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最終章:兎、頑張ります
最終章ー5
しおりを挟む賑やか(後半に限る)だった朝食も終り、後は割と自由な時間。
マッチョメンはおっさんとお母ちゃん二人にいろいろ話があるみたいだし、家族団体行動もこれまでだな。
ってことで、後は子供の時間。町にでもおりて無邪気に遊べばいいんじゃねぇ?
「…………」
「…………」
「……フシッ」
あ~……これは、なんとも。
丘をおりていくメガネと坊っちゃん。二人は視線を合わせる事なく、無言で歩いている。
「でねっでねっ、町で最近できたお店が凄く可愛い小物があるのっ!」
「そ、そう、なんだ……」
「絶対アーキンちゃんも気に入るわ! 見に行きましょっ」
「あ、あぅ、うん……」
チビっ子が一緒にいなければ、この場は気まずさで空中分解していたな。空気読めない女、グッジョブだ。
しっかし初々しいねぇ。あんな一言でお互い意識しちゃってさ。
こちとら既に初恋の相手は子持ちだし、背景読めねぇミステリアス兎に貞操狙われてるってのによぉ。
「えっと……うん、じゃあアーキンさん、町を案内するね?」
「よっ、よろしくおねがいします……!」
あ~ぁ、甘酸っぺぇ~。
◆ ◆ ◆
もう何度となく訪れたホーンブルグの町だが、行ってないところも結構ある。
冒険者ギルドとか、全然いかねぇもんな。くま子は自分からこっちに来るし。
だが、坊っちゃんは俺と別行動してる時にもそういう散策は怠っていないらしい。メガネを案内するその足取りや説明には、なんらよどみが無かった。
「可愛いわ! これ可愛いわ!」
「ほ、ほんとだね……」
んで、今はチビっ子が話してた小物屋にいる。
この町、家屋を見分けるために屋根の色を個別にしてあるんだけど……この店はドピンク一色だ。
軽く引きながら中に入ると、キャピるんしてそうな店員さんがお出迎え。店内には、木の実や石を削って作られた小物が所狭しと並んでいる。
アクセサリーなんぞこの世界で需要あんのか? と思うが、意外にも売れ行き好調らしい。
「あ、それですね~、新ブランドの「ツノウサ」ちゃんって言うんですよ~」
「あ、やっぱりこれ、ホーンラビットなんですね」
「うぇい! テルムレイン様がいつもお供にしてる角兎さんをモデルにさせていただきましたぁ~」
ほぉん? 俺をモデルにねぇ。
まぁ俺が肖像権が~なんぞ叫んでも意味ないから、気にしねぇがね。
それにしても……俺モデルにしては、丸すぎません? 特にこの、ほっぺた回りに肉が付いてるのはやりすぎだと思うんですがね!?
「デブ兎、あんたにそっくりよ! よく見られてるわねっ」
「フシャー!」
んなことねぇわ! お腹はあれかもだが、顔までは出てねぇわ!
えぇい、これは裁判案件だぞ! 侮辱だ! 有罪だ!
『カク、抑えて抑えて』
『ぐぬぅ……! 帰ったらやけ食いしてやる……!』
今こそ俺の胃袋が宇宙となり輝く時がきたと見たぜ……!
「……可愛い、です。本当に」
「……角兎、好きなの?」
メガネのつぶやきに、坊っちゃんが反応する。
チビっ子が他のスペース見に行ったし、場つなぎは大事だよな。
「っ、は、はい……あの、昔その、友達だった子がいて……」
「そうなんだ。僕と一緒だね~」
「……一緒、じゃないです、よ? 私は、テルムさんみたいに、角兎と契約なんて……できません。テルムさんは、凄いです」
ふむ。
確かに、メガネの性格を鑑みるに、嘲笑われる事が確定しているであろう角兎との契約なんて出来ないだろうな。
皮肉に皮肉重ねられて、爆笑の中心となるのは目に見えている。
坊っちゃんはそういうの気にしないって言ってくれたが、このメガネがそれをやられたら、不登校からの引きこもりルートしか見えないなぁ。
「う~ん。僕が凄いというより、カクが特別だから気にしないって感じかなぁ? カクの凄さに気づけないっていう優越感のが勝っちゃうから、気になんないんだよねぇ」
「……やっぱり、凄いです……そこまで、友達を信頼できるなんて……」
いや、俺の価値は異世界知識だから、見てくれに騙されて油断してくれる相手がいるだろうし万々歳ってことじゃないのか?
