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第52話 夢
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無事に引継ぎを終えたその日の夜、ボクは夢を見ていた。
知らない場所、知らない街、そして知らない時代。
赤く燃える街を鎧兜と槍や刀で武装した人々が行きかう。
木造の壁は燃え上がり、藁ぶきの屋根は赤く燃えて崩れ落ちる。
土壁は辛うじて残るも、最後には支えを失って倒れて崩れ去ってしまった。
ここはどこだろう。
「ここは日ノ本での争いの記憶の一つじゃな。時は平安末期といったところかのぅ」
誰かの声が聞こえた。
でも姿は見えない。
「よくある争いの一つじゃが、わしが生まれたのもこの時代じゃ」
場所は変わりどこかの山のような場所。
遠くに燃える村が見えていた。
「争い、欲望、そして怨嗟。まぁ色々なものが集まって渦巻いておった時代じゃな。わしら妖が生まれるのも道理じゃろう」
そう声が聞こえた後、後ろからガサガサ茂みをかき分けるような音が聞こえた。
後ろを振り向くと、そこには狐の耳と尻尾を持った男女と子供たち。
「今は亡き父御と母御、そして弟とわしの唯一の友人の女子じゃな。皆妖としては不完全で妖力も少なかった。当然寿命もそれなりじゃ」
懐かしむような声が聞こえた後、場面は切り替わる。
父母と弟の死を迎え、墓を作り、そして友人の女の子が死んだ。
ボクは激しく慟哭した。
「あぁ。これはいかぬ。いつになっても悲しい出来事じゃ。じゃが、これが最初じゃったのかもしれぬ」
声は震えていた。
最初とは……?
平穏そうに見えるのにどこか貧しい街が広がる。
将軍と呼ばれた男性は辛うじて凛々しい姿をしているものの、付近の屋敷はどこか古く、手入れもあまりされていないように見えた。
お金がないのだろう。
「わしが妖力を得てそれを伸ばしていた時の光景じゃな。たまに野盗狩りなどもしておったわい。懐かしいのぅ」
まるで武士崩れのような汚い見た目の盗賊が襲ってくる。
ボクはそれを切り伏せ、あるいは叩き潰して武具や金目の物を奪った。
「今でいうレベリングというやつじゃな。こやつらは弱いくせに威勢だけはよかったのぅ。まぁ弱者からしか奪えん連中じゃったが」
一通り回収した後、ボクはその場を立ち去りどこかの山の木の上から街を見下ろしていた。
風景は変わり、色々な場所で争いが起こった時代になった。
農村の男性は出稼ぎに行き、兵士となってはどこかの武将の配下に就く。
そんな時代。
野盗を倒し、または変化をして戦場に乱入したボクは、なんとなく気に入った軍の味方をしては相手を突き崩していた。
そんなことを繰り返すうちに、ボクの妖力は高まり、徐々に異界の力を手に入れるようになっていった。
「わしが【混沌】と呼ばれる力を手に入れたのはこのあたりからじゃった」
この時点でこの声が誰なのか、ボクにはわかってしまった。
場面は変わり、見るだけでもおぞましい粘性生物や触手の塊などと戦いそれを下し、いつしか軍勢を率いるようになっていた。
「こやつらを初めて見たときは尻尾の毛も逆立ったというものよ。じゃが慣れとは怖いもので、徐々に慣れていってしまってのぅ。今ではすっかり平気になってしまったのじゃ。それに見よ、あのスライムを」
ボクの視界がスライムを捉える。
見るだけでもおぞましい粘性生物は徐々に人型になり、可愛らしい美少女の姿となった。
まぁ気配はそのままおぞましいわけだけど……。
「あやつはこの後、わしの妹分となったのじゃ。これが【混沌の狐】と呼ばれた、御神楽葛葉の生涯の一部よ。これより先はまだ見せるには早いのぅ」
そう。この声はお婆様だ。
これはお婆様の記憶なんだ。
「さて、わしの可愛い遥よ」
いつの間にかボクは自由に視線を動かすことができるようになっていた。
それと同時に、ボクの目の前にはボクと同じ姿をした黒髪赤目の妖狐の少女が現れた。
「お婆様……」
お婆様はボクをそっと抱きしめると、こう耳元で囁いた。
「遥や。済まぬ。そなたが死んだのはわしのせいなのじゃ。わしがそなたと一緒に生まれ変わるために、そなたの人間としての生を犠牲にさせてしもうた」
「えっと、それはなんとも言えません。どう考えればいいのかもわかりません。日本には戻れないわけじゃないですし、お母さんたちにも会えています。まぁ唯一の違いは性別が変わったことくらいで……」
お婆様に耳元で囁かれるのですごくぞくぞくしてしまったのは内緒だ。
「そなたが女子になった理由はあのあほうの悪ふざけもあるが、そう誘導したのはわしじゃ。そなたの魂の大本は、わしの唯一の友人の女子じゃ。ゆえにわしも共に居たくて、共に生まれ変わることを選んだのじゃ」
「えっ……」
突然突き付けられた事実にボクは硬直した。
さっき見た女の子が、ボク……?
