33 / 93
【第一部】国家転覆編
25)目覚め
しおりを挟む
※11/29 本日2話更新です。こちらからお読みください。
----
「グレン!! だーかーらー! なぁんで角が生えてるんだよ角が!」
――なんかあったらカッコいいかと思って!
「馬鹿、お前は角がなくても十分カッコいい立派な天才魔術師だろうが!」
ちぇっ。角はドーヴィに不評だったみたい。僕は生やしていた黒い角をぶちっともぎ取り、ぺたぺたと足に作り直した。……こねこねするのも、ちょっと飽きてきた。
――……ねえ、ドーヴィ
「なんだ? どうした?」
――僕は、そろそろ起きた方がいいよね
「……そりゃあ、な。じいやもばあやも、他のみんなも、お前のことが心配で心配でたまらないって顔してるぜ」
――そうだね……
「だが、起きたくないなら、別に起きなくてもいい。俺が全部何とかしてやるから、お前は満足するまで眠ってていいんだぞ」
ドーヴィの言葉はとても甘い。あったかくて、あまくて、きもちがよくて。ちゃんと作った手足とかが、またふにゃふにゃになる。力が抜けるって感じだ。
でも。さすがに、起きないと。だって僕は、クランストン辺境伯だからね。きっとやらなきゃいけないお仕事もたくさん溜まってるし、領民を不安にさせちゃいけないし。
――ううん、起きる
「そうか」
――……ほんとは起きるの怖い
「だろうなぁ」
――だって……痛くて、怖くて、辛くて……怖かった
ちゃんとは覚えてないけど僕がぐちゃぐちゃになっちゃった時のやつ。ちょっと思い出すだけで、ぶわーって足元からそれが這い上がってきて、それだけでぶるぶるしちゃう。よくわからないけど、とにかくイヤ。怖い。ヤダ。心臓がドキドキうるさいし、なんだか頭だってくらくらしてきちゃう。
起きなきゃいけないのに、立てなくなっちゃった。足に力が入らなくて、僕、起きろ起きろ!って言ってるのに、全然、体が言う事聞いてくれない。
「グレン」
――ドーヴィ、どうしよう、僕、起きなきゃいけないのに、立てない。僕、辺境伯だから、立たないといけないのに……
「……ハハッ、しょうがねえなあ。ほら」
ドーヴィの大きな手が、僕の両手をぐいっと引っ張った。すごく力強くて、僕の体、おもちゃみたいにぽーんって跳ね上がった。ドーヴィ、力強すぎだよ!
――わっ!
そのまま、すぽん、って、ドーヴィの腕の中に納まったみたい。僕の大好きな場所。あったかくてやさしくてきもちよくて。僕が我慢できなくて、ドーヴィの体に抱き着いた。ぎゅって。ぎゅってしてもらうのもいいし、ぎゅってするのも好き。
「お前が立てないなら俺が支えてやる。これで立てただろう?」
――うん
「……グレン。お前は、何がしたい? 何をやりたい? 俺はお前がやりたいことなら何でも手伝ってやる。お前が幸せになるためなら、何だってやってやる」
――僕がやりたいのは……
僕がやりたいのは。やらなきゃいけないこと、じゃなくて、やりたいこと、は。
痛くて、辛くて、苦しかった……あともう一個。僕はあの時、悔しい!って思った。そうだ、僕は思ったんだ。自分が死ぬことより何より、残された人たちを守り切れなかったことが、悔しかった。
――僕は、クランストン辺境伯として、みんなを守りたい。みんなに幸せになって貰いたい。姉上も、じいやも、ばあやも、補佐官の人たちも、騎士の人たちも、城下町の人たちも、村に暮らす人も、みんな。みーんな、幸せになって欲しい。
「……わかった。それがグレンの望みなんだな」
――うん。父上と母上と、兄上の分も。僕が、みんなを守りたい。みんなが守ってくれたみんなを、今度は僕が守りたい。
ドーヴィが僕の頭を撫でてくれる。これもきもちよくて、すごく好き。
「契約主の、お望みのままに。グレン・クランストンの願いは、この悪魔ドーヴィが叶えよう」
――ドーヴィ
「グレンが皆を守るなら、俺がグレンを守ろう。お前は自分がやりたいように、やればいい」
俺がお前を守る、そう言ってドーヴィはまた僕のことを強く抱きしめてくれた。優しくて、力強くて、温かい……ううん、とても熱い。僕も、どんどん体が熱くなってくる。怖くて震えてた僕の体が静かになっていく。
「大丈夫だグレン。お前には俺がいる。俺がずっとそばにいる」
