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「今日も素敵だったなぁ、神原社長……」
お風呂上がり。
暖房の効いた部屋で、届いたばかりのアクリルスタンドとアクリルキーホルダーを見つめながら、奥寺夕美は呟いた。
それらには、アニメでも漫画でも小説でもない三次元の男性――夕美が勤める会社「nano-haカンパニー」の社長――神原千影が施されている。
「社長の写真バージョンも素晴らしいけど、私が描いたこのデフォルメバージョン社長も可愛くて最高~!」
写真バージョンの社長グッズはすでに持っていたので、今回は夕美が愛を込めて描いた社長のイラストをグッズ化したのだ。
神原千影社長は、夕美の「推し」である。
大学時代の夕美は今よりも飽きっぽい性格で、アイドルや二次元のキャラ、舞台の2.5次元や、動画配信者……と推しの対象は次々に移り変わっていき、それを楽しんでいた。
しかし大学を卒業後、「nano-haカンパニー」に就職してからは、神原社長だけを推し続けている。
それももうすぐ二年になろうとしていた。
なぜそこまで彼を推すのかといえば、まず、なんといっても顔。顔がいい。ビジュが最高。
夕美の性癖に刺さりまくりの顔をしている。
シャープな輪郭の小さな顔。キリリとした眉に大きめの目。通った鼻筋に、優しげな笑みを湛えた薄い唇には、いつもドキッとさせられてしまう。
サラリと後ろへ流した黒髪も清潔感があって好みすぎる。
「肌も綺麗なのよね。恐れ多いけど、ちょっと触ってみたいな、なんて」
夕美はアクキーを手のひらに置き、社長の頬を突っついた。
神原社長の身長は177センチ(夕美調べ)だ。
夕美は160センチなので社長とは17センチ差があった。
部屋の壁の177センチの場所にマスキングテープをちょこっと貼って、そこを見るたびに妄想を捗らせている。
彼は足が長く、細身だがスーツのジャケットを脱ぐとしっかりした男らしい肩がシャツ越しにわかるので、夕美はひとり顔を熱くすることもあった。
入社して二年目の夕美と彼のつながりは挨拶くらいだ。
その貴重な挨拶を交わしたあとは、尋常でないときめきで倒れそうになるが、毎回必死に耐えて笑顔を見せた。
神原社長の素晴らしいところは見た目だけではない。
現在二十九歳の彼が、今の会社を立ち上げたのが二十五歳の時。
その「nano-haカンパニー」は「街づくり」を基本としたエリアマネジメントを手がける会社だ。
エリアの特性に応じて、地域活性化のためのイベント企画や運営、地域資源の調査とそれを生かした産業や商業、開発の提案など……、そこに住む人たちが主体となって地域の魅力づくりをしていけるよう、マネジメントしていくのである。
それぞれの地域に密着して事業に関わるのは簡単なことではない。
だが、神原社長はいつも楽しそうに仕事に取り組んでいた。
そして夕美が忘れられない、就活の面接で彼が言った言葉がある。
「僕は社会貢献できる、この事業に誇りを持っています。地方へ旅行に訪れた先で、心を癒やしてくれた場所がたくさんありました。その地域を寂れさせることのないお手伝いと、そこに住む人たちに貢献できるのなら、こんなに嬉しいことはありません」
この時の彼の真摯な表情が、今でも夕美の目に焼き付いて離れない。
「奥寺さんもそういう気持ちで弊社を受けてくださったようで、心からありがたいことだと思っています」
地方出身の夕美は、神原社長の言葉は胸を打たれたのだ。
人事部長の質問で硬くなっていた夕美だが、社長の言葉を聞いたあとは(絶対に受かって、社長のお役に立ちたい!)と、強い意志を持って受け答えを続けたのだった。
「内定が決まった時は、本当に嬉しかったな。そういえば社長って、大学生の時に起業した会社もあったようだし、本当にすごい人なのよね。私は今、二十四歳だから、社長とは五歳しか変わらないんだけど、この差はいったい……」
夕美の大学時代といえば、バイトに推し活に勉強、友だちと遊んで、たまに長野の実家へ帰る、の繰り返しで、起業など微塵も考えたことはない。
「顔良し、スタイル良し、仕事に取り組む姿勢は尊敬ものだし、性格は温厚で優しく、部下からの信頼も厚い。とにかく、社長を推さない理由がないってこと……!」
アクスタとアクキーをこたつの上に並べ、マグカップに淹れたホットココアを口にする。もう冬になろうという、秋の夜長に楽しむ推し活は最高だ。
ココアの優しい味わいを堪能したあと、夕美は胸の辺りまであるストレートヘアをひとつにまとめた。
そして手帳を取り出し、栞が挟まったページをひらく。
