婚約者を妹に奪われ、家出して薬師になった令嬢は王太子から溺愛される。

二位関りをん

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第20話 薬の調達の最中に

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 まだ腰と尾てい骨の痛みは引いていない。だが、薬の在庫が切れそうなのは放ってはおけない。私は痛みを我慢して薬屋へ薬を仕入れに行く事を決めた。ハイダに任せるのもどうかと思ったからだ。

「ジャスミンさん、腰の方は大丈夫なんです?」
「医薬師長、私は……まあ、大丈夫です」

 1人メモとお金の入った袋に貴重品の入ったマイバッグを持って、馬車に乗り込んで薬屋へと向かう。馬車は先ほど乗っていた物と同じなのでやはり座席は硬いし痛みは引かないどころかますます悪くなる。

(ひい、痛い……)

 昼過ぎでまだ明るい時間帯ではあるが、移動している道にあまり人の気配は感じられない。

(早く着いたらいいんだけど)

 すると、馬車が次第に減速し、止まった。何かあったのかと窓から前方をのぞき込むと、何やら馬に乗った男達がこちらをじっと見ている。

「おい、金を出せ!」
「金を出さねえとこの道は通さねえぞ!!」

 なんとこのタイミングで運悪く、盗賊の集団が現れてしまった。ぱっと見中年から若い男達で構成されており、皆着ている服はつぎはぎか破けている箇所がある。

(うそでしょ……!)

 確かに北部は宮廷がある都と比べるといささか治安に難があるという噂を耳にしていたが、盗賊集団がいるとは全く知らなかった。

「ど、どうしましょう……」

 御者の男が私の元に振り返り、今にも泣きだしそうな目で私と私が持っているお金の入った袋を見ている。
 だが、このお金を渡す事は出来ない。

「引き返しましょう」

 私はそう御者に告げ、馬車はその場でくるっと半回転してもと来た道を引き返そうとしたが、その後ろにもいつの間にか盗賊集団が待ち伏せしていたのである。

「引き返したって無駄だ!」
「早く金を出せ!」

 気が付けば包囲されている状況だ。どうする。やはりここはお金を出すしかないか。私は服のポケットやマイバッグを漁り、まずは子供の頃に貰った記憶があるエメラルドのブローチを取り出して、窓から向ける。

「そんなんいらん!」
「金をよこせ!!」
(やはり、金じゃなきゃダメか)

 この袋に入ったお金は絶対死守したいのでマイバッグからお金を取り出し、投げ入れようとした時だった。後方から馬が勢いよく駆ける音が聞こえてきた。

(もしや、盗賊集団の別動隊とか?)
「その馬車を通らせよ!!」

 その凛々しい声はまさしく、アダン様の声だった。窓から身を乗り出して声がした方を見ると、魚目の白馬に跨ったアダン様と従者20人程がこちらへと駆け寄ってきていたのだった。

「なんだあお前ら」

 アダン様と気づいていない様子の盗賊集団へ、従者が無礼である。と大きな声で盗賊集団へ一喝する。

「王太子殿下の通行を妨げるものは、誰であろうが許さぬ!」
「王太子だと……?」
「お前ら、ずらかるぞ!」

 さすがに盗賊集団も王族では相手が悪いと判断したのだろう。尻尾を巻いてという表現がぴったりとあてはまるかの如くその場から逃げていった。
 助かった。アダン様が来てくれて本当に良かった。

「大丈夫か?」

 御者が馬から降りて頭を下げた。私も馬車から降り、改めてアダン様達へ感謝の意を表す。

「アダン様。お助けいただき誠にありがとうございます」
「ジャスミン! 大丈夫か?」
「はい。アダン様方のおかげで私は大丈夫です」
「ここはよく盗賊が出ると聞いている。どこへ行こうとしていたんだ?」
「薬を仕入れる為に、薬屋へ向かっていた所でございます」
「わかった。じゃあ、同行しよう」

 結果的にアダン様やその従者が、護衛もかねて薬屋まで同行してくれる事となった。それにしても、こんな明るい時間帯で盗賊に遭遇するとは思ってもいなかっただけに、少しだけ身体に疲れが出ている。
 
(疲れた……)

 その後はトラブルもなく薬を入手し、無事ユングミル城へと帰還し、薬を医薬庫に入れ終えたのだった。
 仕事を終え、夕食を食べ終えた後私は部屋内にある浴室のシャワーで汗を流す。

「はあーー……」

 シャワーから流れる湯水がちょうどよい温度で、心地よい。シャワーを浴びながら湯船にお湯を張り、大体三分の二くらいお湯が溜まった所で、蛇口を止める。

「今日はゆっくりお湯につかろう」

 すると、部屋の扉がどんどんと叩く音が聞こえて来る。ハイダだろうか。私はバスタオルで身体をさっと拭いてバスローブを羽織って帯を締めながら部屋の扉に向かい、扉を開く。

「やあ、ジャスミン。もしかして入浴中だった?」
「あ、アダン様?!」

 扉の前にいたのはなんとアダン様だった。私服姿のアダン様が、バスローブ姿の私の目の前に立っている。

「あ、すみません! 着替えてきます!」

 さすがにバスローブ姿で王族と応対するのは、今更ながら失礼なんじゃないかという気が湧いてきた上に、なんだか恥ずかしさも出てくる。アダン様とはもう何度もあんな事をしているとはいえ、なんだか気になってしまうのだ。

「別に着替えなくても謝らなくていいよ。明日の診察について伝えといた方がいいかと思って。とりあえず時間と方法は宮廷の時と同じでいいから。あとはハイダにも伝えてあるから彼女を頼るといい」
「わ、わかりました……」
「じゃ、また後で来るから」

 そう言って、アダン様は右手を振ってその場から去っていった。
 また来る。その言葉が、私の頭から離れないでいる。
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