辺境伯になってから、ずっと怖かった。何をするのも怖かった、生きているのが怖かった。父上も母上も兄上も死んでしまって、姉上もいなくなって。何の学も実績もないのに、僕がいきなり辺境伯当主になっちゃって。何をやっても、失敗するんじゃないかって怖かった。僕の指示で誰か死ぬんじゃないかって怖かった。
他の貴族はみんな敵だった。僕の味方は、僕が守らなきゃいけない人達だった。
僕は、ずっと、誰かに、『大丈夫』って言って欲しかったんだ。守ってもらいたかったんだ。
――僕は、もう一人じゃない
「そうだ。俺がいる」
――ありがとう、ドーヴィ
起きても、もう怖くない。ドーヴィがいるから。
☆☆☆
「……マルコ、外のやつらを呼んできてくれねえか」
グレンの手を握ったままのドーヴィが、静かにそう言った。
「人遣いの荒い悪魔ですね、全く」
そうぼやきながらも、天使マルコはベッド端から立ち上がり、部屋の扉へと足を向ける。
同時にずっと眠ったままだったグレンのまぶたがぴくりと動き――ゆっくりと、開かれた。
「ぁ……どー……う゛ぃ……」
「……おはよう、グレン。よく眠れたか?」
数週間ぶりに見た紫がかった赤色の瞳は、ドーヴィの顔をぴたりと見定める。すぅ、と目が細められ、グレンの口元が柔らかく綻んだ。
「……ちょ、っと……たの、しかっ、た……」
「っ、お前は、ほんとにこっちの気も知らねえで……っ!」
ドーヴィの声が、涙に揺れたのはグレンの気のせいではないだろう。
「坊ちゃま!」
マルコに呼ばれた執事のアーノルドと、メイド長のフローレンスが雪崩れ込むように寝室に入ってくる。扉の向こうから、待機していたメイドや騎士が様子を伺う。耳ざとく騒ぎを聞きつけたメイドが廊下の奥からやってくる。
「坊ちゃま、よく、よくぞ、お戻りに……っ!」
「ごめ、ん……ただいま……っ」
「ううっ、うっ、おかえりなさいませ、坊ちゃまっ!」
フローレンスの泣き声を皮切りに、騒動は次々に使用人の間に広まり――やがて、クランストン辺境城中に、喜びの声が満ち溢れていく。
歓喜の声は城に留まらず。城下町へと伝わり、さらに長い時間をかけて、辺境中の村に至るまで。
すべての人々が、クランストン辺境伯の帰還に歓びの声を上げた。
--
短いですがキリが良いので
----
「グレン!! だーかーらー! なぁんで角が生えてるんだよ角が!」
――なんかあったらカッコいいかと思って!
「馬鹿、お前は角がなくても十分カッコいい立派な天才魔術師だろうが!」
ちぇっ。角はドーヴィに不評だったみたい。僕は生やしていた黒い角をぶちっともぎ取り、ぺたぺたと足に作り直した。……こねこねするのも、ちょっと飽きてきた。
――……ねえ、ドーヴィ
「なんだ? どうした?」
――僕は、そろそろ起きた方がいいよね
「……そりゃあ、な。じいやもばあやも、他のみんなも、お前のことが心配で心配でたまらないって顔してるぜ」
――そうだね……
「だが、起きたくないなら、別に起きなくてもいい。俺が全部何とかしてやるから、お前は満足するまで眠ってていいんだぞ」
ドーヴィの言葉はとても甘い。あったかくて、あまくて、きもちがよくて。ちゃんと作った手足とかが、またふにゃふにゃになる。力が抜けるって感じだ。
でも。さすがに、起きないと。だって僕は、クランストン辺境伯だからね。きっとやらなきゃいけないお仕事もたくさん溜まってるし、領民を不安にさせちゃいけないし。
――ううん、起きる
「そうか」
――……ほんとは起きるの怖い
「だろうなぁ」
――だって……痛くて、怖くて、辛くて……怖かった
ちゃんとは覚えてないけど僕がぐちゃぐちゃになっちゃった時のやつ。ちょっと思い出すだけで、ぶわーって足元からそれが這い上がってきて、それだけでぶるぶるしちゃう。よくわからないけど、とにかくイヤ。怖い。ヤダ。心臓がドキドキうるさいし、なんだか頭だってくらくらしてきちゃう。
起きなきゃいけないのに、立てなくなっちゃった。足に力が入らなくて、僕、起きろ起きろ!って言ってるのに、全然、体が言う事聞いてくれない。
「グレン」
――ドーヴィ、どうしよう、僕、起きなきゃいけないのに、立てない。僕、辺境伯だから、立たないといけないのに……
「……ハハッ、しょうがねえなあ。ほら」
ドーヴィの大きな手が、僕の両手をぐいっと引っ張った。すごく力強くて、僕の体、おもちゃみたいにぽーんって跳ね上がった。ドーヴィ、力強すぎだよ!
――わっ!