これは毎日欠かさず書いている「今日の社長」を記録する推し活手帳だ。
お風呂上がり。
暖房の効いた部屋で、届いたばかりのアクリルスタンドとアクリルキーホルダーを見つめながら、奥寺夕美は呟いた。
それらには、アニメでも漫画でも小説でもない三次元の男性――夕美が勤める会社「nano-haカンパニー」の社長――神原千影が施されている。
「社長の写真バージョンも素晴らしいけど、私が描いたこのデフォルメバージョン社長も可愛くて最高~!」
写真バージョンの社長グッズはすでに持っていたので、今回は夕美が愛を込めて描いた社長のイラストをグッズ化したのだ。
神原千影社長は、夕美の「推し」である。
大学時代の夕美は今よりも飽きっぽい性格で、アイドルや二次元のキャラ、舞台の2.5次元や、動画配信者……と推しの対象は次々に移り変わっていき、それを楽しんでいた。
しかし大学を卒業後、「nano-haカンパニー」に就職してからは、神原社長だけを推し続けている。
それももうすぐ二年になろうとしていた。
なぜそこまで彼を推すのかといえば、まず、なんといっても顔。顔がいい。ビジュが最高。
夕美の性癖に刺さりまくりの顔をしている。
シャープな輪郭の小さな顔。キリリとした眉に大きめの目。通った鼻筋に、優しげな笑みを湛えた薄い唇には、いつもドキッとさせられてしまう。
サラリと後ろへ流した黒髪も清潔感があって好みすぎる。
「肌も綺麗なのよね。恐れ多いけど、ちょっと触ってみたいな、なんて」
夕美はアクキーを手のひらに置き、社長の頬を突っついた。
神原社長の身長は177センチ(夕美調べ)だ。
夕美は160センチなので社長とは17センチ差があった。
部屋の壁の177センチの場所にマスキングテープをちょこっと貼って、そこを見るたびに妄想を捗らせている。
彼は足が長く、細身だがスーツのジャケットを脱ぐとしっかりした男らしい肩がシャツ越しにわかるので、夕美はひとり顔を熱くすることもあった。
入社して二年目の夕美と彼のつながりは挨拶くらいだ。
その貴重な挨拶を交わしたあとは、尋常でないときめきで倒れそうになるが、毎回必死に耐えて笑顔を見せた。
神原社長の素晴らしいところは見た目だけではない。
現在二十九歳の彼が、今の会社を立ち上げたのが二十五歳の時。
その「nano-haカンパニー」は「街づくり」を基本としたエリアマネジメントを手がける会社だ。
エリアの特性に応じて、地域活性化のためのイベント企画や運営、地域資源の調査とそれを生かした産業や商業、開発の提案など……、そこに住む人たちが主体となって地域の魅力づくりをしていけるよう、マネジメントしていくのである。
それぞれの地域に密着して事業に関わるのは簡単なことではない。
だが、神原社長はいつも楽しそうに仕事に取り組んでいた。
そして夕美が忘れられない、就活の面接で彼が言った言葉がある。
「僕は社会貢献できる、この事業に誇りを持っています。地方へ旅行に訪れた先で、心を癒やしてくれた場所がたくさんありました。その地域を寂れさせることのないお手伝いと、そこに住む人たちに貢献できるのなら、こんなに嬉しいことはありません」
この時の彼の真摯な表情が、今でも夕美の目に焼き付いて離れない。
「奥寺さんもそういう気持ちで弊社を受けてくださったようで、心からありがたいことだと思っています」
地方出身の夕美は、神原社長の言葉は胸を打たれたのだ。
人事部長の質問で硬くなっていた夕美だが、社長の言葉を聞いたあとは(絶対に受かって、社長のお役に立ちたい!)と、強い意志を持って受け答えを続けたのだった。
「内定が決まった時は、本当に嬉しかったな。そういえば社長って、大学生の時に起業した会社もあったようだし、本当にすごい人なのよね。私は今、二十四歳だから、社長とは五歳しか変わらないんだけど、この差はいったい……」
夕美の大学時代といえば、バイトに推し活に勉強、友だちと遊んで、たまに長野の実家へ帰る、の繰り返しで、起業など微塵も考えたことはない。
「顔良し、スタイル良し、仕事に取り組む姿勢は尊敬ものだし、性格は温厚で優しく、部下からの信頼も厚い。とにかく、社長を推さない理由がないってこと……!」
アクスタとアクキーをこたつの上に並べ、マグカップに淹れたホットココアを口にする。もう冬になろうという、秋の夜長に楽しむ推し活は最高だ。
ココアの優しい味わいを堪能したあと、夕美は胸の辺りまであるストレートヘアをひとつにまとめた。
そして手帳を取り出し、栞が挟まったページをひらく。
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