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秘密と罰則と副音声
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ダーヴィドの屋敷は、町の中心部と外周のちょうど中間辺りに位置していた。
庭も広くて、温室もある。
中々の広さの家だ。
「ダーヴィドさんて貴族なんですか?」
「……ああ、爵位は一応親が持っているが、気楽な次男坊だし、ここも錬金術で得た財産で購入した家だ」
「温室や畑が出来る広さのお庭はいいですねぇ」
探るような目を一瞬向けてきたが、私の答えにダーヴィドは視線を和らげた。
「君は植物が好きなのか?」
「ええまあ。育てるのも楽しいし、引っこ抜くのも楽しいです。ある意味薬草採取って私の天職かも、くらいには思ってますね。冒険者として頑張るつもりですけど」
「俺の専属採取人になる気は?」
「無いですね」
いや、冒険者として頑張るって言ってるやろがい。
確認の心算かもしれないけど、お断りです。
ダーヴィドは、小さな溜息を吐いた。
「それは残念だ」
そこまで残念そうじゃないのは良かった。
あんまり高名な錬金術師に狙われたくはないもんね。
アーヴォよりもはるかに厄介そう。
コネも人脈も財産もある人から逃げるのは難しい。
放って置いてくれて、協力し合えるならそれがベストだ。
「ええと、それでですね。こちらが私の作った回復薬で、こちらが毒消し薬になります」
私はポーチから、真っ青の回復薬と、どピンクの毒消し薬を取り出した。
「おお……」
ダーヴィドの目の色が変わる。
やはり錬金術師はどこか普通じゃない。
貶している訳ではなくて、一般人には分からない熱量がある、というか。
彼は回復薬を光に透かして見たり、少し振って攪拌するようにして見たりして頷く。
「精製水は市販の物か?」
「いえ、市場とかで売られている物が普通の水と変わらなくても分からないので、自分で蒸留した物を使ってます」
「その他の材料や、作り方は?」
私はポーチから投入した薬草のレシピを書いた紙を出して、ダーヴィドが見やすいようにテーブルに置く。
どれも本に載っている薬草や野草で、この地域に生息している物ばかり。
多少のアレンジは加えたものの、一般的な材料だと思う。
「本を読みながら作ったので、一般的な材料と作り方、ですが…一点だけ特殊な物を使っています」
「それは……」
机の上に置いたレシピを手に取って視線を走らせながら、ダーヴィドが聞く。
うーん、どうしようかな。
囲い込まれるのも面倒だし。
かといって、調査されるのもウザいし。
「私、冒険者としてやっていきたいんですよ。だからこの仕事に従事したいと思ってないのはご理解頂けたと思うんですけど、それでも秘密を話したら、気が変わるかもしれないですよね?」
「無いとは言い切れないな」
「だったら、話せないです。お金が欲しいとか名を馳せたいだけなら、別に良いんでしょうけど、誰かの為に自分の人生を使いつくす気はないんです」
ダーヴィドは指でトントンと机を叩いている。
そうするのが考える時の癖なのかもしれない。
良い子ちゃんなら、冒険に出たくない安全な場所にいたい人なら、飛びつくよね。
だって、何の危険も無く稼げるんだから。
良い薬を作れば感謝されるし、場合によっては聖女扱いだってされる。
ヒロイン、だったらその道を選ばない訳がないくらいに整えられた道。
でも違うんだ。
それは私が行きたい道じゃない。
「冒険に出るより危険が無くて、冒険に出るより稼げても、か」
「うーん。今までやってきた事を無駄にしたくないって気持があるのかもしれないですね。ノーツさんやアルトさんに鍛えて貰って、色んな仕事をして。少しずつだけど成長して、それが楽しいと思えるんです。ダーヴィドさんだって、何故素材採取を人任せにしないんですか?」
聞き返されると思って居なかったのか、ダーヴィドは一瞬瞠目した。
そして、少し顔を傾ける。
「俺が現地で試した方が早いし、未知の草も見つけやすい。効率が良いだろう?」
「現状に甘んじて、薬だけ作り続けるほうがお金になるとしても?安全だとしてもですか?」
「……む」
私に問いかけた事をそのまま返されて、ダーヴィドは言葉に詰まる。
方向性は違うけれど、目指す物の為に彼は危険に身を晒す事を惜しんでいない。
「そこに行かなければ見れない景色や、手に入らない物ってあるでしょう?だから私は冒険がしたいんですよ」
「一攫千金狙いじゃないのか」
ダーヴィドが少し見下したような笑みを見せる。
意地悪な質問で煽ってるのかな?
