婚約者を妹に奪われ、家出して薬師になった令嬢は王太子から溺愛される。

二位関りをん

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第24話 回復と国王からの賞賛

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 あれから時間が過ぎて深夜になった。私は一度床につき身体を休める事になった。とりあえず、現時点でアダン様へ出来る事は全てやったので後は薬がよく効くのを待つしか無い。

(早く効くといいけど)

 アダン様の事ばかりが、頭の中でぐるぐる巡って寝られない。確かに王族の彼の事なので心配なのは心配だ。

(別に、好意を寄せているつもりは無いのだけど)

 だが、その言葉だけでは片付かない何かもあるのは否定出来なかった。

 ドンドン

「?」

 誰かが部屋の扉を叩いている音が聞こえてくる。私はゆっくりとベッドから起き上がって、部屋の扉を指1本入るくらいに開けてみた。

「ジャスミン様。今構いませんか?」

 扉の前にいたのはメイドだった。

「何ですか?」
「王太子殿下がお呼びです」

 アダン様が私を呼んでいる。何かあったのだろうか。

「わかりました。すぐに行くとお伝えください」
「かしこまりました」
(何だ?)

 私は部屋の扉を閉めて、寝間着の上から羽織を着てから彼がいる部屋に向かった。

「ジャスミンです。失礼いたします」

 部屋の中ではアダン様がベッドの上に横たわった状態で私を見ている。

「ジャスミンか」
「はい、ジャスミンです。何かありましたか?」
「寝られなくて」

 不眠の症状か。私はとりあえず彼に近づいて、身体の様子を一通り見てみる。彼の金色の髪は寝ぐせと言うか少し乱れてはいるが顔色は大分元に戻ってはいるように見えた。

「熱っぽさはまだありますか?」
「うん」
「咳や息苦しさは?」
「大分楽になった」
「医師、お呼びしましょうか?」
「いや、いい。ジャスミンがいてくれたらそれでいい」

 そう言われたので、私はベッドの傍らにある椅子に座り彼の様子を見守る事にする。

「どうして私を?」
「ジャスミンなら、落ち着くと思ったから」
(不安感もあるのか)

 アダン様が寝られないのは、そういった不安感から来ているのもあるかもしれない。

(こういう時は、そうだ)
「ホットミルクでも飲まれます? 落ち着くかと」
「じゃあ、頼む」

 メイドから熱々のホットミルクを貰い、アダン様に慎重に手渡した。アダン様はホットミルクが入った白地の金の縁取りが施されたティーカップを口に含み、ゆっくりと飲む。

「温まる……」
「どうですか?」
「少し、落ち着いた気がする」
「それは良かったです」

 アダン様はそのままホットミルクを全て飲み干した。おかわりは必要かと尋ねると、要らないと返す。

「ありがとう、ジャスミン」

 にこりと落ち着いた笑みを浮かべながら、感謝の言葉を伝えてくれた。私は良かったという安堵感とやりがいを胸の中で静かに感じる。

(良かった)
「ジャスミンも寝なよ」
「もう、大丈夫ですか?」
「疲れただろうし、ゆっくり休んだ方が良いかと思って」
「では、お言葉に甘えて……」

 私が部屋から退出する際に、アダン様が待って。と口を開く。

「ジャスミンがいてくれて良かった」
「アダン様……」
「ありがとうね」
「いえ、やるべき事をしたまでですから」
「謙虚だね」

 その後。アダン様は順調に回復し、数日後にはすっかり元気になっていた。薬もしっかり効いたようなのは本当に何よりだ。

「何ですか?」

 アダン様が公務に戻られた日の昼過ぎの事。私はハイダと共に乾燥した薬草の根をすり潰していた時、執事が部屋に入って来た。

「はい。国王陛下が感謝の言葉を伝えたいという事でお呼びでございます。お2人ともどうぞ」
「わかりました」

 執事に導かれ、玉座のある王の間に入ると、奥に国王陛下と王妃アネーラが座して待っていた。

「ジャスミンでございます」
「ハイダでございます」
「医薬師長、そして薬師ジャスミン。此度は我が息子アダンを看病してくれて感謝する。大層世話になった」

 国王陛下の穏やかな声が、私の頭に降りかかるようにして聞こえてくる。ちらりと目をむけると王妃アネーラはやや不機嫌そうな顔をしているのが目に入った。

(回復されたのが嫌だったか)

 やはり両者の仲は険悪という事なのだろう。

「特にアダンからは眠れない時にジャスミンの提案で飲んだホットミルクが良かったと聞いた。2人には褒美をつかわす」
「ありがたき幸せ……」

 こうして国王陛下から頂いたのは、サファイアのブローチにお金だった。お金はお給金2、3ヶ月分はあるだろうか。ここまで大金をもらうとは予想だにしていなかったので、ちゃんと管理する必要がある。

(貯金しとかないと)

 サファイアのブローチは楕円形のサファイアを金細工が周囲を覆っている形状になっている。裏に返すと王家の紋章が刻まれているのが見えた。じっくりと眺めると、装飾の細やかさやサファイアの加工具合がよくわかる。
 ハイダは早速左胸に国王陛下から頂いたブローチを付けて仕事にあたっていた。日の光が当たる度にきらきらと輝いている。

「ブローチ、ジャスミンさんもつけたら?」
「いいんですかね?」
「ぜひ。陛下もお喜びになるでしょう」

 ハイダから誘われて、私もブローチを左胸付近につけてみた。サファイアのブローチは服ともよく似合う。

(綺麗だ)

 きらきらとした美しいブローチから、自身が湧いて出てくるような気がする。

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