「【混沌の力】を得てから知ったことじゃ。本当に申し訳ないことをしたのじゃ……」
「お婆様……」
正直過去がどうとかわからないし、お婆様の気持ちもわからない。
だからどういえばいいのかわからない。
けど、それはもういいんじゃないかとも思う。
「大丈夫、です。それよりも……」
「なんじゃ?」
ボクと同じ顔のお婆様が至近距離からボクをじっと見つめる。
「お婆様の肉体はないわけですけど、どうするつもり、なんですか? 生まれ変わると言っても……」
魂は寄り添えるかもしれないけど、肉体はない。
まさか、ボクが産む?
「心配するでない。そなたはわしと同じく【混沌の力】を得た。わしを通じてな。分け身を生み出すことが可能じゃ。そしてそれはわしであり、そなたでもある。わしはそなたの体を通して力を行使できるし、そなたも生み出された分け身を使って力を行使することもできる」
つまり、一心同体ということなのか。
「そなたが死ねばわしも死ぬ。ただそれだけじゃ。若葉によって生み出された子がわしの唯一の後悔をなくしてくれたのじゃ。これ以上にうれしいことはあるまいて」
お婆様は実にうれしそうに、目に涙を浮かべながらそう言った。
「お婆様……」
「そなたには、分け身を生み出せるようになってもらわねばのぅ。なあに、すぐじゃて。それと、予め予定されている通り、新たな領域を作り街を作るのじゃ。運営はほかのものに任せよ。よいな?」
「は、はい」
「うむ。さて、今宵はここまでじゃ。遥や、待っておるぞ。分け身は【混沌の力】を使い、うまく定着させるのじゃ。さすればできるようになるじゃろう」
お婆様はそう言うとうっすらと薄くなり消えていった。
「お婆様……」
そしてボクの意識は覚醒していくのだった。
知らない場所、知らない街、そして知らない時代。
赤く燃える街を鎧兜と槍や刀で武装した人々が行きかう。
木造の壁は燃え上がり、藁ぶきの屋根は赤く燃えて崩れ落ちる。
土壁は辛うじて残るも、最後には支えを失って倒れて崩れ去ってしまった。
ここはどこだろう。
「ここは日ノ本での争いの記憶の一つじゃな。時は平安末期といったところかのぅ」
誰かの声が聞こえた。
でも姿は見えない。
「よくある争いの一つじゃが、わしが生まれたのもこの時代じゃ」
場所は変わりどこかの山のような場所。
遠くに燃える村が見えていた。
「争い、欲望、そして怨嗟。まぁ色々なものが集まって渦巻いておった時代じゃな。わしら妖が生まれるのも道理じゃろう」
そう声が聞こえた後、後ろからガサガサ茂みをかき分けるような音が聞こえた。
後ろを振り向くと、そこには狐の耳と尻尾を持った男女と子供たち。
「今は亡き父御と母御、そして弟とわしの唯一の友人の女子じゃな。皆妖としては不完全で妖力も少なかった。当然寿命もそれなりじゃ」
懐かしむような声が聞こえた後、場面は切り替わる。
父母と弟の死を迎え、墓を作り、そして友人の女の子が死んだ。
ボクは激しく慟哭した。
「あぁ。これはいかぬ。いつになっても悲しい出来事じゃ。じゃが、これが最初じゃったのかもしれぬ」
声は震えていた。
最初とは……?