「一攫千金狙うなら、金持ちの商人や貴族を篭絡する方が危険が無くていいんじゃないですか?」
女でも男でも同じだ。
何も篭絡するのに必要なのは美しさだけでもない。
相手の求めるものを与えるだけでいい。
ふう、と私の煽り返しに、ダーヴィドが溜息を吐く。
「分かった、降参だ。だが、君の使う材料は知りたい」
「ダーヴィドさんは分かってくれても他の人にばれたら、私の身が危険かもしれないので、困りますね」
「絶対に言わない。公表もしない。と言ったところで信用も出来ないか」
うーん、と私は考える。
ここまできたら知りたいよね?
それは分かる。
だから無茶な条件を出そう。
教えるのは吝かではないし、罰則《ペナルティ》が厳しければ問題ないかな。
「じゃあ、契約を交わしてください。錬金術と、材料について全て話すし、協力はします。その代わり口外しないと言う約束を破ったり、貴方が理由で周囲に知られた場合は、全財産私にください」
「なっ……それはまた……ハハ剛毅な事を言う娘だな」
私は出されていた飲み物に口を付ける。
うーん、美味しい。
でも何処産とかそういうのは分からない。
「だって、知りたいんでしょう?夜も眠れなくなっちゃう感じでしょう?」
「ふむ、なるほど。そうやって篭絡するのだな?」
「失礼な。これは妥協案で親切心ですよ。だって、約束を破らなければ対価は頂かないって事じゃないですか」
静かに見守っていた王子とメガネが囁きあっている。
「ミアは優しい」
「優しいですね」
何だかテレビの副音声みたいだな。
面白い事言ったみたいに、笑い声を流すやつ。
庭も広くて、温室もある。
中々の広さの家だ。
「ダーヴィドさんて貴族なんですか?」
「……ああ、爵位は一応親が持っているが、気楽な次男坊だし、ここも錬金術で得た財産で購入した家だ」
「温室や畑が出来る広さのお庭はいいですねぇ」
探るような目を一瞬向けてきたが、私の答えにダーヴィドは視線を和らげた。
「君は植物が好きなのか?」
「ええまあ。育てるのも楽しいし、引っこ抜くのも楽しいです。ある意味薬草採取って私の天職かも、くらいには思ってますね。冒険者として頑張るつもりですけど」
「俺の専属採取人になる気は?」
「無いですね」
いや、冒険者として頑張るって言ってるやろがい。
確認の心算かもしれないけど、お断りです。
ダーヴィドは、小さな溜息を吐いた。
「それは残念だ」
そこまで残念そうじゃないのは良かった。
あんまり高名な錬金術師に狙われたくはないもんね。
アーヴォよりもはるかに厄介そう。
コネも人脈も財産もある人から逃げるのは難しい。
放って置いてくれて、協力し合えるならそれがベストだ。
「ええと、それでですね。こちらが私の作った回復薬で、こちらが毒消し薬になります」
私はポーチから、真っ青の回復薬と、どピンクの毒消し薬を取り出した。
「おお……」
ダーヴィドの目の色が変わる。
やはり錬金術師はどこか普通じゃない。
貶している訳ではなくて、一般人には分からない熱量がある、というか。
彼は回復薬を光に透かして見たり、少し振って攪拌するようにして見たりして頷く。
「精製水は市販の物か?」
「いえ、市場とかで売られている物が普通の水と変わらなくても分からないので、自分で蒸留した物を使ってます」
「その他の材料や、作り方は?」
私はポーチから投入した薬草のレシピを書いた紙を出して、ダーヴィドが見やすいようにテーブルに置く。
どれも本に載っている薬草や野草で、この地域に生息している物ばかり。
多少のアレンジは加えたものの、一般的な材料だと思う。
「本を読みながら作ったので、一般的な材料と作り方、ですが…一点だけ特殊な物を使っています」
「それは……」
机の上に置いたレシピを手に取って視線を走らせながら、ダーヴィドが聞く。
