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【第一部】後日談(小ネタ)
ドーヴィ vs ドラガド侯爵 in 豚小屋
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※コメディですがドラガド侯爵がまたしても可哀そうな目(?)に遭うのでそれはさすがにかわいそうだよお!な方はスルーしてください
豚にされてしまったドラガド侯爵、彼はいまだソーセージになることなく王城の豚小屋で過ごしていた。代り映えのしない景色に残飯の汚臭、寝るには固すぎる地面に吐き気を催すほどの食事……。
(なぜ……なぜ私がこんなことにっ……!)
ドラガド侯爵はぶひっ! と鼻息荒く吐いた後に、苛立ちをぶつけるように地面を前足で堀った。……というより、豚としてやることが寝るか食うか地面を掘るか、ぐらいしかないのだ。他の豚は交尾に勤しんでいるようだが、まだ人間の感覚を鮮明に残しているドラガド侯爵には到底無理な娯楽である。
そうして一心不乱に地面を掘っていると、遠くから人の声が聞こえてくる。珍しい、複数人の声だ。ドラガド侯爵は顔を上げて様子を伺った。
「――ここが豚小屋になります」
「うむ」
一人の貴族文官が手で示し、そこに頷くのは小柄な少年。片目に眼帯を巻いた、黒髪の。
(グ、グ、グ、グ、グレン・クランストン!!!!)
ドラガド侯爵は天敵を見つけ、一気に怒りが爆発した。グレンに向かって突進を……しようとしたところで、その間に転がる他の豚に躓きそうになる。
「王城の食事で出た残飯で飼育されているので、経費はそこまで掛かっていません」
「なるほど……。飼育係は平民か?」
「はい。身元の確かな平民を飼育係として通わせております」
「ふむ。となると、雇用創出の点からしてもこの豚小屋はそのままで良さそうだな」
グレンは宰相として、王城の経費削減案を練っていたのだ。その一環で、ここにも視察に訪れたにすぎない。
それを知らぬドラガド侯爵(豚)はふがっ、ふがっ! と柵まで駆け寄り、必死に頭突きをしている。それを見たグレンは苦笑を零した。
「何やら興奮している豚がいるな……飼育状況は、かなり良いのか? ずいぶんと元気だ」
「ええ。通いの平民が、しっかりと管理してくれているようです」
「ありがたいことだ」
(何がありがたいことだ! あやつめ、いつも餌を適当に隅に山積みにするだけで分配もせぬ! 糞の掃除も週に1回なのだぞ!? 毎日綺麗にするのが勤めだろう!)
……だいぶ豚に感覚が馴染んできているのかもしれない。まあとにかく、ドラガド侯爵の訴えはグレンには通じない。何しろ、豚がふごふご鳴いているようにしか普通の人間には聞こえないからだ。
そして、普通の人間以外には、しっかり聞こえていたりする。
グレンと文官が話し込んでいる横をすり抜けて、クランストン宰相の護衛が柵へ近づいてきた。そしてしゃがみ込み、騒いでいるドラガド侯爵と視線を合わせる。
「……本当に、元気な豚だなァ?」
(!!!!)
ドラガド侯爵はヒュッと息を飲むと、後退りをした。
(あ、悪魔……!)
「いやあ、まだ生きてるとはね。アンタも悪運が強いな?」
(ぐっ……き、貴様っ! よくも!)
