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第6話 広まる評判
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夜。この日は皇帝との夜伽には招かれなかった美華は自室の架子床で寝床についた。
「ここの架子床もふかふかですね。とても寝心地が良いです」
連日、美華はそのように架子床を気に入っている様子を見せていた。美華付きの女官達は美華が満足気に架子床に仰向けになっているその様子を不思議そうに見ていた。
「雪家の方よね、皇后様は……」
「雪家は五大名家の中でも格が高い方だけれど……」
そんな女官達などつゆ知らず、美華はふかふかの架子床を今日も満喫していたのだった。
(ふかふか……)
盲目の美華には波動の力があり、波動の力で障害物を感知したり、病を癒す事も出来るという話はすぐに宮廷の話題になった。
宮廷のあちこちで、女官や宦官らが話題の種にしていたのである。
例えば後宮の厨房での場合……。
「皇后様、目は見えなくても波動の力で何とか自分で食事はされているみたいね」
「後宮入りして日が立つにつれて、零したりする頻度が減ったって聞いたわ」
「私の病気も治してくれるかしら」
「恐れ多いわ。皇后様だもの」
また、宮廷で政務に励む家臣達の間では……。
「皇后様には不思議なお力があると聞いた」
「うちの妻の喘息も治してくれるだろうか」
「だが、どうやって掛け合えば良いのだ? 相手は皇后様だし……」
美華を知りたいと願う者、美華に病を治してもらいたいと願う者と様々な者が美華の話をしていたのである。
当の本人である美華はというと、毎日のように後宮を巡り、体調の悪い者を波動の力で治していた。
移動の途中で転んだりして自らが怪我を負った事もあったが、平然と波動で治している。
「お待たせしました!」
意気揚々と体調不良に苦しむ女官の元へと現れた美華。いつも通り黒い布の目隠しをしているが、口元は子供のように綻ばせている。
「こ、皇后様……」
「どこが悪いんです?」
「めまいがひどく……」
美華が女官の目に右手をかざす。すると女官の顔色がみるみるうちに明るくなっていった。
「どうでしょうか? よくなって来ましたか?」
「はい! すごいです、めまいと気持ち悪さが消えました!」
効果覿面なのを知った美華は良かった……。とこぼすと女官がゆっくりと起き上がる。
「急に起き上がらない方が……」
「いえ、皇后様……お礼をさせてください」
棚から何かを物色しはじめた女官に対して美華はお礼はいらない事を告げたが、女官は聞く耳を持たないようだ。
「恐れ多い事でございます……何かお礼をさせてくださいまし」
「いやいや! えっと……あなたが元気ならそれがお礼になります!」
「そ、そうなのですか?」
きょとんとしながら四つん這いで美華の方を振り返る女官へ美華が笑顔を向ける。
「はい! これからも体調に気をつけて頑張ります!」
「あっでも無理はなさらないでくださいね……!」
こうして一仕事終えた美華は、次の体調不良者の元へと向かっていくのである。
美華の行動は浩明の耳にも届いていた。
「皇后様は素晴らしいお方でございます! うちの妻の病を治してくださいました!」
と両手を組んで恍惚げな表情を浮かべて語る将軍へ玉座に座る浩明はそれで? と返す。
「皇后様は素晴らしいお方であると思いまして!」
「同じ事を何度も繰り返すでない」
(全く……あのような地味なお飾り皇后のどこが良いのやら)
「陛下はあれから皇后様とは夜を過ごされていらっしゃらないのですか?」
いきなりの質問に浩明は、はあ? と驚きながら眉をひそめた。
勿論、初夜の日から一度も美華とは夜を過ごしていないし、美華が家臣の腹痛を治してからは一度も美華と会っていない。
「会っていないが、それがどうした?」
「なりませぬよ! お世継ぎの為にも……」
(またその話になるのか……)
浩明ははあ……。と息を吐くとその話はよしてくれ。と漏らした。
「申し訳ありませぬ、陛下……」
「こういう話はあまり好まぬ。さあ、話を戻してくれ。北方の警備はどうなっている?」
「はっ! 近頃は隣国の盗賊もあまり姿を見せなくなっておりまする」
「そうか。引き続き警備を怠らないように続けてくれ」
かしこまりました! と大きな声で返事がなされると浩明はうるさいな……。と小さな声で吐いたのだった。
しかし将軍が浩明の前から姿を消してもなお、浩明と謁見する者達は次々に美華の話を口にするのである。午前の謁見が終わるやいなや、浩明はなんなんだ! と大きな声を出した。
「そんなに美華の話がしたいのか!」
近くにいた家臣達は驚きすぎて肩を跳ね上げる。それを見た浩明は咳払いをしてからすまない。と形だけの謝罪をすると、左横の白髪を束ねている老いた小柄な家臣にちょっといいか? と声をかけた。
「はい、なんでございましょう、陛下……」
「貴様は美華のどこに魅力があると考える?」
「み、魅力でございますか。少々考える時間をくださいますか……?」
「かまわぬ。待ってやる」
