今更愛していると言われても困ります。

二位関りをん

文字の大きさ
3 / 53

第2話 回想・貴族学校と結婚式の記憶

しおりを挟む
 父親が何を言っているのか分からない。なんで私を屋敷に戻そうとしているのか。

「お前がいないと困るんだ! 早く屋敷に戻るぞ!」
「嫌です!」

 はっきりと言うと、父親は私の右頬を思いっきり叩く。
 シスター達は父親に完全に萎縮してしまっていた。父親は私を押し込むようにして馬車に乗せたのだった。
 本当は抵抗したいけど、叩かれた頬があまりにも痛すぎて無理だった。

「あらお姉様。帰ってきたのぅ?」

 久しぶりに見たジュリエッタは相変わらず憎らしい笑顔を浮かべていたし前よりも可愛らしく華やかな見た目になっていた。まだまだ子供なのに美しさが際立っている。

「お父様、なんでお姉様を戻したのよぅ。別に戻ってこなくてもいいのに」

 それは私だってそうだ。こんな屋敷戻りたくはない。
 父親は誰が見ても分かるような作り笑いを浮かべながら、ジュリエッタに猫なで声を出した。良い年した男がこんな声を出すなんて気持ち悪い。

「お前の面倒を見る者がいないだろう? だから連れて帰って来たんだ」
「メイドがいるじゃない」

 ジュリエッタのくせに正論を言うなんて。この時だけは彼女のこの正論に同意してしまった。

「人数は多い方良いだろう?」
「まあ、確かにそうね!」

 結局ジュリエッタはそれ以上何も聞く事無く、自室へと戻っていった。私も久しぶりに自分の部屋に戻ろうとしていると、父親にどこに行くんだ? と聞かれてしまった。

「私はどこに行けば……」
「ふん、貴様など離れで良いわ」

 そのまま右腕を掴まれて屋敷の離れへと連れていかれた。右腕はちぎれそうなくらい引っ張られたのでとても痛いしまだ頬に痛みが残っていると言うのに。
 離れはもはや倉庫と化していた。これはまともに生活するにはきつい。父親は何も言わずに離れから早歩きで出ていったのだった。

(はあ……)

 私は肩でため息をつく。そして立ち上がって離れを片付け換気の為に窓を開けたのだった。メイドを呼ぼうとしたけどここからでは声が聞こえるかどうかも微妙な所だったので、メイドが近くを通るまで待った。

「すみません! ちょっといいですか?」

 ようやくメイドを捕まえて、離れを一緒に簡単に掃除した。埃っぽさはちょっとはましになっただろうか。手伝ってくれたメイドには何度も頭を下げた。

「シュネル様ってお優しい方なのですね。出来損ないってジュリエッタ様からお聞きしていたもので」
(何を言ってるんだあのクソ妹……)

 こうして私は貴族の令息や令嬢達が通う名門の貴族学校へ進学する事となった。
 この貴族学校、本来は全寮制で貴族の中でも特に爵位の高い公爵、侯爵出身の生徒だけは特例で屋敷から馬車で通学するのを許されていた。
 しかし父親は私が寮に入るのは認めなかった。

「寮に入るのは認めん。妻が亡くなった今だれが俺やジュリエッタの面倒を見るんだ?」
「お父様……」
「それに寮に入ればお前は腑抜けてしまう。寮は生ぬるい生ぬるすぎる。俺が直々に躾けなければ」

 父親はもはや私をいじめたいだけなのだろうか。ここまで気がふれておかしくなってしまうなんて。
 だけど子爵家である私が馬車で通う事はすぐに上級生や身分の高い令嬢令息達の間に知れ渡る事となった。

「あなた子爵家の癖になんで馬車で登校するのよ?」
「すみません。父親が寮に入るのを許さなかったもので」
「……そんな事ってある?」
「この子、服もボロボロじゃない?」
「関わらないでおきましょう。何があるかわからないわ」
「そうね」

 貴族学校では父親やジュリエッタのようないじめや暴言を吐かれるのではなく、ひそひそと噂が独り歩きし腫物扱いされるようになった。
 最初、ジュリエッタがこの学校に入学したらどうなるのかと少しだけ思っていたけど……それは杞憂だった。
 なぜなら彼女は貴族学校には登校しなかったからだ。

「私は学校になんか行かないわ。家庭教師で十分よ」

 私だけこうして貴族学校に通わされるだなんて。
 だけど耐えるしかなかった。

(理不尽すぎる。私は学校に通ってジュリエッタは家でごろごろと過ごすだけ)

 勿論成績は良くなれば父親からは怒られる。テストは満点の百点でないと機嫌は悪くなるし、80点を切っていたら思いっきり頬を叩かれて晩ごはんは抜きにされた。
 そんな辛い貴族学校での生活が続き、卒業を迎えた18歳のある日の休日。この日も私は離れで勉強に励んでいると父親が話があると切り出してきた。

「お前に縁談が来た」

 その相手がアイリクス伯爵家のソアリス様だった。この時彼は隣国に留学していた。
 彼と初めて顔を合わせたのは、卒業パーティーの3日前だった。私から挨拶すると一瞬だけ私を見て子供のように目を輝かせてくれた。が、結婚して3年経っても共に夜を過ごす事も無くまともな会話すらない。
 屋敷を出てあの父親とジュリエッタから逃れられたのは良かったけど、代わりにソアリス様の親から子供はまだかとせっつかれ、ソアリス様とは夫婦の営みもない。
 こんなの生活にはもう飽きた。
 さっさと新しい生活を送らさせて頂きます。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

【完結】旦那様は、妻の私よりも平民の愛人を大事にしたいようです

よどら文鳥
恋愛
 貴族のことを全く理解していない旦那様は、愛人を紹介してきました。  どうやら愛人を第二夫人に招き入れたいそうです。  ですが、この国では一夫多妻制があるとはいえ、それは十分に養っていける環境下にある上、貴族同士でしか認められません。  旦那様は貴族とはいえ現状無職ですし、愛人は平民のようです。  現状を整理すると、旦那様と愛人は不倫行為をしているというわけです。  貴族の人間が不倫行為などすれば、この国での処罰は極刑の可能性もあります。  それすら理解せずに堂々と……。  仕方がありません。  旦那様の気持ちはすでに愛人の方に夢中ですし、その願い叶えられるように私も協力致しましょう。  ただし、平和的に叶えられるかは別です。  政略結婚なので、周りのことも考えると離婚は簡単にできません。ならばこれくらいの抵抗は……させていただきますよ?  ですが、周囲からの協力がありまして、離婚に持っていくこともできそうですね。  折角ですので離婚する前に、愛人と旦那様が私たちの作戦に追い詰められているところもじっくりとこの目で見ておこうかと思います。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

【完結】今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~

コトミ
恋愛
 結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。  そしてその飛び出した先で出会った人とは? (できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

はじめまして、旦那様。離婚はいつになさいます?

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
「はじめてお目にかかります。……旦那様」 「……あぁ、君がアグリア、か」 「それで……、離縁はいつになさいます?」  領地の未来を守るため、同じく子爵家の次男で軍人のシオンと期間限定の契約婚をした貧乏貴族令嬢アグリア。  両家の顔合わせなし、婚礼なし、一切の付き合いもなし。それどころかシオン本人とすら一度も顔を合わせることなく結婚したアグリアだったが、長らく戦地へと行っていたシオンと初対面することになった。  帰ってきたその日、アグリアは約束通り離縁を申し出たのだが――。  形だけの結婚をしたはずのふたりは、愛で結ばれた本物の夫婦になれるのか。 ★HOTランキング最高2位をいただきました! ありがとうございます! ※書き上げ済みなので完結保証。他サイトでも掲載中です。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】新婚生活初日から、旦那の幼馴染も同居するってどういうことですか?

よどら文鳥
恋愛
 デザイナーのシェリル=アルブライデと、婚約相手のガルカ=デーギスの結婚式が無事に終わった。  予め購入していた新居に向かうと、そこにはガルカの幼馴染レムが待っていた。 「シェリル、レムと仲良くしてやってくれ。今日からこの家に一緒に住むんだから」 「え!? どういうことです!? 使用人としてレムさんを雇うということですか?」  シェリルは何も事情を聞かされていなかった。 「いや、特にそう堅苦しく縛らなくても良いだろう。自主的な行動ができるし俺の幼馴染だし」  どちらにしても、新居に使用人を雇う予定でいた。シェリルは旦那の知り合いなら仕方ないかと諦めるしかなかった。 「……わかりました。よろしくお願いしますね、レムさん」 「はーい」  同居生活が始まって割とすぐに、ガルカとレムの関係はただの幼馴染というわけではないことに気がつく。  シェリルは離婚も視野に入れたいが、できない理由があった。  だが、周りの協力があって状況が大きく変わっていくのだった。

処理中です...