うーん、どうしようかな。
囲い込まれるのも面倒だし。
かといって、調査されるのもウザいし。
「私、冒険者としてやっていきたいんですよ。だからこの仕事に従事したいと思ってないのはご理解頂けたと思うんですけど、それでも秘密を話したら、気が変わるかもしれないですよね?」
「無いとは言い切れないな」
「だったら、話せないです。お金が欲しいとか名を馳せたいだけなら、別に良いんでしょうけど、誰かの為に自分の人生を使いつくす気はないんです」
ダーヴィドは指でトントンと机を叩いている。
そうするのが考える時の癖なのかもしれない。
良い子ちゃんなら、冒険に出たくない安全な場所にいたい人なら、飛びつくよね。
だって、何の危険も無く稼げるんだから。
良い薬を作れば感謝されるし、場合によっては聖女扱いだってされる。
ヒロイン、だったらその道を選ばない訳がないくらいに整えられた道。
でも違うんだ。
それは私が行きたい道じゃない。
「冒険に出るより危険が無くて、冒険に出るより稼げても、か」
「うーん。今までやってきた事を無駄にしたくないって気持があるのかもしれないですね。ノーツさんやアルトさんに鍛えて貰って、色んな仕事をして。少しずつだけど成長して、それが楽しいと思えるんです。ダーヴィドさんだって、何故素材採取を人任せにしないんですか?」
聞き返されると思って居なかったのか、ダーヴィドは一瞬瞠目した。
そして、少し顔を傾ける。
「俺が現地で試した方が早いし、未知の草も見つけやすい。効率が良いだろう?」
「現状に甘んじて、薬だけ作り続けるほうがお金になるとしても?安全だとしてもですか?」
「……む」
私に問いかけた事をそのまま返されて、ダーヴィドは言葉に詰まる。
方向性は違うけれど、目指す物の為に彼は危険に身を晒す事を惜しんでいない。
「そこに行かなければ見れない景色や、手に入らない物ってあるでしょう?だから私は冒険がしたいんですよ」
「一攫千金狙いじゃないのか」
ダーヴィドが少し見下したような笑みを見せる。
意地悪な質問で煽ってるのかな?
「一攫千金狙うなら、金持ちの商人や貴族を篭絡する方が危険が無くていいんじゃないですか?」
女でも男でも同じだ。
何も篭絡するのに必要なのは美しさだけでもない。
相手の求めるものを与えるだけでいい。
ふう、と私の煽り返しに、ダーヴィドが溜息を吐く。
「分かった、降参だ。だが、君の使う材料は知りたい」
「ダーヴィドさんは分かってくれても他の人にばれたら、私の身が危険かもしれないので、困りますね」
「絶対に言わない。公表もしない。と言ったところで信用も出来ないか」
うーん、と私は考える。
ここまできたら知りたいよね?
それは分かる。
だから無茶な条件を出そう。
教えるのは吝かではないし、罰則《ペナルティ》が厳しければ問題ないかな。
「じゃあ、契約を交わしてください。錬金術と、材料について全て話すし、協力はします。その代わり口外しないと言う約束を破ったり、貴方が理由で周囲に知られた場合は、全財産私にください」
「なっ……それはまた……ハハ剛毅な事を言う娘だな」
私は出されていた飲み物に口を付ける。
うーん、美味しい。
でも何処産とかそういうのは分からない。
「だって、知りたいんでしょう?夜も眠れなくなっちゃう感じでしょう?」
「ふむ、なるほど。そうやって篭絡するのだな?」
「失礼な。これは妥協案で親切心ですよ。だって、約束を破らなければ対価は頂かないって事じゃないですか」
静かに見守っていた王子とメガネが囁きあっている。
「ミアは優しい」
「優しいですね」
何だかテレビの副音声みたいだな。
面白い事言ったみたいに、笑い声を流すやつ。
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