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21 事後報告と確認
しおりを挟む夕美、夕美、という声が遠くから聞こえた。
それは真夜中だったのか、今呼ばれているのか、それとも夢なのか、はっきりわからない。
夕美、可愛いね、夕美、夕美……。
明るさに目が覚めた夕美は、むくりと起き上がって周りを見回した。
「おはよう」
視線の先で、椅子に座っている神原社長が、こちらを見て挨拶をする。彼が着ている浴衣の前が、少しはだけていた。
夕美はその場で正座をし、慌てふためく。
「しゃ、社長っ! おはようございます! なぜ浴衣を!? 今日はそういう企画で――」
「いや、会社じゃないから」
「えっ」
彼にツッコまれて辺りを見回すと、見覚えのある豪華な部屋にいる。
目をしばたたかせて記憶を辿る夕美のそばに、彼がやってきた。その重みでベッドがギシッと軋んだ。
「おーい、大丈夫? 君は僕という恋人と、伊豆の旅行でここに泊まったんだよ? 昨夜君は、僕とこうして……」
夕美の頬に手を添えた彼の顔が迫ってくる。夕美は彼の胸に手をあてて、こくこくとうなずいた。
「も、もう、思い出したから、大丈夫! 寝ぼけてただけだから!」
「よく眠れたみたいだね」
ニコッと笑った千影が、夕美の肩を抱く。彼の体はしっとりと熱を帯びていた。
「いつ寝ちゃったのかよく覚えてないくらい、グッスリだったみたい。急激に眠気が来ちゃって……ごめんなさい」
「謝らなくていいよ。気持ち良かったんでしょ? 僕にイカされて」
「~~っ!!」
ボワっと顔から火が出たようになった。
そんな夕美を見て、千影は意地悪な笑みを浮かべる。
「その後も気持ちよさそうに、よだれ垂らして眠ってたよ。さっき僕が起きても、全然気づかずに眠り続けてた」
「えっ、よだれっ!?」
口元に指を当てると、確かに顎のあたりがカサついているではないか。
「やだ、恥ずかしい……!」
合わせる顔がなくて、夕美は俯きながら手で顔を覆った。
「可愛い寝顔だったから大丈夫だよ。露天風呂、入ってきたら? 朝食までまだ時間がある。朝風呂は最高に気持ちいいよ」
「うん、そうする……。よだれの顔は忘れてね?」
「絶対に忘れない。僕の家宝にする」
「ほんとにやめて~~」
夕美は千影の腕の中から抜け出し、彼の笑い声を背にその場を離れた。恥ずかしすぎて振り向くことすらできない。
露天風呂横にあるトイレに寄ってから、脱衣所で浴衣を脱ぐ。フェイスタオルで胸から下を隠そうとした夕美は、違和感を覚えた。
「なんだろう、ここ……、何かこぼした?」
先ほど口元で感じたように、胸のあたりが微かにカサついている。
「まさか、こんなところまでよだれを垂らしたの? いくら眠かったからって、嘘でしょ、もう~」
夕美は小声でひとりごちながら、屋外へ出た。とたん、朝の冷たい空気が肌を刺す。
「わ、寒い……!」
洗い場についているシャワーでさっと体を流した。気になった胸のあたりも、口元も洗い流す。露天風呂に足先を入れると、気温との差で昨夜よりも熱く感じた。その熱さを我慢して、お湯に浸かる。
じわじわと体の奥まで温まり、しばらくして熱さに慣れた。
「ふぅ……いい気持ち」
今日も冬晴れの空は真っ青で、その色を映す海も美しい。遠くの海を漁船がゆっくりと進んでいる。
「極楽だ……」
そして昨夜も、心と体は天にも上る心地だった。
大好きな人に触られることが、あんなにも幸せで気持ちが良いことだとは知らなかった。
数え切れないほどのキスで感じた体を持て余し、彼の指におねだりするまでになってしまうとは……。
(我慢ができなくて、私は千影さんにイカせてもらったけど、彼は最後までしなくても平気だったのかな? 男性の方が我慢するのが大変そうだと思っていたのは、私の勘違い……?)
夕美の下腹や腰に押しつけられた千影のそれは、確かに大きく硬くなっていた。しかし夕美と違って、滾りを収められるほど彼は大人の男性なのだろう。
「思い出すだけで、どうにかなっちゃいそう……」
夕美は口元まで湯船に浸かり、昨夜のことを密かに心の中で繰り返した。
露天風呂から出て着替え、洗面や歯磨きを終えて、部屋に戻ろうとドアを開けた瞬間――。
「夕美……!」
目の前にいた千影にぎゅっと抱きしめられる。
「わっ! び、びっくりした」
「ほかほかの夕美、可愛い。気持ち良かった?」
頬をすりすりしてくる千影は、なかなか夕美を離してくれない。
彼の腕の中で幸せな気持ちに浸りながら、答えた。
「うん、最高だった。天気が良くて海も綺麗で、千影さんとずっとここにいたいくらい」
心からそう思った素直な気持ちを伝える。
「じゃあ、さ。年末年始はずっと僕の家で過ごさない?」
千影は夕美の気持ちを探るように、声のトーンを下げて尋ねた。
「え……、いいの?」
「夕美が無理してないなら、僕は大歓迎なんだけど。ずっと一緒にいたいから」
彼の表情は不安げで、夕美に断られるのを怖がっているかのように見えた。というのは、うぬぼれだろうか。
「全然無理じゃない。私も千影さんとずっと一緒にいたいな」
「やったぁ……!」
「きゃっ」
明るい声に変わった千影に、いきなり抱き上げられる。お姫様抱っこだ。
「朝食まで時間があるから、ベッドの上でいちゃいちゃしようね」
「う、うん……」
子どものようにはしゃぎながら言われて、夕美は恥ずかしがりながらもうなずくしかない。
その後は……、甘い言葉とキスを降らせる千影の腕の中で、彼の言った「いちゃいちゃ」の時間をたっぷり堪能させられたのだった。
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