ドラガド侯爵は二、三歩下がった後、勢いをつけて柵へ突進した。さすがに超重量のドラガド侯爵(豚)が攻撃目的で突進すれば、木の柵にも軋んだ音を立てて歪む。
「おっと! ……文官殿、何やらこの豚が異様な興奮状況ですが……病気の可能性は、大丈夫なのでしょうか?」
柵が割れそうですよ、と指で示しながらドーヴィは笑顔とともに立ち上がった。
「な、なんと……! ああ、本当だ、柵が壊れそうになってるじゃないか!」
「飼育係がまだ城にいるなら、呼んできた方が良いのでは?」
「そうですね、確かこの時間ならまだ雑用をしているはず……宰相閣下、申し訳ありません! 飼育係を呼んできます!」
「あ、ああ……」
文官の青年はそう言いおいて小走りに消えていった。目を丸くして見送ったグレンは、ふと隣に立っているドーヴィを見上げる。
「……ドーヴィ、何かしたのか?」
「いいや? 俺は、今から何かする」
「なにを……んっ」
ドーヴィはグレンの腕を取り、抱き込むようにして唇を塞いだ。文句を言おうと薄く開いた口を再度塞ぎ、何度も口づける。腰に腕を回して逃げられないようにぴたりとグレンの体を密着させてから、ようやく唇を解放してやった。
「ドーヴィ! いきなり何をするんだ!」
「何って、キスだよキス」
「こっ、こんなところでっ……! 仕事中だぞ!」
「いいじゃねえか、ちゃんと見えないように幻惑の魔法は張ってあるし、仕事ったってあいつが戻ってくるまで暇だろうし」
ドーヴィの腕から逃げようともがくグレンを面白そうにドーヴィは見下ろしながら、頭のてっぺんから耳に至るまであちこちに口づけを落とした。
「最近、寝る前ぐらいしかなかったからなぁ。たまには日中もいいだろ」
「よっ、よくないっ……!」
「へえ、本当に? 良くないならやめるけどな?」
「っ!」
グレンの形の良い耳を食みながら、ドーヴィは低い声でグレンに囁いた。ドーヴィは知っている、グレンは耳がそれなりに弱くて、特に眼帯をしている側の耳が一層弱い事を。そして、ドーヴィのこの低い声が、グレンは大好きだと言うことを。
ドーヴィに耳元で囁かれたグレンは、しばらくぷるぷると震えた後に小さな小さな声で「……やっぱり、良い、から……やめないで……」と呟いた。
「だろ?」
ふふん、と満足げに鼻で笑ってから、ドーヴィは可愛らしい桃色に染まったグレンの顔にキスを降らせまくる。そのうち、グレンも興が乗ってきたのか、ドーヴィの顔を両手で挟んで手繰り寄せ、背伸びをしてドーヴィの唇を啄み始めた。
ちゅ、ちゅ、と甘ったるいリップ音だけが響く。……ドラガド侯爵(豚)の前で。
(わしは……なにをみせられてるんだ……)
呆然と呟くドラガド侯爵。その呟きに気づいたドーヴィがぎろり、と視線を送り――グレンに見えないところで、ドラガド侯爵へ向けて中指を立て、にやりと笑った。
ドラガド侯爵にはそのポーズが何を意味するのかはわからない。わからないが、何だかとにかく、この悪魔に煽られた、ということだけはわかった……!
(こっ……このっ! 腐れ悪魔めっ!!)
ぶひぃっ! と大きな雄叫びと共に、ドラガド侯爵は再度、柵へ頭突きをした。
「うわっ!」
驚いたグレンが、音のした方へ振り向く。ドーヴィにしがみつくように縋りつき、ドーヴィはかわいそうな契約主を小汚い獣から守るために両腕でグレンを抱え込んだ。
「俺らがイチャイチャしてたから怒ったんじゃねーの。何かモテそうにない顔してるし」
「なんだ、モテそうにない豚の顔って……」
そうぶつぶつ言いながら、グレンはするりとドーヴィから体を離した。興が削がれた事を残念に思いつつも、ドーヴィは今にも折れそうになっている柵にこっそりと強化の魔法をかけておく。
どのみち、もうすぐ文官は戻ってくるだろう。それまでにはきっと、この可愛らしいグレンの顔も元のきりっとした宰相の顔に戻るに違いない。
「なあグレン、今日の夕飯はこの元気な豚にするのもいいんじゃないかな!」
「?? ドーヴィ、そんなにポークステーキが食べたかったのか?」
グレンが不思議そうな顔でドーヴィを見上げる。ドーヴィは何も言わず、肩を震わせて笑うだけだった。
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書きたい小ネタめっちゃ溜まってる
豚にされてしまったドラガド侯爵、彼はいまだソーセージになることなく王城の豚小屋で過ごしていた。代り映えのしない景色に残飯の汚臭、寝るには固すぎる地面に吐き気を催すほどの食事……。
(なぜ……なぜ私がこんなことにっ……!)
