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第13話

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「マリーナはここで暮らしたい?」

 クララ様の声が力強いものから温和なものへとトーンが変わる。私ははい。と返事をしたら、クララ様は穏やかに微笑みながら首を縦に振った。

「では、そのようにしましょう。改めて自己紹介を。私はクララ。よろしくね」
「はい、クララ様よろしくお願いいたします」
「ええ、マリーナ。こちらこそよろしくね。クリスもよろしく」
「はい、おばあさま」
「2人とも、食事はとった?」

 クララ様からの問いに、ジュリーがミートボール入りのスープを食べさせたと答える。

「まあ、あのミートボールのスープを?」
「はい、そうですお師匠様」
「ジュリーの作るミートボールは美味しくて好きなの? 美味しかった?」
「はい、とても美味しかったです!」
「おばあさまの言う通り美味しかったです。ジュリーさんはあれが得意料理で?」
「ええ、まあ……そうなりますかね」

 ジュリーが照れながらも、自身の得意料理であると自信を持って答えてくれた。確かにあのミートボールはスープ以外にも煮込みしても美味しいかもしれない。そのまま火に通したらどうなるかも気になる所だ。

「じゃあ、夕ご飯は私が作りましょうか?」
「ジュリー、いいの?」
「はい、ミートボール以外にも得意な料理があるのでお2人にお見せしたいと思います!」

 鼻息を荒くしながら自信満々に語るジュリー。その姿にはやや可愛らしさも感じられた。クララ様はうふふと笑いながら穏やかにジュリーを見つめながら口を開いた。

「それは楽しみだわ。ぜひよろしく」
「ええ、はいっ!」
「じゃあ、これからについてまとめるわね。まずはジュリーに宮廷に潜入してもらって、今の宮廷王族周りがどうなっているか調べてもらう。私も久しく宮廷は訪れていないから。それで安全が保障されたら私が国王陛下に手紙を書く。そして2人は宮廷へ……というシナリオだけど、異論は無いわね?」
「ありません、クララおばあさま」
「はい、クララ様」
「勿論です、お師匠様!」
「あの、ジュリーさんてこういうの得意なんですか?」
「ええ、クリス王子。私はこういうのには慣れていますのでご安心を」

 ジュリーはクララ様の弟子でありながら、隠密活動を長年行ってきた人物でもあるという。その為変装して潜入するのは彼女の十八番だとクララ様から教えてくれた。

(頼もしい)

 宮廷へ戻る事までは、皆と確かめ合ったが、その後をどうするのかとクララ様に聞かれて私はイメージを抱けず黙ってしまう。
 すると、クリス様がきっと目つきを鋭く真剣なものに変えて、閉ざしていた口を開いた。

「マリーナと結婚したい。もう一度婚約したい。そう考えております。それに、マリーナが聖女である事も証明したい」
「……クリス」
「おばあさま、行けませんか?」
「……あなたの気持ちはよくわかったわ。勿論、手紙にはその事も記しておくわ。約束しましょう」
「ありがとう、クララおばあ様」
「わ、私からもありがとうございます」
「いえいえ。どういたしまして。あなた方の愛は変わってはいないようで、安心したわ」

 ふふっとクララ様が笑う。するとここでクララ様は立ち上がり、厨房へいるシェフに対して軽食とドリンクを出すようにと声をかけた。
 今更ながら食堂の奥の厨房には人がいたのか。気配が無かったので全く分からなかった。

「どうぞ」

 クララ様が紅茶とビスケットをそれぞれトレーに乗せてこちらに運んできたのでクリス様とジュリーと共に受け取っていただく。紅茶にはレモンがかかっており、すっきりさっぱりとした味わいだ。ビスケットも思ったより硬くなくて食べやすい。

「美味しい!」

 すると、髪の毛が一瞬だけ、金色にぴかっと光ってはすぐ元の白色に戻る。もしかしてビスケットには魔力か何か入っているのだろうか。

「クララ様、このビスケットには……」
「魔力の質を上げる物質が入っているわ。それを食べ続ければ元の金髪に戻るはずよ」
「ありがとうございます……」
「やはり聖女である事を示すには、元の髪色に戻る事が大事ですからね。それにしても質があれだけ落ちているのに目の色が変わらないのは素晴らしい事だわ」
「そうなんですか?」
「……マリーナ。やはりあなたは聖女だと私は思うの」

 クララ様が私の目を食い入るように見つめる。なんだかクララ様の目を見つめ返すと、その目の奥に引かれていきそうだ。

「自信はある。逆にこれだけ魔力と素質を持つあなたが聖女じゃないなんて事はあり得ない」
「クララ様……」
「……ちょっと熱くなってしまったわ。まずは髪の色を戻しましょう」
「はい」

 こうして、4人での話は一旦終わりとなった。私はクララ様から2階にある自室へと案内される。クリーム色の壁をした部屋の中には、ピンクと白色の天蓋付きベッドに、クラシカルな茶色い机と安楽椅子が置いてある。クローゼットや化粧台も、クラシカルな雰囲気で年季が入ったものに見える。

「服はこのクローゼットの中に入れてあるから。好きに使って」
「ありがとうございます」

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