俺の婚約者は小さな王子さま?!

大和 柊霞

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第二章

2-1 新たな取り組み

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 自邸へ着くなりダリアに見つかったカイは、ダルトを他の侍女に任せると、すぐさま手当てへ強制連行された。

「これは一体なんですか?」
「いやー、ちょっと転けて」
「擦り傷というより切り傷なんですけど、これ」

 ピンセットで取った綿に消毒液をたっぷりとしみ込ませると、容赦なく傷口に当てられる。

「いでででっ!」
「何があったか知りませんが、あまり無茶しないでください」
「心配してくれるのか?」
「私よりもアルミス様が悲しまれるので」

 ああ、なるほど。
 アルの名前を出されると言い返せない。
 この傷あてを見るだけでどんな反応をするのか、想像をしなくてもわかる。

「そういえば、アル様からの手紙は?」
「届いておりますよ。ですが、公爵様が後で応接室へ来るようにと言づかっておりますので先にそちらをお願いいたします」
「んー……もしかしてハナマー家が来てる件か」
「おそらくは」

 傷口にそっとガーゼをのせると、包帯を軽く巻かれる。軽い怪我なのだからそこまでしなくてもいいと思ったが、動作が頻繁な掌では粘着類はすぐに剥がれてしまうだろう。
 彼女の手際の良さと判断力に、我が侍女ながら関心する。

「あの、感動してないで早く行ってください。お父上から叱られますよ」

 ダリアがあまりにも気持ちの悪いものを見るような目を向けてくるので、その視線から逃げるように応接室へと向かった。
 扉をノックして中へ入ると、父とダルト、それから不機嫌そうな小太りの男に、見慣れた顔の青年が座っていた。
 小太りの男はおそらくハナマー公爵だ。話したことはないが、父にたまに会いに来るので見かけたことがある。
 だが、それより気になるのは『見慣れた顔の青年』だ。なぜこの人がこの場にいるのか、その困惑のほうが大きい。
 
「かーくん!」
 
 いつまでも幼児のようにカイの名前を呼ぶのはこの男しかいない。
 そう、ウォルン家の次男——ミギアだ。
 
「ミギア兄さん、なんでここにいるの……」
「もう!兄さんじゃなくて、みーにぃでしょ?」
「勘弁してよ、子供じゃないんだから」
 
 この兄は昔からこうだ。
 物心つく前から、カイを嫌というほどに甘やかし、構い倒し、端的に言えば重度のブラコン。
 国の直属部隊騎士として武の才能をおおいに奮っているらしいのだが、家ではこの様子なので全くイメージが湧かない。
 長期遠征に行く際も、カイに泣きついたので父とアビルに無理やり引き剥がされてようやく出発したぐらいだ。
 今回の遠征は長く、五年ほどと聞いていたのだが四年目のさなか、なぜか帰ってきている。
  それほど今日の内容は重大だということなのだろうか。
 すると、ハナマー公爵がわざとらしく咳払いをした。
 
「ご兄弟の再会も大切ですが、そろそろ本題に入っても?」
 
 いい加減にしろとでも言うように、険しい表情を見せるとその場の空気が一瞬凍る。
 どうやら父よりも厳格なようで、カイとは何となく相性が悪そうだ。
 この部屋へ入るなり睨みを利かせ、さも自分のことを知っていて当然のように挨拶をする素振りもない。
 ダルトには悪いと思うが、とにかくいけ好かないのだ。
 カイが席に着くとようやく話題が本来の目的のものに移った。

「今日ここに来たのは、治安維持を我が領土とウォルン家の領土を協力して行うというものだ」

 治安維持の協力と聞けばミギアがいるのは何となく理解できる。
 しかし、普段の業務にかすりもしないカイにはあまり関係のない事のように聞こえた。

「最近、何かとトラブルや事件が重なっている。二つの領土に連携した警備隊を置くことにより、治安維持を強化しようというものだ」

 ハマナー公爵は淡々と説明を続ける。
 二領土間の連携を図ることにより、犯人の逃走や証拠が隠滅される可能性を低減できること。
 関連性の高い犯罪を組織的に調べることができること。
 などなど、具体的な例を元にメリットのある政策になることを説明した。

「今回、試験的に王子のお披露目式までの四ヶ月の期間を要して行うこととする。この部隊の指揮官をミギア殿に任せたい」

 指名されたミギアは「お任せください」と見たことのない真剣な表情で答えた。
 騎士での活動のときはいつもこんな感じなのかとカイはその横顔を眺める。
 すると次は父が口を開いた。

「副指揮官はカイ、お前に任せたい」
「あ、え?、俺?」

 まさかの指名に激しく動揺する。

「お前のその人を見る目を使ってミギアの力になってやってくれ」

 父は笑顔で言うと、親指を立てて見せた。
 なんとも呑気なことか。でも、ミギアの下に付くということはアビルの補佐をやるのと感覚は同じだろう。
 父の笑顔とハナマー公爵の視線の圧力に負けて、結局カイは承諾をした。

「ちなみにダルトくんもハナマー家との連絡役でこちらの別邸で過ごすことになったからな」
「よろしくお願いします。私は王宮学園の中等部に通っておりますので普段は業務をしておりませんが、必要な際はいつでもお申し付けください」

 ハマナー公爵とは違い、丁寧に頭を下げると静かに微笑んだ。
 よく見ると、公爵とは似ていない気がする。髪や瞳は、母親譲りなのだろうか。全く違う色をしているし、雰囲気からしてもどことなく二人の間には距離を感じる。

「ダルト、くんは中等部ってことは14、5歳?ってことか」
「はい、今年で14になります」

 14歳にしては反抗期のような荒々しさもなく、かなり落ち着きがある。身長も伸び盛りなのだろうか、カイとさほど身長差も無い。
 アルもあと2年も経てばこんな風になるのかと想像が膨らむ。

「ということはそのうち中等部で王子と同じになりますね」

 カイは無意識でアルの話を出してしまった。
 今までの会話の中でアルの話題を出すにしてはあまりにも突然すぎる。
 焦りを覚え、父の方に助けを乞うように目配せをすると、にやりとした顔をした。

「そうですね。私は今2年なので来年には3年と1年生で一緒になります」

 ダルトは普通に答えてくれたため、カイは落ち着きを取り戻すことができた。
 アルとのことを知られるのはあまり良くない。
 それは今の関係を壊される恐れもあるが、それ以前に、このいけ好かない公爵には知られてはいけないと直感が言っているのだ。
 カイは猛烈に反省をすると、それ以上無駄なことは話さないよう口を噤んだ。
 その後は、カイには理解のできない資金運用の話などがされ内容を詰めた。
 話が概ねまとまり、面談が終了すると、ハナマー公爵はダルトと別々の馬車に乗り、それぞれの場所へと帰宅をした。

「父様、ハナマー公爵とは友人関係なんですよね?」
「ん、そうだが?やっぱり気に入らんか。お前とは相性が悪そうだからな」
「やっぱりそう思います?」
「そうだな。あいつは真面目なんだ。無駄なことを嫌い、負けず嫌いでもある。仲のいい四人組でいる時も、あいつはよく俺たちに怒ってたな」

 昔の話をする父は少し懐かしそうに、そして楽しそうだ。
 そんな父の様子を眺めながら、カイもいつかはあの人の良さが分かる日がくるのだろうかと疑問に思うのだった。

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