ドラガド侯爵はぶひっ! と鼻息荒く吐いた後に、苛立ちをぶつけるように地面を前足で堀った。……というより、豚としてやることが寝るか食うか地面を掘るか、ぐらいしかないのだ。他の豚は交尾に勤しんでいるようだが、まだ人間の感覚を鮮明に残しているドラガド侯爵には到底無理な娯楽である。
そうして一心不乱に地面を掘っていると、遠くから人の声が聞こえてくる。珍しい、複数人の声だ。ドラガド侯爵は顔を上げて様子を伺った。
「――ここが豚小屋になります」
「うむ」
一人の貴族文官が手で示し、そこに頷くのは小柄な少年。片目に眼帯を巻いた、黒髪の。
(グ、グ、グ、グ、グレン・クランストン!!!!)
ドラガド侯爵は天敵を見つけ、一気に怒りが爆発した。グレンに向かって突進を……しようとしたところで、その間に転がる他の豚に躓きそうになる。
「王城の食事で出た残飯で飼育されているので、経費はそこまで掛かっていません」
「なるほど……。飼育係は平民か?」
「はい。身元の確かな平民を飼育係として通わせております」
「ふむ。となると、雇用創出の点からしてもこの豚小屋はそのままで良さそうだな」
グレンは宰相として、王城の経費削減案を練っていたのだ。その一環で、ここにも視察に訪れたにすぎない。
それを知らぬドラガド侯爵(豚)はふがっ、ふがっ! と柵まで駆け寄り、必死に頭突きをしている。それを見たグレンは苦笑を零した。
「何やら興奮している豚がいるな……飼育状況は、かなり良いのか? ずいぶんと元気だ」
「ええ。通いの平民が、しっかりと管理してくれているようです」
「ありがたいことだ」
(何がありがたいことだ! あやつめ、いつも餌を適当に隅に山積みにするだけで分配もせぬ! 糞の掃除も週に1回なのだぞ!? 毎日綺麗にするのが勤めだろう!)
……だいぶ豚に感覚が馴染んできているのかもしれない。まあとにかく、ドラガド侯爵の訴えはグレンには通じない。何しろ、豚がふごふご鳴いているようにしか普通の人間には聞こえないからだ。
そして、普通の人間以外には、しっかり聞こえていたりする。
グレンと文官が話し込んでいる横をすり抜けて、クランストン宰相の護衛が柵へ近づいてきた。そしてしゃがみ込み、騒いでいるドラガド侯爵と視線を合わせる。
「……本当に、元気な豚だなァ?」
(!!!!)
ドラガド侯爵はヒュッと息を飲むと、後退りをした。
(あ、悪魔……!)
「いやあ、まだ生きてるとはね。アンタも悪運が強いな?」
(ぐっ……き、貴様っ! よくも!)
ドラガド侯爵は二、三歩下がった後、勢いをつけて柵へ突進した。さすがに超重量のドラガド侯爵(豚)が攻撃目的で突進すれば、木の柵にも軋んだ音を立てて歪む。
「おっと! ……文官殿、何やらこの豚が異様な興奮状況ですが……病気の可能性は、大丈夫なのでしょうか?」
柵が割れそうですよ、と指で示しながらドーヴィは笑顔とともに立ち上がった。
「な、なんと……! ああ、本当だ、柵が壊れそうになってるじゃないか!」
「飼育係がまだ城にいるなら、呼んできた方が良いのでは?」
「そうですね、確かこの時間ならまだ雑用をしているはず……宰相閣下、申し訳ありません! 飼育係を呼んできます!」
「あ、ああ……」
文官の青年はそう言いおいて小走りに消えていった。目を丸くして見送ったグレンは、ふと隣に立っているドーヴィを見上げる。
「……ドーヴィ、何かしたのか?」
「いいや? 俺は、今から何かする」
「なにを……んっ」
ドーヴィはグレンの腕を取り、抱き込むようにして唇を塞いだ。文句を言おうと薄く開いた口を再度塞ぎ、何度も口づける。腰に腕を回して逃げられないようにぴたりとグレンの体を密着させてから、ようやく唇を解放してやった。
「ドーヴィ! いきなり何をするんだ!」
「何って、キスだよキス」
「こっ、こんなところでっ……! 仕事中だぞ!」
「いいじゃねえか、ちゃんと見えないように幻惑の魔法は張ってあるし、仕事ったってあいつが戻ってくるまで暇だろうし」
ドーヴィの腕から逃げようともがくグレンを面白そうにドーヴィは見下ろしながら、頭のてっぺんから耳に至るまであちこちに口づけを落とした。
「最近、寝る前ぐらいしかなかったからなぁ。たまには日中もいいだろ」
「よっ、よくないっ……!」
「へえ、本当に? 良くないならやめるけどな?」
「っ!」
グレンの形の良い耳を食みながら、ドーヴィは低い声でグレンに囁いた。ドーヴィは知っている、グレンは耳がそれなりに弱くて、特に眼帯をしている側の耳が一層弱い事を。そして、ドーヴィのこの低い声が、グレンは大好きだと言うことを。
ドーヴィに耳元で囁かれたグレンは、しばらくぷるぷると震えた後に小さな小さな声で「……やっぱり、良い、から……やめないで……」と呟いた。
「だろ?」
ふふん、と満足げに鼻で笑ってから、ドーヴィは可愛らしい桃色に染まったグレンの顔にキスを降らせまくる。そのうち、グレンも興が乗ってきたのか、ドーヴィの顔を両手で挟んで手繰り寄せ、背伸びをしてドーヴィの唇を啄み始めた。
ちゅ、ちゅ、と甘ったるいリップ音だけが響く。……ドラガド侯爵(豚)の前で。
(わしは……なにをみせられてるんだ……)
呆然と呟くドラガド侯爵。その呟きに気づいたドーヴィがぎろり、と視線を送り――グレンに見えないところで、ドラガド侯爵へ向けて中指を立て、にやりと笑った。
ドラガド侯爵にはそのポーズが何を意味するのかはわからない。わからないが、何だかとにかく、この悪魔に煽られた、ということだけはわかった……!
(こっ……このっ! 腐れ悪魔めっ!!)
ぶひぃっ! と大きな雄叫びと共に、ドラガド侯爵は再度、柵へ頭突きをした。
「うわっ!」
驚いたグレンが、音のした方へ振り向く。ドーヴィにしがみつくように縋りつき、ドーヴィはかわいそうな契約主を小汚い獣から守るために両腕でグレンを抱え込んだ。
「俺らがイチャイチャしてたから怒ったんじゃねーの。何かモテそうにない顔してるし」
「なんだ、モテそうにない豚の顔って……」
そうぶつぶつ言いながら、グレンはするりとドーヴィから体を離した。興が削がれた事を残念に思いつつも、ドーヴィは今にも折れそうになっている柵にこっそりと強化の魔法をかけておく。
どのみち、もうすぐ文官は戻ってくるだろう。それまでにはきっと、この可愛らしいグレンの顔も元のきりっとした宰相の顔に戻るに違いない。
「なあグレン、今日の夕飯はこの元気な豚にするのもいいんじゃないかな!」
「?? ドーヴィ、そんなにポークステーキが食べたかったのか?」
グレンが不思議そうな顔でドーヴィを見上げる。ドーヴィは何も言わず、肩を震わせて笑うだけだった。
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