しばらくして考えがまとまった家臣はお待たせしました! と口にした。
「わかった。聞こう」
「ここの架子床もふかふかですね。とても寝心地が良いです」
連日、美華はそのように架子床を気に入っている様子を見せていた。美華付きの女官達は美華が満足気に架子床に仰向けになっているその様子を不思議そうに見ていた。
「雪家の方よね、皇后様は……」
「雪家は五大名家の中でも格が高い方だけれど……」
そんな女官達などつゆ知らず、美華はふかふかの架子床を今日も満喫していたのだった。
(ふかふか……)
盲目の美華には波動の力があり、波動の力で障害物を感知したり、病を癒す事も出来るという話はすぐに宮廷の話題になった。
宮廷のあちこちで、女官や宦官らが話題の種にしていたのである。
例えば後宮の厨房での場合……。
「皇后様、目は見えなくても波動の力で何とか自分で食事はされているみたいね」
「後宮入りして日が立つにつれて、零したりする頻度が減ったって聞いたわ」
「私の病気も治してくれるかしら」
「恐れ多いわ。皇后様だもの」
また、宮廷で政務に励む家臣達の間では……。
「皇后様には不思議なお力があると聞いた」
「うちの妻の喘息も治してくれるだろうか」
「だが、どうやって掛け合えば良いのだ? 相手は皇后様だし……」
美華を知りたいと願う者、美華に病を治してもらいたいと願う者と様々な者が美華の話をしていたのである。
当の本人である美華はというと、毎日のように後宮を巡り、体調の悪い者を波動の力で治していた。
移動の途中で転んだりして自らが怪我を負った事もあったが、平然と波動で治している。
「お待たせしました!」
意気揚々と体調不良に苦しむ女官の元へと現れた美華。いつも通り黒い布の目隠しをしているが、口元は子供のように綻ばせている。
「こ、皇后様……」
「どこが悪いんです?」
「めまいがひどく……」
美華が女官の目に右手をかざす。すると女官の顔色がみるみるうちに明るくなっていった。
「どうでしょうか? よくなって来ましたか?」
「はい! すごいです、めまいと気持ち悪さが消えました!」
効果覿面なのを知った美華は良かった……。とこぼすと女官がゆっくりと起き上がる。
「急に起き上がらない方が……」
「いえ、皇后様……お礼をさせてください」
棚から何かを物色しはじめた女官に対して美華はお礼はいらない事を告げたが、女官は聞く耳を持たないようだ。
「恐れ多い事でございます……何かお礼をさせてくださいまし」
「いやいや! えっと……あなたが元気ならそれがお礼になります!」
「そ、そうなのですか?」
きょとんとしながら四つん這いで美華の方を振り返る女官へ美華が笑顔を向ける。
「はい! これからも体調に気をつけて頑張ります!」
「あっでも無理はなさらないでくださいね……!」
こうして一仕事終えた美華は、次の体調不良者の元へと向かっていくのである。
美華の行動は浩明の耳にも届いていた。
「皇后様は素晴らしいお方でございます! うちの妻の病を治してくださいました!」
と両手を組んで恍惚げな表情を浮かべて語る将軍へ玉座に座る浩明はそれで? と返す。
「皇后様は素晴らしいお方であると思いまして!」
「同じ事を何度も繰り返すでない」
(全く……あのような地味なお飾り皇后のどこが良いのやら)
「陛下はあれから皇后様とは夜を過ごされていらっしゃらないのですか?」
いきなりの質問に浩明は、はあ? と驚きながら眉をひそめた。
勿論、初夜の日から一度も美華とは夜を過ごしていないし、美華が家臣の腹痛を治してからは一度も美華と会っていない。
「会っていないが、それがどうした?」
「なりませぬよ! お世継ぎの為にも……」
(またその話になるのか……)
浩明ははあ……。と息を吐くとその話はよしてくれ。と漏らした。
「申し訳ありませぬ、陛下……」
「こういう話はあまり好まぬ。さあ、話を戻してくれ。北方の警備はどうなっている?」
「はっ! 近頃は隣国の盗賊もあまり姿を見せなくなっておりまする」
「そうか。引き続き警備を怠らないように続けてくれ」
かしこまりました! と大きな声で返事がなされると浩明はうるさいな……。と小さな声で吐いたのだった。
しかし将軍が浩明の前から姿を消してもなお、浩明と謁見する者達は次々に美華の話を口にするのである。午前の謁見が終わるやいなや、浩明はなんなんだ! と大きな声を出した。
「そんなに美華の話がしたいのか!」
近くにいた家臣達は驚きすぎて肩を跳ね上げる。それを見た浩明は咳払いをしてからすまない。と形だけの謝罪をすると、左横の白髪を束ねている老いた小柄な家臣にちょっといいか? と声をかけた。
「はい、なんでございましょう、陛下……」
「貴様は美華のどこに魅力があると考える?」
「み、魅力でございますか。少々考える時間をくださいますか……?」
「かまわぬ。待ってやる」
しばらくして考えがまとまった家臣はお待たせしました! と口にした。
「わかった。聞こう」
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