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はじまりはじまり。小さな冒険?
444、大好きなのに、怖いモノ。
しおりを挟むそしてですよ!
父様が『大きな貝』と言っていたものの正体……帆立でした。
(帆立……大好きなんだけど、前世では、良い記憶がないんだよなぁ)
好きなんだけど、どうにも反射的に顔を顰めそうになってしまう。
……私が生きていた頃の前世の世界では、本当に物流事情がよくなくてね。
例えばだけど、タラコとかイクラとか、子供が好きそうな魚卵。
そんな子供の頃の私は、それらが大っ嫌いでした。
生臭くてドロっとしていて、濁っていて。
(よくこんな臭いものを好んで食べれるものだなと、むしろ不思議だった記憶があるんだよ)
それが、技術の発達で、老後の私は好んで食べていた。
タラコは透明感のある肌色で、サクサクと音がしそうなほどに粒がしっかりしていて。
イクラはそもそも、イクラとして漬ける前の『生すじこ』が店頭に並ぶようになっていた。
(どちらも、色も食感も全くの別物だった)
私の前世での両親は、旅行好きだった。
そんな両親が『これは美味しいものだよ』と事あるごとに勧めてくれていたのは、きっとこれを我が子に食べさせたかったんだなと、自分が子や孫を持つ身になってから、しみじみと理解した。
確かに美味しいもの。
……海とは全くご縁のない地域で、こんなに新鮮な海産物が食べられる。
技術の発達はすごいと思うし、本当にありがたかった。
(いやぁ、そんな場所に住んでたからさ。新鮮なホタテって言ったって、冷凍されて、がっつり氷の塊のようになりかけの、ちょっと冷凍やけを起こしかけてるようなホタテしか知らなかったからさ……)
就職をして、北海道で初めての1人暮らしを始めたときに、職場でバーベキューをする話になってね。
上司に言われた通り、地元のスーパーで食材を集めて、その大きさや鮮度に驚いたのはもちろんなのだけど……。
1つ、やらかした。
生のホタテをね…私、冷凍モノしか知らなかったから。
保存するのに……冷凍庫に入れて凍らせてしまった。
その日の夕方にバーベキューだったんだけどね、その頃にはカチコチに凍ってしまっていた。
そのホタテは、その日の早朝に漁師さんたちが獲ってきてくれた天然物で、鮮度は抜群だったから、そもそも冷凍する必要なんてなくて。
まぁ少し暖かな日ではあったけど、北海道だからね。
外気はまだまだ、冷蔵庫よりも寒くて。
知らなかったとはいえ、そのやらかした事実に、直属の女性上司は激怒して、罵倒の如く…というか罵倒された。
(でもね、保存方法を知らなくて、お店のおばちゃんに聞いたら『そのまま夕方まで持つから台所に置いておけばいい』と言われ、上司には『冷やしといて』と言われて『冷凍庫でいいですか?』と、確認は取っていたんだよ……)
まぁ、この女性上司には、私が北海道に来て早々『これだから都会っ子は…!こんなことも知らないの?!』と散々馬鹿にされていたから、妬みのようなものもあったんじゃないか?と、他の同僚に言われたけどね……。
当時の私にしてみたら、関東出身者は私1人だけだし、20歳になったばかりの私に対して、同僚たちの1番歳が近い子でも、10歳以上離れていた。
(何より…来たばかりで土地勘もなければ、他愛のないことを話せるような友達もいなくて)
そもそもお隣の家へ行くにも、車で10分かかるような場所だったから……。
ただ普通に暮らしているだけでも、辛いなと思い始めていた頃に罵倒されて……トラウマになりかける勢いで、言葉が……心に刺さった。
だから、ホタテは好きだけど、怖い。
……名前を聞くと少し身構えてしまう。
(それが孫や息子の時代だったら、ネットとかブログに書いて『ひどいよね?!』なんて、愚痴でも呟けたのだろうけどね。というか、絶対に呟いて!?『ちゃんとストレス発散する場所を確保しなさい!』と、当時の私にも言いたいくらいだもの)
残念ながら、私の環境といえば、電話回線は契約だし…家に電話を引くのに10万ほどかかるの。
それ、携帯とかスマホで良いじゃんって思うでしょう?
でも、残念なことに、当時はスマホなんて存在しないし。
そうねぇ…ハイテク!という意味では、関東では気軽に実用できるほどではなかったけど、ポケベルが出始めた頃だったかしらね?
北海道の私が暮らしていた地域では、サービス対象外だったけど。
じゃあネットは?と聞かれると、実はそれっぽい事を、少しだけやってた。
(あの時は『インターネット』なんて、ちょっとかっこいい呼び方じゃなくてね、パソコン通信って言われてたのよ)
回線だって、光回線なんてものはなくて、アナログ回線っていうのかしら?
そして、パソコン通信をしている間は、電話を使えなかったの。
Wi-Fiなんて技術もなかったし、パソコン通信中は電話の通話中と同じだから、通話料がすごいことになったしね。
頻繁に、当たり前のようには使えなかったけど、分厚いブラウン管の画面越しでのチャット、楽しかったなぁ。
っと……思わず、記憶が暴走しかけてしまった。
不意に湧き上がってくる懐かしさや悔しさの感情に、涙目になりかけていることに気づく。
目元を袖でごしごししていると、隣の席に座っていた父様に『どうした?』と、心配されてしまった。
(さすがに『……前世を思い出して、涙が…』なんて言えない)
必死に『何でもないよ』と首をぶんぶんと振ると『無理するなよ?』と背をぽんぽんと優しく叩かれて、余計に涙腺が緩み、泣きだしそうになってしまった。
(これ、トラウマになりかけているとかじゃなくて、トラウマなんだろうなぁ……)
ホタテを見る度に、思い出すんだもの。
ホタテ、好きなのに……悔しい。
あの女性上司には、他のことでも散々馬鹿にされたけど……。
昔に戻れるなら、言いたい。
『豚汁の材料に里芋なんて買ってきて気持ち悪い!どれだけ料理のセンスがないの!?』
『ユリネを知らないなんて馬鹿じゃないの!単なる偏食じゃない』
……あなたの『当たり前』は地元での当たり前であって、全国共通ではないものがほとんどでしたからっ!!
私の生まれ育った地域では、豚汁にジャガイモなんて、玉ねぎなんて入れませんからっ!
ユリネだって、食べる習慣自体が、ない地域でしたから!
地元スーパーで、取り扱いすらなかったんだから、見たことすらないわよっ!
挙げ句の果てには『どんな育てられ方をしたら…』とか、親まで侮辱しないでください。
普通の…親ですよ…?
(まぁジャガイモ入り、玉ねぎ入りの豚汁も美味しかったけどね。バター落としたやつとか、カロリーが怖いけど、最高だったし)
でもね、知らないのは、それこそ北海道育ちじゃないんだから、しょうがないじゃないですか……。
ネットで簡単に調べられる、なんて手段も全く無かった時代で……。
(尋ねても教えてもらえるどころか、馬鹿にされるだけの環境で、どうしたら良かったんでしょうね?)
訛りも、みんな当たり前のように喋るけど、私には全然理解できなかったから、聞き返すうちに怒られてしまうし……。
とりあえず罵倒は、してほしくなかったです。
ひとりぼっちで本当に、辛かったから。
また、泣きそうになっていることに気づいて、どうにか我慢すると、鼻がツーンとなる。
……それを刺激に、やっぱり涙がこぼれそうになってしまって、何度も袖で、目元をごしごしとしてしまった。
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