坊っちゃんが優しいのは知ってるが、流石になんのメリットも無しに角兎なんて選ばないだろうし。
「……私の友達、だった子……昔、大口蛇に、食べられちゃって……」
「あ~……」
「フス」
「……それ以来、避けてたんです。角兎……思い出し、ちゃうから……」
うぅん、まさに自然の摂理。
大口蛇は、森の中でなら割と頻繁に目撃される動物だからな。
人間にとっては大した驚異じゃなくても、俺ら角兎にとっては天敵だ。かち合わないように縄張りを選んではいるが、やっこさんから近づいてくる事も結構ある。
そうなると、メガネが言ったみたいに食われちまうことはあるだろう。
「お友達とのお別れは、辛いね……」
「……うん」
「ん~……でも、さ。それで新しい友達を作んないってのは、その子のためにならないんじゃないかな?」
「……え?」
ツノウサくんを持ったまま、坊っちゃんを見上げるメガネ。
坊っちゃんは特に考えてる様子もなく、ツラツラと言葉を紡いでいく。
「うん、大事な友達とのお別れって、やっぱり気が滅入ると思う。僕も、カクと離れ離れになったら絶対落ち込むもんね。……でも、それでずっと落ち込んでたら、カクに怒られると思うんだよね」
「……二度と会えないのに……怒られるの……?」
「うん、だって輪廻は巡るからね。カクが死んじゃっても、そのカクの魂は別の何かになってどこかにいるんだよ」
……うぅん、カルトだけど否定できな~い。
俺、まさにその体現者だもの~。
「だから、もしそんな僕とカクがまた出会ったら、カクに言われちゃうんだよ。『坊っちゃんらしくなくなってて笑える』って」
「…………」
「悲しいけど、辛いけど……それによって自分らしさを失うってのが、親しい人にとって一番失礼だと思うんだよね。だから僕は、カクと万が一お別れしても、絶対別の友達と一緒に同じことするよ。僕の友達、こんなことしてたんだぞ~! 凄かったんだぞ~って」
慰めになってるのかわからない、微妙な主張。
しかし、その言葉には坊っちゃんが体験し、培った何かが詰まっている。
まだ別れというものを経験していない坊っちゃんが、「どこかに生まれ変わってるから大丈夫」と断言する。それは、俺というイレギュラーと出会ったから芽生えた感情かもしれない。
しかし、坊っちゃんはこの発言の通りにするだろう。
俺には、それがなんとも……まぁなんだ。嬉しかった。
俺という存在が、坊っちゃんの中で消えないんだって再認識できたな。……こっ恥ずかしい。
「…………」
「あはは、ごめんね? 変なこと言って」
「い、いえ……」
メガネは、ツノウサくんをキュッと握って胸に寄せる。
もじもじしてるが、なんだろうねこの空気。
「あ、あのっ」
「ん?」
ふと、メガネが顔を上げる。
その顔は真っ赤に染まっており、しかしまっすぐに坊っちゃんを見つめていた。
「その……この辺で、角兎……会えます、か?」
「う、うん。カクが元いた群れが近くの森にあるから、いつでも会いに行けるよ? ……よかったら、今度一緒に会いに行く?」
「そ、その……是非っ」
あらあら、まぁまぁ。
甘酸っぺぇ~。
まぁ冗談は置いとくとして、メガネもまた、一歩踏み出す気になったのかね?
グッジョブだぜ坊っちゃん。そして罪づくりだぜ坊っちゃん。
「うん、そこで友達、見つけられたらいいね」
「は、はい……」
「お待たせ~! いっぱい買っちゃった~」
さて、若き男女がデートの約束をかわした所で、チビっ子が戻ってきたな。お開きか。
その後、メガネと坊っちゃんはツノウサくんを購入し、商人ギルドでギルネコを撫でてからアッセンバッハ邸に帰った。
メガネは相変わらずおどおどだったが、なんとなく……うん、なんとなくだけど、明るくなった気がする。
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