そのまま、すぽん、って、ドーヴィの腕の中に納まったみたい。僕の大好きな場所。あったかくてやさしくてきもちよくて。僕が我慢できなくて、ドーヴィの体に抱き着いた。ぎゅって。ぎゅってしてもらうのもいいし、ぎゅってするのも好き。
「お前が立てないなら俺が支えてやる。これで立てただろう?」
――うん
「……グレン。お前は、何がしたい? 何をやりたい? 俺はお前がやりたいことなら何でも手伝ってやる。お前が幸せになるためなら、何だってやってやる」
――僕がやりたいのは……
僕がやりたいのは。やらなきゃいけないこと、じゃなくて、やりたいこと、は。
痛くて、辛くて、苦しかった……あともう一個。僕はあの時、悔しい!って思った。そうだ、僕は思ったんだ。自分が死ぬことより何より、残された人たちを守り切れなかったことが、悔しかった。
――僕は、クランストン辺境伯として、みんなを守りたい。みんなに幸せになって貰いたい。姉上も、じいやも、ばあやも、補佐官の人たちも、騎士の人たちも、城下町の人たちも、村に暮らす人も、みんな。みーんな、幸せになって欲しい。
「……わかった。それがグレンの望みなんだな」
――うん。父上と母上と、兄上の分も。僕が、みんなを守りたい。みんなが守ってくれたみんなを、今度は僕が守りたい。
ドーヴィが僕の頭を撫でてくれる。これもきもちよくて、すごく好き。
「契約主の、お望みのままに。グレン・クランストンの願いは、この悪魔ドーヴィが叶えよう」
――ドーヴィ
「グレンが皆を守るなら、俺がグレンを守ろう。お前は自分がやりたいように、やればいい」
俺がお前を守る、そう言ってドーヴィはまた僕のことを強く抱きしめてくれた。優しくて、力強くて、温かい……ううん、とても熱い。僕も、どんどん体が熱くなってくる。怖くて震えてた僕の体が静かになっていく。
「大丈夫だグレン。お前には俺がいる。俺がずっとそばにいる」
辺境伯になってから、ずっと怖かった。何をするのも怖かった、生きているのが怖かった。父上も母上も兄上も死んでしまって、姉上もいなくなって。何の学も実績もないのに、僕がいきなり辺境伯当主になっちゃって。何をやっても、失敗するんじゃないかって怖かった。僕の指示で誰か死ぬんじゃないかって怖かった。
他の貴族はみんな敵だった。僕の味方は、僕が守らなきゃいけない人達だった。
僕は、ずっと、誰かに、『大丈夫』って言って欲しかったんだ。守ってもらいたかったんだ。
――僕は、もう一人じゃない
「そうだ。俺がいる」
――ありがとう、ドーヴィ
起きても、もう怖くない。ドーヴィがいるから。
☆☆☆
「……マルコ、外のやつらを呼んできてくれねえか」
グレンの手を握ったままのドーヴィが、静かにそう言った。
「人遣いの荒い悪魔ですね、全く」
そうぼやきながらも、天使マルコはベッド端から立ち上がり、部屋の扉へと足を向ける。
同時にずっと眠ったままだったグレンのまぶたがぴくりと動き――ゆっくりと、開かれた。
「ぁ……どー……う゛ぃ……」
「……おはよう、グレン。よく眠れたか?」
数週間ぶりに見た紫がかった赤色の瞳は、ドーヴィの顔をぴたりと見定める。すぅ、と目が細められ、グレンの口元が柔らかく綻んだ。
「……ちょ、っと……たの、しかっ、た……」
「っ、お前は、ほんとにこっちの気も知らねえで……っ!」
ドーヴィの声が、涙に揺れたのはグレンの気のせいではないだろう。
「坊ちゃま!」
マルコに呼ばれた執事のアーノルドと、メイド長のフローレンスが雪崩れ込むように寝室に入ってくる。扉の向こうから、待機していたメイドや騎士が様子を伺う。耳ざとく騒ぎを聞きつけたメイドが廊下の奥からやってくる。
「坊ちゃま、よく、よくぞ、お戻りに……っ!」
「ごめ、ん……ただいま……っ」
「ううっ、うっ、おかえりなさいませ、坊ちゃまっ!」
フローレンスの泣き声を皮切りに、騒動は次々に使用人の間に広まり――やがて、クランストン辺境城中に、喜びの声が満ち溢れていく。
歓喜の声は城に留まらず。城下町へと伝わり、さらに長い時間をかけて、辺境中の村に至るまで。
すべての人々が、クランストン辺境伯の帰還に歓びの声を上げた。
--
短いですがキリが良いので
70
あなたにおすすめの小説
ちっちゃな婚約者に婚約破棄されたので気が触れた振りをして近衛騎士に告白してみた
風
BL
第3王子の俺(5歳)を振ったのは同じく5歳の隣国のお姫様。
「だって、お義兄様の方がずっと素敵なんですもの!」
俺は彼女を応援しつつ、ここぞとばかりに片思いの相手、近衛騎士のナハトに告白するのだった……。
ざまぁされたチョロ可愛い王子様は、俺が貰ってあげますね
ヒラヲ
BL
「オーレリア・キャクストン侯爵令嬢! この時をもって、そなたとの婚約を破棄する!」
オーレリアに嫌がらせを受けたというエイミーの言葉を真に受けた僕は、王立学園の卒業パーティーで婚約破棄を突き付ける。
しかし、突如現れた隣国の第一王子がオーレリアに婚約を申し込み、嫌がらせはエイミーの自作自演であることが発覚する。
その結果、僕は冤罪による断罪劇の責任を取らされることになってしまった。
「どうして僕がこんな目に遭わなければならないんだ!?」
卒業パーティーから一ヶ月後、王位継承権を剥奪された僕は王都を追放され、オールディス辺境伯領へと送られる。
見習い騎士として一からやり直すことになった僕に、指導係の辺境伯子息アイザックがやたら絡んでくるようになって……?
