私は「あなたのために」生まれてきたわけではありませんのよ?~転生魔法師の異世界見聞録~公爵令嬢は龍と謳う。

まゆみ。

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はじまりはじまり。小さな冒険?

391、ダンスはまた今度。

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 ゆらりと現れた影の主は、ユージアと同じくらい…いや、セグシュ兄様と同じくらいの男の子だった。


「……残念だけど、子供は寝る時間かな?……ねぇ?ゼン」

「あ、はい……セシリア、帰ろうか。ごめんね」


 途端に、ゼンナーシュタットの耳としっぽが後ろにさがった。
 猫であれば『やばい!』とか『嫌な予感』な、表情だ。

 階下の、シャンデリアからの柔らかな明かりに浮かび上がったその姿は…守護龍アナステシアスだった。

 ゼンナーシュタットに連れてきてもらった『秘密基地』は、とっても高いところにあって、誰も来ないだろうと思っていたのに、守護龍アナステシアスにはお見通しだったようだ。

 って、とりあえず挨拶をしなくちゃだ!と、わたわたと立ち上がってカーテシーをしようとして、バランスを崩してふらつく。
 咄嗟にゼンナーシュタットのしっぽで支えられたけど、なんかふらつく。


「あ……えっと…」

「ステアでいいよ。セシリア……キミもホイホイ連れ出されちゃダメだからね?」

「はい…ステア…さま」

「病み上がりなんだから、ほら、また熱が上がってきてるよ?!」


 ゼンナーシュタットの奥にいた私の前にしゃがみ込むと、額を触ってちょっと怒ったような顔をする。
 ああ…熱が上がっちゃったから、ふらついてるのかな?

 確かに病み上がりというか。
 まぁ起きたばっかりだからね。
 魔力切れからも完全回復はしていないだろうし、ふらふらするよねぇ。

「ちゃんと送ってきなさい!」と、守護龍アナステシアスに怒られつつ、追い出されるように王城から出発した。
 ゼンナーシュタットの純白の毛並みが、月明かりを孕んで、ほのかに輝く様はとても綺麗で……ゼンナーシュタットに何度『建物の位置や景色を覚えて』と言われても、どうしても視線は、緩やかに揺れる、その毛足の長い毛並みに集中してしまった。


「ゼン、ありがとうね。楽しかったよ!」

「どういたしまして」


 ゼンナーシュタットと、王城を中心にぐるりと空中散歩を楽しんだあと、ゆっくりと公爵家へと向かい始める。
 景色を覚えると言ってもね、もう、夜景が綺麗としか……頭に入りません。
 視界も感触も、もふもふで、ふわっふわなのですよ。

 座っている場所から、少し高めの体温が伝わってきて、気分はほかほかのお布団に潜り込んでいる感じ。


(絶対これは寝転がったら幸せなやつだ!)


 ゼンナーシュタットの背に座っていた格好のまま、前へ倒れ込む。
 フワッフワの毛の間に潜り込むような形になって、思った通り、最高のもふもふだった。
 漆黒のヘルハウンドの毛並みも素敵だったのだけど、やっぱり私は、ゼンナーシュタットの長毛の毛並みが好きだ。


「ねぇ、ゼンのお勉強は大変?まだかかる?」

「まだ少しかかるかなぁ……どうしたの?」


 あくびを噛みしめつつ、極上の毛並みにすりすりしつつ、質問をしてみた。
 やっぱり、病み上がりなだけあって、体力ないなぁ……。
 また、寝落ちそう。


「ん……また一緒に、いられたら、いいなって…思ったの……」

「がんばるよ」


 いつもゼンナーシュタットだけ途中でいなくなっちゃうから。

 謹慎が解けたら、また一緒に大冒険……は遠慮したいけど、お出かけしたい。
 今度は『監獄』じゃなくて、王都の屋台を一緒に、見てまわりたい。
 奴隷運搬用の荷馬車から見えた街並み、眺めるだけじゃなくて今度は一緒にお散歩しよう。


「まってるから…」

「え?」

「はやく…かえって、きて…ね……」

「セシリア?」


 色々、話したいことはあったのだけど、ゼンナーシュタットの背は本当に心地良くて、気づけば意識を失っていた。
 ……色々、聞きたいこともあったのに。


「……寝ちゃったの?!…僕の家、どこだと思われてるんだろう?……まぁいっか」


 ゼンナーシュタットの声が…独り言のように響く。
 ため息も聞こえたような気がした。


「待っててくれるなら、頑張るよ……おやすみ、セシリア」






 ******






 どうやら窓からこっそり帰宅したらしい。
 目が覚めたら、しっかりとベッドに寝ていたし、騒ぎにはなっていなかったし。

 セリカにも見つからなかったのだと思うと、ちょっとほっとした。

 前日、あんなに必死にそばにいてくれたのだもの、これ以上の心配はかけたくない……と思ったのに。
 夜風に当たってしまったのがまずかったのか、熱は振り返してしまったようで、しっかりと上がってしまって、起き上がれずに、またもや寝込んでしまった。

 ちなみに……魔力熱の後遺症か?!とセリカが心配して、王城にいる母様へと連絡をしたらしいのだけど、朝イチで往診に来てくれたのは、母様や治療院のスタッフではなくて、なぜかルークだった。


「失礼する」と、入室すると、私の顔を見るなり思いっきり破顔した。
 それはもう、気持ち良いくらいの爆笑の域の笑みだった。
 嬉しそうな笑み、ではなくて本当に、楽しそうに笑われてしまった……なぜ?!


「無事で……安心した」


 そう言うと、激苦げきにがの風邪薬を処方してくれた。
 ……ねぇ、魔導学院から薬草を大量に持ち帰った時、甘い風邪薬も持ってたよね?
 私、知ってるんだよ?


(確かにこっちの方が効きやすいんだけど、でもこれ、大人でも、のたうつくらい苦いやつじゃない!)


 薬の包みを見て、目を丸くする私に向かって、呆れたように目を伏せると、にやりと口角を上げる。
 ルークの優美な顔立ちに浮かべるには、珍しく嫌味な表情に、ちょっと嫌な予感がしたわけだけど。


「キミが社交界が好きだったとは初耳だよ。完治の暁にはぜひエスコートさせてもらおう」


 ……夜のお出かけが、しっかりバレてらっしゃる。

 って、社交界、苦手だからねっ?!
 エスコートって幼児連れて社交界とか、ないからね?


(って、それ本当に行動に移したら、ルーク、相当な変人…あ、いや、すでにそういう評価なんだっけ……?)


 私が、あわあわと焦っている間に、ルークはベッドの枕元に近づくと、近況の報告をポツリポツリとしてくれた。

 王子2人もエルネストも、後遺症も無く、無事に魔力熱を克服できたそうだ。
 ……魔力が高い子の場合、何某かなにがしかの後遺症を残してしまうことが多いんだ。

 3人とも、最近の子供たちと比べたら、格段に高い魔力の持ち主ということで、心配だったそうだ。
 シシリーわたしが作った予防薬が多少なりとも、効いたのかもしれない。との事だった。


(良かった……小さな子供が苦しがる姿は見てられなかったんだ…少しでも役に立てたのなら、良かった…嬉しい)


 ただし、それはそれ、これはこれだ。と、ルークにまで『無理はするな』と、念を押されてしまった。

 魔力熱のあとは、体力回復に努めるようにと、勉強会は1週間のお休みになってしまった。
 退室していくルークの背をベッドから見送りつつ、残念。と思いつつ……そうなると気になるのは……。


公爵家うちのライブラリ!カイルザークが入り浸ってるらしいし、私も行きたいっ!)


 早く熱を下げてライブラリへ行くんだ!
 そう、気合を入れていると、ルークの笑顔に、呼吸すら忘れる勢いで見惚れて固まっていたセリカが微妙に復帰したらしく、夢見心地のほうっとした表情でお薬を準備してくれた。
 ……あの、激苦い風邪薬を。

 苦いし臭いし、最悪なんだよね……。
 効果は確かなんだけどね、とにかく味も匂いもいただけない。

 大人としては、ちゃんと効果のある薬だから飲んで欲しい…というその気持ちは痛いほどわかる。
 飲む立場となると……なかなかの拷問だった。

 あまりの苦さと臭さに、そして、薬を飲んだ後の、全く引くことのない後味の悪さに悶絶しているうちに寝てしまったようで、気づけば昼過ぎになっていた。


 廊下の物音に気づき、ぼんやりと目を覚ましているところに、父様が様子を見にきてくれた。
 入室早々に、真っ直ぐにベッドまで近づくと、ぎゅっと抱きしめられた後、満面の笑みで頭をグリグリされた。


「夜空の散歩は楽しかったかい?」


 ……ああ、こっちにも、しっかりバレてらっしゃる。

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