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第二章
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———ガシャン!
ガラスの割れる音が混ざった強い衝撃音が鳴り響く。
周囲には人だかりができており、何やらその中心では男達が言い合う声が聞こえた。
雲一つない真夏の昼下がり。
今日も業務のため、もしくは散歩のため街へ繰り出していたカイは、中央広場へと向かっていた。
平日であれば、ぽつぽつと人がいる程度の場所だが、今日はやけに賑やかだ。
人だかりに向かって歩き始めると男たちの怒鳴り声が聞こえた。
内容を聞こうにもどうやら酔っ払いのようで、出てくる言葉は支離滅裂だ。
「あ、カイ様!」
近くにいたパン屋の店員がカイに気付き、こちらにやってきた。
「カイ様、あの人たちを止めてください!お願いします!」
「何してるんだ?あいつらは」
「さっきからずっと喧嘩をしているみたいで、お店の前なのでお客さんも困ってて」
「わかった、危ないからそこで待ってて」
まだ明るいこの時間から酔っ払いとは、なんとも平和な奴らなのか。
やれやれと呆れつつも人混みをかき分け男たちの前へ行くと、空き瓶が割れた破片があちらこちらに散らばっていた。幸いにもけが人は見当たらない。
「まあまあ、落ち着いてよお兄さんたち」
カイは一人の男の肩をつかみ動きを止めると、もう一人の男になだめるように言う。
これで喧嘩が収まるとは思っていなかったが、とりあえずは話を聞いてもらおうと。
しかし、酔っぱらっている人間には逆効果だった。
「は?誰だよお前。部外者が出張ってんじゃねぇよ!」
肩をつかんでいた男がその手を勢いよく振り払うと、カイを突き飛ばす。
思い切り尻餅をつくと、手のひらに破片が刺さったのかピリッとした痛みが走った。
その間に逆上したもう一人の男が思い切りカイの胸ぐらを掴むと、もう片方の手で拳を振り上げた。周りにいた人々のかすかな悲鳴が聞こえる。
あ、殴られる。覚悟をして目を閉じた瞬間――
パシッ!
軽い音が聞こえた。辺りは一斉に静まり返る。
カイは頬に触れると、本来あるはずの衝撃がないことに気が付いた。
恐る恐る目を開けると、そこには男の腕をつかむ少年の姿があった。
アルよりも年は上ぐらいだろうか。胸元にある控えめなフリルのジャボを見ると、どこかの貴族のように見える。
「お前たち、いい加減にしろ。この拳を振り上げた相手がこの領地を治めるウォルン家の者だと知っていてのことなら、それなりの覚悟はあるのだろうな」
腕をつかんでいる部分からギリギリと軋む音が聞こえる。
少年とは言えかなりの力があるようで、男は腕を振りほどけないでいた。
少年は鋭い眼光を向けると、男たちは酔いが醒めたようで震え始めた。
「待ってくれ。君が止めてくれたから俺は大丈夫だ。こいつらを見逃してやってくれないか」
慌ててカイは止めに入った。
そもそも、男たちを罰するつもりはなく、単純に騒ぎを鎮めようとしただけだ。
これ以上騒ぎにするのはこちらにとってもあまりに面倒が過ぎる。
カイは可能な限り柔らかな声色で少年をなだめると、男たちを解放するように促す。
すると、何か言いたげだったが少年は素直に男の腕から手を離した。
途端に、男たちは走ってその場から逃げ去った。
少年は金色のしなやかな髪を掻き分けると、先ほどとは一変して、穏やかな表情でカイに手を差し伸べた。
「カイルア殿、大丈夫ですか?」
「ああ。助けてくれてありがとう。君は一体……」
少年にしっかりと手を引かれゆっくりと立ち上がると、名前を呼ばれたことに疑問を感じたカイは質問を投げかけた。
「おっと、これは失礼いたしました」
少年は胸元にある紋章に手を添える。
そこには見覚えのある緑色の花が描かれていた。
「わたくし、ハナマー家長男のダルトと申します」
ハナマー家。その名を聞いてようやくピンときた。
この国は主に三大公爵家が治める3つの都市が合わさってできている。
そのひとつはウォルン家、もうひとつはミギア家、そして最後がこの少年の家であるハナマー家だ。
この三大公爵家は皆、国王の学生時代の友人でありとても仲が良いのだが家族ぐるみの付き合いはさほどない。そのため顔を見ても分からなかったのだ。
「ハナマー家の人がこの街に来るのは珍しいですね。何か用事があったのですか?」
「えぇ、うちの父が貴方のお父様に用があって一緒に来たのです」
そういえば家を出る前、今日は客人が来るからと使用人達が準備をしている様子を見かけた。
「そうだったんですね。すみません、こんな騒ぎに巻き込んでしまって」
「いえいえ、実は今日は今まさに起きたことにも関係してくる内容についてお話があったんです」
「さっきの酔っ払いですか?」
「えぇ。私も丁度ウォルン家の方へ向かう途中でしたので、カイルア殿もお怪我をされていますし一緒に行きましょうか」
指摘され、ようやくガラスの破片で手を切っていた事を思い出す。さほど酷いものでもないが、切れたところから血が滲み出ていた。
ダリアに手当をしてもらうか、ダルトにお礼をするか。
