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第2章 おそらく天下無類の探偵。
第11話 一体どうして、なんて
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そこからは、流れるように話が進んでいった。
「では正式にご依頼、ご契約いただくということでよろしいですね」という紅亜の問いかけに、萌咲は即座に頷いた。
それを合図に、なゆたも素早く動いた。奥の机に用意されていた数枚の紙を手に取り、萌咲との紅亜の前にそっと出す。
瑞帆は遠目からのぞき込む。そこに書かれていたのは、『依頼内容の研究利用について』、『依頼費用の無償化適応条件について』、そして『個人情報取り扱いの規約について』……などなど。
形式ばった、小難しい言葉の数々。物怖じしてしまうほどに堅苦しい文章が、びっしりと書かれていた。
しかし萌咲はそれらに全く動じる様子はなく、紅亜が読み上げていく内容に真剣に相槌を打っている。
「以上です。全てご了承いただけるようでしたら、こちらの同意書にサインを」
そうしてあっという間に、萌咲は書類にサインをし終えていた。
紅亜も満足そうにそれを受け取ると、ちらっと一瞥してすぐにローテーブルの隅に置く。
「ありがとうございます、萌咲さん。これからよろしくお願いしますね。では早速ですけれど、次はいつ来れそうですか?」
「火曜と金曜は基本バイトなので…それ以外の放課後なら」
「でしたら、来週木曜の同じ時間はいかがでしょう」
「大丈夫です」
すっかり清々しい顔になった萌咲と、楽しそうな紅亜。なゆたもずっとニマニマ顔だ。
瑞帆は思い知らされる。自分だけが、この雰囲気に馴染んでいない。
窓の外に目を向けると、もはや夕方とは言えないくらいに暗くなっていた。
「では決まりですね。最後に、何か聞いておきたいことなどはありますか?」
和やかな雰囲気の中、話が終わりに向かっていく。
だが紅亜の言葉を受けて、萌咲が「あ…そしたら」と、瑞帆となゆたに目を向けた。
不意に目が合い、反射的に瑞帆の背筋が伸びる。
「男の人のスタッフって、ここにいる2人だけなんですか」
あどけなくそう尋ねた萌咲。
紅亜は眉を曇らせた。
「ごめんなさい、あまり詳しい内部事情はお伝え出来ないんです。もしかして、何かご心配でも…?」
「そういうわけじゃないんです。さっきバイト先にスタッフさんが来てくれる話があったので、そしたらこのお二人のうちのどっちか来てくれるのかなあって気になっただけで。だから別に心配とか嫌とか、そういうのじゃなくて…」
瑞帆となゆたに気を遣ってか、慌てる萌咲。
『ごめんなさい』、と瑞帆は心の中で呟いた。萌咲が不安になっていたとしたら、それは自分のせいだろう。でも安心してほしい。今後はもう――
「おまかせください!」
突然の大きな声。
ぎょっとして瑞帆が隣を見ると、なゆたが何故か誇らしげに胸に手を当てていた。
「萌咲さん、オレ…いや、僕の中には、すでに完璧に近い構想ができております。萌咲さんの頼れるサポーターとして、悟さんの恋のライバルとして、そしてお二人の仲を脅かす邪魔者を排除する陰の脇役として…必ずや、期待以上の成果をあげてみせます!」
それはもう、自信にあふれた宣言だった。
「なゆた、素晴らしい意気込みね」
紅亜のとびきり優しい声が響く。かえって怖いほどの。
…だが、なゆたは気づいていないようだ。
「もちろんです!今日という日に備えて、オ…いや僕は常にですね、」
「けれど私はあなたに任せるなんて、一言も言ってないのだけれど」
「それは確かにそうですけど、でも他に誰がいるっ…て……」
なゆたの声がかすれて、空気中に消えていく。
瑞帆はその視線が、絶望と憎しみが混ざったかのような表情が、自分に向けられているのを感じる。
心臓が大きく脈打ち始める。やばい、いやな予感がすると。
