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第三十二話 冒険者登録

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 冒険者ギルド応接室。

「こちらがお二人が冒険者であることを証明する冒険者カードです」

 チャールズは懐から手のひらサイズの薄い石の板を、二枚取り出し、それをテーブルの上に置く。

「……何も書いてないが、こんな板が身分証になるのか?」

 レンはそれを見て疑問に思う。

「ハハハハ……何も見えないのは当然ですよレン様。これは持ち主の魔力に反応して文字が浮かび上がる、いわゆる魔道具の一種ですからね」

 チャールズにそう説明され、レンは自分の前に置かれた冒険者カードを手に取ってみる。

「お、確かに何か文字が浮かび上がってきたな」

「どうやら解析版アナリシムで調べた名前や種族、年齢などの情報が書かれている様ですね」
 
 同じく冒険者カードを手に取ったアリスにそう教えられる。

「その通りです。ただレン様は解析版アナリシムで情報を取得することができませんでしたので、昨日レン様からお聞きした情報を元に作成させていただきました。一応間違いがないかご確認を」

「悪いアリス、俺の冒険者カードを見てくれ」

「はい」
 
 冒険者カードには当然この世界の文字が使われているので、レンには読めない。なので、アリスに確認してもらう。
 ちなみに、チャールズには最初に冒険者ギルドに来た時、解析版アナリシムに日本語で書かれていた前世の情報をそのまま伝えた。

「えーと……レン、二十四歳、人族、男、Cと書いてありますね」

「……シー……?」

 レンがチャールズに伝えた内容とほとんど一致しているが、最後にアリスから発せられた言葉には覚えがない。

「それは私の冒険者カードにも書いてありました。チャールズさん、Cとは何でしょうか?」

「それは冒険者ランクというものです」

「冒険者ランクですか?」

「説明しましょう。冒険者ランクというのは、上からA、B、C、D、E、Fの六つのランクが設けられており、冒険者の実力を表す指標となっております。
 当然ランクに応じて受注できる依頼の難易度も変わり、レン様とアリス様ですとCランクとなりますので、単独ではFからCまでの依頼を受けることができ、依頼にもよりますが、Cランク以上の冒険者とパーティを組めば、最大でBランクの依頼にも参加することができます」

「……なるほど。なら、俺たちは実質Aランク以外の依頼はすべて受けられるわけか」

 Fランクからのスタートならまず間違いなく金にならない雑用のような仕事しか受けられなかっただろう。そう考えると殆どの依頼を受けることができるCランクからのスタートは金を稼ぎたいレンたちにとっては好都合だ。
  
悪魔大蛇デビルバイパーを倒すほどの実力がおありなら、Bランクでも良かったのですが、新米冒険者をいきなり高ランクに認定すると色々と角が立ちますからね」

「いえ、Cランクでも充分ですよ。悪魔大蛇デビルバイパーの素材も高値で買い取っていただきましたし、チャールズさんには本当に感謝しかありません」

「いえいえ、元はと言えばギャンツ支部長の無茶な依頼から始まったことですし、私共の代わりにクレア王女を無事に連れ帰って来てくれたのですから、これぐらいは当然ですよ」

 一国の王女を死なせたとあっては冒険者ギルドの威信に関わるだろう。支部長であるギャンツと副支部長のチャールズの首が物理的に飛んでもおかしくない話だ。そう考えるこの好待遇も必然なのかもしれない。

「それにしても、依頼を受けるのにこんな制限があったとはな」

「昔、冒険者ギルドができたばかりの頃に、報酬目的で身の丈に合わない依頼を受けて死傷する若い冒険者が後を絶たなかったことで設けられた制度と聞いています」

「なるほどな」

 チャールズからの説明を受けレンは納得する。
 どこの世界にも後先を考えない馬鹿は居るということだ。

「ちなみに、ランクを上げるにはどうすればいいのですか?」

「冒険者ギルドが直々に発注する昇格試験用の依頼を完了させることで、ランクを上げることができます」

「単独でですか?」

「いえ、それですと普段パーティで補助的な役割を担っている冒険者の方が昇格できなくなってしまうので、同じく昇格試験を受ける同ランクの冒険者とパーティを組んでもらいます。冒険者に必要なのは腕っぷしだけではありませんからね。もちろん単独を希望されるならそれでも構いません」

「なるほど。それなら私の様な魔法使いでも大丈夫そうですね。色々と教えてくださりありがとうございます」

「いえいえ。他にも冒険者活動をするにあたって聞きたいことがあればなんなりと仰ってください」

「とりあえず、私は大丈夫ですかね。レン様はどうですか?」

「俺も大丈夫かな」

「それではレン様、アリス様、冒険者としてこれからも――」

「こ、困ります!! ここは関係者以外立ち入り禁止で……!!」

 チャールズが結びの言葉を言い始めたところで、応接室の外から受付嬢が叫ぶ声が聞こえる。それを聞き、何事かとチャールズは席を立つ。

「うるさい! 今それどころじゃないんだ!」

 扉の向こう側から、聞き覚えのある女の声が発せられる。

「この声は……」

 どうやらアリスとチャールズも声の主が誰か気付いたようだ。
 チャールズは応接室の扉を開け、廊下に出る。

「……あ……も、申し訳ありません! 副支部長! この方が勝手に……」

「大丈夫です。後は私に任せて、あなたは元の業務に戻りなさい」

「――は、はい……!」

「――さて、クレア王女。そんなに慌てて、どうされたのですか? もしや、レン様とアリス様をお探しで?」

「その通りだよチャールズさん! ボクは二人がここに居るって聞いて、こうして来たんだ!」

「それでしたら、丁度ここに――」

「本当か!!」

 チャールズを押しのけ、扉を破壊する勢いで応接室に入ってくるクレア。

「あはは……朝から元気ですねクレア……」

「寝坊するにしても限度があるんじゃないかクレア。約束の時間から丸一日経っているぞ」

「――アリス!! レン!!」

 レンたちを見てクレアは顔をほころばせる。一日顔を合わせなかっただけなのだが、まるで数年ぶりに再会したかの様な反応だ。

「探したよ二人とも!!」

「どうしたんですか? そんなに慌てて……」

「――説明は後でする!! だから二人とも今すぐに王城に来てくれ!」

 クレアの唐突な言葉にレンとアリスは驚き、瞠目するのだった。



~~~



「――やれやれ、クレア王女のおてんばは相変わらずですな」

 チャールズはクレアが応接室に飛び込んだのを見て、自分も部屋に戻ろうとする。

「あ、あの! 副支部長……!」

 すると、今しがた追い返した筈の受付嬢が慌てた様子で再び戻ってくる。

「どうしましたか? 廊下を走るのは危ないですよ」

「す、すみません! そ、その、受付の方に国王陛下からの使者を名乗るお方が……」

「――私の執務室に案内しなさい。私も今からそちらに向かいます」

「承知しました!」

 そう言うと、再び慌てた様子で戻っていく受付嬢。
 その背を見送ってから、チャールズは廊下をゆっくりと歩き出す。
 
「――どうやら恐れていた事態が現実になってしまったようですね……ギャンツ支部長」
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