どちらにしろ、家へ戻らなくてはならなくなったため彼の提案に乗ることにした。
ガラスの割れる音が混ざった強い衝撃音が鳴り響く。
周囲には人だかりができており、何やらその中心では男達が言い合う声が聞こえた。
雲一つない真夏の昼下がり。
今日も業務のため、もしくは散歩のため街へ繰り出していたカイは、中央広場へと向かっていた。
平日であれば、ぽつぽつと人がいる程度の場所だが、今日はやけに賑やかだ。
人だかりに向かって歩き始めると男たちの怒鳴り声が聞こえた。
内容を聞こうにもどうやら酔っ払いのようで、出てくる言葉は支離滅裂だ。
「あ、カイ様!」
近くにいたパン屋の店員がカイに気付き、こちらにやってきた。
「カイ様、あの人たちを止めてください!お願いします!」
「何してるんだ?あいつらは」
「さっきからずっと喧嘩をしているみたいで、お店の前なのでお客さんも困ってて」
「わかった、危ないからそこで待ってて」
まだ明るいこの時間から酔っ払いとは、なんとも平和な奴らなのか。
やれやれと呆れつつも人混みをかき分け男たちの前へ行くと、空き瓶が割れた破片があちらこちらに散らばっていた。幸いにもけが人は見当たらない。
「まあまあ、落ち着いてよお兄さんたち」
カイは一人の男の肩をつかみ動きを止めると、もう一人の男になだめるように言う。
これで喧嘩が収まるとは思っていなかったが、とりあえずは話を聞いてもらおうと。
しかし、酔っぱらっている人間には逆効果だった。
「は?誰だよお前。部外者が出張ってんじゃねぇよ!」
肩をつかんでいた男がその手を勢いよく振り払うと、カイを突き飛ばす。
思い切り尻餅をつくと、手のひらに破片が刺さったのかピリッとした痛みが走った。
その間に逆上したもう一人の男が思い切りカイの胸ぐらを掴むと、もう片方の手で拳を振り上げた。周りにいた人々のかすかな悲鳴が聞こえる。
あ、殴られる。覚悟をして目を閉じた瞬間――
パシッ!
軽い音が聞こえた。辺りは一斉に静まり返る。
カイは頬に触れると、本来あるはずの衝撃がないことに気が付いた。
恐る恐る目を開けると、そこには男の腕をつかむ少年の姿があった。
アルよりも年は上ぐらいだろうか。胸元にある控えめなフリルのジャボを見ると、どこかの貴族のように見える。
「お前たち、いい加減にしろ。この拳を振り上げた相手がこの領地を治めるウォルン家の者だと知っていてのことなら、それなりの覚悟はあるのだろうな」
腕をつかんでいる部分からギリギリと軋む音が聞こえる。
少年とは言えかなりの力があるようで、男は腕を振りほどけないでいた。
少年は鋭い眼光を向けると、男たちは酔いが醒めたようで震え始めた。
「待ってくれ。君が止めてくれたから俺は大丈夫だ。こいつらを見逃してやってくれないか」
慌ててカイは止めに入った。
そもそも、男たちを罰するつもりはなく、単純に騒ぎを鎮めようとしただけだ。
これ以上騒ぎにするのはこちらにとってもあまりに面倒が過ぎる。
カイは可能な限り柔らかな声色で少年をなだめると、男たちを解放するように促す。
すると、何か言いたげだったが少年は素直に男の腕から手を離した。
途端に、男たちは走ってその場から逃げ去った。
少年は金色のしなやかな髪を掻き分けると、先ほどとは一変して、穏やかな表情でカイに手を差し伸べた。
「カイルア殿、大丈夫ですか?」
「ああ。助けてくれてありがとう。君は一体……」
少年にしっかりと手を引かれゆっくりと立ち上がると、名前を呼ばれたことに疑問を感じたカイは質問を投げかけた。
「おっと、これは失礼いたしました」
少年は胸元にある紋章に手を添える。
そこには見覚えのある緑色の花が描かれていた。
「わたくし、ハナマー家長男のダルトと申します」
ハナマー家。その名を聞いてようやくピンときた。
この国は主に三大公爵家が治める3つの都市が合わさってできている。
そのひとつはウォルン家、もうひとつはミギア家、そして最後がこの少年の家であるハナマー家だ。
この三大公爵家は皆、国王の学生時代の友人でありとても仲が良いのだが家族ぐるみの付き合いはさほどない。そのため顔を見ても分からなかったのだ。
「ハナマー家の人がこの街に来るのは珍しいですね。何か用事があったのですか?」
「えぇ、うちの父が貴方のお父様に用があって一緒に来たのです」
そういえば家を出る前、今日は客人が来るからと使用人達が準備をしている様子を見かけた。
「そうだったんですね。すみません、こんな騒ぎに巻き込んでしまって」
「いえいえ、実は今日は今まさに起きたことにも関係してくる内容についてお話があったんです」
「さっきの酔っ払いですか?」
「えぇ。私も丁度ウォルン家の方へ向かう途中でしたので、カイルア殿もお怪我をされていますし一緒に行きましょうか」
指摘され、ようやくガラスの破片で手を切っていた事を思い出す。さほど酷いものでもないが、切れたところから血が滲み出ていた。
ダリアに手当をしてもらうか、ダルトにお礼をするか。
どちらにしろ、家へ戻らなくてはならなくなったため彼の提案に乗ることにした。
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