「何を言っているの。もう1人いるじゃない。ねえ?」
紅亜の完璧な微笑みが、まっすぐ瑞帆に向けられた。
「今回の件…萌咲さんのサポートには、あなたが適任だと思っているの」
「では正式にご依頼、ご契約いただくということでよろしいですね」という紅亜の問いかけに、萌咲は即座に頷いた。
それを合図に、なゆたも素早く動いた。奥の机に用意されていた数枚の紙を手に取り、萌咲との紅亜の前にそっと出す。
瑞帆は遠目からのぞき込む。そこに書かれていたのは、『依頼内容の研究利用について』、『依頼費用の無償化適応条件について』、そして『個人情報取り扱いの規約について』……などなど。
形式ばった、小難しい言葉の数々。物怖じしてしまうほどに堅苦しい文章が、びっしりと書かれていた。
しかし萌咲はそれらに全く動じる様子はなく、紅亜が読み上げていく内容に真剣に相槌を打っている。
「以上です。全てご了承いただけるようでしたら、こちらの同意書にサインを」
そうしてあっという間に、萌咲は書類にサインをし終えていた。
紅亜も満足そうにそれを受け取ると、ちらっと一瞥してすぐにローテーブルの隅に置く。
「ありがとうございます、萌咲さん。これからよろしくお願いしますね。では早速ですけれど、次はいつ来れそうですか?」
「火曜と金曜は基本バイトなので…それ以外の放課後なら」
「でしたら、来週木曜の同じ時間はいかがでしょう」
「大丈夫です」
すっかり清々しい顔になった萌咲と、楽しそうな紅亜。なゆたもずっとニマニマ顔だ。
瑞帆は思い知らされる。自分だけが、この雰囲気に馴染んでいない。
窓の外に目を向けると、もはや夕方とは言えないくらいに暗くなっていた。
「では決まりですね。最後に、何か聞いておきたいことなどはありますか?」
和やかな雰囲気の中、話が終わりに向かっていく。
だが紅亜の言葉を受けて、萌咲が「あ…そしたら」と、瑞帆となゆたに目を向けた。
不意に目が合い、反射的に瑞帆の背筋が伸びる。
「男の人のスタッフって、ここにいる2人だけなんですか」
あどけなくそう尋ねた萌咲。
紅亜は眉を曇らせた。
「ごめんなさい、あまり詳しい内部事情はお伝え出来ないんです。もしかして、何かご心配でも…?」
「そういうわけじゃないんです。さっきバイト先にスタッフさんが来てくれる話があったので、そしたらこのお二人のうちのどっちか来てくれるのかなあって気になっただけで。だから別に心配とか嫌とか、そういうのじゃなくて…」
瑞帆となゆたに気を遣ってか、慌てる萌咲。
『ごめんなさい』、と瑞帆は心の中で呟いた。萌咲が不安になっていたとしたら、それは自分のせいだろう。でも安心してほしい。今後はもう――
「おまかせください!」
突然の大きな声。
ぎょっとして瑞帆が隣を見ると、なゆたが何故か誇らしげに胸に手を当てていた。
「萌咲さん、オレ…いや、僕の中には、すでに完璧に近い構想ができております。萌咲さんの頼れるサポーターとして、悟さんの恋のライバルとして、そしてお二人の仲を脅かす邪魔者を排除する陰の脇役として…必ずや、期待以上の成果をあげてみせます!」
それはもう、自信にあふれた宣言だった。
「なゆた、素晴らしい意気込みね」
紅亜のとびきり優しい声が響く。かえって怖いほどの。
…だが、なゆたは気づいていないようだ。
「もちろんです!今日という日に備えて、オ…いや僕は常にですね、」
「けれど私はあなたに任せるなんて、一言も言ってないのだけれど」
「それは確かにそうですけど、でも他に誰がいるっ…て……」
なゆたの声がかすれて、空気中に消えていく。
瑞帆はその視線が、絶望と憎しみが混ざったかのような表情が、自分に向けられているのを感じる。
心臓が大きく脈打ち始める。やばい、いやな予感がすると。
「何を言っているの。もう1人いるじゃない。ねえ?」
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