平穏そうに見えるのにどこか貧しい街が広がる。
将軍と呼ばれた男性は辛うじて凛々しい姿をしているものの、付近の屋敷はどこか古く、手入れもあまりされていないように見えた。
お金がないのだろう。
「わしが妖力を得てそれを伸ばしていた時の光景じゃな。たまに野盗狩りなどもしておったわい。懐かしいのぅ」
まるで武士崩れのような汚い見た目の盗賊が襲ってくる。
ボクはそれを切り伏せ、あるいは叩き潰して武具や金目の物を奪った。
「今でいうレベリングというやつじゃな。こやつらは弱いくせに威勢だけはよかったのぅ。まぁ弱者からしか奪えん連中じゃったが」
一通り回収した後、ボクはその場を立ち去りどこかの山の木の上から街を見下ろしていた。
風景は変わり、色々な場所で争いが起こった時代になった。
農村の男性は出稼ぎに行き、兵士となってはどこかの武将の配下に就く。
そんな時代。
野盗を倒し、または変化をして戦場に乱入したボクは、なんとなく気に入った軍の味方をしては相手を突き崩していた。
そんなことを繰り返すうちに、ボクの妖力は高まり、徐々に異界の力を手に入れるようになっていった。
「わしが【混沌】と呼ばれる力を手に入れたのはこのあたりからじゃった」
この時点でこの声が誰なのか、ボクにはわかってしまった。
場面は変わり、見るだけでもおぞましい粘性生物や触手の塊などと戦いそれを下し、いつしか軍勢を率いるようになっていた。
「こやつらを初めて見たときは尻尾の毛も逆立ったというものよ。じゃが慣れとは怖いもので、徐々に慣れていってしまってのぅ。今ではすっかり平気になってしまったのじゃ。それに見よ、あのスライムを」
ボクの視界がスライムを捉える。
見るだけでもおぞましい粘性生物は徐々に人型になり、可愛らしい美少女の姿となった。
まぁ気配はそのままおぞましいわけだけど……。
「あやつはこの後、わしの妹分となったのじゃ。これが【混沌の狐】と呼ばれた、御神楽葛葉の生涯の一部よ。これより先はまだ見せるには早いのぅ」
そう。この声はお婆様だ。
これはお婆様の記憶なんだ。
「さて、わしの可愛い遥よ」
いつの間にかボクは自由に視線を動かすことができるようになっていた。
それと同時に、ボクの目の前にはボクと同じ姿をした黒髪赤目の妖狐の少女が現れた。
「お婆様……」
お婆様はボクをそっと抱きしめると、こう耳元で囁いた。
「遥や。済まぬ。そなたが死んだのはわしのせいなのじゃ。わしがそなたと一緒に生まれ変わるために、そなたの人間としての生を犠牲にさせてしもうた」
「えっと、それはなんとも言えません。どう考えればいいのかもわかりません。日本には戻れないわけじゃないですし、お母さんたちにも会えています。まぁ唯一の違いは性別が変わったことくらいで……」
お婆様に耳元で囁かれるのですごくぞくぞくしてしまったのは内緒だ。
「そなたが女子になった理由はあのあほうの悪ふざけもあるが、そう誘導したのはわしじゃ。そなたの魂の大本は、わしの唯一の友人の女子じゃ。ゆえにわしも共に居たくて、共に生まれ変わることを選んだのじゃ」
「えっ……」
突然突き付けられた事実にボクは硬直した。
さっき見た女の子が、ボク……?
「【混沌の力】を得てから知ったことじゃ。本当に申し訳ないことをしたのじゃ……」
「お婆様……」
正直過去がどうとかわからないし、お婆様の気持ちもわからない。
だからどういえばいいのかわからない。
けど、それはもういいんじゃないかとも思う。
「大丈夫、です。それよりも……」
「なんじゃ?」
ボクと同じ顔のお婆様が至近距離からボクをじっと見つめる。
「お婆様の肉体はないわけですけど、どうするつもり、なんですか? 生まれ変わると言っても……」
魂は寄り添えるかもしれないけど、肉体はない。
まさか、ボクが産む?
「心配するでない。そなたはわしと同じく【混沌の力】を得た。わしを通じてな。分け身を生み出すことが可能じゃ。そしてそれはわしであり、そなたでもある。わしはそなたの体を通して力を行使できるし、そなたも生み出された分け身を使って力を行使することもできる」
つまり、一心同体ということなのか。
「そなたが死ねばわしも死ぬ。ただそれだけじゃ。若葉によって生み出された子がわしの唯一の後悔をなくしてくれたのじゃ。これ以上にうれしいことはあるまいて」
お婆様は実にうれしそうに、目に涙を浮かべながらそう言った。
「お婆様……」
「そなたには、分け身を生み出せるようになってもらわねばのぅ。なあに、すぐじゃて。それと、予め予定されている通り、新たな領域を作り街を作るのじゃ。運営はほかのものに任せよ。よいな?」
「は、はい」
「うむ。さて、今宵はここまでじゃ。遥や、待っておるぞ。分け身は【混沌の力】を使い、うまく定着させるのじゃ。さすればできるようになるじゃろう」
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