無関係とは、絶対に言い切れない。
今日を無事に迎える事ができて、本当に良かった。
階下の2人は休憩をするのか、スタップからドリンクを受け取って、マリー様に勧めているセグシュ兄様を見て、思わず笑顔がこぼれる。
マリー様はといえば、緊張が少しだけ解けたのか、今度は周囲が気になるようで、しきりにきょろきょろと辺りを見渡していた。
「セシリアも…踊ってみる?」
ゼンナーシュタットの声に、思わず顔を上げると、その背後にゆらりと、人影が見えた。
0
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!
饕餮
ファンタジー
書籍化決定!
2024/08/中旬ごろの出荷となります!
Web版と書籍版では一部の設定を追加しました!
今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。
救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。
一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。
そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。
だが。
「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」
森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。
ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。
★主人公は口が悪いです。
★不定期更新です。
★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。
孤児院の愛娘に会いに来る国王陛下
akechi
ファンタジー
ルル8歳
赤子の時にはもう孤児院にいた。
孤児院の院長はじめ皆がいい人ばかりなので寂しくなかった。それにいつも孤児院にやってくる男性がいる。何故か私を溺愛していて少々うざい。
それに貴方…国王陛下ですよね?
*コメディ寄りです。
不定期更新です!
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる