今更愛していると言われても困ります。

二位関りをん

文字の大きさ
4 / 53

第3話 流れ着いた先

しおりを挟む
 外は暗いのに大通りには人が絶えず行き交っていて街灯も明るい。荷物を持って歩いているのだけど、腕が結構重くなってきたのでどこかで休憩を取りたい気分になってきた。

「どこか、座れる場所ないかしら……」

 とりあえずきょろきょろと辺りを見渡していると、馬車の中継地点が左前方に見えてきた。確かにどこかカフェテリアかベンチで座って休憩するよりも、馬車に乗って移動しながらの方がいいか。その方が同じ地点に留まるよりも見つかりにくいだろうし。

「すみません。よろしいですか?」
「ああ、乗るのはご婦人1名様で?」
「ええ、そうです。どこがおすすめかしら」
「ああ、じゃあそうだなあ……デリアの町はどうだ? ちょっとここからは離れてはいるし静かで小さな町だけど海沿いの町だから綺麗な場所だよ」

 デリアの町。名前だけなら聞いた事がある。なるほど。じゃあそこにしよう。

「じゃあ、そこでお願いします。こちら前払いの料金ですわ」
「かしこまりました。ではお乗りください」

 馬車は大きな背もたれのある座席だけで屋根が無いオープン式。黒い革性の座席は思ったよりも弾力があって座り心地が良い。

「では出発します!」

 黒い大型の馬がぱかぱかと歩き出し、徐々にスピードを上げていく。街を行き交う人々が流れていくように見えて楽しい。それと1人旅ってこんなに楽しかったのかと思うと、これからいよいよ私の新たな人生が始まるんだと言う気がしてわくわくとした感情が胸の中からどんどんと湧いて出て来る。

(すんごい楽しみ!)

 しかしソアリス様やあのクソ父に捕まる可能性はまだ否定できない。ああ、でもソアリス様は多分私の事なんてどうだっていいだろうから、追いかけては来ないかもしれない。いや、かもじゃなくて絶対来ないな。浮かれたいけどまだまだ我慢していないといけない。私は帽子を深くかぶり右手で押さえる。
 気が付けば大都会の街から離れて郊外に差し掛かっていた。やはりこの付近は人通りもまばらで建物も街灯もぽつぽつとあるだけだ。
 こういう時、盗賊などと言った不審者や狼に熊といった獣が怖い。私と馬車を操る御者だけではとてもじゃないけど対応できない。

(変なのと遭遇しなければいいけど……)
「すみません、お客さん!」
「はい!」
「こっから人通りが少ない道に入りますんで気を付けてくださいよ!」
「了解しました!」

 目の前はほぼ真っ暗でなにも見えない。一応御者がカンテラをかざしてくれてはいるから馬車の周囲は少し明るく見える。

(無事に到着しますように……)

 私は目を閉じて神様に祈りを捧げる。無事に到着して屋敷の人達や父親に追われませんようにと願うしかない。
 しかし、私の背後からううーーという獣のうなり声がうっすらと聞こえてきている。

「っ狼……!」
「っ確かに鳴き声が聞こえてきますね、スピードを上げますかしっかりとつかまって!」

 御者が馬に鞭を入れる音が響く。それを合図に馬車のスピードがこれでもかと上がった。私は右手で帽子、左手で座席の手すりにしっかりとつかまる。

「ううーー……」

 どれくらい進んだかはわからない。けれど気がついたら狼の遠吠えは消え去り、左側から見た空は薄明かりを帯びていた。

「夜明け……」
「……着きました」

 目の前には海岸とポツポツとそびえ立つ建物が見受けられる。そうか、ようやく、私はデリアの町に着いたのか。

(ここなら……誰も来ないだろう)

 馬車はそのまま草だらけの道をぱかぱかとゆっくり進む。

「あれは?」
「あそこは小さな商店街ですね。あちらで馬車から降ろしましょうか?」
「お願いします」

 規模は確かに小さな商店街だけど、入口には立派な石門がある。私はその手前で馬車から降りた。

「遠くまでありがとうございました!」
「ああ、お元気で!」

 馬車はそのままUターンして来た道を引き返していく。御者が手を振ってくれていたので、私も手を振りかえした。

「さて……」

 商店街の門を潜る。人気は無いし、お店の扉は固く閉ざされていて中も真っ暗だ。

「誰かいないかしら……」

 どうしようか。ここはすみません! と言って誰か呼ぶのがいいのだろうか。でも、こんな時間に大きな声を出すのは迷惑だし……。

「わっ」

 右側の路地裏から急に人影が現れた……かと思った時にはぶつかってその場に倒れ込んでいた。

「いたた……」
「大丈夫ですか?」

 その人物の顔には……どこか見覚えがあった。ここまでの美しさを持つ金髪碧眼の主はこの国には片手で数えるくらいしかない。今まで遠目でしか見た事が無いのに、名前はすらっと出てきていた。

「……ギルテット様?」
「……あなたは、アイリクス家の」
「!」

 嘘でしょ、私を知っている?

「しっ! しーーっ!」
「っ! わ、わかりました。詳しい話は建物で聞きましょうか」
「お願いします。その方が助かります」

 私は立ち上がろうとするが、右足に力が入らない。これは捻挫?

(挫いた?)
「怪我でもされました?」
「すみません……挫いたみたいで」
「それなら患部を動かさないでください。俺が背負って案内します」

 ギルテット様はそう言うや否や私をひょいっと持ち上げてお姫様抱っこする。

「えっ」

 そして路地裏に入ると右側にある小さな扉を開いたのだった。

「ようこそ俺の診療所……秘密基地へ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

【完結】新婚生活初日から、旦那の幼馴染も同居するってどういうことですか?

よどら文鳥
恋愛
 デザイナーのシェリル=アルブライデと、婚約相手のガルカ=デーギスの結婚式が無事に終わった。  予め購入していた新居に向かうと、そこにはガルカの幼馴染レムが待っていた。 「シェリル、レムと仲良くしてやってくれ。今日からこの家に一緒に住むんだから」 「え!? どういうことです!? 使用人としてレムさんを雇うということですか?」  シェリルは何も事情を聞かされていなかった。 「いや、特にそう堅苦しく縛らなくても良いだろう。自主的な行動ができるし俺の幼馴染だし」  どちらにしても、新居に使用人を雇う予定でいた。シェリルは旦那の知り合いなら仕方ないかと諦めるしかなかった。 「……わかりました。よろしくお願いしますね、レムさん」 「はーい」  同居生活が始まって割とすぐに、ガルカとレムの関係はただの幼馴染というわけではないことに気がつく。  シェリルは離婚も視野に入れたいが、できない理由があった。  だが、周りの協力があって状況が大きく変わっていくのだった。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

我慢するだけの日々はもう終わりにします

風見ゆうみ
恋愛
「レンウィル公爵も素敵だけれど、あなたの婚約者も素敵ね」伯爵の爵位を持つ父の後妻の連れ子であるロザンヌは、私、アリカ・ルージーの婚約者シーロンをうっとりとした目で見つめて言った――。 学園でのパーティーに出席した際、シーロンからパーティー会場の入口で「今日はロザンヌと出席するから、君は1人で中に入ってほしい」と言われた挙げ句、ロザンヌからは「あなたにはお似合いの相手を用意しておいた」と言われ、複数人の男子生徒にどこかへ連れ去られそうになってしまう。 そんな私を助けてくれたのは、ロザンヌが想いを寄せている相手、若き公爵ギルバート・レンウィルだった。 ※本編完結しましたが、番外編を更新中です。 ※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。 ※独特の世界観です。 ※中世〜近世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物など、その他諸々は現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。

はじめまして、旦那様。離婚はいつになさいます?

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
「はじめてお目にかかります。……旦那様」 「……あぁ、君がアグリア、か」 「それで……、離縁はいつになさいます?」  領地の未来を守るため、同じく子爵家の次男で軍人のシオンと期間限定の契約婚をした貧乏貴族令嬢アグリア。  両家の顔合わせなし、婚礼なし、一切の付き合いもなし。それどころかシオン本人とすら一度も顔を合わせることなく結婚したアグリアだったが、長らく戦地へと行っていたシオンと初対面することになった。  帰ってきたその日、アグリアは約束通り離縁を申し出たのだが――。  形だけの結婚をしたはずのふたりは、愛で結ばれた本物の夫婦になれるのか。 ★HOTランキング最高2位をいただきました! ありがとうございます! ※書き上げ済みなので完結保証。他サイトでも掲載中です。

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして”世界を救う”私の成長物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー編  第二章:討伐軍北上編  第三章:魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

処理中です...