追放先の辺境伯子息×ざまぁされたナルシスト王子様
悪役令嬢を断罪しようとしてざまぁされた王子の、その後を書いたBL作品です。
光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
筋肉質な人間湯たんぽを召喚した魔術師の話
陽花紫
BL
ある冬の日のこと、寒さに耐えかねた魔術師ユウは湯たんぽになるような自分好み(筋肉質)の男ゴウを召喚した。
私利私欲に塗れた召喚であったが、無事に成功した。引きこもりで筋肉フェチなユウと呑気なマッチョ、ゴウが過ごす春までの日々。
小説家になろうにも掲載しています。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
婚約破棄された公爵令嬢アンジェはスキルひきこもりで、ざまあする!BLミッションをクリアするまで出られない空間で王子と側近のBL生活が始まる!
山田 バルス
BL
婚約破棄とスキル「ひきこもり」―二人だけの世界・BLバージョン!?
春の陽光の中、ベル=ナドッテ魔術学院の卒業式は華やかに幕を開けた。だが祝福の拍手を突き破るように、第二王子アーノルド=トロンハイムの声が講堂に響く。
「アンジェ=オスロベルゲン公爵令嬢。お前との婚約を破棄する!」
ざわめく生徒たち。銀髪の令嬢アンジェが静かに問い返す。
「理由を、うかがっても?」
「お前のスキルが“ひきこもり”だからだ! 怠け者の能力など王妃にはふさわしくない!」
隣で男爵令嬢アルタが嬉しげに王子の腕に絡みつき、挑発するように笑った。
「ひきこもりなんて、みっともないスキルですわね」
その一言に、アンジェの瞳が凛と光る。
「“ひきこもり”は、かつて帝国を滅ぼした力。あなたが望むなら……体験していただきましょう」
彼女が手を掲げた瞬間、白光が弾け――王子と宰相家の青年モルデ=リレハンメルの姿が消えた。
◇ ◇ ◇
目を開けた二人の前に広がっていたのは、真っ白な円形の部屋。ベッドが一つ、机が二つ。壁のモニターには、奇妙な文字が浮かんでいた。
『スキル《ひきこもり》へようこそ。二人だけの世界――BLバージョン♡』
「……は?」「……え?」
凍りつく二人。ドアはどこにも通じず、完全な密室。やがてモニターが再び光る。
『第一ミッション:以下のセリフを言ってキスをしてください。
アーノルド「モルデ、お前を愛している」
モルデ「ボクもお慕いしています」』
「き、キス!?」「アンジェ、正気か!?」
空腹を感じ始めた二人に、さらに追い打ち。
『成功すれば豪華ディナーをプレゼント♡』
ステーキとワインの映像に喉を鳴らし、ついに王子が観念する。
「……モルデ、お前を……愛している」
「……ボクも、アーノルド王子をお慕いしています」
顔を寄せた瞬間――ピコンッ!
『ミッション達成♡ おめでとうございます!』
テーブルに豪華な料理が現れるが、二人は真っ赤になったまま沈黙。
「……なんか負けた気がする」「……同感です」
モニターの隅では、紅茶を片手に微笑むアンジェの姿が。
『スキル《ひきこもり》――強制的に二人きりの世界を生成。解除条件は全ミッション制覇♡』
王子は頭を抱えて叫ぶ。
「アンジェぇぇぇぇぇっ!!」
天井スピーカーから甘い声が響いた。
『次のミッション、準備中です♡』
こうして、トロンハイム王国史上もっとも恥ずかしい“ひきこもり事件”が幕を開けた――。
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる